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第76話 魔女の墓前にて

「内戦が始まるんだって……」

「きっと何かの間違いよ。だって、危ないのってラグナス王国とだったんでしょう? どうして大公殿下が? そんなはずないわ」

「王太子殿下は、どうするのかしら?」


 動揺が波のように、使用人の中に広がっていく。

 リーゼは居ても立ってもいられなくて、人ごみを掻き分けて城の外に出た。


(早く、殿下のところに……!)


 馬車を拝借して、一人旅立とうとしたら、衛兵に見つかってしまって、今日は日が落ちて危ないからと止められてしまった。

 落ち着くよう諭されたが、大人しく朝が明けるのを待つなんて、無理だった。

 リーゼは宛てもなく、城の外壁に沿って、黙々と歩き続けた。


(殿下が危ない? そんなはずないわ。だって、殿下は、戦争なんて嫌いな平和主義な人だもの。絶対に内戦なんてありえない。大丈夫。きっと土壇場になって、大公も譲歩してくれて、きっと、上手く……)


 真っ赤な夕陽が、リーゼの頬を熱く染めて、リーゼは潔く悟った。


 ――()()()()()()()()()()()()()()


 現実が残酷だということを、リーゼは嫌と言うほど知っているはずだ。

 時間を使って、作戦を練って、襲いかかってきた大公と無防備に王都に戻ってきたシエルとでは、戦力にも差があるだろう。

 何より、シエルは優しい。

 大公の身を心配して、遠慮して、自分が殺されてしまうのではないだろうか?


(嫌! 絶対にそれだけは嫌!)


 目的もなく歩いていたのに、リーゼが辿り着いた場所は、なぜかミゼルの墓だった。

 薄闇に、仄かに発光しているかのように見える白石の墓標。

 ミゼルの死後、リーゼは指示通り墓を作ったけれど、ほとんどお参りしたことはなかった。

 たまに掃除をして、庭の花を手向けることはあっても、ミゼルに語りかけたことは、一度もなかった。

 何処かで、ひょっこり生きているような気がしたから……。

 話しかけたら、死んでしまっているのを認めたような気がして、嫌だったのだ。


「私、こうして貴方と向き合ったことなかったわね。ミゼル」


 リーゼは涙声で、もうこの世にいないミゼルに語りかけた。


「貴方が死んで十年……。私、抜け殻のように生きていたの。そろそろ自分も死ぬんだって、そう、本当に思っていたのよ。だけどね、急にあの方がやって来て……。六十八年目にして、私、変われたの。貴方は嗤うでしょうけど……」


 リーゼは立っていられなくなって、その場に跪いた。

 いくら、必死に呼び掛けたところで、ミゼルが蘇るわけでもないのに……。

 それでも、どうしても、話したくて仕方なかった。


「……私、好きな人が出来たの。あの方を……あの方を助けたい! 私なんか、どうなったって構わないから、お願い、教えて。あの方を助ける方法を……。貴方なら、閃くでしょう。百五十年前の戦争だって、体験したことがある大魔女の貴方なら!」


 胸が張り裂けそうなくらい嗚咽して、墓前の土を握りしめた。

 ――……と。

 その土の中に、七色に輝く宝珠の破片が混じっていた。


「何?」


 鐘塔からは結構離れているというのに、こんなところまで、欠片が飛んだなんて……。


(よりにもよって、ミゼルの墓前になんて……)


  リーゼは、その欠片に妙な縁を感じてしまった。

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