表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/96

第63話 謝罪

◇◇


 うだうだ考えているうちに、空が白み始めて、リーゼは慌てて、シエルに会って話したいことがあるのだと、彼の衛兵に伝言を頼んだ。

 レイモンドがいれば、すぐに届く言伝も、なかなか答えがなくて、正午近くになって、ようやく少しの間なら……と、返事があった。

 シエルは約束通り、昼下がりに、食事の後片付けをしていたリーゼのもとに姿を現した。

 あの夜から、まともな会話をシエルとしていなかったリーゼは……。


「殿下……。お忙しいところ、お呼び立てしてしまい、申し訳ありません!」


 言うだけ言って、緊張のあまり、目も合わせられなかったのだが……。


「ほら! いいから、ついて来て!!」

「え、あ? 君、ルリ?」


 青い鳥に化けて登場したルリが、気まずい空気も、何もかも、吹き飛ばしてしまった。


「何? 鳥になったら悪いわけ?」

「いや、悪くないけど……」

「さあ、早く!」

「ま、待ってよ!! ルリ!?」


 確かに、シエルと顔を合わせることに、不安がっていたリーゼに、どうにかしてあげる……と、ルリは話していたが、それにしたって、めちゃくちゃだ。

 ルリは問答無用で、城の真横にある蔦に覆われた古びた塔に、シエルとリーゼを導いた。

 元々、リーゼも、ここにシエルを案内するつもりでいたのだが、それでも、前置きくらいはしたかった。

 まあ、でも……。


(殿下、怒ってないみたいだから)


 ほっとした。

 彼は以前のような、柔和な態度で、鐘塔の最上階に先導するルリに従い、リーゼにも微笑みかけてくれたのだ。

 

「この城は一通り回ったつもりでいたけれど、ここまでは、さすがに足を伸ばさなかったな。それにしても、随分と急な階段だね?」


 軽口を叩くくらい、以前のように気安い。


(良かった。これで、むすっと黙っていらしたりしたら、どうしようと思っていたのよ)


 嬉しくなって、リーゼは舞い上がりながら、話してしまった。


「そうですよね! この塔、私がここに来て、しばらくしてから、気まぐれにミゼルが手作りしたんです。ミゼルは魔法でここに行き来していたから、上る人のことなんて、考えてもいなくて。まあ、魔力で掃除もしてくれているので、手間要らずでいいんですけど。私もここに来るのは、十五年ぶりで」

「……十五年?」


 目を丸くしたシエルが「私が五歳の時か」と、真摯に呟いていたので、リーゼは、おかしくなってしまった。


(四十八歳差だから、当然なのに)


 やはり、シエルは気さくで、面白い方だ。

 二人の距離は、三百段の階段を上りきるまでに、すっかり元通りになっていた。


「あー……。やっと着いた」

「頂上は、城の最上階と同じ高さらしいですよ」


 激しい運動をしたので、二人共、汗だくになってしまった。

 高所であることと、ミゼルが積み上げた石壁が通気性抜群だったのか、火照った体を冷やしてくれた。


(……さて)


 呼吸も整った。

 あとは、伝えるだけだ。

 頂上に着いたら、リーゼはシエルにすべて告げるつもりでいたのだから。


(早くしないと、殿下の護衛の方も追いついてしまうわ)


 忙しい方だ。

 リーゼに付き合っている時間だって、ないだろう。


「……殿下。あの」


 リーゼは、ごくりと息をのんでから、姿勢を正した。

 ……しかし。

 シエルの方が数瞬、早かった。


「ねえ、リーゼ。聞いてくれる?」


 落ち着いた、よく通る高貴な声。

 否定する理由がないリーゼは二つ返事で、シエルに話を譲った。


「リーゼ。私は、先日、君に誤解を招くようなことを言ってしまったね。本当に申し訳なかった」

「な……っ」


 目と鼻の先で、深々とシエルが頭を下げてきたので、リーゼの方が罪悪感で押しつぶされそうになってしまった。


「何で謝罪されるのですか? やめてください! あれは、私が悪かったのですから。殿下は、何一つ悪くありません」

「いいや。君は悪いことなんて、何一つしていないよ。すべて、私のせいなんだ」

「違います! 私が年甲斐もなく、気持ち悪い格好をしたからで。とんだお目汚しを、失礼して……」

「ちがっ……!」

「はーい、はい! 別に、どちらが悪いかなんて、どうだっていいよ。リーゼが王子に嫌われたって、落ちこまないで、寝不足にならないで済むなら、ルリはそれでいいから」


 あからさまに、掻き乱す目的で介入してきたルリの一言に、シエルが動揺していた。


「寝不足なの? リーゼ」

「いえ、そ、そんなことは……。ルリ、貴方ねえ! 私は大丈夫ですからね」


 とりあえず、リーゼは、愛想笑いを浮かべてみたが、すべて無駄だった。

 シエルが、悄然と肩を落としている。


「悪かったね。私が不甲斐ないばかりに。君を困らせてしまって」

「違います。私が……」

「リーゼ。本当に君のせいじゃないんだ。あの時、私は……自分が怖かったんだ」

「えっ?」

「今まで、ずっと君が引いてきた境界線に、私は合わせてきた。ものすごい年上だとか、身分差だとか……。同情だって、思っている方が楽だったから。でも、ラグナス国王が思いのままに君に求婚していたり、いつもと別人みたいな君がいて。私は君に何をするか、分からなくなってしまって、怖かったんだ」

「えー……っと。それは、一体、どういう?」


 さっぱり意味が分からず、リーゼが小首を傾げていると


「そうだよね。分からないよね」


 シエルが、小さく笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ