第5話 昔話
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――昔々、ユリエット王国に魔女がいました。
魔女は国のために、沢山の善行をして、大勢の人から慕われていました。
しかし、ある時から、魔女はおかしくなって、国にとって悪いことをするようになりました。
王族も民衆も、どうしたものかと困り果てていたところ、魔女はようやく告白しました。
――自分の寿命が迫っていることを……。
死が恐ろしくなって、悪行を重ねてしまったのだと……。
晩節をこれ以上穢したくないので、城を一つ所望したい。そして、自分の介護を頼める召使いを一人つけて欲しい。
魔女の頼みを、お安い御用だと、王は請負って、早速、山間の「サロフィン城」と、貧乏男爵家から金で買収した「召使い」が彼女のもとに献上されました。
これで静かに穏やかに、彼女は亡くなるのだろうと、誰もが思ったわけですが……。
しかし、誤算だったのは、その後、魔女がしぶとく四十年も生きるということを、本人も含めて、誰一人予想していなかったことでした。
魔女は、召使いに自分のもとから離れられないように、城から出たら、死んでしまう呪いをかけました。
召使いは、城内では老いることはありませんでしたが、その代わり、外に出る自由を失いました。
……そして。
召使いは魔女の死後も一人、魔女に掛けられた呪いが解けないまま、己の寿命が尽きる日まで、ひっそりと生き続けているのです。