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第25話 ヴェリオの正体

 『緑の勾玉(まがたま)』──アイテム欄を確認してみても「エルフ族の秘宝」と表示されるだけで、現状では特に使い道の無さそうなモノだった。


 ゲームをクリアしたことのある俺でも知らないようなキーアイテム。

 気にはなったが、今は表ボスを倒しにいくのが先決である。




 無事に《エルフの里》のメインクエストを成功させた俺たち一行は、次の舞台を《()(ゆう)(とう)フィーリヤ》へと移していた。


()(ゆう)(とう)フィーリヤ》。

 鳥獣(ちょうじゅう)族ハーピーの棲む場所であり、《風のフェイタル・リング》を入手するために訪れるキーエリアである。


 天空を漂う《()(ゆう)(とう)フィーリヤ》へは、《エルフの里》にある転移門(ポータル・ゲート)を通り、一瞬でワープすることができた。


「本当に空に浮かんでいるのねぇ! 噂には聞いたことあったけど、本当にフィーリヤに来られるなんて! ヴェリオ様やルルナに付いて来なかったら、この感動は得られなかったわ! ありがとう、二人とも!」


 ゲーム上では、王宮に暮らす皇女様のチェルシー。

 本来であれば、今は優雅なティータイムを楽しんでいる時分であろう。


「私もヴェリオさんには感謝していますっ。《エルフの里》に続き、このような素敵な場所に連れてきて頂けるなんて」


 元の聖女服に着替えたルルナは、空高く浮かぶ島からの絶景を見ながら言った。

 ルルナも本来であれば、初期村でのんびりとした日常生活を送っていただろう。


「まぁ、目的は『風のリング』だからな。空からの景色を楽しんだら、さっそくリング探しに移るぞ」


 俺たちは観光しに来たわけではない。


 世界を救う(大学に進級する)ためにフィーリヤを訪れたのだ。


「そうでした。私たち、浮かれている場合ではなかったですね……」


 本来の主人公ルークに比べ、少し気の抜けた『天然』なところがある主人公(ルルナ)

 俺はルルナのこういう性格、嫌いではない。


「そうね……いくら()(ゆう)(とう)に来たからと言って、アタシたちの気持ちまで(うわ)ついてちゃダメよね……」


 しょーもないことを言うチェルシーに、俺は内心で笑ってしまった。



 ゲーム《フェイタル・リング》はシリアスな展開や鬱イベントが多く、全体を通して暗いイメージが強かった。


 逆に言うと、そういう暗くて重厚(・・・・・)な物語を好むプレイヤー層に受けて、大成功したゲームなのだ。


 俺も、そのプレイヤー層に属する一人なのだが。


 実際にゲームの中に入って追体験してみると、世界に対して真逆のことを望んでしまっている。


 人が死ぬような展開ではなく、皆が笑って終わるようなハッピーな物語。


 心の中で、俺はそんなことを望んでいた。


 ただただ目的に邁進するルーク(主人公)や、敵を倒すことに特化した大剣豪ハワード(本来の仲間)であれば、このリング探しも、もっと殺伐としたものになっていただろう。それこそ、元のゲームのような暗い展開に。


 陽気で天真爛漫な性格のルルナやチェルシー。

 彼女たちの明るさに、俺は助けられていたんだ。


 そう強く実感する。


「じゃあ、そろそろフィーリヤの長老のところへ向かおうか」


 フィーリヤの長老──この島に棲まう鳥獣(ちょうじゅう)族ハーピーを束ねる存在。

《風のリング》入手のクエストフラグを持っている重要キャラクターである。


「ええ!」


 元気よく応えるチェルシー。


「でも……大丈夫でしょうか? ハーピー族は人間を嫌っている種族だと聞いたことがあります」


 一方、ルルナは不安そうに言った。


 鳥獣(ちょうじゅう)族ハーピー。

 見た目は人型だが、背中に羽根が生えており宙を飛んで生活している。


 人間と鳥を合体させたような種族。

 そんなハーピー族は、ルルナの言う通り「大の人間嫌い」である。


 大昔、大地で生活していたハーピー族は、人間から差別的な扱いを受け、住む土地を追われた。

 行き場を失ったハーピー族は、人間が立ち入ってこられない『自分たちだけの居場所』を新たにつくり、そこへ移住したのだ。


 そのハーピー族の居場所というのが、ここ《()(ゆう)(とう)フィーリヤ》なのである。


 人間は飛べないので、この島へは来られない。


 ここへ来る唯一のルートも、ハーピーと同じく『人間嫌い』のエルフ族の里にしかない。

 ハーピー族が信頼を寄せているエルフ族。彼らが認めた者しか、《()(ゆう)(とう)フィーリヤ》には入島できない仕組みなのだ。


 だが──


「たしかにハーピーは人間嫌いで有名だが、『リング装備者』に対しては別だ。エルフ族と同じで、丁重にもてなしてくれるよ」


 ここでも、やはり主人公特権が発動する。


「あっ、いえ、私たち(・・・)ではなく、その……ヴェリオさんが……」


「俺? 俺のことは気にしなくて大丈夫だ。それよりも、フィーリヤの長老から話を聞いた後、『風のリング』入手についての説明をするからな」


「りょーかい!」


 なんだか腑に落ちないといった様子のルルナに対し、チェルシーは大きく頷いてみせた。

 そうして、俺たちはフィーリヤの長老が住む島の中央部へ向かった。



 ◆



「よくぞ、おいでくださいました、運命の導き手様」


 フィーリヤの長老のもとへ行くと、いきなり歓迎の言葉が投げかけられた。


「あれ? アタシたち、まだ自己紹介もしてないのに?」


 チェルシーが首を傾げる。


運命の指輪(フェイタル・リング)に導かれし方々がフィーリヤを訪れることは、『定めの予言』で告げられておりました。我々は長いこと、あなた方がこの地に来るのを待っていたのです」


 見た目は妖艶な大人の女性を思わせるフィーリヤの長老。


 しかし、種族を治める長というだけあって、その風貌からは威厳も感じられる。


「それなら話は早いです。俺たちは『風のリング』を手に入れるため、この地に赴きました。空を漂う(・・・・)『風のリング』を入手するために、ハーピー族が俺たちに力を貸してくださる、ということで宜しいですか?」


「ええ、もちろんです。それにしても、さすがは運命の導き手様のお仲間……私が説明するまでもなく、『風のリング』の所在を知っているのですね」


 ……流れをぶった切って、いきなり話を進めすぎたか?


「え、ええ……まあ」


「それでは、皆様のことを島のハーピーたちに伝えておきます。ハーピー族の総力をあげて運命の導き手様をサポートするように、と」


「ありがとうございます。私たち人間は、昔ハーピー族に酷いことをしてしまったというのに……こんなに手厚い歓迎をして頂き……感謝申し上げます」


 ルルナが深々と頭を下げて、謝罪と感謝の意を表した。


「我々ハーピーは人間族と敵対しておりますが、運命の導き手様は別です。あなたは『リング』によって選ばれた救世主であり、世界の希望なのですから」


「でも、ルルナだけじゃなくてヴェリオ様のことも受け入れてくださるなんて、ハーピー族は懐が深いわぁ~! うんうん!」


 なにやら一人で納得しているらしいチェルシー。

 チェルシーは嬉しそうに頷いていた。


「ヴェリオ様……? そちらの男性のことでしたら、彼は人間ではないので──」


「ああああああああああッッッ!!!!! じゃ、じゃあ! 俺たちは、一刻も早く『風のリング』を手に入れないとな! よっしゃ! みんな、頑張ろうぜ!」


 俺はフィーリヤの長老の言葉を無理やりに遮った。


 おおおぉぉぉぉいいいぃぃ!!!!! 

 なに言い出してんだ! この長老!


「それでは、運命の導き手様が『風のリング』を手に入れられることを、切に願っております。そして、世界に平穏と安定をもたらさんことを──」


 そう言って、フィーリヤの長老は話を終えた。


 大丈夫だったか!?

 ルルナとチェルシーに、長老の言葉は聞かれていなかったか!?


 


 フィーリヤの長老のもとを離れた後も、俺の不安は消えなかった。


 ……まぁ、クエストフラグは立ったんだ。

 落ち着いてクエストを進めていこう。


 俺が『風のリング』入手の手順を二人に説明しようとした時──




「ヴェリオさん、人間じゃなかったのですか?」




 自然なトーンで、ルルナが訊ねてきたのだった。







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