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初戦闘兼パリイの練習

 心の奥から湧き上がるままに気持ちを叫んだが、冷静に考えるとなかなか恥ずかしいことしてるな。ふと我に返る。心なしか周りの目線が温かいように感じる。やばい…帰りたくなってきた…

 自分で作り出した状況に心の中で悶えていると声をかけられる。


「あんた前作プレイヤーだろ?」


 声の方向を向くと人族の男女一組のプレイヤーがいた。声からして男のほうが話しかけてきたのだろう。


「ええと、そうですけど…なんでわかったんです?」


「そりゃあ、あんなふうに叫んでたら、なあ?」


 男が確認を取るように女のほうへと聞き、女はうなずく。


「おうふ。」

 

 冷静に考えればわかったことだ。何も考えずに聞いた結果自分の傷口をえぐる羽目になった。


「前作プレイヤーの人は同じことやってる人が多いわよ。」


 俺の様子を見て女の人が付け加える。

 周りの目線が温かかったのは気のせいじゃなかったようだ。ていうか皆考えることは同じかよ。


「それで何の用です。ええと…」


「ああ、俺はタスク。んで、こいつはハルだ。声をかけたのは次の街に行くためにパーティーを組まないか誘おうと思ってな。」


 声をかけられた理由は分かった。次の街に進むためにはボスを倒す必要がある。そのためにパーティーを組みたいのだろう。しかしなんで俺なんだろう。わざわざ始めたばかりの奴を誘うメリットはないはずだ。

 そんなことを考えているのが分かったのだろう。ハルが口を開く。


「考えるだけ無駄よ。誘ったのはタスクの勘だから。」


「か、勘…?」


 思いがけない言葉に呆気に取られる。


「無駄とはなんだ、無駄とは。こういう時の勘は外したことはないだろ。」


「そうだとしてもいきなり誘ったりしないから。警戒されて当たり前よ。」


 タスクとハルが言い合いを始める。

 それを見て思わず吹き出す。この人たちは信用して良さそうだ。


「そういうことならお願いします。」


「「へ…?」」


 まさかOKがもらえるとは思ってなかったのだろう。二人が虚を突かれたような声を出す。


「い、いいのか…?」


 タスクが聞き返してくる。


「そういってるじゃないですか。」


 そんなわけでゲームを始めて早々パーティーを組むことになった。

 向こうはもう落ちるということでお互いにフレンド登録をして、明日からパーティーを組んで攻略することになった。


「レイン…?なんか聞いたことある気が…」


 俺のPN(プレイヤーネーム)を見てハルがつぶやく。


「気のせいじゃないですかね。」


 レインなんて簡単に思いつく名前だ。聞いたことある気がするなら、それは別の同名プレイヤーだろう。だって俺は始めたばかりでVR版では()()何もやっていないからね。

 ハルは思い出そうとしたようだが諦めたようだ。


「明日からよろしくなー」


 そう言って二人はログアウトしていった。

 俺も一度落ちて夕飯だな。その後は初戦闘とレベル上げだ。

_____________________________________


 夕飯を食べもろもろの用事を済ませた俺は再びログインした。

 言い忘れていたが『アナオン』を始めたプレイヤーが最初に降り立つ港町は「カール」、別名「始まりの町」だ。南には海が広がっており、カールから外へ出ると平原が広がっている。遠くには森が見え、それらを囲うように高い山が連なっている。

 次の街へ向かうためには北へ向かい、そこにある洞窟を抜けるしかないらしく、その洞窟の最後にボスが待ち受けているようだ。

 とまあ、調べたことをまとめたところで俺は今、カールにて準備を整えていた。


「えーと、一応回復薬を買って…予備の武器も買っとくか。」


 カールの平原だけは例外だが、基本的には夜になると出てくるモンスターが増え、全体的にレベルが上がるらしい。普通なら夜の戦闘は避けるところだが、俺は平原である程度戦闘の感覚を確かめたら森へ向かい、強めのモンスターでレベル上げするつもりだ。

 またそれぞれのフィールドには適正レベルがありこれから向かう平原は1~3、森の中は3~6のようだ。ちなみに夜になると平均2か3ぐらいはレベルが上がるらしい。

 タスクやハルのレベルがいくつかは分からないが次の街に行く予定ということは洞窟の適正レベル7~10の辺りだろう。誘われた以上、洞窟の適正レベルまでとは言わないが、荷物にならないぐらいにはレベルを上げたいところだ。

_____________________________________


 最初の所持金3000Gをギリギリまで使い準備を整えカールの出入り門に立つ。平原の適正レベルはいつでも1~3なのでそこまで気を張る必要はないとは思うが、『アナオン』での初戦闘だ。せっかくなのだからうまくやりたい。深呼吸をしてから門の外へ一歩踏み出す。

 門からある程度離れるとマップに赤い点が現れる。モンスターの反応だ。


「ゴブリンか…」


 マップに表示された場所へ向かうとそこにいたのは、ファンタジーの代表格ともいうべきゴブリンだった。成人男性の平均身長の半分くらいの大きさで全身が緑、腹が少しだけポッコリと出ており、手には刃のかけた短剣が握られている。首の部分が赤くなっている。これはスキル『急所看破』によるものだろう。

 VR版になったことで『アナオン』ではクリティカルヒットがなくなった。代わりにどのモンスター、キャラクターにも急所が用意されており、そこを狙って攻撃できればクリティカルと似たような急所アタックとなり、与えるダメージが増える。たいていの急所は首や、人なら心臓の位置などある程度予測できる場所に設定されているが例外はある。それを見破れる『急所看破』は結構必須だと個人的には思っている。

 少し遠くから観察しているとこちらに気づいたようだ。鳴き声を上げながらこちらへ走って来る。

 俺は短刀を構えて待つ。ゴブリンが短剣を水平に振るう。それを見てから下から跳ね上げるように相手の短剣を攻撃する。攻撃が当たりゴブリンの短剣が上に弾かれ、ゴブリンの体勢が崩れたのを見て、短刀を急所である首を狙って突く。

 狙いすました一撃はゴブリンの急所を的確に貫き、赤いエフェクトがはじける。すぐに短刀を抜き後ろに飛びすさる。


「まぐれとはいえ一発でパリイ成功か。幸先いいな。」


 狙っていたとはいえ成功するタイミングが分かっていなかったので適当に振るしかなかったが、運よく一発で成功した。今のを参考にして練習するとしよう。

 再びゴブリンがこちらへ走って来る。今度は上からの振り下ろし。さっきの感覚をもとに攻撃を合わせるが、少し遅かったようだ。ゴブリンの短剣を受け止め、俺のスタミナが減る。


「短剣の攻撃だからまだマシだけど案外減るもんだな。」


 ガードした時のスタミナ減少は受け止めた攻撃の重さによって増減する。だからこそ、短剣の攻撃はそこまで減らないはずなのだが、パリイが失敗したことでスタミナ消費が二倍になる。いくら少ないとはいえ二倍になると意外と大きくなる。連続攻撃された時が課題だな。連続でミスって切り刻まれる未来が見える。とりあえず今は目の前に集中だ。

 ゴブリンが再び短剣を振る。パリイを狙うが今回は早かったようだ。また俺のスタミナが削れる。

 ちょっと集中するか…。ゴブリンが離れたタイミングでスイッチを切り替えるように頭の中を切り替える。『妖怪調伏奇譚』で身に着けた集中の切り替えだ。いつもより集中できる分、後で疲れるからあまり使いたくはないが、パリイを身に着けるためなら少しはいいだろう。

 ゴブリンが振るった短剣に合わせて、同じように攻撃する。今度は成功だ。ゴブリンの体勢が崩れるが今度は追撃しない。最初の平原のモンスターということもありゴブリンは体力は多くない。あと一発急所アタックを決めれば倒せるだろう。でも今必要なのはレベルを上げることではなくパリイの感覚をつかむことだ。


「悪いが練習台になってくれ。拒否権はないんでよろしくー!」


 言っても伝わらないだろうが宣言する。俺はゴブリンが攻撃してくるのを待つだけだ。

 今のは早いな。次、成功。成功。遅い。早い。ゴブリンがスタミナ回復の休憩。遅い。成功。早い。………

 五分ほど続けたぐらいだろうかマップにモンスターの反応が現れこちらへ近づいてくる。

 二対一をする気はないので戦っていたゴブリンの攻撃を弾き、とどめを刺す。ゴブリンが光となって消えていき、また新しくゴブリンが現れる。

 さてと、練習再開だ。

_____________________________________


 ひたすら練習したことで単発の攻撃のパリイ成功率は9割を超えた。とりあえず今は十分だろう。そんなわけで心なしか疲れているように見えるゴブリンを倒す。

 練習中にゴブリン5匹とブルースライム3匹を倒した。俺のレベル1から2へと上がった。レベルが上がったことでステータスに振り分けるポイントが5増えていた。体力と防御系に振る気はないのでそれ以外に均等に振り分ける。


「パリイの練習もできたことだし森に行くとするか。」


 俺はひとり呟くと夜になり適正レベルが5~8になっている森へと向かった。

ゴブリンぇ…


あっ、少しでも面白いと思っていただけたら感想とかもらえると蚊取り閃光が背伸びします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「短刀の攻撃だからまだマシだけど案外減るもんだな。」 これって相手の攻撃のことですよね? だったらゴブリンが持ってるのは短剣で受けたのは短剣の攻撃では無いですか? [一言] お疲れ様…
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