表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/96

第61話 宝珠のありか

(ああ、そういえば……)


 昔の記憶が、ふと蘇る。


『なぜ、結婚式でも葬式でも、鐘の音を鳴らすのか、お前は知らないだろう。リーゼ? 鐘を鳴らすという行為自体が、魔法なんだよ。あれを鳴らすことで、出発の合図を周知する。ここの鐘も一日の始まりと終わりを告げる合図として、音色にはこだわったつもりだ。私の魔力の大半を注ぎ込んで造った自信作さ』


 生前、ミゼルはそんなことを得意げに話していたものだった。


「……鐘」


 このサロフィン城に、設置されている大鐘。

 朝夕の時刻を報せるために、勝手に鳴るようにミゼルが仕掛けた魔力の塊だ。

 どういう訳か、ミゼルの死後も消えることなく、今も、毎日時を教えてくれている。

 この城の不可思議なことは、すべて、あれの魔力によるところが大きいのだ。


(願いを叶える宝珠だなんて、聞いたことはなかったけれど……。でも「宝珠」だからこそ、あの鐘がミゼルの死後も消えることなく、動いているのだとしたら?)


 余りにも身近過ぎて、リーゼはすっかり忘れていた。


(嫌だわ。人間七十年近く生きていると、こんな重要なことも見落としてしまうのね) 


 確証はない。

 だけど、シエルに報告する必要性は十分あるだろう。


「……あのさ、ルリ」

「今度は何?」


 尻尾を揺らして、ルリは本を読んでいるリーゼの膝に飛び乗った。

 相変わらず、のらりくらり。

 緊迫した国の状況などお構いなしに、ルリはミゼルの創りだした世界軸で生きている。


「昔から気になっていたんだけど、ルリって、一体、何歳なの?」

「さあ。気が付いたら、ミゼルが創ってここにいたから、覚えてないかな」

「そっか」


 少なくとも、リーゼがこの城にやって来た五十年前から、ルリはミゼルと共にいたはずだ。


(長い付き合いだったわね)


 人ではないから、じれったい部分もあったけれど、辛い時もしんどい時も、当たり前のようにリーゼの隣にいてくれた相棒だった。


「あのね……。ルリ。もしも、もしもよ。私と一緒に消えることになったとしても、その……大丈夫かな?」

「はっ?」

「いや、まだ決定ではないのよ。もし、宝珠というのが存在して、それを使ったとしたら、魔力が一気になくなって、消える可能性もあるかもしれないって。私が老いて死ぬのか、ルリが消えるのか、それとも二人共消えるのか、まだ全然、分からないんだけどさ」

「わざわざ、何でそれを聞くの? 嫌だって言っても、いつかその日は来るわけだから、別にどうだっていいよ」

「そう……。なら良いんだけど」


 リーゼは静かに微笑して、開いていた小説本をぱたんと手の中で閉じた。


(これで……良いのよね)


 万が一のことを考えておかないと……。

 収集した恋愛小説本の山が他人に見つかってしまう前に、エレキアにあげてしまおうかと、リーゼは真剣に考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ