表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/96

第53話 敵は身内にいる

◇◇


 元々、お忍びでサロフィン城にやって来たラグナス国王・アルフェイドは、言いたいことだけ言って、日が完全に沈む前に帰ってしまった。


『求婚の返事は、次でいいから』


 頭の痛い土産だけを残して……。


(……次って、何よ?)


 それだけではない。

 何より……。


『敵は、ラグナスだけではない』


 聞き捨てならない言葉だった。


(あの口振りからして、ラグナス国王は相当な自信を持っているようだったし…)


 一体、アルフェイドは何がしたかったんだろう?

 嵐のようにやって来て、嵐のように行ってしまった。

 おかげで、サロフィン城内は夜になっても、その言葉の真意の確認に追われ、騒々しいままだった。


「もしかしたら、あのようなことを言い出して、こちらの結束を壊そうとしているのではないでしょうか? それこそが、ラグナスの策なのだと思います。ここは、ひとまず落ち着いて……」


 青い顔したレイモンドは、シエルに落ち着くようにと必死に宥めていたが、彼の方が浮き足立っているようだった。

 執務室の椅子に腰を掛けたシエルは、険しい表情のままだった。

 取り巻きの家臣たちは、煽るばかりでかえって混乱が広がってしまい、シエルから皆下がるように命じられてしまった。

 ……結果。

 執務室には、シエルとレイモンド、そして指名されたリーゼの三人しか、残らなかった。


(なぜ、私も?)


 その答えは、すぐに分かった。


「リーゼ。ラグナス国王はね、ミゼルと話したことがあるんだよ」

「……え」


 シエルは、まず、それをリーゼに話したかったのだ。


「すまなかった。王は、最初から、君の変装に気づいていたんだ。私がもっと早く、君にそれを伝えることができていれば……」

「い、いいですって。そんな……殿下が謝ることではないですよ」


 愚かなのは、勝手にしゃしゃり出てしまったリーゼの方なのだ。

 思い出すと、恥ずかしくて消えたくなるが、自分で蒔いた種なのだから、仕方ない。

 しかし、分からないことがあった。

 ミゼルは生前リーゼに、そんなことを話したことがなかったのだ。


「……私、ミゼルから、ラグナス国王と繋がりがあったなんて、聞いたことなかったんです」

「うーん。だけど、ミゼルって言う人は、そういうこと、わざわざ言う人じゃないんでしょう?」

「……まあ、確かに」


 ――そうかもしれない。

 嘘は嫌いだが、誤魔化すのは得意な秘密主義だった。


「ミゼルは魔法が使える。鳥……ルリを介して、王城に遺言を託しに来たことも、君は知らなかっただろう。同じ手を使って、アルフェイドに近づいた可能性もある。……だから、彼がミゼルの終の住処を訪れてみたかったというのは、本音だと私は思うんだ」

「だからといって……。あの方を信用することは」

「分かっているよ。リーゼ。だけど、この城では政治の話はしないと言っていたアルフェイドが、暗に内部に敵がいるのだと私に伝えてきた。……本当のことなんじゃないかな?」

「そんな人間、この国には……」


 言いかけて、レイモンドが言葉を詰まらせた。

 そんな人間ばかりなのだという現実を、彼も分かってはいるのだ。


「信じたくはないけれど、ラグナス国王がわざわざ知らせて来るような危機だ。裏切り者……。誰か大物が動いているに違いない」


 シエルは、脳内で考えをまとめているのだろう。

 眉間を揉みながら、答えを探っていた。


「しかし、殿下。大物といったところで、そんな気骨のある貴族なんて、私の頭の中にはいませんよ?」

「一人だけいる」


 ひとしきり迷ったあげく、シエルは溜息と一緒に呟いたのだった。


「……叔父上だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ