第54話 限りなくクロに近い憶測
「わ、私、外に出てましょうか?」
もし、事実だとしたら、とんでもないことだ。
(謀反ってこと?)
さすがに、これ以上、部外者のリーゼは聞いてはいけないのではないか?
そそくさ、部屋から出て行こうとするが……。
「いや、君はそこにいてくれて構わない」
「で、ですけど……」
国家の重要機密をリーゼのような庶民が聞いてしまって良いはずがないのだ。
だが、押し問答している間もなく、レイモンドがシエルに食ってかかっていた。
「殿下。もし、嘘であったら、大公を疑った時点で、貴方様が罪人になるかもしれませんよ!」
「そうだね。だから、今はここだけの話にしている」
今夜のシエルに笑顔はなく、話を煙に撒くこともしなかった。
レイモンドとリーゼを見比べながら、淡々と語り始めた。
「叔父上は、再三、私に警告を出していた。なぜ、今回、私についてサロフィン城に来たのかも、さっぱり分からなかった。お目付け役? わざわざ叔父上自らが、ここまで出張る理由なんてない。それでいて、あの方は、あっさりと王都に帰って行った。もしかしたら、自身が率いていた武装した兵を、そのまま父上を討つために、使おうとしているのかもしれない」
「しかし、動機は?」
「私が頼りないからだろうな。叔父上は、王位を望んでいらっしゃるのかもしれない。叔父上の王位継承順位は七番目。正攻法では回ってこないから」
「でしたら、大公は、サロフィン城滞在中に、殿下をどうにでも出来たはずではないですか? それに、大公が去ってから二カ月。王都から火急の報せは届いてもいませんよ」
「だから……さ。叔父上は私なんて、どうにかする価値もないと考えたんだよ。私は無駄に貴族受けしているからね。安易に私を殺して、高位貴族の機嫌を損ねるより、父を脅して王位を得ることの方が容易いと考えたのかもしれない」
「では、ラグナス国王は、どうして?」
リーゼの問いかけに、シエルは深く頷いた。
「叔父上はラグナス王国に、自分の味方になるよう、内々に打診している気がするんだよね。元々、叔父上の母君は、ラグナス王国の方だ。頼みやすいのかもしれない。父から王位を簒奪して、自分が国王になった時、反発があっても、後ろ盾があれば、どうとでもなるだろうから……」
「……まさか、その返事を、ラグナス国王が保留にしているから、二か月も?」
シエルもレイモンドも息を呑んで黙り込んだ。
まだ本当かどうか分からない。
あくまで、憶測だ。
けれど、限りなくクロに近いようだ。




