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第37話 現実逃避

「あの娘から宝珠の在り処を聞き出すために、親密になさっていらっしゃったのでしょう? 彼女の殿下を見る目。何でも言うことを利いてくれそうじゃないですか。今が好機かもしれませんね。正直に話せば色々と協力してくれるかもしれません」

「……私は」


 聞き捨てならない言葉に、唇をかみしめる。

 この外見が人目を惹くのは、シエル自身よく分かっている。

 最初、初心なリーゼをからかって、仲良くなれたら良いと思ったのも事実だ。


(そうだよな。レイモンドが言っていることは、ある意味正しいのかもしれない)


 ……だけど、昨夜のシエルに思惑なんてなかったのだ。

 純粋に、彼女のことを愛おしいと思っただけだ。


 どこにも行けない閉塞感。


 リーゼが味わった孤独と絶望感には及ばないけれど、シエルも同じようなものを抱えていたから……。

 懸命に自分は平気だと虚勢を張って、無理して淡々と話すリーゼの姿が、健気で、いじらしかった。


(一度で良いから、誰かと手を握ってみたいなんて……)


 それが夢なのだと語る彼女を、本当は抱きしめてあげたかった。

 でも、寸前で彼女の実年齢のことが頭を過って、シエルは堪えた。

 生きている時間軸が違う。

 リーゼが自分と一線を引く理由だった。 


(彼女を利用しようと本気で思っていたら、簡単に出来たんだろうけど……)


 彼女はシエルが何らかの目的を持っていて、自分を利用しようとしていることにも、気がついている。

 その上で自分に出来ることがあれば協力すると申し出てくれたのだ。


(私は、すべてリーゼに話すことができなかった)


 ――リーゼのため?


 利用してくれと言われて、待ち構えていたかのように、自分の用件を告げるのが、小賢しいと感じたから?


(……違う)


 それもあったかもしれないけれど、それだけじゃなかった。


 ――シエル自身、()()()()()からだ。


 本当は、王都になど戻りたくないのだ。

 魔女の宝珠が、この城にあろうがなかろうが、どうだって良くて……。

 ただ現実逃避したかっただけ。

 ここには、シエルの落ち着ける場所があって、リーゼもいる。

 否が応でも自分が立ち向かわなければいけない現状から、目を背けたいだけなのだ。


(……そうですね。貴方の言う通りですよ。叔父上)


 あの時、オズラルドはすべてを見抜いていた。


 ――そして、シエルに絶望していたのだ。


(私は、駄目だった)


 父や祖父、貴族連中を軽蔑しながらも、どっぷり上辺だけの生活に溺れていたのだ。

 そんな奴が、リーゼに対して、外の世界に出る希望なんて、軽々しく言うべきではなかったのかもしれない。

 彼女のことを想うのなら、なおの事……。


(それでも……。私は)


 少しだけでも、リーゼに対して誠実でありたい。

 これ以上、彼女を傷つけたくないのだ。


「レイモンド」

「はっ」

「お前、リーゼのことを感心していると言うのなら、使用人たちの彼女に対する態度を改めるように、再度通達して欲しい。何度か命じたんだろうけど、まだまだだ」


 いつになく厳しい声音で、シエルはレイモンドに命じた。


「気づいて……いらっしゃったんですか?」

「お前が命じないなら、今度こそ、私からきつく言うことにする」

「失礼しました。私から命じておきます」

「私はもう少しだけリーゼの様子を見るよ。彼女は四十年も魔女の傍にいたのに、宝珠の存在を知らないみたいだ。それもおかしいからね」


 それだけが理由ではないことくらい、レイモンドとて察しているだろう。

 シエルはこの生温い檻の中から、飛び立つことが出来なくなってしまったのだ。

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