レベリング
現れるゴブリンとブルースライムを倒しながら歩くこと数分。俺は森の入り口に立っていた。時間帯が夜ということもあり、かなり暗くモンスターの鳴き声が不気味に聞こえる。
この森にいるモンスターはレッサーウルフ、ゴブリン、ブルースライムの三種類で、夜になるとウルフの上位種、フォレストウルフと弓を持ったゴブリンが現れるようになる。特にフォレストウルフは2、3匹のレッサーウルフを連れているため気を付ける必要がある。
夜の森ということもあり見通しがかなり悪いので警戒しながら進む。とはいえ見通しが悪いのはモンスターも同様で、『索敵Ⅰ』のおかげで先に敵の位置を探れる分、俺のほうが有利ではあるだろう。マップに現れた一つの赤い点に向けて歩を進めながらそう結論付ける。
赤点が近づき木の陰に隠れながらモンスターの正体を探る。見えた影は二足歩行、ゴブリンで確定だ。ゴブリンがこちらへ歩いてくるがまだ気づかれていない。木を利用しながら背後を取りそのまま急所を貫く。このゲームでは気づかれていない状態で攻撃すると与えるダメージが増える。現実に近づけたゲームなので相手の体力が見えているわけではないが、急所に攻撃したので後1、2回急所に攻撃すれば倒せるだろう。
それからほどなくしてゴブリンが光となって消える。
「パリイにも慣れてきたし、これはいいな。」
前作の回避盾ビルドだと火力が全くと言っていいほどなかった。それもありVR版ではこのパリイビルドにしたが成功のようだ。
「この調子で狩っていくとするか。」
俺はモンスターを探して歩き始めた。
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モンスターを数匹狩り俺のレベルは2から5に上がり、新たに『夜目』を獲得した。
『夜目』
暗い場所でもよく見えるようになる。
「ここまで上げれば足手まといになることもないだろうし、そろそろ終わろうかな…」
そんなことを考えていた時マップに固まった4つの赤い点が現れる。固まり方から見てフォレストウルフとそれに従うレッサーウルフと見ていいだろう。一対多を避けるために今までは避けていたが、もう終わるつもりだし挑戦してもいいだろう。死んだところでカールに戻され、デスペナで手持ちの所持金と素材の半分をなくすだけだ。所持金はほぼ0に等しいし、素材が半分なくなっても残りでほしいものは買える。
挑戦することを決め、フォレストウルフたちが向かう先に先回りし木の上へ登る。あとは待つだけだ。
一匹のフォレストウルフと三匹のレッサーウルフが俺がいる木の下を通る。普通なら臭いで警戒されてそうなところだが、場所がばれてないなら十分だ。タイミングを見計らって木の上からレッサーウルフめがけて飛び降りる。下のウルフたちが何かに気づいたように警戒し始めるが遅い。
俺の短刀がレッサーウルフの急所、首へと吸い込まれる。木の上からの落下、急所への攻撃、気づかれていない状態からの攻撃、そしてレベル5になった俺のステータス。これらを合わせた一撃はレッサーウルフの体力をすべて削り取った。鳴き声を上げる間もなくレッサーウルフの一匹が光となって消える。
「まずは一匹。」
残りのウルフたちはこちらを観察するように少し距離を取る。しかしフォレストウルフが一鳴きすると二匹のレッサーウルフが突撃してくる。一匹目の首を狙ったかみつきを弾き、続く二匹目の足を狙ったかみつきを体捌きで回避する。二匹目の無防備な背中へ攻撃しようとするが、フォレストウルフの邪魔が入ったので距離を取る。
そこへ一匹目のウルフが爪で切り裂こうと迫るが、逆にそれを弾き急所を突く。
「さすがに一撃じゃ無理か。」
短刀の一撃は確実に急所を貫いたが、体力を削りきるには至らなかったようだ。できるなら今ので一匹減らしたかったところだが、まだ始めたばかりなのだ仕方がないだろう。むしろ最初の一匹を一撃で削れたことに喜ぶべきだろう。
ウルフたちは再びこちらの様子をうかがう。
レッサーウルフ二匹が走り出す。今度は同時に攻撃してくるようだ。左右に別れ一匹目が体を狙った爪攻撃、二匹目が足首を狙った低いかみつきだ。
俺はダメージ覚悟で二匹目のほうのウルフを蹴飛ばす。足に赤いエフェクトが弾け、少しだけしびれたような感覚が走るが無視して、一匹目の攻撃を弾き急所に攻撃、残りの体力を削りきる。
「これで二匹…!」
二匹の相手をしている間に背後に回ったウルフが走る。二匹のレッサーウルフの攻撃を受けたところを追撃するつもりだったのだろう。しかし相手のかみつきよりも早く体勢を整えた俺は振り向きながら攻撃する。俺の攻撃はカウンター気味にフォレストウルフの首へと当たりダメージを与える。後隙を狙うように走り出したレッサーウルフに向けて剣先を向け、とあるスキル名を叫ぶ。
「マジックボール!」
透明な球が剣先から射出されレッサーウルフの鼻を打ち弾き飛ばす。
マジックボールは無料で習得できる魔法系のスキルで、MPを消費してダメージはない透明な弾丸を放つというものだ。無料だったので習得しただけだったが役に立ったようだ。
体制を整えたウルフ二匹と向き合い、相手の出方をうかがう。パリイを狙うという特性上、相手の攻撃を待つ必要がある。そのためウルフたちの一挙手一投足を見逃さぬように警戒していた。だからこそ気づかなかった。
唐突に俺の首からダメージエフェクトが弾ける。その攻撃は急所への攻撃であり、俺が気づいていない敵からの攻撃であった。俺の体力がみるみる減っていき0になる。目の前が暗くなっていくなか、最後に見えたのは首を貫いたであろう弓矢だった。
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目の前が明るくなる。気づくと俺はカールのリスポーン地点に立っていた。
最後にされた攻撃、あれはゴブリンアーチャーによる攻撃だろう。遠距離攻撃とはいえ森の中のしかも夜だ。そんなに遠くからではなく、『索敵Ⅰ』の範囲内からの攻撃のはずだ。いくら目の前のウルフに集中していたからといってもマップに気を付けていれば注意はできたはずである。
「最後の戦闘でこれかよ…。」
『妖怪調伏奇譚』といい、どうにも締まらない終わり方である。とはいえこれ以上は明日の学校に支障が出るだろう。俺はゲームからログアウトした。
ベットから体を起こすとパソコンにメッセージが届いていることに気づく。相手はルークだ。そういえば今日から始めたことを報告したんだっけ…
[初心者エリアはいつ抜けられそうだい?]
カールから次の街に行くまでの洞窟までのエリアはアナオンプレイヤーからは初心者エリアと呼ばれている。実際、次の街についてからできることが増えるようなのでまだ始まったとすらいえない状態なのである。
[明日には次の街に行けると思う。]
[へー、それは早いね。楽しみだよ。]
返事を返すとすぐに返ってきた。『黄金平原』が揃うのも久しぶりだから楽しみなのだろうか?
[ちょっとパーティーを組むことになってな。おかげですぐに次の街に行けそうなんだよ。]
この後メッセージのやり取りを数回してから俺は床に就いた。
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「うんうん。レインのことだから始めたら早いとは思ってたけどね。」
パソコンの前で男が納得したように頷きながらつぶやく。
「とりあえず明日は黄金平原に召集かけてっと。」
男は言いながらパソコンに何かを打ち込む。
「じゃあ、僕も出迎える準備をしないとね…!」
VRのヘッドセットをかぶり、ゲームの準備を始める男。
「明日は裁判だよ、レイン。」
やられてばっかだなこの主人公…
あっ、少しでも面白いと思っていただけたら感想とかもらえると蚊取り閃光が飛び跳ねます。