1 裏通りのオアシス
(扉絵イメージ)
ある日、Xで流れてきたハッシュタグ「もしも異世界ファンタジーだったらこんなキャラ」※うろ覚え
的な……とあるフォロワー様から連想が膨らみすぎた件を文にすると、こうなりました。
なぜ短編に出来なかったのか( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン
軽い感じでお読みいただけるとうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
辺境都市ノルヴァは王国の西の端。おそろしい姿かたちの魔物が跋扈する未開の地――“入らずの森”に面している。
森からはときどき大規模な瘴気があふれ、異様に数を増やした魔物たちが王国領へと雪崩込む。獣、鳥、竜型。ときに一つ目巨人や猪頭巨人など、大型の群れも確認される。それらはどれも獰猛で、人間と見ればまず間違いなく襲ってくる。言うなれば害獣だ。
ふつうの獣と違うのは、魔法を使ったり、生半可な武器が通らなかったりと、何かと厄介なこと。
なかには人語を解する大物もいるらしいが……
閑話休題。
魔物の最大の特徴とは、すなわち体の内側に“核”を宿すこと。
核は“魔石”と呼ばれ、ちからある魔法武器や魔防具、魔道具づくりに欠かせない。そして、倒せば外皮や錬金術の材料になる希少素材がたっぷり手に入る。
だから、ノルヴァの主産業は魔物素材の「狩り」と「加工」。それに、狩りの担い手である冒険者たちを対象とする客商売だった。
ここ、ちょっと小洒落た外観と内装が売りの《星の明かり亭》も、そう。
日が落ちるころに開業する酒場を兼ねた木造宿は連日大賑わい。
値段は手ごろ。酒と食事はまぁまぁ。給仕の女の子たちも可愛いとあっては、先払いで常宿にする上級冒険者も多く、なんと駆け出し冒険者限定の格安プランまである。 大通りからやや外れた裏通りにあることから、知る人ぞ知る隠れ宿――そんな風に呼ばれているけれど。
(善いことばかりでもないのよね……)
知る人ぞ知る、とは、すなわち「知らない人は知らない」。つまり一見さんにはまったく知りようがない。とくに、流れの傭兵くずれや荒くれには格好の餌場に映るらしく。
――そう。度々こういうことが起こった。
◆◇◆
「なあなあ、いいじゃねえか姉ちゃん。一緒に飲もうや」
「やっ……やだ! 離してください」
「『やだ』だってさあ!! かわいーねぇ、年いくつ?」
「ひっ……やめ……。お、女将! 見てないで助けてください!」
「――え? ああ、うん。ごめんねルチルちゃん、今行くわ」
満員御礼の夕食時。
身汚いふたり連れはずいぶん早い時刻から隅の席を陣取り、安酒ばかりを注文していた。おそらくは内地から流れてきたチンピラのたぐいだろう。女の子たちにも注意を促していたのだけれど。
経験則どおりに嫌な予感が的中し、サラは辟易と吐息する。腕を組み、つっけんどんに言い放った。
「どーも。お客さん。うちは、そういう店じゃないんです。お代はお品と引き換えにもらってますからね。安心してお引き取りを」
「はあ?」
「嘘だろ? 女将? こんな嬢ちゃんが? 下手なハッタリとかいいからさあ、あんたもこっち来いや」
ギャハハ、と品のない笑い声に、サラはげんなりと物思いに沈んだ。
(嗚呼……どうしたらこの手の輩を店に入れずに済むのかしら。虫除け香? でも、あれって人間には効かないのよね、残念)
「女将ぃ! 憂えてないで戻ってきてください! お願いします!!」
「…………はっ!? ちょっと、何してんの! うちの子に触るんじゃないわよ」
――しまった。ちょっとばかり本格的な魔法構築式を考えた隙に、ルチルは毛むくじゃらの男に腕を引っ張られていた。すると。
「やれやれ、そこまでだ」
見かねた常連客が立ち上がり、サラの背後から圧をかけてくれた。
(よかった)
サラは、ホッと肩の力を抜いた。
このケースだと、無力なあいつらに残された選択肢はみっつ。
――――――❖――――――
①ストレートに歯向かう
②相手が有名冒険者と気付き、尻尾を巻いて逃げ出す
③捨て台詞を吐き、悪態をつきながらすみやかに去る
――――――❖――――――
サラは経営者として被害を最小限に収めるべく①を覚悟したが、今回のふたりは幸いなことに②だった。意外に目端が利くらしい舎弟(仮)が「ヤベェよ兄貴、あれ、Aランクパーティの……!」と訴えると、毛むくじゃら男が見事な手のひら返しを見せる。
「何っ!? そっ、そそその、すいやせん! 失礼しました!!」
「! きゃあっ!」
男は立ち上がるや否や、さっそくルチルを乱暴に放り出した。
が、Aランクパーティの伝説級アタッカー、ガレオが即座に彼女を受け止める。紳士のお手本のようだ。
「きみ、大丈夫?」
「は、ひゃい」
「よし」
一目散に逃げ出す荒くれたちを送り出したのは凄腕魔法使いのフィリータだった。
「オラァ! あんたら! 二度と来んじゃないよ!」
「まあまあフィリータ。口が悪いよ、落ち着いて」
これを、盾役にして“竜狩りの良心”、または”歩く美声おじ”の名をほしいままにする重戦士のロンが諌める。Aランクパーティ『竜狩り』は彼ら三人で結成されていた。
「まったく、嫁入り前の娘がそんな…………おっと、オルタネイルさん。すみません。出過ぎた真似を?」
「いいえ、ロン」
サラは、ゆっくりと頭を振った。
「いつもありがとう。ガレオもフィリータも。助かったわ。さっ、飲んで。みんなもごめんね! 迷惑代に全員にビールとつまみを奢っちゃう」
「うおぉぉ!!」
「やったぁあーー!」
「最高ッス、女将!!!」
店中が歓喜の渦と化す。
やんやの喝采に陽気な口笛。厨房はフル回転となり、給仕の係と料理人たちが慌ただしく動き出す。冷たいものは冷たいうちに。熱いものは出来立てを。なんてことはないけれど、食材の廉価さはともかく提供のタイミングについては徹底していた。隠れ宿・星の明かり亭のポリシーのひとつだ。
サラは、ぼうっと突っ立ったままのルチルの茶色いポニーテール頭をぽんぽんと撫で、にこりと笑った。
「怖い思いをさせてごめんね。詫びに今日のお給金弾むから。さ、もう一働きがんばろ!」