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5-7話 クリティアス


 クリスという人物に対しプランがずっと感じていた印象は何かといえば……()()()である。

 金髪に近いキラキラしたブラウンヘアーは羨ましいほどきめ細かくサラサラ。

 顔立ちは愛嬌と可憐を兼ね備えた自分の完全上位互換。

 そんな可愛いと綺麗が両立している上にプラン唯一の持ち味である明るさも並び立っている。

 身長も高くスタイルも良くて、おまけに着ている物はいっつも可愛い。

 今日は黒とシックな色合いでメイド服に似た形の服だが、黒という色とかけ離れた明るい雰囲気でコーディネートされていた。


 美人という意味ならエージュがいる。

 貴族らしさという事もあり身形も気を付けおしとやかな性格である為、文句なしの美人である。

 馬の事やサリスとの掛け合いでプランは最近残念美人であると気付いたが、それでも美人な事に間違いはない。


 色気という意味ならサリスがいる。

 健康的な色気の面が普段は強いが、それでも露出からかサリスの色気は女性であるプランですらくらっとくる時がある位だ。

 本人は自覚しているのかしてないのかわからないが、それもまたサリスの魅力の一つだった。


 可愛いという意味ならミグがいる。

 小さく、愛嬌があり、自分勝手な面もあるのだがそれが許される位には可愛らしい。

 まるで猫みたいである。


 今傍にいる人だけでこれだけ素敵な人がいるのだが……クリスはその全てを兼ね備えている。

 一つ二つならまだ良いが全部なだけでなくあれもこれもプラスアルファされていると流石にプランも嫉妬を隠しきれずズルいと思ってしまう。

 思ってしまうのだが……何か違っていた。

 上手く言葉に出来ないのだが、クリスを見る度にプランは違和感に近い何かがずっと胸に残っている。

 それが喉元まで来ているのだが……その正体をプランはまだ理解出来ていなかった。




「わぁおー。悪いねただお話するだけなのにこんなに気を使わせちゃって」

 そう言いながらクリスは山の様になっているケーキとやけにお洒落なジュースを嬉しそうに見つめた。

 ケーキもチョコやら生クリームやらで幾つもあり、ジュースに至ってはキンとかち割り氷が心地よい音を立ててひび割れ輝いている。

 明らかに過剰な接待としか言えないほどであり、予想外すぎてプランは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「エージュ。どしてこんな事に……皆の分?」

 そうプランが呟くとエージュは首を傾げた。

「いえ……。冒険者からダンジョンのお話をしていただくのって相当な事ですのでせめてお気持ちをと……」

「え? そなの? これが普通なの?」

 プランが驚きそう尋ねると横にいたマルクが反応し大きく頷いた。

「うむ! 余もそう記憶しておるぞ。以前は金貨百枚で我が領に冒険者を招いた。それを無料で話してくれるとなるならこれくらい当たり前であろう」

 そうマルクが答えると当の本人であるクリスと少し離れた位置で座っていたイドラは同時に苦笑いを浮かべた。


「それはよほど優れた冒険者の方であって私達ではそういう事はありませんよ」

 そうイドラが言うとクリスも笑顔で頷いた。

「そうそう! なにより後輩が頼ってくれたんだからそれ位はね。ああでもわざわざ貰った物を返すようなもったいない事はしないよ。僕ケーキ大好きだし。でも沢山は食べられないから皆で食べようよ! むしろ食べながらお話しよ!」

 そう言ってクリスは大きめに切られたロールケーキの皿を二つ取り、一つをイドラに回してもう一つにフォークを付きたてた。




「そんで、あの毒っぽいダンジョンの話だったっけ?」

 クリスがそう言葉にするとプランはショートケーキもぐもぐしながら頷いた。

「ふぁい」

「オッケーオッケー。まずいう事は他のダンジョンよりも中の生き物達が弱い事と環境がそんな変わっていない事が特徴かなー」

「あれ? 弱いのか?」

 サリスがそう尋ね、クリスはこくんと頷いた。

「うん。他の程度の低いダンジョンと比べて明らかに弱いね。ぶっちゃけ皆なら全然問題なく、というか苦戦する事なく戦えるよ。その位弱い」

 そう言った後クリスはフォークを置き、真剣な様子で呟いた。


「その上で、僕はあのダンジョンの難易度はもう一つ上にして課題用から外すべきだと毎回提案してるよ」

 それは脅すような表情ではなく、ただ真剣なだけである。

 だからこそ……普段ニコニコしているクリスが真剣になっているからこそプラン達は恐怖を感じた。


「……そんなに、ですか?」

 エージュは恐る恐る呟いた。

「そんなになんです。とりあえず、特徴としては中にいるあらゆる生き物に毒があるよ。その意味がわかる?」

「……何が、でしょうか?」

「蠅とか蚊を避けられるかってお話」

 その一言で皆が同様にクリスの言う本当の脅威を理解した。


「といってもそれだけなら対処は簡単なんだよね。虫よけの煙で事前にマントでもいぶしておけば良いだけだし。問題はそういう事じゃあなくてあらゆる方向性から毒に感染する可能性がある事が問題なんだ。毒と一言で纏めてるけどどうなるかわからない多種多様な毒で構成されてるし」

「……ふむ。すまんが尋ねさせてもらう。どうしてそなたは平気なのだ?」

 マルクがそう尋ねるとクリスは困った顔を浮かべた。

「うーん。そう言われると難しいなぁ。ぶっちゃけて言うけど僕って優秀な方なんだよね」

 そうクリスは呟いた。

 この言葉に嫌味は含まれず、そしてそれが純粋な事実であるとプラン達は理解している。


 一緒に冒険に行った事はないが、それでも風格と雰囲気だけでクリスは既に一流の域であると感じる何かを持っていた。


「イドラの様に一芸があるわけじゃないけど割と万能なタイプかな僕は。ちなみに学園に入って一年だけどさ、僕ってこう……一年で超伸びたタイプなんだ。それこそ先生が呆れる位にさ。だから僕の場合は才能と運で何とかなってる部分が多いんだ。ごめんね。だからこそ、僕はこのダンジョンが危険だってずっと上に言ってるんだけどねぇ」

 そう言ってクリスは困った顔で頬を掻いた。


「どの位優秀なんですか?」

 プランは好奇心からそう尋ねると少し考え、クリスはパーの手を出した。

「プランちゃんが知ってる学園生徒の中で五本指に入る位は優秀だよ」

「ほえー。でもそれじゃあ凄いのか凄くないのか良くわかんにゃい」

 というよりも、プランに取っては自分以外皆が凄い人であると思っていたからその説明では全く意味がなかった。

「正直でよろしい。というかプランちゃんの知り合いに凄い人がいるから一番って威張れないんだよね」

「え? それって誰です?」

「学園五年目で魔剣使われのヴェルキスさん。僕は自分に自信あるけどあの人と比べると足元にも及ばないかな」

 そうクリスははっきり言い切った。


「そんなに凄いんですねヴェル先輩って」

「凄いなんてもんじゃないねー。こと戦闘という意味で言えば僕の知ってる人の中でも最強だし。そういや気になる事があるんだけど聞いて良い? もちろんプライベートな事で言えない事なら言わなくても良いけど」

「なんです?」

「ヴェルキスさんってどうしていつもお金なさそうにしてるかわかる? あの人の依頼の達成頻度とダンジョンアタックの回数ならそれこそ毎日贅沢しても目減りしない位はあると思うんだけど……見かける度にその……何かめちゃくちゃお金ないっぽいんだけど」

「ああ。あの人一銭も受け取らず依頼受ける事もある人なんで」

 プランがそう言葉にするとクリスは目を丸くした。

「あの噂は本当だったんだ。じゃあ孤児院に寄付してるってのも……」

「私は聞いた事ないですけど事実だと思いますよ?」

「へー。……聖人君子っぽくて僕とは仲良く出来なさそうだなー。ちょっと残念」

 苦笑しながらクリスはそう呟いた。


「いやいや。あの人夜のお付き合いが激しいから金ないだけだぞ」

 ぽつりと、クコがそう呟いた。

「……はい?」

 唐突な言葉にクリスは反応出来ずぽかーんと間抜け面を晒した。

「いや。あの人娼館に使う額がちょっと多いからさ……単純にそれに使う為に普段けちってるだけだと思う。うん、人の為に依頼を受ける人である事は否定しないが聖人君子の綺麗な人って言われると……」

 そうクコが言葉にすると、一緒に依頼を受けた全員が納得した様な情けない様な困った顔を浮かべた。


「結局あいつ、あの町の依頼受けたんだろうか……。いや、受けたんだろうけどまたハニトラかかってそうだな……」

 サリスはぽつりとそう呟いた。

「何だか……とたんに仲良く出来そうな気がしてきたよ」

 クリスはヴェルキスの駄目な部分を聞いてかニコニコしながらそう言葉にした。


「というわけで毒の対策については僕が優秀だから何とかなってるという自慢話にしかならないんだよねー。一応ちゃんと一から基本的な事も交えて説明するけど……ぶっちゃけ対処って二種類+アルファしかないと思う」

「二種類はともかく……アルファ?」

 プランはそう呟き首を傾げた。


「うん。まず、避ける。毒と言っても接触での感染が主だし毒霧や煙は多少吸っても即感染というわけじゃないからすぐ離脱すれば良い、問題ないよ。だから直接の接触を避ける様心がけたらかなり長い事ダンジョンには潜ってられるね。これが一つ目」

 そう言ってクリスは指を一本立て、言葉を続けた。

「次に毒の対処を行う事。一般的なのは傷口付近を焼くか抉るかした上で消毒効果の高い草なり薬なりを張り付けて包帯を巻く。それ以外にも消毒効果のある草を食べるなり少し休むなり気を強く持つなり、とにかくどんな方法でも良いから毒の影響を最小限に抑える事を意識すれば良いよ。あ、傷口に口を付けて毒を取るのはオススメしないからね」

「どうしてですか?」

 エージュがそう尋ねるとクリスは口元で人差し指を交差しバツを作った。

「口に毒が入るから」

「ああ……普通に考えたらそうですわね……」

「ですわですわ。という事でこれが二つ目」

 クリスは指を二本立てた。


「んでプラスアルファってのは?」

 プランがそう尋ねるとクリスはことっと一本の小瓶を取り出した。

 その小さなビンに入った透明の液体を知らない者はこの世界にいないだろう。


 神の奇跡の代名詞、直接的降される神の恩恵――聖水。


 その効能は一言で語りきれないほど多義に渡り、とりあえず使っておけば何にでも効果があるだろうと思って間違いない位には便利な代物である。

 故に当然、最も効能の高いクリア神以外の聖水であっても解毒薬としての効能も持ち合わせている。


 ただし、万能に近い聖水にも大きな欠点が存在している。

 というよりも、その万能性の為に生まれた欠点と言っても良いだろう。

 その欠点、それはその希少性そのものである。


 聖水を作る事が出来るのは教会という施設のみであり、そして聖水は教会の所有権と引き換えに領主等為政者の元に渡る。

 故に大多数の聖水は為政者の手元に行き、残りを六神教団が確保、その余りが市場に出回る分な為、その数は非常に少なくどんな場合であっても上位冒険者に独占される。

 故に、通常の場合聖水の入手は金銭の問題以上に難しかった。


「というわけで本来ならありえないからプラスアルファとしたんだけどさぁ……ぶっちゃけ君達何とかなるんじゃない?」

 そう言ってクリスはプラン達の方を見つめた。


「あー。とりあえずムーンクラウン商会さんに尋ねてみるよ、後は……」

 そうプランが言葉にしながら後ろを振り向いた。

「俺とエージュも実家の方当たって余りないか尋ねてみる。つか俺んとこはほぼ間違いなく余ってるな」

「私の方は……正直期待出来ませんわ。バーナードブルー家は聖水の使用率が極めて高いので」

「ま、真面目な貴族とそうでもない貴族の差だな。んで一番期待出来るのが……」

 そうサリスが言うと、皆が同時にマルクの方を向いた。


「うむ! もちろん用意しよう。とは言え、余が公爵という訳ではなくあくまで公爵の息子に過ぎん。だから大した量は用意出来ないと思うが……。それでも、全員に一本ずつ配る位は用意すると約束しよう」

 そうマルクは胸を張って言い切った。

「良いんです? 冒険者同士って貸し借りって余り良い事じゃないですしそこまで無理しなくても良いんですよ?」

 そう、最も説得力のないプランが言葉にするとマルクは高笑いを上げた。

「ははははは! 確かに今の余は冒険者だが、それでも貴族の矜持を忘れるつもりはないからな。それに、余と共に学ぶのだ。そなたらが余の栄誉の欠片を受け取るのは至極当然の話であろう」

 マルクははっきりとそう言い切った。


 プランは他のクラスメイトの様子を見た。

 いつも通りのミグは除き、大体が余り好ましい反応をしていなかった。

 見下されている様に感じる言動は不快ではあるが、それでもそれがマルクの好意である事に変わりはない。

 だからこそ、多くの者は感情は怒りを覚え理性が感謝しているなんていう不思議な気持ちとなっていた。


 そんなクラスメイト達を見てクリスとマルクの従者であるガンネは苦笑いを浮かべた。

 浮かべる事しか出来なかった。


 プランはマルクの様子を見て、困った顔で頬を掻いた。

 ――これは大変そうだなぁ。

 そう考える事しか出来なかった。





 その他にもダンジョン内で見かけた生き物の外見や行動方法、ダンジョンのマップの極一部等をクリスは皆に説明した。

 自分の知っている事を余すところなく、その一切を全て惜しまず皆に届けた。

 別に大層な理由があるわけではない。

 単純にこの皆が、プラン達の様に明るく頑張る子がクリスは好きだから。

 ただそれだけの理由でクリスは本来秘匿してしかるべき情報すらも全て明らかにしていた。


 まだ駆け出しではあるが、それにどれだけの価値があるのかはここにいる者は皆それを理解出来た。

 だからこそ、先輩冒険者に対する最大の礼として全員が一斉にクリスに向かって深く頭を下げた。


「……私も聞いて良かったのでしょうかね」

 イドラは溜息を吐いてそう呟いた。

「いんじゃない? 僕イドラの事好きだし。どうしても気になるなら今度一緒にお酒でも飲も! そっちの驕りで!」

「……やれやれ。情報代としては悪くないですが……高く付きそうです」

「良いじゃん。可愛い僕と一緒に飲めるんだから」

「すいませんが趣味ではないので」

 イドラがそんなそっけない態度を取るがクリスは気にせずニコニコとしていた。


 その二人のやりとりを、イドラのクリスに対する反応を見て、違和感という点が他の点と繋がって線となり……そしてプランの中にあった違和感は解消され気づいてはいけない事に気が付いてしまった。

 思ってみればヒントはあった。


 クリスの反応、イドラの対応、そして何よりも……後方にいるヴェインハットが大人しい。

 それが何よりのヒントだった。


 可憐で、綺麗で、素敵なクリスに対して一切のナンパ発言をあのヴェインハットがしていない。

 本来ならそれだけはありえない。

 依頼人にナンパして問題になる様なヴェインハットが何もしないなんて……。

 そう考えると答えは一つだけである。


「……あの、ちょっと良いです?」

 おずおずとプランが手を上げるとクリスはそれに気づき微笑んだ。

「何何? わからないとこあった? 何でも聞いて?」

「あの……失礼な質問かもしれませんけど良いですか?」

「何でも良いよ! 僕に隠す事など何もないしー!」

 ドヤッとした顔のままクリスがそう言うと、プランは初日からずっと抱えていた違和感の正体を、この場で露見させた。


「あの……どうして男性なのにその様な恰好を……?」

 そうプランが呟くと、多くの者が目を丸くした。

 一部、イドラとヴェインハット、ミグだけは特に反応を示さなかった。

 という事はそれは……。


「ありゃ? どしてわかったの?」

 クリスは悲しそうな様子も、悪びれた様子もなく素直に首を傾げた。

「いえ。まあ色々と……」

 むしろヴェインハットがどうしてわかったのかプランは聞きたい位だった。

「ま良いけどね。そんで何でこんな恰好してるかって? だってさ、僕この恰好すっごく似合わない?」

 そう言ってクリスはくるくると回りスカートを翻した。


「……へ?」

「だからー、可愛いくない?」

「え、あ、はい。とっても」

「でしょでしょ! だからこの恰好」

「……あ、はい。……はい?」

 プランは良く理解出来ず首を傾げた。


「深く考えない方が良いですよ。この人こういう人ですから。裏表なく本気でそんな理由です。おかげで何人もの同級生が道を踏み外してしまい……。ついでに言いますと性の対象は男性女性どっちもという人ですので一応お気をつけて下さいね。全く困った人だ。女性は女性同士で恋愛をするのが一番だと言うのに……」

 しょうがない人を見るような目のまま、イドラはそう言葉にした。


「……何と言うか……皆濃いな。ここの者共は」

 マルクはぽつりとそう言葉にした。

 その言葉を否定出来る者は誰もいなかった。



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