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第20話 魔女との過去 

◆◆


『そんなものばっかり、読んでさ。どうして、ここを出て行かないのかね? 私がお前だったら、とっくに逃げ出しているんだろうよ』


 ミゼルは事あるごとにそんなことを言って、リーゼを煽った。

 しかも、最初の十年はこき使うだけ使って、他で潰しが利かなくなった十年目くらいに、普通は出て行くものだ……と常識を振りかざしてきたのだ。


『今更、何処に行けというのです? 私ももう三十歳。本来なら結婚しているはずだし、働き先だって、この年齢で身元が怪しければ雇ってなどもらえません』

『それでも、私なら出て行くね。こんなところで、くたばって堪るかってさ』

『貴方が呪いを仕掛けたと言ったから、私は、ここから出られなくなったんですよ』


 魔女はサロフィン城から出たら、リーゼは死ぬと言った。


 そういう「呪い」を掛けたのだと……。


 十年目から二十年目くらいは、よくそのことでぶつかっては、リーゼが一方的に泣くだけで、終わっていた。

 二十年、過ぎたあたりから、そんなやりとり自体が不毛だと気づいて、リーゼはミゼルのことを相手にしなくなった。


 ……どうでも良くなっていた。


 彼女に罵倒されることも、持ち上げられて落とされることも……。

 年を経るごとに、身体の動きが鈍くなるように、感情も鈍くなっていった。


 馬鹿馬鹿しい。


 リーゼの翼を捥いでおいて、それでいて、自由に飛んでみろと嘯く。


 不可能だ。

 ……もう。

 今更、何ができる?

 何もできないではないか……。


 だから、リーゼは本の中の世界で生きていた。

 非現実的な世界にいて、夢の世界に憧れて、独りで死んでいく。

 それの何が悪いというのだろう。


『お前は、そうやって独りでいるけれど、本当はね、独りが好きなわけじゃないんだよ。本の中に殊更、愛情を求めるのは、本当は、お前がそれを欲しているからだ』


 もう一人の自分ではないかというくらい、ミゼルはリーゼのことを悪い意味で良く知っていた。

 いけしゃあしゃあと、聞きたくないことばかり、わざと言うのだ。


『怖いんだろうねえ。人を愛して、愛し続けることが出来るのか……。愛した人に、離れていかれることが怖いから、ずっとここで蹲って、自分の感情に無頓着になっている。気づいていないのかい? お前は、誰よりも……』


「いやっ!!」

 

 がばっと、リーゼは寝台から跳ね起きた。

 寝汗で夜着がじっとりと濡れていた。

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