第16話 死んだら、どうなる?
──この世界で死んだら、どうなるのだろう。
迫りくる強敵『名もなき女性』を見て、ふと考えてしまった。
ゲーム《フェイタル・リング》では、主人公が死んだりクエストに失敗したりしたら、直前のセーブポイントまで自動で戻される。
この世界で死んだ場合、どうなる?
ゲームと同じくセーブポイントに戻される?
それとも、目覚めることのない永遠の眠りにつく?
瞬きの間に、様々なことが脳裏をよぎり……。
「ハアァァァァァァッッッ──!!」
気づいたら、俺は『名もなき女性』に対して《混沌の終劇》を発動させていた。
強烈な威力を誇る漆黒のエネルギー波は、『名もなき女性』に直撃。
通常であれば、脅威の攻撃力で敵を消滅させる裏ボスの最強スキル。
しかし──
「フンッ!! そんなもの私には効かないよッ!! 金髪の小娘以外は後で殺してやるから、そこで大人しく突っ立ってなッ!!」
女性に直撃したはずの《混沌の終劇》は、謎の防護膜のような存在に打ち消されてしまった。
そして表示される、システムメッセージ。
──皇女チェルシー以外のキャラクターは戦闘に参加できません──
本来であれば主人公と『名もなき女性』の一騎打ちイベント。
それが意味不明な流れで、ルルナの代わりにチェルシーが戦闘に参加することになってしまった。
ただ、敵との一騎打ちバトルというのは変わっていないらしい。
「クッ!! チェルシー!!」
俺はチェルシーの身を案じ、叫び声をあげた。
「ヴェリオ様! 大丈夫! アタシが何とかしてみせるから!」
気迫の込もった声で応えるチェルシー。
チェルシーの表情には、なにか覚悟のような気持ちが表れていた。
チェルシーは真剣な顔つきで、猛進してくる『名もなき女性』の攻撃を受けようとしている。
一方、疾走しながら果物ナイフを取り出す『名もなき女性』。
ナイフを手にした直後、女性の凄まじい速度のナイフ攻撃がチェルシーの身体を貫き──
チェルシーの美しい金髪が地面に滴り落ちた。
「チェルシーーーーーーーーーー!!!!!!」
ルルナの泣き叫ぶ声が、鉱山入り口に鳴り響いた。
一瞬の出来事だった。
一瞬の後に、チェルシーが無残な状態で地面に横たわる今の状況になってしまった。
俺たちの大事な仲間であるチェルシー。
ほんの数秒前までは俺の言葉に応えてくれていたチェルシー。
しかし──チェルシーの笑う顔は、もう見られない。
自信満々な彼女のセリフも聞くことができない。
チェルシーは戦闘不能状態……HP0……死んでしまったのだ。
俺は何もできず、その場で呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
虚無感と無力感と絶望感に支配される。
そんな俺の目に飛び込んできたのは──赤い血がべっとりと付いた果物ナイフを手にする『名もなき女性』の恍惚の表情だった。
直後、俺の視界が暗転し、記憶はそこで途切れた。
まるで、PCの画面がシャットダウンするかのように──
◆
……。
…………。
………………。
「──ヴェリオさん! ヴェリオさん!! ヴェリオさん!!!!」
遠くのほうから、俺の名を呼ぶルルナの声が聞こえてくる。
ヴェリオ……か。
……ああ、俺は『ヴェリオ』というのが自分の名であると瞬間的に感じ取ったんだな。
《フェイタル・リング》の裏ボスの名前を自分だと直感したんだ。
俺は、この世界で生きているんだ。
改めて強く思った。
……ん? 生きている?
今の状況は? あれから、どうなった?
ここは、どこだ?
「ヴェリオ様? どうしたのよ、急にボーッとして」
意識が戻った俺の視界に現れたのは、なんとチェルシーだった。
『名もなき女性』のナイフ攻撃で死んだはずのチェルシーが、大きな目を俺に向けて立っていた。
「チェ、チェルシー!? な、なんで、生きて…………そ、それに……ここは!?」
慌てて周囲を見渡す。
「ここ? 《イーリス鉱山》の中ですよ?」
「あぁ~、これは寝ぼけちゃってるわねぇ~。でも、歩きながら睡眠を取れるなんて、やっぱり凄いわ! ヴェリオ様!」
「ふふっ、そこ褒めるところですか~?」
楽しそうに話すルルナとチェルシー。
そして、その隣には一人の男性の姿があった。
「おいおい、寝ぼけるのもいいけど、早いとこ戻らねぇと。今日は帰るのが遅くなっちまったから、嫁さんが心配してるかもしれねぇ。俺は、あんたらに弁当を届けるようお願いしてくれた嫁さんを、一秒でも心配させたくねぇんだ」
そう言って、男性は足早に歩いていった。
「そうですねっ」
「いいなぁ~、あんなに愛されて! いつかアタシもヴェリオ様に愛妻弁当を作って、それで──」
なにやらチェルシーは俺との夫婦生活を妄想しているようだ。
……なるほど。
ここまで確認できれば、今の状況を理解することができる。
俺が気になっていた、この世界のシステム。
死んだりクエストに失敗したりしたら、どうなるか──
結論。
ゲームと同じく、直前のセーブポイントに戻される。
どうやら、この世界もオートセーブ仕様のようだ。
今は、『名もなき女性』とのバトル直前。
『火のリング』を入手し、鉱山夫の男性に弁当を届けた後、《イーリス鉱山》から出ようとする場面だろう。
ということなら……。
「みんな、ちょっと俺の話を聞いてくれ」
和気あいあいと鉱山内部を歩くルルナたちに、事情を説明するべきだ。
俺は、対『名もなき女性』戦に備え、攻略情報を伝えることにした。
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