表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

女友達とセックスするのはありですか?

作者: NRmegane


「健太郎さんは、男女の友情って成立すると思いますか?」


 バイトの後輩の女の子がそうたずねてきたのは、ピークが終わり約二時間ぶりにゆったりとした時間が厨房に流れ始めた時だった。

 溜まった洗い物をこなしながら、二つ下の後輩たちが楽しそうにおしゃべりしていたが、こんなことを話していたのか。

 本来バイト中の私語は厳禁なのだが、手元の洗い物は確実に数を減らしていて、口だけが動いているわけでもないようなので見逃すことにした。

 今日のシフトだとバイトの中では自分が一番年長で歴も長い。あまり不真面目なところを見せるのはよくないが、客足も途絶え、あとは減った食材の補充をするぐらいなので作業する手は止めずに会話に参加する。といっても、聞かれたことに一言返しただけだったが。


「もちろん、成立すると思うよ」


 返事を聞いて、作業していた後輩たちの何人かが賛同の声をあげ、残りの何人かは非難めいた声を上げた。

 その中の一人に、ずっと仲良くしている男の子の声があった。


「健太郎さん、本気で言ってます?

 女の子と仲良くなったら手をつなぎたくなるじゃないですか、そんでその先もしたくなっちゃうじゃないですか。男相手だとそんな気持ちにならないっすよ」


 お調子者キャラがすっかり定着しているその男子の一言に、友情が成り立つ派の面々が一斉にブーイングする。


「えー、私たちのことそんな目で見てたの?サイテー」


 冗談八割だとわかる声色でさっきの女子が茶化したように笑う。よく見ると、友情が成り立つ派はほとんど女子で、成り立たない派は男子が多いようだ。


「違うって、俺は女の子みんなが素晴らしいと思ってるわけ。

 だから、一定以上仲良くなったら、キスしたりエッチしたりしたいと思っちゃうんだよ」


「そんなことばっかり言ってるからいつまでたっても彼女ができないのよ」


「違うって、これは男としての本能がそうさせるんだって。素敵な女の子を見つけたら自分の子供を産んでほしいって思うのはオスの宿命なんだよ。

 健太郎さんもなんか言ってくださいよ」


 分が悪くなってきたのを悟ったのか、後輩の男の子がこちらへ話を振ってきた。

 しかしそのパスは僕に届く前にさっきの女の子に拾われてしまった。


「健太郎さんは私たちの味方なんだよ。ですよね?」


「敵味方っていう分け方は好きじゃないけど、この件に関してはそうなるかもね。

 現に、僕には女の子の友達もいるわけだし」


「違うて、そういうことじゃないんですよ健太郎さん。

 そりゃ俺だって仲のいい女子はいますよ。けど、親友はいません。

 友情をはぐくめるのは、やっぱり男同士だけですよ!」


 助けを求められたところで、男女の友情が成り立つ派の僕としては苦笑いを返すことしかできない。

 その間にも、彼は周囲からの集中砲火を受けている。

 さすがに少しかわいそうになったので助けてあげようかと考えていると、事務所からひょっこりとマネージャーが顔を出した。

 俺よりも二つ上のマネージャーは元バンドマンで声がよく通る。その上ルックスもいいので常連やバイトの子たちの間で人気を博している。

 今も、髪をかき上げながら事務所から出てきた動作一つとっても絵になる。


「お前たち、元気なのはいいことだけど仕事はきっちりやれよ。

 あと、来月から新しく出すケーキの試作ができたから上がったやつから味見して感想聞かせてくれ」


 マネージャーの言葉で一瞬静かになった後、女の子たちを中心にうれしそうな声が上がった。とかく、女子というものは甘いものに目がない。

 マネージャーはそんな女の子たちをほほえましげに見つめた後、厨房内を一瞥し特に異常がないことを確認して事務所へと戻ろうとした。そんなマネージャにさっきの彼が問いかける。


「そうだ、マネージャー!マネージャーは男女間の友情って成立すると思いますか」


 きっと厨房内の会話が聞こえていたのだろう。急な問いだったにもかかわらず、マネージャーは即答した。


「ありえない、絶対に無理だよ」


 孤立無援だった彼は仲間が現れたことに喜び、女の子たちは口をとがらせる。そんな中、僕だけは見逃さなかった。

 マネージャーが一瞬、とても冷たい目をしていたことを。



****



「健太郎君ありがとうね、こんなに遅くまで残ってもらって」


「いえ、大丈夫ですよ。最近研究が忙しくて全然バイトでれてなかったんでむしろ残業代稼げてうれしいです」


 男女の間に友情が成立するしない論争があった日の夜、僕はバイトを上がる予定の時間を過ぎても、バックヤードで作業を続けていた。

 データ上の在庫と実際の在庫のずれを確認する月末の棚卸作業。本来は昼間のうちに済ませておく作業なのだが、今日は客足が予想以上に多く終わらなかったそうだ。

 マネージャーが一人残って作業すると聞き、手伝うために残ったのだが、残業代がうれしいというのも本心なのでそんなに苦ではない。

 残っていた作業は決して少なくはなかったが、慣れた二人で協力すればそれほど大変ではない。

 深夜のバックヤードで黙々と作業をしていると、マネージャーがぽつりと口を開いた。


「そういえば、健太郎君は成立する派だったっけ」


 作業に集中していたこともあり、何のことを言っているのか理解するのに数秒のタイムラグが生じた。


「えっと、さっきはそう答えたんですけど、実はそんなに深く考えてなかったんですよね」


「というと?」


「さっきみんなが言っていた異性と同性との対応の違いだったり、感情の違いだった李は理解できるんですけど、そういうのは深く考えずに、単純に僕に大事な女の友達がいるから成立するって答えたんです」


「なるほどね」


 今年の初めに手書きからタブレット入力へと移行した在庫管理票の空欄を埋めながら、マネージャーがつぶやく。

 その横顔を見て、さっきの冷たい表情を思い出した。


「マネージャーは男女の友情は成り立たないって意見でしたよね?」


「そうだよ」


「理由を聞いてもいいですか?」


 マネージャーとは長い付き合いになるが、あまり自分のことを話したがらない性格だということはよく知っている。マネージャーの経歴も、二つ年上だということと元バンドマンということ以外ほとんど知らない。

 だからきっと、今回もはぐらかされて終わるのだろうと思っていた。

 それなのにこんな質問を投げかけたのは、深夜のバックヤードで会話を途切れさせるのが気まずかったのと、あの表情が少し胸に引っかかっていたからだ。


「気になるかい?」


 マネージャーは少しいたずらっぽく笑った。

 その表情は、予想していたどの回答にも当てはまらない。いつもと違う雰囲気をまとっていた。


「はい」


「どうして?俺の主義がどうであれ健太郎君には関係ないだろ?」


「そうですけど、あんなにはっきり否定されちゃうと、僕と彼女……、彼女っていうのは僕の女友達のことですけど、その関係が否定されてるみたいでちょっと……」


 マネージャーが持つタブレットの空欄はもうほとんど埋まっている。

 僕も自分が担当していた最後の品を数えて入力し、顔を上げた。

 その目線の先に、正面を向いたマネージャーの顔がぶつかり少したじろぐ。

 マネージャーの目は、さっきの冷たい色をしている。その目は、僕のほうをじっと見つめて離さない。

 僕が目をそらすことも許されないような、そんな威圧感のある目をしたマネージャーが静かに言った。


「俺も、昔は同じように思ってた。

 仲のいい女友達がいて、こいつとは性別関係なく本当の友情を築けるって、けどダメだった。

 結局俺たちは、男と女じゃなくてオスとメスなんだよ。どれだけ文明が進化した、霊長類だなんて自分たちのことを特別視しても、動物と何一つ変わることはないんだよ」


「それって、どういう……」


 僕の問いは、途中で遮られた。


「さ、棚卸終わり!

 今日は遅くまで付き合ってくれてサンキューな。試作品のケーキ箱に入れて冷蔵庫に入れてあるから忘れずにもて帰れよ」


 マネージャーの目はいつもの様子に戻っていた。僕の胸のもやもやは、晴れるどころか少し大きくなっていた。



***



 次の日の朝は、久しぶりの深夜までのバイトの疲れが出たのか、いつもの目覚ましで起きることができなかった。

 幸い、授業がない曜日だったので時間にせかされることはなかったが、今週末のゼミで発表する研究進捗のパワーポイントと資料作成が終わっていないため、昼前にはベッドを抜け出し身支度を整えた。

 歯を磨き、顔を洗い、用を足しながら、ほとんど癖のようにスマートフォンを手に取り電源を入れる。

 学部時代の友達と行った旅行先での写真の上に未読メッセージを知らせる表示が浮かぶ。

 タップしてアプリを起動しメッセージを表示させると、送り主は予想通りの相手だった。


【まお】


 ひらがなの名前と、某有名テーマパークのネズミ耳の被り物を被った笑顔の女の子のアイコン。

 未読のメッセージは三件だった。


『えー知らない、今度行ってみたいな』20:32


 これは、僕が紹介した海辺にできた新しいレストランについての感想。送信時間を見るにバイト中に送られてきたようだ。昨日はバイトが終わってからすぐに寝たので気が付かなかった。

 こうやって、一日に数件他愛もないやり取りを繰り返すのがいつからかお決まりになっていた。

 だが、今日は返事以外にも二件の未読メッセージがあった。


『ちょっと健太郎聞いて、あのバカ男またほかの女と遊びに行ってたの!どう思う?』22:49


 普段はこちらの返信がないと新しいメッセージを送ってくることはない。たまにの例外は、いつもこのように怒っていることが多い。


『マジ最低、信じられない

 健太郎明日暇?暇ならいつものとこでのもう』0:12


 三件のメッセージを見てから頭の中で今日の予定を思い出す。研究室での活動はある程度裁量権があるので問題ない。今日はバイトも入っていないはずだ。

 僕は少し迷ってから。


『呑み代は4:6だからね』


 愚痴があるときは少し多めに呑み代を出す、それは僕ら二人のルールだった。



****



「遅い!こんな美人を居酒屋で一人待たせるなんてどういう了見してるわけ?」


 その日の夕方、急な教授の呼び出しのせいで少し遅れてしまった僕に、すでに若干顔が赤くなった真央が非難の声を上げる。

 手に持ったビールジョッキを見るともう半分以上がなくなっている。

 いつもの許容量を考えると少し飛ばしすぎだな、と眉を顰める。

 すると、そんなわずかな動作も見逃さず、真央が突っ込んできた。


「あ、今めんどくさいと思ったでしょ?

 ええ、そうですよ私はめんどくさい女ですよ」


「どうしたんだよ、今日はえらくやさぐれてるな」


 荷物を置き、真央の向かいに座る。

 注文を聞きに来た店員に生ビールを一杯注文する。料理のほうはきっと真央が先に頼んでいる。


 ビールの到着を待って乾杯する。中身がほとんどなくなった真央のジョッキとぶつかり情けない音が鳴った。

 今日のように真央に呼び出されることは少なくない。

 統計を取っているわけだはないが、平均して月に一回は今日のような飲み会がセッティングされる。

 大体は彼氏の愚痴を聞かされて終わるのだが、今日はいつもよりも深刻そうだ。

 ビールを一口飲んでのどを潤してから尋ねた。


「なにがあった?」


 真央は、それまでの不機嫌そうな顔から一転、急に泣きそうな顔になった。





 結論から言えば、彼氏が浮気していたそうだ。

 それもかなりたちの悪い。


「付き合い始めた時から変だなとは思っていたのよ」


 すでに普段の許容値を軽く超えたペースで酒をあおっていた真央は、焦点の定まらなくなった目をしている。

 それでも、瞳の奥には怒りと悲しみを抱えているのが分かった。

 真央の話だと、その彼氏は付き合い始める段階ですでに別の女性とも親密な関係だったという。簡単に言えば、同時に二人の女性にアプローチをかけていて、そのまま二人と付き合い始めたのだそうだ。

 二十三にして、彼女のいない身としては、よくそんな器用なことができるな、とあきれるばかりである。


「確かゴールデンウィーク前だったから三か月くらいだっけ?」


 今の彼氏と付き合い始める前に、うれしそうに報告されたのは四月のことだ。

 その時も同じ居酒屋だったのを覚えている。


「そう、三か月よ、三か月!その間ずっと騙されていたなんて信じられない。」


 泣いているのか怒っているのかわからない声で真央が叫ぶ。

 それを僕はじっと見つめて黙って冷酒をあおる。こういう時は、変に慰めの言葉なんかをかけないほうがいい。


「やっぱり別れたほうがいいのかな?」


 散々愚痴を吐いた後、真央は決まってこの問いを投げかけてくる。

 注文していた料理はあらかた食べ終えてきれいになった机に突っ伏し、上目づかいの真央がこっちを見る。

 長い付き合いだ、真央が何を考えているかはわかる。

 そんな最低な男となんて早く分かれちまえ。

 僕がそう言って真央の彼氏を悪く言うのを待っている。

 そうすれば、真央は反論することができる。

 でも、優しいところもある。趣味も合うし、大事な記念日も忘れない。

 そんな風に、僕に反論する形で“彼”のいいところを口にできるのだ。

 そうすれば、彼を非難する心を静めることができる。別れようとする気持ちを偽れる。そして何より、クズ男と付き合っていたという惨めな気持ちをかき消すことができる。


 けど僕は、それを分かったうえで、真央が望む言葉をかけてあげない。


「今は急にいろんなことが分かって頭が混乱してると思うから、少し落ち着いたらもう一度話してみたらどう?

 向こうの言い分とかもあるだろうし」


 心にも思っていないことを口に出しながら、顔だけは優しい笑顔に見えるように力を入れる。

 言葉の内容はともかく、表情だけは真央のことを気遣っているように見えるように。

 間違っても、真央の口から彼氏をかばうような言葉が出ないように。

 僕はあえて彼の肩を持つ。


「話す必要なんてないの!あんな奴もう知らない、絶対に分かれるんだから」


「そんなに感情的にならなくても」


「これは感情の話じゃないの、倫理とか常識とかそっちの話なの!」


 真央の目からは悲しみの色がどんどんと無くなっていく。


 二人で飲んでいる間、途中で何度か真央のスマホが鳴った。

 相手がだれなのかは考えるまでもない。

 初めのうちはちらちらと気にするそぶりがあった真央だが、今はもう気にも留めていない。

 

 そろそろ毒はできったかな?


 そう思って、通りかかった店員にお会計を頼んだ。



****



 店を出ると湿度の高い熱気をはらんだ空気が体にまとわりついた。


「すっかり夏だねー」


 千鳥足で先を行く真央が不意につぶやいた。

 居酒屋からの帰り道、真央は車道と歩道を区切る出っぱりの上を歩いている。


「そんなところ歩いて、転んでも知らないよ」


「人生とはどれだけスリルを感じられるかで豊かさが決まってくるのです。

 健太郎みたいに安全策ばかりの人生はつまらないのです」


 足取りとともに、口調もいつもより軽くなった真央がご機嫌につぶやく。


「つまらない健太郎の人生を私が変えてあげましょう」


 真央はそう言って急に方向転換して駆け出した。

 急に方向転換したせいで、後ろを歩いていた僕は真央にぶつかりそうになった。

 出っ張りに乗っているせいで同じ高さにあった顔が近づき、一瞬息をのむ。

 真央は、僕の様子などお構いなしに走っていく。

 早くなった動機と熱い頬は、きっと酒と夏の熱気のせいだ。


 真央が向かった先は、反対車線に建つコンビニだった。

 さっきまでの千鳥足が嘘のような素早い動きで駆けていく真央をゆっくりと追いかける。

 追いついたころには、すでに会計を済ませて、ビニール袋を掲げた笑顔の真央が立っていた。


「夏といえばこれでしょ!」


 ビニール袋の中にはカラフルなパッケージの花火が入っていた。



****






















 スマホのアラームの音で目が覚めた。

 目を開けるといつもの天井があった。

 しばらく体を起こさずにじっと天井を見つめる。

 汗と煙が混じったようなにおいが鼻を衝く。髪の毛もいつも以上にごわついている。


 昨日、風呂に入らずに眠ってしまったようだ。


 そんなに飲んだつもりはなかったのに、脳みそに靄がかかったように重たい。

 体を起こすと、服を着ていないのが分かった。

 どうやら酔っぱらっていても、花火をした服のままベッドに入るほど理性を失ってはいなかったようだ。


 そういえば昨日はどうやって帰ってきたんだっけ?


 なぜか記憶は断片的だ。

 立ち上がろうとするとバランスを崩して手をついて。

 体を支えるためについた右手にやわらかい何かが触れた。

 布団やクッションとは違うそれは、温かいような冷たいような不意着な感触がした。

 僕は嫌な予感がして、首を反対側に動かした。

 部屋の真ん中に置けれた小さな机に、記憶にないアルコールの缶が並んでいる。

 だんだんと途切れていた記憶がつながり始める。

 二日酔いとは別に痛み始めた頭を押さえて、机の反対側に視線を移す。

 

体を支える右手の横に真央の寝顔があった。

 

 僕が体を起こしたせいで少しめくれ上がった布団の下に、朝日を浴びてまぶしいくらいの肩が見えていた。


「またか……」


 普段は独り言なんて言わないのに、その時の僕は一言そうつぶやいた。




****




 真央と初めて知り合ったのは高一の春だった。

 一年生のクラスで隣同士の席だった僕らは、すぐに仲良くなった。

 当時、真央には中学から付き合っている彼氏がいて、僕にも好きな人がいた。

 互いに威勢の友達が多いほうではなかったので、自然と恋愛相談をしあう仲になっていった。

 時が流れ、僕の気になる人が彼女になる頃には二組で遊びに行くことも何度かあった。

 しかし、高校生の恋愛というのは長続きしないものらしく、僕の些細な言動から彼女との仲は次第に冷めていった。

 同じころ、真央もまた男側が原因で大きくて長い喧嘩をしていた。



 真央と初めて寝たのは、そんな時だった。



 深夜のファミレスで、補導される時間を過ぎて話し込んでいた僕らは、自分たちが気づかないうちに変なテンションになっていた。

 お互い、恋人とうまくいっていないストレスのせいで少しずつ外れかけていたねじがその時同時に外れてしまったのだ。

 罪悪感の中重ねた唇は、脳みそを麻薬のプールに沈めたみたいな快感とともに、僕らの中にわずかに残っていた理性を取り払った。


 けれど、麻薬の効果は時間限定。


 すべてが終わって服を着た後、僕らは一言も交わさずに別れた。

 その後、お互いの恋人と別れ、僕と真央は高校で顔を合わせても目を合わさないようになった。





 真央と再会したのは、大学二年生の春だった。

 高校の思い出がそこかしこに残る地元から逃げ出したくて選んだ都会の大学。

 近隣の大学と合同のレクリエーションサークルの新歓で目の前の席に座って新入生の女の子が真央だった。

 高校時代の長い髪をばっさりと切り、薄く化粧をしていたが見間違えることはなかった。


 僕らは、その席であの日のベッドの以来数年ぶりに目を合わせた。


 困惑しているのが目だけで分かる。

 何か言いたげに口が少し開くが音は出ない。

 その小さくあいた唇を見て頭によぎりそうになった記憶を、僕は全力で振り払った。

 そして、真央の目を見て言った。


「はじめまして」


 真央の目が一瞬見開き、そして少し笑った気がした。


「こちらこそ、はじめまして」


 そうして、僕たちはもう一度、知り合った。



****



 ベッドを出て全裸のままじゃ口をひねり出てきた水をがぶがぶと飲む。

 頭の靄はまだ晴れないし、頭痛はいよいよ我慢できないほど大きくなってきた。


 もう一度ベッドに戻り真央の顔を見る。

 見慣れた顔には愛着もあるし情も沸いている。

 しかし、好きかと問われればそれはわからない。


 ふと、おとといのバイトでの会話を思い出した。


『男女の友情は成立するか、しないか』


 僕は成立すると答えた。

 その発言の裏には真央がいた。

 けれど、二回セックスした二人の関係は友達と呼べるのだろうか。

 それとも、もう一度知り合わなければいかないのだろうか?



 今日は朝から大事な講義がある。

 しかし、大学に行く気にはどうしてもなれず僕は布団の中に戻った。



 次目を覚ましたら失ってしまうかもしれないぬくもりを感じながら、僕はもう一度目を閉じた。


















初めて投稿しました。

皆さんがどう読まれたのかが気になるので、感想や率直な評価をしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 個人的に好き
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ