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第69話 城から動けないリーゼ

◇◇


 ……あの時。

 いっぱいに手を伸ばして、共に王都に行きたいのだと、リーゼはシエルに懇願すれば良かったのだろうか?

 もう、自分を縛る枷はない。

 自由に動くことが出来る。

 けれど、リーゼは自分の身の上に起きていることに茫然としてしまって、去って行くシエルの背中を、目で追うことしか出来なかった。


(感情が、めちゃくちゃだわ)


 五十年間、悲しいくらい何もない人生だったのに、ここに来て凄まじい速度で、動き始めてしまっている。

 とても、リーゼの理解が追いつかなかった。


(殿下は、きっとお疲れになっていたんだわ)


 しんどくて、何かに縋りたくて、それが偶然、リーゼだったという話だ。

 だから、シエルがリーゼのところに帰って来るはずはない。

 彼の優しい言葉を鵜呑みにしてはいけない。

 もう会うこともないのだから、一途に、サロフィン城で待っている必要だってないのだ。

 それなのに……。

 リーゼは城から動けないでいる。

 

 ――シエルが去ってから二カ月。


 案の定、手紙なんて、届くはずもなく……。

 王都の最新情報は、辺境のサロフィン城まで伝わることもなかった。

 表向きは平穏で長閑な生活。

 唯一、変わったのは彼の使用人の大部分が城に残ったことくらいだろうか……。

 それも、シエルが大所帯で移動となると目立つからと、考えられた作戦の内だった。

 いずれ、城にいる人たちも、皆、戻るべきところに帰って行くだろう。

 ルリも、あの日からいなくなってしまった。

 宝珠を使ったことで、きっと消滅してしまったのだ。

 せめて、ルリがいてくれたら、リーゼだってもう少し強くいられただろうに。


(私は、一人ぼっちなのね)


 そうやって、しんみりする度に……。


 ――待っていて欲しい。


 あの時のシエルが繰り返し、リーゼの脳内に蘇るのだ。

 今度はミゼルではなく、シエルの言葉に呪いを掛けられそうだった。


「あー! また塞ぎこんでる。おばあちゃん、こわーい」

「はいはい。おばあちゃんは心配性なんですよ。……で、どうして貴方は仕事中なのに、ここにいるんですか? エレキア」


 リーゼは箒を持っていた手を止めて、背後でにやけているエレキアを振り返った。

 今日も快晴。

 澄み切った青空で、気温も高い。

 季節は盛夏を迎えていた。

 掌を使って自分を扇ぎながら、すかさずリーゼのいた日陰に侵入してきたエレキアは、相変わらず高飛車だった。


「細かいことは良いじゃないの。私の持ち場の掃除は終わったんだから」

「そうですか」


 絶対、サボりだろうという確信はあったが、それも、どうでも良いことなので、リーゼはそれ以上詮索しなかった。


「あーあ。殿下が王都に戻る時に、連れて行ってもらえなかったのが辛いわ。こんな僻地で、素敵な殿方もいないのなら、毎日、暑い中、掃除なんてしている意味ないじゃない?」

「まあ……。それは、そうかもしれませんが……。でも、殿下は、王都の危険性を案じて、大半の使用人を残して行ったみたいですから、何事も起きなければ、そろそろ、王都に戻れるんじゃないでしょうか?」

「いやいや。使用人を残したのは、見張りでしょう。殿下が貴方を取り逃がさないために……」

「どうして、そうなるんです?」

「あのねえ、本気で分からないのなら、貴方の頭、どうかしていると思うけど?」

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