第六話 ぼっち上等
友達がいない? ひとりぼっち? 上等じゃないですか。何かいけないことなんですか。くだらん事でどうでもいい人物となあなあとつるみあって何が楽しいのですか?
たかだか数十年しかない短い短い本当に短い人生を、つまらない人物たちの興味も無い集まりに費やしている暇があるのですか。一人静かに良い本を読むか、感銘を受ける映画でも見ている方がなんぼかましです。
たまたま自分の周りに魂のふれあいをする相手がいなかっただけでしょ。そういう事もありますよ。人生なんだから。卑下する事でも悲嘆することでもありません。
孤独だからこそ見えてくる世界、適当につるみ合っている連中には決して見ることのできない世界をあなたは見ることができるのです。
“百万人の小説家”石坂洋二郎こういってます。
「私は人と交われない陰性な人間である。だから、友人とよぶべき人間は、過去にも現在にもいない。私には、友人関係というものは、功利や打算やへつらいで成立するものだとしか考えられないのである。」(「ある詩集」1966,3)
みなさんは多分知らないと思いますが、石坂洋二郎は昭和20~30年代「青い山脈」「陽のあたる坂道」等の作品で大衆の絶大な人気を獲得した小説家です。特に「陽の当たる坂道」は大俳優石原裕次郎主演で大ヒットしました。
明るく健康的な大衆小説を量産し、若い男女が様々な人生のトラブルに直面するも、健康的で理想的な行動をすることで最終的にみんな幸せにハッピーエンドをむかえるというパターンは、戦後高度経済成長期の大衆に好まれベストセラーになりました。
「人間失格」の太宰治と同郷の青森出身で同世代ですが、太宰のように入水自殺をとげることもなく80年代まで長生きして大往生した、ある意味理想的な人生です。
そんな彼ですが友達は生涯一人もいなかったのです。みんながハッピーになる大衆小説を量産しながら、彼の目には別のものが見えていたのでしょう。




