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第59話 可哀想な人

「いやいや」


 エレキアが頭を抱えている。

 きっと、リーゼの不手際を嘲笑っているのだ。


「貴方、こんなに恋愛小説の山を読んでいて、何も分からないって、本気で言っているの? それとも、遠回しに私を莫迦にしている?」

「はっ? なぜ、エレキアを私が莫迦にするんですか? 莫迦は私だと言っていたじゃないですか?」

「天然……なのね。やっぱり」


 エレキアは、どういう訳か途方に暮れていた。

 以前、エレキアはリーゼの部屋に乱入したことがあるので、リーゼが恋愛小説を好んで読んでいたことを知っていた。

 巷でも人気があるようで、エレキアも何冊か読んだことがあると話してはいたが……。

 

(でも、どうして今ここで恋愛小説の話をするのだろう?)


 感情の機微が分かっていないという、説教なのか……。

 言い訳かもしれないが、これだけは力説ししておきたかった。


「私、ひきこもり歴五十年ですよ。本で読んでいても、生身の人間の感情には疎くもなりますって。十年前まで同居していたのも、個性が強力すぎる魔女ですし、忖度とか、気配りとか、どうしたらいいか分かりません。人間怖いという感じです」


 膝を抱えて部屋の隅で小さくなっていると、無慈悲な一言が頭上から降ってきた。


「可哀想な人ね。こうはなりたくないものだわ」


 どうやら、リーゼはエレキアにとっての痛い対象から、反面教師に降格したらしい。

 別に、シエルから特別な感情を持ってもらおうなんて、恐ろしい勘違いも、高望みだってしていない。

 リーゼはただ単に、今までと同じように、シエルとは垣根無く付き合ってもらいたいだけだ。

 それも、恐れ多いことではあるけれど……。


(だって、殿下は王都に戻るじゃないの?)


 レイモンドの報告を待っている余裕なんてないはずだ。

 王位を望むのであれば、シエルは絶対にここから出て行かなければならない。


(だから、心配なのよ)


 王都に行って、オズラルドと対峙して、シエルは無傷でいられるだろうか?

 内戦なんかにならないだろうか?

 彼の無事だけを祈って、毎日を過ごすしかない。

 リーゼは、彼と共に王都に行くなんてことは出来ないのだから……。

 今生で最後になるのなら、せめて、サロフィン城にシエルが滞在しているうちに、リーゼの出来ることをして差し上げたいのだ。

 だけど、こんな感情をリーゼに抱かれること自体、シエルには迷惑なのだろうか?


「別に、いいんじゃないかな?」


 突如、問題を棚上げ状態にしてしまったのは、窓から入って来た一匹の黒猫=ルリだった。


「怒ったなら、怒ったで良いんじゃない? あの王子って、笑顔が仮面みたくて気味悪かったし、いっそ人間味が出てきて、面白いじゃない?」

「はあっ!? 何を言ってくれているのよ! この化け猫!」


 恐ろしいほどの瞬発力で、エレキアがルリに吠えた。


(エレキアって、結構、順応性があるんだよな)


 ルリとエレキアが会うのは、まだ二回目なのに、喧嘩が出来るほど、仲良くなっている。

 いがみ合っている二人は微笑ましいのだが、後々面倒なので、リーゼは二人の間に入ってルリを抱き上げた。


「だけどね、ルリ。殿下に嫌われるのは辛いわよ。私だって、感情があるんだから」

「嫌われているって、リーゼは本気で言っているの?」

「ほら、見なさい! 化け猫にまで、見抜かれているんじゃない!?」


 なぜか、エレキアが勝ち誇ったかのように、胸を反らした。

 ……違うのか?

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