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第34話 決意表明のような

「辛かったね。リーゼ」

「えっ」

「よく、今まで一人で耐えてきたね。私がもっと早く気づいてあげられていたら、良かったのに。ずっと寂しくて、怖かったんだろう?」

「そんなこと」


 否定しようとしたら、強く手を握られて、リーゼは息を呑んだ。


(ああ、そうか……。私)


 シエルの言う通りだ。

 ずっと辛くて、寂しくて、怖かった。

 涙がぽたぽたと頬を伝って、床に落ちていく。

 ここ数十年、泣いたことなんてなかった。

 それを、年を取ったせいだと、自虐していたけれど……。


(私、ずっと、こんなふうに誰かに慰めて欲しかったのね……)


 心が揺さぶられるのは、しんどい思いをしている最中ではなくて、その時のことを誰かが労ってくれた時……。


(……報われたかったんだ。ずっと)


 リーゼの存在を、誰かに肯定して欲しかったのだ。


「ごめんなさい」

「どうして、謝るの?」

「私、殿下のことを信じきれていませんでした。てっきり、私には話せない目的があるのだと、思っていました」

「……リーゼ?」

「でも、いいんです。私は……私の信じたいことだけを、信じようと思います」


 どうせ、生い先が短いのなら、彼を好ましく思っていたかった。

 たとえシエルがリーゼを利用しようと考えていたとしても、それなら、それで構わないではないか……。


「何でも話して下さい。……殿下。私に出来ることでしたら、如何様にでもしますから」

「君は……」


 気まずそうな表情は一瞬で消えたけれど、リーゼは見逃していなかった。

 もう時間だと、繋いでいた手を解くのかと、リーゼは思った。

 けれど、シエルは逆に両手でリーゼの右手を包み込んで、頭を横に振ったのだった。


「どうしたんですか? 殿下」

「ありがとう。リーゼ。でも、そういうことは、安易に言わない方が良い。また魔女のような人間に付け入られてしまうからね。大丈夫。私は、大丈夫だから」


 決して、大丈夫そうではない様子で、シエルは切なげに、話題をそらしてきた。


「そうだ。リーゼ。君は、エンフィルって、場所を知っている」

「エン……フィル? 何処でしょう。まったく知りません」


 リーゼは、唐突な問いかけに戸惑いながらも、正直に答えた。


「エンフィルはね、王都から更に南方にある聖地だよ」


 シエルは窓の外の月を仰ぎながら、楽しそうに語った。


「いつか、行けると良いね。あそこは自然豊かな空気の澄んだ場所でね。ここも悪くはないけど、植物の種類がまったく違うから。王家が聖域として、代々管理をしていて、私も、たまにふらりと行くことがあるんだよ。出来ることなら、君にあの深い森を見せてあげたいな。きっと、気に入ると思うんだ」

「……はあ」

「あっ、無理だと思っているでしょう?」

「そ、そんなことは……」

「ねえ、リーゼ。呪いを掛けられたということは、解く方法だって、必ずあるってことじゃないのかな。君が外の世界に行くことだって、可能だと私は思うんだ」

「そうですね。いつか行くことができたら」

「行けるよ」

「殿下?」

「行けるよ。絶対に」


 その一言は、まるでシエル自身に向けた決意表明のような気がしてならなかった。


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