第28話 看病
◇◇
――怒涛の日々だった。
リーゼは高熱で寝込んでいる使用人の少女を看て回り、この辺りで何度か流行している重い風邪の一種、ラシャ熱だと断定すると、すぐに狭い地下室に隠していた、干して乾燥させていた薬草を煎じて、飲み薬を作り、彼女たちに飲ませた。
(飲ませるまでに、苦労したけれど)
毒と信じて疑わない彼女たちは、断固として飲んではくれなかったので、それだったらと、リーゼ自ら飲んで、見本になった。
苦いが、よく効くはずだ。
昔、ミゼルも三度ほど罹患したことがあって、あの時も面倒だったのだ。
リーゼも、二回、ミゼルから感染したことがある。
薬の作り方は、魔女仕込みだが、改良を重ねて、飲みやすいように、仕上げていったのは、リーゼの功績だ。もっとも、放っておいたところで、常人であれば、五日もあれば全快するのだが……。
(だから、静観してようと思っていたのに)
ラシャ熱だったとしても、彼女たちは若いし、どうせすぐに復活するだろうと、リーゼは思っていた。
それが……。
こんなにも、どっぷりと、看護する羽目になるとは……。
『とにかく、薬と換気と、汗を拭くこと。この三点が完璧に出来れば、一日で回復するわ』
そんなふうに、ミゼルはきっぱり言い捨てていた。
(もう、誰かの看護をするなんてないだろうと思っていたのに)
ずっと忘れたかったことを、懸命に思い出して、リーゼは彼女たちの身体を拭いて、窓を開けた。
すぐに、効果は現れ始めた。
看病し始めてから、二日目。
熱が下がり、食欲も出てきたのだ。
「ここまでくれば、もう、大丈夫ですよね」
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
「そんなに信じられないのなら、医者を手配して訊いてみてください」
離れて様子を伺っていた使用人と、レイモンドに、毒を込めた笑顔で言い放つと、リーゼの心もすっきりした。
(我ながら、驚いた。私も少しは、大人になっていたのね)
こういう方法で、抗議することも出来るようになったらしい。
(六十八歳にして、ようやく……か)
年を取ると、図太くなれる。
けれど、こんなに慌ただしい生活、若い頃以来だ。
(疲れたわよ。さすがに)
想定外のことをして、緊張感を維持していた分、立ち眩みが激しい。
多分、このまま寝台に寝転んだら、そのまま、ぴくりとも動けなくなる自信がある。
「早く、部屋に……」
よろけながら、何とか他の仕事をやり遂げて、虚ろな目で自室を目指した。
やっと、自分一人だけの場所に戻れるのだと、ほっと息を吐いたのも束の間……。
部屋の前に、ぽつんと人影があった。




