第2話
神歴5年3月10日 イスラエル連邦、第二エルサレム基地
「今回の作戦は、エジプト方面の遺跡の探索調査です。これを見てください」
作戦室のモニターには石板が表示された。石板には、オシリスの絵と象形文字が書かれている。
「これは、1ヶ月前にエジプトの国境付近の遺跡で発掘された石板です。考古学研究所の解析によれば、その石板には粘土板に書かれていないルートについての記述が見られました」
これを聞いて作戦室がざわめき始める。
「ですが、この石板は途中で終わっており重要なことが書かれておらず、年代測定から紀元前3世紀に作られたことと、オシリスの絵が描かれていることからアレクサンドリア郊外の神殿でつくられた可能性が高いことしか分かっていません」
「祐くんはこれの研究をしてたよね」
ネイトの説明の途中でケントが祐に話しかける。
「はい、自分も研究メンバーの1人です。実は研究所から軍に依頼されたのがこの作戦なんです」
「なら、あの石板は祐くんが?」
「はい、解析しました」
ケントと祐が話している間にも説明が続いていた。
「また、この石板の続きの捜索の他にこの作戦に協力してくれたエジプト反乱軍からの要請で契約者を一人亡命させることになりました」
それを聞いて隊員が疑問の声を上げる
「契約者を亡命させても大丈夫なのですか」
契約者はどの国でも不足している。そんな契約者を亡命させるとは考えにくかった。
「それに関しては私から」
ケントが手を挙げる。
「今回亡命する予定の契約者は、今まで私たちの部隊とエジブト革命隊との連絡係をしてくれていた契約者です。それを踏まえ亡命を許可しました」
ケントは革命隊との連絡の統括も担当していた。
別の隊員が手を上げる。
「何の契約者かはわかっているのですか?」
今度はネイトがそれに答える。
「フェニックスと言うことが分かっています。それと、彼女は考古学を専攻しているとのことなので、石板発掘の前に彼女と合流する予定です」
話は亡命する契約者の話から石板発掘の話に戻る。
「発掘の詳細は祐さん、いいですか?」
「わかりました」
ネイトに言われ祐が立つ。
「石板の発掘は敵地での発掘であることを鑑みて質より量を重視してほしいと思っています。なので普段なら行う地層の深さの調査は行いません」
祐は隊員の顔を伺いながら話を続ける。
「捜索地点は先ほどの説明のとおりアレクサンドリア郊外、より詳しく言うとオシリス神殿周辺半径1kmを捜索する予定です。発掘に関しては以上です」
祐の話が終わるとネイトが話し始める。
「祐さん、ありがとうございます。また編成ですが、いつも通りで索敵隊、迎撃隊、調査隊の3編成に分かれて行動してもらいます。作戦後については...」
このあと会議は1時間ほど続き、最後にネイトの号令で終了した。
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会議後、祐はネイトと繁華街に来ていた
「祐さんはこの後どうされますか?」
「この辺りで夕食を取ってから研究所に戻ろうと思っています」
基地を出たのははまだ夕食をとるには早い時間だったが、基地から考古学研究所からは距離があり、祐がそのまま研究所に帰ると夜も遅くなるので、祐は夕食を食べてから帰ろうと思っていた。
「ならオススメのお店があります」
ネイトはそう言って少し歩いたところにある店を案内した。
まだ早い時間だったが、店外には客が並んでいた。
「この時間から並んでるんですね」
「いつもはこの時間だったらまだ席は空いてるんですけど、今日はいつもよりも人が多いですね。もしかしたら彼女が来てるのかもしれません。でも、すぐに店に入れますんで大丈夫です」
ネイトの言う通り5分程度待つだけだった。
「いらっしゃいませー!あ、ネイト久しぶり」
「ラフィ久しぶり。こっちに来るのも久しぶりじゃない?」
入ったらすぐに茶色い髪のポニーテールの女性の店員が近づいて来た。
彼女とネイトは知り合いらしい。
「最近エジプトの動きが活発だったんだけど最近落ち着いて来たからやっと休暇が取れたんだ」
よく見ると彼女の頭の上には透明の輪っかが浮かんでいる。
「ネイトさん、彼女は?」
少しほったらかしになっていた祐が問いかける
「紹介します、彼女はラファエラ。ラファエルの契約者です」
「初めまして、ラファエラです!ラフィと呼んでください」
「涼川祐です。頭に輪っかが浮かんでいるのはラファエルの契約者だからなんですね」
「さすが祐さん。この輪っかが見えるんですね。この状態の輪っかは普通の人には見えないんですよ」
そう言って輪っかに色がつくが周りの人はラフィの言う通り輪っかを見えていないようだった。
「すいませーん、注文いいですか?」
「はーい、ネイト、祐さん、じゃあまた」
「がんばってねー」
ラフィは仕事に戻っていった。
ネイトと祐は席に着く
「ラフィさんって、もしかして...」
「はい、エジプトの国境警備をしているあの契約者隊第3部隊隊長のあのラファエラです。ここは彼女の実家で休暇になると帰って来るんです。ただ、彼女が帰って来るたびに噂になるらしくいつも混雑しちゃうんです。自分とラフィは幼馴染で小さい時にお世話になりました」
メニュー表を見ながら話しをする
「この店はこれとこの料理がオススメです」
「料理はえらべた?」
他の客の接客が終わったラフィが祐たちのテーブルに来た
「じゃあ自分はこれで」
「自分はこっちで」
「了解です。じゃあちょっと待っててね」
そう言うとラフィはまた店の奥に行ってしまった。
「この10年間いろんなことがありましたね」
ネイトはラフィと見ながらしみじみ言う。
「たしかに、十年前の私たちはただの学生だったのに、世紀の大発見をしたあとまさか幽閉されるなんて思いませんよ」
祐が少し笑いながら言う。
「それなら自分もまさか軍人になるとは思いませんでしたよ」
ネイトも同じく笑いながら言う。
「おまたせー。なにかおもしろいことでもあった?」
ラフィが料理を持ってきた
「いや、何もないですよ。それよりも食べましょう」
机には3人分の料理が並んでいる。
ラフィも一緒に食べるらしい。
「「「いただきます」」」
その後3人は雑談しながら食事を楽しんだ。
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夕食後祐とネイトは繁華街の外れまで来ていた。
「大和の使節団がもうすぐで到着するらしいですね。大和からは何年ぶりでしょうか?」
「たしか3年ぶりです。まだ自分が幽閉されていた頃だったのでよく知りませんが、1回来たと聞いています。今回ので大和に帰れたらいいんですけど」
一般人が中東から大和まで1人で横断するのは不可能に近く、祐は大和に帰れずにいた。
「では、自分は研究所に戻ります」
繁華街の光が遠くなり砂漠の景色が広がり始めている。
祐は一礼して研究所へむけ砂漠の道を歩く。
「ここまでありがとうございました。ではまた1週間後に」
ネイトは敬礼して祐を見送った。
水曜日投稿って言っときながらいきなり破ってすいませんでした