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辺境都市の隠れ宿〜星明かり亭(うち)は、そういうお店じゃありません!〜  作者: 汐の音
4章

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4 幼児と冒険者


 ゲイル村はノルヴァから南東に一路、馬で約一日。定期の乗合馬車はなく、行き来は各自が講じねばならない。よって、昼すぎに出立したサラたちは必ずどこかに泊まる必要があるのだが――


「はい、これが護符。服の内側に入れておいてね。おはようディエル」

「……おはようッス、サラさん」


 ちょうどいい中間地点の、とある町。

 適当にとった宿屋の通路で待ち合わせ、ふたり揃って食堂へと移動する。

 ディエルは出会い頭に渡された魔石のペンダントを首から下げた。階段の踊り場で指でつまみ、朝日に透かし見る。 

 魔物の核だった石――乳白色の丸い鉱石は、いまは不思議な銀色を帯びて革紐の先で揺れていた。

 ディエルは感心半分、うらめしい半眼となってぶつぶつとこぼす。


「いやまぁ、わかってたんすけどね。部屋がべつべつになることくらい」

「当たり前よね……? あ、それね、月の魔力も借り受けてるから日光に晒さないで。しまってくれる?」

「あ、ハイ」


 言われてそさくさと首元からチュニックの内側に落とし込む。ディエルは布地の上からそれを押さえ、首を傾げた。


「きのう、『黒靄』がどうのって言ってましたっけ。そいつ? の対策ですか」

「そうね。万に一つ、ついて来てくれたあなたまで犠牲者にするわけにいかないから」

「サラさんは? あるんですか。自分の」

「――私はいいのよ」

「え?」

「何でもないわ。行きましょう」


 おろした髪を肩口で払い、サラは、すっと目線を逸らした。




 護符である以上はサラの神聖魔法が多重にかかっているが、相手を正体不明のものとする場合、呪術的には“目に映らないもの”を支配領域とする“夜”の守護、月神バーミェルの力を借り受けたほうが良い。

 そんな知識をもとに練り上げられたサラの魔力は、現在ディエルの胸元の魔石を超一級の護符たらしめている。


 ――――断然、使わないほうが良い代物だ。


 朝食を終えたテーブルで、すっかり冒険者(しごと)の顔になったふたりは同時に席を立った。チェックアウトを終え、厩舎へと向かう。


「行方不明者の探索と魔物の討伐期間は二日間。それでもいなくなった職人が見つからない場合は帰っていいそうよ。村長が家に泊まらせてくれるそうね」




   ◆◇◆




「お、お待ちしておりましたぁ!! あのう、ノルヴァのかたですか」


 討伐は探索のついでとみなし、ひとまず簡素な石垣に囲まれたゲイル村に入ってすぐ、声をかけて来る老爺がいた。


 事件のせいか、村の中は閑散としている。

 家々はどれも似たり寄ったりの掘っ立て小屋。肝心の職人の家や村長宅への案内も得られず、さてどうしようかと馬を降りて顔を見合わせたところだった。

 全身煤けた(なり)の老人に、サラは会釈で応じた。


「お待ちいただいて申し訳ない。ひょっとして、ゲイル村の長の……?」

「いかにも、儂が村長を任されております、アズリオと申します。良かった、。お役人は『冒険者ギルドから人を遣る』と話していましたが、まさかこんな若い方々とは」

「若見えするだけですよ。私はサラ。Bランクです。彼はCランクのディエル。早速ですが、現場を改めさせていただいても?」

「おお、こちらです」


 身を翻したアズリオは、ヒョコヒョコと片脚を庇いながら村の道を進んだ。


 (くだん)のターナー兄弟の作業小屋は斜面の脇にあり、容易に山に分け入られそうな場所に建っていた。

 入ってすぐの土間には煙突付きのレンガ窯。壁一面に薪の山。奥の棚には焼き上げた陶器が所狭しと並べられ、およそ生活の気配がない。きょろきょろと屋内を見渡すサラに、アズリオが右手側を指し示す。


「ここの(もん)は皆、似たようなもんです。あっちが寝床。それに炉ですな」

「なるほど」


 サラはこんもりと盛られた藁山と、窯より断然存在感のないの石の(かまど)に戸惑いながらも頷く。

 表に二頭の馬を繋いで来たディエルは、もっとはっきりとした驚愕の表情を浮かべた。


「俺なら一晩も保たない……っと、失礼」

「いやいや、そうじゃろうと思います。特にターナー兄弟は根っからの職人で」

「はぁ」


 ディエルはとっさに口を塞いだ片手を下ろし、(ほう)けたように相槌を打った。


 村長(いわ)く、兄弟の作品はそれぞれ個性的で味があり、上品な磁器にはない野趣や素朴さを好む顧客にひどく愛されたそうだ。


 そして、兄弟喧嘩が絶えなかったとも。

 驚いたサラが眉を跳ね上げる。


「仲が悪かったのに、こんなに一緒に?」

「仲間内でも話の種でしてな。あいつら、片割れがおらんときは相手の器をめっぽう褒めちぎるんで。プライドも似たり寄ったり――だからこそ離れられんかったと言うべきか」

「ウィルさんとエリオットさんですね」

「ええ。本当に、どこへ行ってしまったのか」


 悄然とうなだれるアズリオの顔には焦燥と哀愁が漂う。


 やがてアズリオは数歩歩き、レンガ窯のあたりに戻った。ぽっかりと開いた窯の手前に立ち、手にした杖で、とん、と足元を打って。


「ウィルの服はここに落ちておりました。弟のエリオットの上着はあっちの山側に」

「あっち……。窯の裏手ですか。裏口があるんですね。向こうは何が?」

「なんも。石垣は崩れとりますし、山に直接繋がっとります。洗い場やら薪割り場はあるんで、兄弟はそこから薪やら土を採りに行っとったんでしょうなぁ」

「では、山での消息不明も考えられるんですね」


 ふむふむと頷いたサラが、片手を顎に添えて考えに耽る。

 いまから日没まで、巡回がてら山に行くべきか。



 すると――


 突然、表側で馬のいななきが聞こえた。続いてバタバタという足音が。


「じいちゃ! きた!? 早く、探してもらって!!」

「え、……え? ちょっ、ぼうず。危ないぞ、割れ物だらけなんだ。走んな!」


 静止をかけるディエルの脇の下をくぐり、ひとりの幼児がすばしっこく散乱する物と物を避けて駆け抜ける。

 三歳くらいだろうか。

 男児はアズリオをちらと眺め、即座にサラに狙いを定めた。真っ向から足元に飛びついたのだ。


「! 君は」

「おれは、ウィル。たのむ、あんた冒険者だろう……? あいつを、エリオットを探してくれよ。きっ、消えたんだ。おれの目の前で。お願いだ!!」


 ――いかにも体格に合っていない、ぶかぶかの服に靴。

 くすんだ黒のくせ毛をあちこちに跳ねさせた幼児・ウィルは、涙の滲んだ水色の瞳でサラを見上げた。




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きゃわわ( ˘ω˘ )
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