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第12話 魔女の召使い、更に落ちこむ

「何だ。魔女か」

「うっ」


 下を向いて、お辞儀した気になっていたリーゼは、その呼び掛けに、反射的に顔を上げてしまった。


「いや、お前は魔女の召使いだったか……」


 普段、声すらかけず、ただひたすら、不機嫌にリーゼのことを見下ろしているだけの大公が、初めて語りかけてきた。

 光沢のある濃紺のフロックコートに、大きな帽子を被っている。

 頬はこけて、目の下の隈は色濃い。

 シエルの叔父だとしても、まったく似ていなかった。同じなのは、髪色くらいなものだろう。

 大公の従者二人がリーゼの前に立って、身分に適切な距離を保っている。


(そんなに警戒しなくても、私、何も出来やしないのだけど)


 リーゼも、言葉が出ない。

 何だかんだで、レイモンドという側近は、リーゼのことを嫌いながらも声を掛けてくるのだが、大公は明らかにリーゼのことを見下していて、話しかけるのすら汚らわしいと考えているのが、ひしひしと伝わってきていた。

 それなのに、一体、今日はどういう風の吹き回しなのだろう。


「昨夜は一晩中、王太子と共に過ごしていたようだが、さすが魔女の召使い。あれは、昔から、何だかんだで女を寄せ付けない変わった体質をしていたが、特別な取り入り方でもあったのかな?」

「はっ?」


 ……まさか、リーゼがシエルに色仕掛けをしているのだと、本気で考えているのだろうか?

 有り得ないというより、そんなのシエルが可哀想だ。


「恐れながら」


 声が震える。

 けれど、リーゼはシエルの名誉に誓って、言わずにはいられなかった。


「王太子殿下は、そのような方ではありません。それに、いくらなんでも、私が相手だなんて、失礼ですよ」

「ほう。自覚はあるようだな」

「王太子殿下は、魔女ミゼルについて、調べていらっしゃるだけですから」

「魔女ミゼルね……」


 大公は意味ありげに、一人呟いた。

 一応、怒ってはいないようだったが……。

 しかし、ミゼルという名前に一瞬、大公のこめかみがぴくりと動いた様を、リーゼは見逃していなかった。


「実は、私も若い頃、一度だけ、ミゼルの魔法を目の当たりにしたことがある。あの能力は純粋に「凄い」と思ったが、ただ、それだけだった。魔女には子孫も弟子もいない。絶大的な能力を持つ者はとことん嫌われる。死んでしまったら、おしまいだと分かっていたから、別段、怖くもなかった。お前は、その魔女に恐々としながら、ずっと仕えていたのか? どこぞの馬の骨には、自尊心すらなかったんだな?」

「私は……」


 何も答えられなかった。

 暗に、愚鈍な人間だと名指しされたようなものだ。

 大公はリーゼが答えないことを承知で、愚弄しているのだ。

 先程の使用人同士の陰口より、はるかにリーゼは傷ついた。

 蒼い顔をしたリーゼが黙り込んでいると、大公は背後を振り返ってから、深い溜息を吐いた。


「まあ、いずれにしても、王太子は変わっている。この国は早晩、滅びるかもしれんな。それも、仕方のないことだ。……魔女の召使い。精々、可愛い甥を、この鳥籠の中で、足止めできるよう励んでくれ」


 そして、殺気のこもった微笑を浮かべたら、あっという間に、その場を去って行ってしまった。

 歩く度に、金属音が鳴るのは、腰に帯びた大剣が擦れる音だ。

 シエルもレイモンドも、城内では剣を帯びていないのに、大公は警戒心が強すぎる。


「何……だったの? 一体」


 短いやりとりの中で、リーゼこそ異質な存在なのだと、真実を突きつけられた感じがした。


(殿下をこの城から出さないようにって、それじゃあ、まるで私がミゼルじゃないの)


 だけど……。

 悔しいけれど、大公と使用人たちが噂していたことは、図星なのだ。

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