ようやくのログイン
日常パート有りにつき会話多めです。
一時間ほど寝てすっきりとした気分で目を覚ます。
水分補給をしてVRのヘッドセットを装着する。
「んじゃ、再挑戦と行きますかー!」
俺は再び九尾の攻略を開始する。
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九尾の攻略を開始した一発目のことだった。
『ギャァァァァァァァァァ!』
エコーがかかったかのような九尾の叫び声が響き渡る。勝ってしまった…
「今までの苦労は何だったんだ…」
ぽつりと呟く。もともと前回の挑戦で敵の行動もすべて確認できたので回数をこなせば勝てるとは思っていた。
しかし、今回の挑戦は寝起き直後で勝てるとは思っていなかった。むしろこの一回で目を覚まし勝つまで続けるつもりだったのだ。心の奥に何かもやもやしたものが溜まる。とはいえクリアはクリアだ。喜ぶべきだろう。
九尾の体が紫の炎で燃え上がり灰となって消える。すると奥にあった大きな扉が腹の底に響くような重い音を響かせながら開く。
「いよいよ終わりなんだな…」
万感の思いを込めて呟き、扉の先へと歩みを進める。扉を抜けた先には祭壇があり、そこには一人の高校生ぐらいの女の人が横たえられている。彼女は『妖怪調伏奇譚』における重要人物だ。時には一緒に戦ったり、時にはボスを倒すのに役立つ情報をくれたり、時にはこのゲームに疲れたプレイヤーを癒してくれたりと様々な場面でかかわることになる。ストーリー終盤で生贄として捧げられることになった彼女を助けるために俺は九尾と戦っていたのだ。俺は彼女へと近寄り声をかける。
「ほら…起きてください。」
彼女がうっすらと目を開ける。そこから先はムービーが始まる。詳しい内容は省くがとりあえずハッピーエンドだったとだけ言っておこう。
エンディングを見終え俺はゲームを終える。
「めちゃくちゃ難しかったけどストーリーは良かったな。」
VRゲーム初の死にゲーとしてはかなり作りこまれており、ストーリーは少し泣きそうになるくらいには良かった。難易度も鬼畜だったが回数をこなし戦略を立ててやっていけばクリアできないわけではなかった。個人的には神ゲーとしていいぐらいだ。
ベットから起き上がりながらそんな評価を下す。時間を確認すると晩飯まではまだまだ時間はありそうだ。
「まだ時間あるな。」
そう言いながら新たにゲームを手に取る。『アナザーライフ・オンライン』だ。ふと昨日今日のゲームプレイ状況を思い出す。
昨日は土曜日で学校が休みだったため朝早く起きて『妖怪調伏奇譚』の攻略開始。そして、ラスボスである九尾のもとへたどり着き数回挑戦。そこで終了した。
そして次の日、まあ今日なのだが…。九尾の攻略を再開。何十回と殺されたがついさっき倒し、『妖怪調伏奇譚』をクリアした。
「うん…戦い疲れたし明日学校を終わってからでいいか…」
そう言って『アナザーライフ・オンライン』をもとの位置へと戻す。
「今日は色々調べることにしよう。」
そう決めてパソコンを開き、『アナザーライフ・オンライン』について調べる。VR版になったことで前作から仕様変更になった部分が多数あるようだ。それらを確認しながら自キャラのステータスをどうするか考えていく。
前作からプレイしていた人たちはそのまま似たようなステータス構成、スキル構成にする人が多いようだ。『黄金平原』のメンバーもほとんど変えていないらしい。
「俺はどうしようかな?」
そんなことを考えているときほど時間が過ぎるのは早いもので晩飯の時間になる。パソコンを閉じて一階に降りる。続きはあとで考えよう…
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次の日。
「おふぁよう…ふわぁ…」
家から電車に乗って30分ほどの位置にある高校へ来た俺は、同じクラスの友達へあくび交じりのあいさつをしながら自分の席へと向かう。
「眠そうだな、悠斗。ゲームで徹夜か?」
俺の前に座る幼馴染、進藤が声をかけてくる。
「厳密には違うが、まあそんなとこだ。」
「なんだそれは。」
「何の話してるの?歩君、悠斗君。」
俺たちが話してると新たに一人会話に混ざる。もう一人の幼馴染、白石だ。彼女の席は一番後ろで俺が来たのが見えていたのだろう。
「悠斗が眠そうだったからね。理由を聞いてたんだよ。」
「なるほどー。それで?理由は何だったの?」
高校生なんて皆眠いもんだろ。そんなことを思いつつも返事を返す。
「『アナオン』について調べてたら寝るのが遅くなったんだよ。」
『アナオン』というのは『アナザーライフ・オンライン』の略だ。『AO』だとか『ALO』と略す人もいるが、一番多いのが『アナオン』だ。
「へーそうなんだね!」
「『アナオン』について調べてたってことは、もうあれは終わったのか?」
俺の回答に白石、進藤の順に返事が返ってくる。
「『妖怪調伏奇譚』なら昨日、やっとクリアしたぞ。」
「マジかよ…何人目だ?」
「昨日調べたら17人目だったかな?」
『妖怪調伏奇譚』はその難しさゆえに、1か月ちょっと経った今でもクリアした人が少ない。俺がクリアした時にはそれだけしかいなかった。噂では近々アップデートが入り難易度調整ができるようになるらしい。
「17人しかクリアしてないゲームって…やばいな。」
「語彙力溶けてるぞ。」
言葉が出てこなかった進藤に笑いながら返す。
「じゃあ、今日から始めるの?」
「そのつもりだ。」
「そうなんだ!なら近いうちに一緒にできそうだね!」
VRゲームとなったことで幼馴染二人も始めたというのは聞いている。とはいえ2週間ほどの差があるから追いつくのは大変だろう。
「まあ機会があったらな。」
そんな会話をしていると先生が教室へ入ってくる。
「また後で話そうねー。」
そう言いながら白石は自分の席へと戻っていった。
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その日の授業が終わり、俺たち3人は話しながら帰路につく。
「悠斗君はステータス構成とかは、前作のと同じにするの?」
「いや、変えるつもりだよ。前と同じじゃ芸がないし、それにVRでの仕様変更で同じことをするのも厳しそうだからな。」
白石の質問に返答すると、今度は進藤から質問が来る。
「前作だと回避盾をしてたんだっけ?」
「その通り。よく覚えてたな。」
前作をプレイしてたのは俺だけだったので一回話したことがあるくらいだろう。それも随分前の話だ。
「回避盾なんて滅多に聞かないからな。それで覚えてたんだよ。」
その言葉になるほどと納得する。
「回避盾はできなくなるの?」
白石からそんな質問が飛んでくる。仕様変更で同じことをするのが厳しいといったからだろう。
「できないわけじゃないんだけど、かなり難しくなる。フレーム回避ってわかるか?」
その言葉に二人とも頷く。フレーム回避というのは、回避行動をしたときに設けられているコンマ数秒の無敵時間、これを利用して敵の攻撃を無傷でやり過ごす技術である。前作ならこれが可能であった。
しかしVR版となったことでより現実に近づけるためにこの無敵時間が無くなることとなった。また、一部スキルにも無敵時間があるものについては効果が変わったらしい。
前作では、時にはスキルの無敵時間も利用しながら敵の攻撃をフレーム回避することで、無傷で敵の注意を引き続けるということをしていた。
「「なるほどー。」」
その事を説明すると二人は納得したように頷く。
「じゃあ、次はどんな構成にするか考えてるの?」
続けて白石が尋ねてくる。
「考えてはいるけど、まあ見てのお楽しみってことで。成功するかもわからないし…」
「え~!?そんなこと言われたら気になるなあ。」
そうこうしているうちに俺たちの家の近くへと着く。
「じゃあ、また明日。」
「うん!また明日ー!」
「また明日な、悠斗、彩音。」
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家に着いて早速自室へと向かう。今からやれば自キャラの製作とチュートリアルぐらいは夕飯までに出来るだろう。
早くしろと急かす心を落ち着かせてVRヘッドセットを装着し、ベットへと横たわる。
そしてゲームを開始するための一言を唱える。
「ダイブスタート!」
三話目にしてログインまでしか行かなかった主人公がおるらしい…
あっ、少しでも面白いと思っていただけたら感想とかもらえると蚊取り閃光が発狂します。