第31話 特使と幹部
暗黒の地。
狂気に支配された恐ろしい街。
聖王エリオン17世に、そう表現された皇帝領ジェルバ。
俺たち一行は、その《海港都市ジェルバ》に来ていた。
皇帝軍に奪われた『風のリング』を取り戻すために。
「……ここ、本当にジェルバなの? なんか思ってた雰囲気と全然違うんだけど……」
海に面した港町のジェルバ。
海運業が発達しており、他の都市との交易によって栄えている街である。
そんな《海港都市ジェルバ》の街の様子だが……。
屈強な男たちが船に荷を積んだり、逆に船の積み荷を港に降ろしたりと、労働に励む姿が目に飛び込んでくる。
また、街の通りには名産の魚料理店やオシャレな民芸店などが軒を連ねており、多くの人々で賑わいをみせていた。
働く者、街を歩く者、そのどちらもが生き生きとした表情をしている。
「なんだか、聞いていた話とは街の雰囲気が違いますね」
「この街って皇帝領なのよね? あの悪逆皇帝ディアギレスが治める『悪い街』で合ってるのよね?」
チェルシーが俺に訊ねてくる。
「ああ、合ってるぞ。奪われた『風のリング』も、あの積み荷の中に入ってるからな。積み荷に紛れ込ませて皇帝ディアギレスのもとへ運ぶ算段だ」
「そうだったのですか……私、この平和的な街の雰囲気に危うく騙されてしまうところでした」
「……アタシも」
ゲームの初見プレイで《海港都市ジェルバ》に来た時は、俺もルルナやチェルシーと同じ感想を抱いた。
しかし、この平和的で明るい街はメインクエスト進行とともに、真逆の姿へと変貌していくのである。
皇帝ディアギレスが治める街なので、当然ここに住む者たちは人間ではない。
全員がモンスターである。
この《海港都市ジェルバ》におけるメインクエストの流れは、こうだ。
『風のリング』を取り返すため、ジェルバに潜入した主人公たち。
そんな主人公たちの前に、皇帝軍の幹部『ルキファス』が現れる。
圧倒的なチカラを持つ『ルキファス』に敗北してしまった主人公たちは、街の牢獄に入れられてしまう。
その後、脱獄イベントが開始。
脱走する最中、主人公たちはモンスター化した街の住民に襲われ、《海港都市ジェルバ》が噂どおりの暗黒の地であることが判明する。
この段階では『風のリング』を取り返すことはできない。
ここのメインクエストは、主人公たちの敗北……そして、危機が訪れるというシーンである。
俺が頭の中で攻略チャートを思い浮かべていると、
──メインクエスト《密入国者》が開始されました──
視界にシステムメッセージが表示された。
メインクエスト《密入国者》。
《海港都市ジェルバ》に入った後に発生する強制イベントだ。
システムメッセージが表示された直後。
「──クックックック……まさか、本当に現れるとは」
積み荷作業をする屈強な男性たち。その奥のほうから、一人の男が俺たちの前にゆっくりと歩いてきた。
「誰よ! あんた!」
騎士風の装いの男に向かって叫ぶチェルシー。
チェルシーは、男が発する異様なオーラを感じ取ったのだろう。
本能的に『敵』と捉えたに違いない。
「おやおや……私のことを、お忘れですか。残念です、クックックック」
男は言葉とは裏腹に、ショックを受けた素振りを見せず不敵に笑う。
「あっ! 貴方は……聖王様の特使の方ではありませんか! なぜ皇帝領のジェルバに?」
どうやらルルナは思い出したようだ。
俺たちの目の前に現れた騎士然とした男性。
彼は、俺たちが『風のリング』を奪われた直後、《エルフの里》にやってきた聖王の特使に間違いなかった。
そして──
「なぜ、皇帝領ジェルバに居るか……ですか? それはですね…………私が偉大なる皇帝ディアギレス様に仕える、皇帝軍の幹部だからですよ! 名を『ルキファス』と申します。以後、お見知りおきを……と言っても、あなた方は全員死んでしまうのですがね! クックックック」
彼こそが皇帝軍幹部『ルキファス』だった。
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