第11話 オズラルド大公
「陰口」というけれど、実際は、陰で声を潜めて話さない場合が多い。
楽しそうな笑い声。
人を悪く言うときほど、盛り上がる話題はないのだ。
「うんうん、怖いよね! まず、見た目が怖いし、何か反応も遅いし、かなりずれているし、よくあんなので、魔女の使用人務まったよね?」
「魔女の召使いって言っているのだって怪しいわよ。ただ城が無人なことを良いことに勝手に棲みついていただけじゃないの?」
「そうよねえ。ほら、髪の毛だって、ぼさぼさだし、前髪だって長くて、薄気味悪いっていうか……。それでいて、殿下に呼ばれて二人で会っているなんて、おかしくないかしら?」
「大丈夫よ。レイモンド様は明らかに怪しんで色々と調べているみたいだし、オズライド大公も警戒して下さっているから。ほら、殿下は、お優しい方だから……」
……大公?
いつもシエルの傍にいる白髪交じりの男性のことだろうか。
レイモンドというのは、茶髪の若い側近のことだろう。
二人共、名乗ってはくれないが、よくその名前を耳にする。
(それにしても、大公殿下まで……)
とてつもない、大物ではないか。
大公と名乗るからには、シエルの血縁者。
……王弟だろうか?
(確かに、あのおじさん、だいぶ偉そうだったけど)
シエルには丁寧語だったが、かなり高圧的な物言いをしていた。
二人共、よく出くわすのは、リーゼを監視しているせいだ。
(一体、何をどうして、そんな尊い御方がこんな場所に集結してしまったのかしら?)
そういう方々をもてなしている使用人だからこそ、上流家庭の子息ばかりで、自尊心も高いのだ。
若い使用人の女性たちは、リーゼという共通の敵が出来たことが嬉しいようで、顔を見合わせて大笑いしている。
これは、リーゼが出て行ったらいけない場面だ。
(大丈夫よね。私が立ち聞きしていたって、バレてないわよね?)
こういう場合、リーゼの立ち聞きが発覚する方が面倒なのだ。
(仕方ないか……)
多勢に無勢。
リーゼには、自分のことを心配してくれる身内なんて一人もないのだから……。
集めた落ち葉は、城の裏庭の人目のつかない場所に持って行くことにした。
城の構造をよく知っている。
その点だけは、リーゼの方が有利だった。
裏庭の存在自体、誰も知りはしないだろう。
リーゼもルリが隠した本を安全な場所に移しておきたかったので、丁度良かったのだ。
いっそ、仕事なんてサボって、ぱーっと本を読んで、嫌なことすべて忘れてしまいたいのだが……。
しかし、嫌なことというのは、重なるものだった。
せっかく、使用人たちがいる場所から逆に歩いたのに、前方から数人の従者を連れて、髭の男性がやって来るではないか……。
つい今しがた、噂に聞いたばかりの初老の男性。
(……オズラルド大公?)
――まずい。
とっさに隠れようとしたが、あちらはとっくに、リーゼの存在に気が付いていた。