憎悪④
渚の葬式が終わり、暫く経ったが、犯人は未だに見つからないままだった。
殺された場所が監視カメラも人通りもない、路地だったことと、背格好も性別も分からず、杖を持っていたという情報のみだったからだ。
そして悪い噂ほど早く広まるもので、渚の死は尾ひれがつき、俺が死なせたという話が学校中に広まっていた。前世の時のように周りから侮蔑の目を向けられている。一つ違うことは今は何人も味方がいることだ。前世での味方は両親と弥生だけだった。
ただいっそもう俺からみんな離れていって欲しい。もう俺のせいで他の誰かが巻き添えになるのは嫌だからだ。
「人殺しが学校にくんじゃねぇよ!」
そう言って、栗原は俺の顔に掃除で使った後の汚い雑巾を投げてきた。俺は避けることはせず、そのまま雑巾は顔に当たった。
あいにく今は自習中でその行為を咎める先生もいない。
栗原だけじゃなく、渚と仲が良かった他のクラスメイトも一部だが、罵声を浴びせてくる。それに対して、弥生やたけしなど一部のクラスメイトは反論の声を上げた。
ただ俺自身は反論する気はない。いや、その資格がない。何故なら渚が死んだことは紛れもない俺が原因だからだ。
俺が無抵抗な事に味を占めたのか、座っていた俺の胸ぐらを栗原は掴み、そのまま床に
叩きつけた。そして俺に蹴りを浴びせようとした瞬間
「や、やめて!!!!!!!」
俺と栗原の間に、泣きながら弥生が割り込んできた。栗原の蹴りがそのまま弥生の体を直撃する。
「や、弥生。大丈夫か!?」
男の蹴りを華奢な弥生がまともに受けたのだ。大丈夫な訳もなく、弥生は痛みでその場にうずくまる。
(また俺のせいで巻き込んでしまった…)
弥生はえりかとたけしが駆けつけすぐに保健室に連れて行った。
「こんなやつ庇うからだ。自業自得だぜ。なぁみんな?!」
栗原のその発言に、先程俺を非難していたクラスメイト達も、さすがに引いたようで、俺への罵声は止まっていた。
俺は立ち上がり、栗原の前にゆっくりと歩いていく。
「なんだよ!?なんか文くぐぁッ!?」
俺の拳が、栗原の顔面を捉える。栗原はそのままドアに吹っ飛んでいった。
「な、何しやがッ!?」
そしてまた栗原が言葉をいい終わる前に、今度は倒れた栗原目掛けて蹴りを放つ。
「ぐはっ…てめぇ!?大吾やっちまえ!」
栗原と同じいじめの主犯格の我妻大吾が俺に突進してくる。こいつは巨体な分、栗原より厄介だ。だが俺の敵ではない。
突っ込んでくる我妻に俺は合気道のスキルを発動し、地面に倒した。そして馬乗りになって我妻が失神するまで殴り続ける。
「私先生呼んでくる!」
誰かは分からないが、クラスメイトの声が聞こえた。先生を呼びに行ったようだ。先生が来る前に栗原を殺しておかないと
俺は弥生を傷つけられた事が、渚のあの時の死んでいく瞬間と重なり完全に我を失っていた。失神した我妻をその場に置いておき、痛みで未だに立てない栗原へ近寄っていく。
そして栗原の手を掴み、俺はある事を実行した。
「な、何する気だ!?やめろ!やめてくれえええええ!?」
ボキッと音がして、栗原は痛みで叫んだ。そう、栗原の腕を折った。
「て、てめぇ!?こ、殺してやる!?」
「まだそんな虚勢がはれるのか?やってみろよ。」
俺はもう片方の腕も折り、最後に栗原の顔を思い切り蹴り上げた。栗原はピクピクと痙攣し、地面に倒れ込んだ。
「やばいよ。完全に高原キレちゃってるよ…」
「先生まだ来ないのか!?確か滝川さん呼びに行ったよな!?」
雪ちゃんが先生を呼びに行ったのか…今そんな事はどうでもいい。俺は気を失っている栗原達をそのまま置いていくと、弥生のことが心配でそのまま保健室へ向かった。
教室から出ると雪ちゃんがドアの側で立っていた。
「あれ、雪ちゃん先生を呼びに行ったんじゃ?」
「呼びに行ったふりをしただけだよ。私は涼介くんの味方だからね」
そう言って雪ちゃんは満面の笑みで笑った。
「そんな事よりも早く保健室に行ってあげて」
まるで笑顔を貼り付けたような表情で、少し違和感を感じたが
雪ちゃんの言葉を聞いて、俺は急いで保健室へ向かった。
「ふふ、私は小さな火をつけただけ、大きくなったのはきっと風のせいだね」




