第24話 疑惑の目
「あ、貴方は?」
「私はシエル殿下の側近でレイモンド=ナリシスと申します。こうして二人で貴方と話すのは初めてですね」
「そう……ですね」
いつも、シエルの隣に空気のようにいた男性だ。
低く威厳のある声。
最初、大音声でシエルの身の上を叫んだ男。
華やかなシエルとは対照的に、武骨で男っぽい容姿をしていた。
そして、何よりこちらを見下すような、値踏みをするような、遠慮のない視線。
(権力者に多い感じの……)
――ナリシス家。
昔、その名前は聞いたことがある。確か、伯爵家ではなかっただろうか?
「すいません。私、洗濯をしているのですが」
「ええ。そうでしょうけど」
じろじろと、レイモンドは、リーゼが干したものを見つめている。
さすがに堪りかねて、リーゼは尋ねた。
「あの……私に、何かご用でしょうか?」
「えっ、ああ。そうですね。実は現在、使用人たちが次々に高熱を出して倒れていましてね。生憎、殿下直属の医師も不在で、麓の医者もここに来るのに、時間がかかるとか。そういうことで、我々は手探りで看護している状態なのです」
「そうですか。大変ですよね。皆さん、遠路遥々いらっしゃったので、お疲れになったのではないでしょうか。数日間、安静にしていれば、治ると思いますけど、早くお医者さまがいらっしゃると良いですね」
ラシャ熱は、疲れていると更に感染しやすくなる。
だけど、特段恐れる病でもない。
(毎日、報告に来るルリの口振りから、絶対にラシャ熱だと思うんだけどな)
しかし、レイモンドは不機嫌そうで、リーゼの言葉に相槌を打たなかった。
眉間に皺をよせて、口元に歪な笑みを浮かべている姿は、昔、リーゼを機嫌が悪いというだけで殴った父のようだった。
「それで、リーゼ嬢。貴方、昨夜は何処に行っていたのですか?」
「……はっ?」
意図の読めない問いかけに、リーゼの声は裏返ってしまった。
レイモンドはその反応こそ、不審に感じたのだろう、更に冷然と指摘を続けた。
「使用人たちが噂をしていましてね。貴方は、夜な夜な自分達に呪いをかけていたのではないか……と。魔女からそういったこと、貴方は習っているのではないですか?」
「つまり、私が……皆さんを呪ったと?」
それこそ、どうしてそんな発想になるのか……。
リーゼは唖然としてしまって、腰が抜けそうだった。
「そう話している者がいるということですよ。私とて、呪いには懐疑的ですが、皆が不安がっているのなら、私が代表して貴方に訊いて、明らかにしておかなければなりません」
「不安がっているのですか。皆さん?」
使用人の皆さまが、リーゼを恐がり、不安がっている……と?
(じゃあ、今までのは一体?)
今、リーゼにしている仕打ちが、不安がっている人たちのすることなのだろうか?
仕事を押し付ける余裕さえあるではないか……。




