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5-5話 栄光の始まり(後編)


「さて、結成の祝杯を挙げ終わったのだが……次は自己紹介をするのが正しい作法かな?」

 そうマルクが尋ねると三人は頷いた。

「おう。と言っても冒険者同士の、特に臨時パーティーの場合は普通の自己紹介と違う部分が多い。言いたくない事は言わなくても良いし追及するのもタブーだ。大切なのはどう呼ばれたいかと何が出来るかさえ言えば極論どうでも良いのさ」

 そうサリスが言うとマルクは苦笑いを浮かべた。

「なんとまあ殺伐としておるの。まあそういうものか。というわけで、余はマルクドゥール・ロスカル。マルクと呼ぶが良い。弓も使えるがまあ剣の方が得意だな。まあよろしく頼む」

 むふーとした態度で自慢げにそう答えるマルク。

 短い髪をした幼くも端正な顔立ちのあどけない少年。

 似合っている事は間違いないが、豪勢な服に若干着られている様な感覚が残っていた。

 そんな少年には堂々とした気品と子供特有のわがままさが交互に見え隠れし、微笑ましい気持ちになる。

 ただ……微笑ましいと言えば微笑ましいのだが、この後の事を考えると三人はどうしても不安な気持ちを抑えられなかった。


「それと、二人も冒険者らしく自己紹介をするが良い」

 そうマルクが言葉にすると、後ろにいた二人は頷き一歩前に出た。


 先に声を出したのはメイド服の女性だった。

 マルクと比べずとも平均よりも高めな身長をし、シックなメイド服に身を包んだ短髪黒髪の女性はニコリとも笑わず事務的な会釈の後自己紹介を始めた。

「ぼっちゃまの護衛兼身の回りのお世話を担当しているキュリオと申します」

 それだけ言葉にし、再度事務的なお辞儀をして後ろに下がった。

「あー。その……何か悪いな」

 もう一人の執事服の男性がそう言葉にし申し訳なさそうに頭を下げた。

 ちなみに、その執事服は恐ろしく似合っていない。

 マルクの様に服に着られているという事はないのだが肩幅や腕が太い為執事服がパッツパツになっており、着ているというよりも執事服で体を締め付けている様な有様である。


「……真っ当に謝れる分あんたの方が話が早そうだ。キュリオの戦闘力が高いのは勘だがわかる。ただ、何が出来て何が出来ないのか教えてくれないか? もちろん話せる範囲でだ」

 そうサリスに言われ、男は頷いた。

「ああ。構わん。キュリオは真向からの戦闘ならば俺達三人の、というか場合によってはこの中で誰よりも強いだろう。代わりに持久力が壊滅的だから冒険者という職とは恐ろしく相性が悪い。一瞬だけなら武官クラスと思ってくれて良いぞ」

「ほう。じゃあ切り札担当って事で良いのか?」

「一応はそうなんだが、こいつは俺達は当然自分の命よりも若を優先する」

「それの何がいけないのでしょうか?」

 そう当然の様にキュリオが言葉にすると、男は両手を広げやれやれと呟いた。


「あ、俺の名前はガンネ。若の護衛兼指南役と露払いと交渉とその他もろもろを担当してる」

「……何か、仕事多いですね」

 プランがぽつりと呟くとガンネは苦笑いを浮かべた。

「若はまだ幼いしキュリオは若の行動をとにかく全肯定するからな。結局いつも俺が貧乏クジって奴だ。早く楽になりたいもんだ」

 冗談なのか本気なのかガンネはどこか飄々とした様子だった。


「ああ、俺自身は元兵士だから盾と槍の練度はそこそこで、ついでに言えば横に知らない人がいてもある程度合わせて戦えるぞ。他にも剣、投擲兼用手斧、弓、投石なんかも使える。まあ器用な方だと思ってくれて良い」

「そりゃ良い。俺らよりも冒険者らしいじゃねーか」

 サリスがそう言葉にするとガンネは微笑んだ。

「そりゃ、末端の兵士なんて冒険者と大差ねーからな。酒飲んで、女を取り合って、んで何かあると――」

「拳を肴にすぐに喧嘩」

 サリスがガンネの言葉に続いてそう言葉にすると、二人はゴンゴンとお互いの拳をぶつけ合った。


「何だ。(こぶし)の方もやれそうじゃねーか」

「そっちもな。女の拳とは思えねー位重てーわ」

 そう言って二人は意気投合し笑いあった。


「さて、余の配下の凄さを知って貰ったところで、続いてそちら三人の事を教えて貰えぬだろうか?」

 自慢げにマルクがそう言葉にするとサリス、エージュはプランの方を見つめ、プランは頷いた。


「はい。プラン、ただのプランです。戦い関連は完全に、全く出来ません! 無力です!」

 ドヤ顔できりっとした口調でそう言葉にするプランに、マルク達三人は茫然とした表情となった。

 キュリオが表情を変えたのはこれが初めてだった。

 色々な人がいるとは言え、いきなり肝心要が無能であると言葉にするとは思わなかったからだろう。


「その……それで良いのかお主達は?」

 マルクがサリスとエージュに尋ねると二人は同時に、しっかりと頷いた。

「ああ。体力あるから邪魔にならない程度には逃げられるし出来ないっていう自分の分量をわきまえている。出来ない癖に無理に戦おうとする奴よりはよほど良いね。ついでに言えばそれを補ってあまりある物を持っているからな」

「……サリス。私の良いとこってどんなとこー?」

 プランが揶揄う様にそう尋ねるとサリスは苦笑いを浮かべてこんと頭を叩いた。


「まず、ムーンクラウン商会との直接のコネがある。この学園で安価で質の良い武具が確実に手に入る場所はここ位しかないだろうな。後は料理……いや、野営技能が高い。テント設置から料理と言った事なら超が付く一流と思ってる。ついでに救護能力も高いな。包帯とか魔法みたいにくるくる巻く」

「……そなたは従軍医でもしていたのか?」

 マルクの言葉にプランは笑顔で首を横に振った。

「いいえ! 実家は農家の様な何かでした。だから農業が本当は得意です」

「……どうして冒険者に、いやすまん。詮索は禁句であったな。忘れてくれ」

 そう言ってマルクは謝罪をし、話を続ける様プランに主導権を譲った。


「サリスに言われた通り料理とか、他にも掃除とかそういった一般的な事なら得意です。メイドの経験もありましたし」

「ほう。どのメイドか尋ねても?」

 マルクがそう尋ねるとプランは頷いた。

「はい。寝室担当(チェインバー)を主に女中(ハウス)調理(キッチン)洗濯(ランドリー)辺りですね」

 正しくは激務のメイドの手伝いをしていた為仕事をしていたというわけではない上に記憶もうろ覚えであるのだが、それでも経験があるのは確かだった。


「……ほぼオールワークではないか。よほど貧乏なところに居たのだな……」

 マルクは同情する様にそう呟いた。

「にゃはは……否定出来にゃい……」

 貧乏であった事は否定出来ず、プランはそう呟く事しか出来なかった。


「んで次は俺の番か。俺の名前はサリス。見ての通りのガサツな男女だ。自慢は体力。荒事は俺が、それ以外はプランがメインで動くのが俺らの基本的なやり方だ」

 そう言ってサリスは笑って見せた。

「そして(わたくし)エージュ、バーナードブルーが両方面で二人をサポートしております。二人に比べたら大した事はありませんが……まあ一芸と言えばこれを」

 そう言ってエージュは妖精を呼び出し、手の平の上に結晶体の様な形状をした氷を生成して見せた。


「ほう! 魔法使いではないか! いや、凄いではないか。戦いに使えるのか?」

 マルクの問いにエージュは頷いた。

「はいマルク様。まだまだ不慣れで思い通りにとはいきませんが一応戦闘に応用する事も可能です」

「ほう! 我が公爵家であっても戦闘が可能なほどの魔法使いは三桁程度しかおらんぞ。実に素晴らしい力ではないか。我が領に……は駄目だな。バーナードブルー家の者を無理に呼んだとあっては我が公爵家の名に傷が付く」

「ご配慮ありがとうございます」

「うむ……。だが、欲しいと思ったのは事実だ。仕えるに値すると思えば是非とも我が領に来て欲しい」

 横で少しだけ不機嫌そうなキュリオに気づかないまま、マルクはそう言葉を締めくくった。


「ねぇサリス。バーナードブルーってそんな凄いの? メリア王妃も何だか特別扱いしてたけど」

「王妃様と直接お茶会したお前ほど凄くねーよ」

 サリスはそんな正論を叩きつけた。

「それはまあ置いといて。どうなの?」

「凄いというか堅物として有名というのが正しい。貴族として名誉や特権よりも民を護るという誇りを大切にするという一点だけで一目置かれている。腫物扱いという側面もあるらしいが詳しくは俺も知らん」

「そか」

 二人はこそこそ話をそっと打ち切り、マルクの方を見た。




「さて、これで冒険者としての自己紹介が終わったわけだが……プラン。そちらの元リーダーはお主であろう?」

「あ、はい。ですです」

「では、続いてどう動けば良いか余に教えて欲しい」

「はーい。とりあえず三か月課題の内容を吟味し対策する事からですねー」

「うむ。わかった。ガンネ」

 主に名を呼ばれたガンネは頷きテーブルの上にあるグラスを片して資料を置いた。


 課題内容はシンプルなダンジョンアタック。

 課題の為に残しておいたダンジョンに潜り、事前に教師陣が用意した物を回収しそれを教師に返せば課題達成となる。


「ダンジョンの名は『魔毒迷宮』、と昔言われていたらしい。今は『課題ダンジョン』とそのままの名前で呼ばれている。危険度は低い……が、少人数で行くには油断ならない場所である事は確かだ」

 そうガンネは言葉にした。


 ダンジョンとは自然に発生した洞窟、並びに人工的な建築物が変質化した物を言う。

 魔力が原因で変質化しても、別の要因で変質化し魔力が宿ってもどちらもダンジョンである。

 ダンジョンで危険度が低いという事は残留している魔力が低く、極めて魔物が湧き辛いのだが、逆に言えば魔物が湧く可能性があるという事だ。


「つまり、今回の課題は魔物に遭遇した場合に慌てず逃げられるか、また倒す事が出来るかという課題なのだろう」

「うむ。ガンネ。お主は実際相対した場合はどうすべきと思う?」

「はい。逃げられるなら迷わず逃げるべきと。更に余裕があるのならどこかに印を残せばなお良しと」

「余としては退治に撃破して名を上げたいのだが……」

「ダメです」

 ガンネだけでなく、キュリオも同時にそう言葉にした。


「そうか。……うむ。二人がそこまで強く言うなら……」

 不承不承と言う様子でマルクは悲しそうに呟いた。

「魔物は獣以上に危険度が分かりにくいです。ただ強いだけでなく酸や毒、病を持つ者もいますので極力戦うべきでないと断言しましょう」

「うむ。納得しよう。それで、さきほど言っていた印とは?」

「この辺りで魔物を見たというサインを壁かどこかに彫り込むんです。後続の冒険者の為に」

「なるほどの。わかった。というわけでこちらはこんな感じだ。そっちは何か情報はあるか?」

 そうマルクが言うと、サリスはプランとエージュの方を見つめた。

 エージュもプランの方を見つめ、プランは頷き、数十枚という資料をテーブルの上に置いた。


「過去にダンジョンアタックした人の記録とその要注意部分。そして課題の詳しい内容と追加報酬についてを調べました」

 そうプランが言うと、マルクは目を丸くした後、尊敬の眼差しをプランに向けた。

「凄いではないか! まるで冒険譚の英雄を支える諜報役のようだ! どうやったのだ! どうしてそんなに知る事が出来たのだ!?」

 わくわくを抑えきれない様子のマルクを前にプランは申し訳なさそうに呟いた。

「いえ……その……クコ君(情報屋)ヴェルキス(先輩)に聞いただけですごめんなさい」

 自分は全く何もしていない事を、強いて言えば情報の対価として料理をしただけである事を恥じながらプランはそう呟いた。


「ほう。情報屋か。冒険者にはそういうのもあるのか……」

 興味深そうにマルクはそう呟いた。

「はい。というわけで重要そうな部分だけ抜粋して話しますね」

 プランがそう言葉にすると、五人皆が耳を傾けた。


 人工的な魔石で『擬似魔石C』と呼ばれる物が存在する。

 本来の魔石と違い魔力を一切持たず、代わりに魔力を吸い取る性質を持っている。

 ただし、ただ魔力を吸い取るだけでなく吸い取る力は微弱であり、しかも特定の環境でしか吸う事が出来ない。

 その擬似魔石Cが限度まで魔力を吸い上げた物を学園が利用する為に回収する。

 それが今回の課題内容である。


「ちなみに空っぽの擬似魔石Cを同じ場所に置くだけで追加報酬が貰えます」

「ふむ。プラン。その擬似魔石とやらはどうやって――」

 そうマルクが尋ねると、プランは真っ白い塊を取り出しテーブルに置いた。

「ここに既に」

「……流石は先輩冒険者であるな」

 プランは更に尊敬の眼差しを受け、これを用意したエージュの方を困った目で見つめた。

 エージュはにっこりとプランに向けて微笑むだけで、特に訂正も否定もしなかった。


 ダンジョン形式は無数の枝分かれの洞窟であり、地図があっても迷う可能性が高い。

 ただし、枝分かれの仕方はアリの巣、または木の枝の様一方的に広がっている為、逆走すれば必ず真ん中の道に辿り着ける。

 行きは迷うが帰りは迷わないというダンジョンアタックという意味で言えば非常に便利な構造となっていた。


 代わりに、中にいる生き物は厄介なものが多い。

 蝙蝠や巨大ミミズに加えて、角や牙を生やした動物や良くわからない形状をし真っ黒としか表現できない敵など本来のダンジョンよりも異形と呼ばれる形状の敵が多い。

 ちなみに、それらは全て魔物ではない。

 動物に類似する何かである。

 そして厄介なのは、このダンジョンにいる敵はほぼ全員が何等かの毒を持っていた。

 即死するものや二次感染する様な毒こそないものの、蝙蝠が触れただけでパーティーが壊滅するなんて可能性すらある。


「というわけで、総じて戦闘力は高くないものの危険性は高めというのがこのダンジョンの内容です。ちなみに、三か月課題を受けた人の何割が達成するのかはわかりませんが、約一割は洞窟から帰れなくなったそうです」

 プランは真剣な様子でそう呟いた。

 敵は弱く、戦うという意味でなら今までしっかりと学んだ人間なら問題なく対処出来る範囲である事は間違いない。

 だが、ダンジョンの怖さで敵という存在は一側面でしかない。

 それを教えてくれる代償が一割というのは安いのか高いのか、それはこの場の誰にもわかる事ではなかった。


ありがとうございました。

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