#2 一巡
2024/11/24
大幅に改稿を行いました。(展開どころか博士の名前まで変わってるじゃないかよ えーっ!?)
2024/12/5
更に大幅に改稿を繰り返して前の改稿の面影が消えました
All For Revenge
Intent To Kill Born
男は白紙のレイヤーが連なる世界の奥行きを歩き続けていた。すると黒色の物体が話しかけて来た。
「君はどうやってここへ来たんだ?」
「分からない」
「君の名前は何だ?」
「分からない、すまない」
男は何の記憶も持っていなかった。
「そうか…となるとやはり"一巡"したのか」
「?」
「耳にしない言葉だから分からんわな、これから話そう。」
「ここは名前を奪われた者の脳波が交錯した"点"の1次元の空間だ。魂の世界とも言う。」
「私はこの世界の"観測者"として存在している」
「名前を"奪われる"?」
「名前を奪う技術がこの世にはあるのだ」
「名前を奪われると自らの実存性が欠落する。そして現実で過ごしたこれまでの人生が実存しないものとなり"無"に上書きされる」
「無に上書き?質量保存の法則から考えたら何物も"減る"ことはないんじゃないか?」
「その通り、処理としては自身の全ての過去の時間が一"点"に希釈されて実質的な"無"となっているだけだ。その過程で"点"である魂の世界と接続される、つまりこの現実は"過去"にあたる」
「私はそれを"一巡"と呼んでいる。上書きされた現実がループしているからだ」
「俺の過去を取り戻す方法は無いのか?」
観測者は画素の変化のパターンを作り出して1次元で首を振る。
「残念だが無理だろう」
「この扉から出れば繋がりは切れ、時間は未来へと進む。過去など忘れて別の人生を歩むべきだろう、それが賢明な生き方だ」
観測者の黒を1次元を包括する2次元から認識したらそれは傍から見ればドアノブで、ドアノブの1次元から弾き出されればそれ以外の2次元空間は扉になり、3次元への道を作り出していた。
「これからの人生?そんなものは望んでいない」
「俺はあの男を殺す為に生まれて来たんだ、未来なんざかなぐり捨てる気でいるんだよ」
「計画の遂行、そのために俺は記憶を取り返す」
男の自らの運命に抗おうとする覚悟は決まっていた。
「…そうか、希釈された過去の多くがそいつを殺したい日々だったんだろう、それでお前は今なお覚えているというわけだ」
「だがお前は"対価"となるものを持ち合わせていない。対価を捧げなければ扉の向こうの運命を変える事はできない」
「分かった、では対価として『芸』をやる」
そう言うと男は自らの胸に手を突っ込み、胸骨を折って心臓を取り出した。
「俺はこいつで5分間お手玉をやってみせよう」
ポイポイポイポイポイポイポイポイポイ
男は胸から溢れ出す血に耐えながら自身の心臓でお手玉をしている。
1次元の世界で立体化した。男は自らを構成している実体を256³の画素─すなわちレイヤーに分け、擬似的な3次元空間を作り出したのだ。
1分経過、
2分経過、
心臓が取り除かれると毛細血管からの酸素は血液とともに外部に放出され、全身に送られなくなる。
3分経過、
4分経過、
脳細胞は酸素が欠乏すると脳梗塞になり、運動中枢が破壊され、約5分程で壊死する。従って5分続けるというのは絶対に不可能である。脳みそを構成するレイヤーからは警告の画素が止まらない。
・・・
5分経過。
5分経ったと同時に男は倒れた。
根性は現実を打ち破った。
「…いいだろう。それではお前の掴み取った運命へ行くがいい」
1次元空間から男は弾き飛ばされ、扉が開き、その中へと吸い込まれた。
男は手術台で目覚めた。
「ここは…?」
「目が覚めたかね」
老人がこちらにやって来た。白衣を着こなしているのに、全身がしわくちゃになっているようにも見え、顔は霧がかかったようになっていてよく見えない。
「俺は死んだはずではなかったのか?」
「ああ、死んでたよ」老人は淡々と話す。
「次元が変われど停止は停止、完璧に壊死した脳味噌は戻せない」
「つまり…俺は別人なのか?」
老人が頷く。
「だが…死人であるまま蘇る方法はいくつかある」
「君は脳波をコピーして新たに作られた別の存在、だが自ら死したあの男の意志を受け継げばいい」
「そうする事で君は完全な復活を遂げる」
「分かった」男は不意に流れた涙を拭う。俺が彼の計画を代行して、彼をきちんと弔うのだ。
「私の名前はディーエフ博士だ、君の"運命"に従って施術を担当した」
「DF?それは偽名だろう」
「そうだ、本当の私の名前は」
「」
「」
一瞬時間が飛んだような感覚に陥った。何が起こった?
「聞こえなかったかね」
「そうだろう、私の真の名は"置換された"からだ」
「置換された?奪われたのではなくて?」
「私の頭の中に私という存在は実在している。だが実在を"伝えられない"。そうして代わりに与えられた役を演じる存在、別人でしかなくなったのだ」
「誰にやられたのかは覚えているか?」
「こんな事をできるのは奴ただ一人しかいない。その者の名は」
「」
「…これを知らせるのも無理か。次に会うことがもしあれば、私の本当の名前を見つけて教えてほしい…そうしてくれることでいくらか気休めになるんだ」
「り…了解した」口ではこう言ったが、男は何がなんだか分からなくなってきた。
「未来で生きる事が約束された君が過去で死んだ。今、未来は君の行動で完全に書き換えられた、君が未来を作り出すんだ」
男の視界がねじれていく。逆タイム・パラドックスの発生で空間が歪み、弾き飛ばされそうになっているのだ。
「待ってくれ」
「あなたは命の恩人だ、他に何か俺にできることはないか」
ディーエフは悲しそうに笑い、こう言った。
「いつか機会があれば、二人でビールを飲みに行こう。ポートランドでうまいビールのある酒場を知ってるんだ…」
ディーエフの顔を凝視していると、段々と顔が写し出されてきた。だが、それは自分の顔だった。男は驚いて姿勢を崩し、弾き飛ばされた。
男は砂漠で目を覚ました。長い夢を見ていたような気がする。ルリツグミの鳴いている声が聞こえる。
男の人生はここから始まる。
(2024/12/5 作者のコメント)
人物Aと人物Bの区別のためにAの連続でのセリフの時は空白の行を作らなかったり、地の文のシーンとか手抜きで改行していなかったんだよね
それでスマホからプレビューで見たらめちゃくちゃ見にくくて目が痛くなったんだッ
改行は大事ですね、本気でね…これからは異常改行愛者として文章を書いていきます。
それと、第三者視点から見て今回の時間軸云々の説明パートの時に図解用の挿絵がめちゃくちゃ欲しかったですね…5〜7話まで作ったら挿絵制作に移ろうと思います。
5話はもう完成していて、6話は今回の話がキーになるので大規模改稿を行いました。