第36話 失望
(私は、ミゼルを買い被っていたのか……)
シエルは、リーゼが打ち明けてくれた「呪い」の話に、腹を立てながら、同時に落胆していた。
(半信半疑……。でも、私はミゼルを信じて、宝珠を探してみようと思った)
どんな願いも叶えてくれる宝珠。
魔女が話していた十年は丁度経過しているし、良い機会だと思った。
これを逃したら、もうサロフィン城に来ることも出来なくなるかもしれないから……。
ラグナス王国を監視するという名目のもと、オズラルドが帯同するのなら……という条件付きで、国王から、サロフィン城に滞在する許可を強引に取り付けた。
(もしも、願いが叶うのなら……)
そしたら、シエルの願いは、たった一つ。
国のために……というのなら、ミゼルは、シエルに「宝珠」を託してくれるのではないかと期待していた。
――しかし。
(……酷い話だった)
五十年もここに居続けて、単純な願いの一つも叶わなかった少女がいる。
(最低じゃないか……。ミゼル)
宝珠を託すのなら、シエルではなく、リーゼだろう。
彼女は、ずっと嫌々でも、長い年月、ミゼルに尽くしてきたのだ。
この城から一歩も出ることが出来ず、世間を知ることもなく、ただ繰り返しの日々を、たまに本を読むだけで、紛らわせて生きてきた。
一人の少女の人生を狂わせて、何が見誤るな……だ。
(一方的に信じていたものが、あっけなく崩れた感じがする)
ミゼルはシエルの考えているような人間ではなかった。
リーゼの話を聞いて、ミゼルの横暴な場面を聞いてはいたけれど、それでも何か考えがあるはずだと信じていた自分が愚かだった。
胸がざわめいて、一睡もできなかった。
黙っていることも出来なくて、執務の前に、昨夜あったことを話すと、レイモンドはなぜか喜んでいた。
「すごいですね。リーゼという少女が、五十年もここで生きている。猫が喋ったりもする。不可思議な能力ってあるものなんですねえ。虚言かと疑いたくもありますが、確かに、ここ数日見た限りでは、リーゼの薬学の知識は半端なかったですし、文章など見る限り、かなり知識の高い人だと思います。さすが御年六十八歳と申しますか……」
「レイモンド。お前、リーゼのこと嫌いだったんじゃないのか?」
「好ましくは思っていませんよ。それでも、共にいると、感心することはあります。それに……本当に宝珠があるのかと思うと、少しばかり寛容にもなりますよ。もし、本当に宝珠があったのなら、オズラルド大公を、ぎゃふんと言わせることが出来ますからね」
「しかし、もしも、宝珠が存在しているのなら、リーゼがとっくに試していると思うんだけどな?」
「彼女には、分からないように、宝珠を置いているのでは? 自分の死後、彼女をこの城に足止めしたのも、宝珠を守るための措置の可能性もあります。何にしても、殿下の色仕掛けの成果も出たみたいで、何よりですよ」
「……色仕掛け?」
人聞きの悪い。
シエルは、おもいっきり眉を顰めたものの、レイモンドには効果すらなかった。




