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5-4話 栄光の始まり(前編)


 あの後、プランは少しだけメリアと二人でただの友人として雑談をした。

 友達達の事、私生活の事、そして、もうすぐ学園の大変な課題をこなさなければならない事。


 それらをメリアはただ聞くだけだった。

 王妃としてでなく、メリアとして友人の話をただ聞くだけにした。

 助けがいる時は必ず言ってくれると思っているし、立場ある自分が余計な事をすれば困らせる結果になると知っているからこそ、何も言葉を挟まなかった。


 その後、メリアはようやく一月ほど前のクーデター討伐の報酬が渡せそうな事を伝えた。

 名誉やら功績やらは全てシュウとその町に行くため、冒険者であったプラン達の名前はほとんど残らない。

 代わりに、報酬の方は期待して良いとメリアはプランに伝えた。


 最後に、またお茶会に誘っても良いかメリアは尋ね、プランが快く受けた後プランはお土産のパイ菓子を山ほど持ってそのまま帰宅した。


 パイ菓子は大食漢のサリスと甘味に飢えていたミグが大半を貪り、これでもかとあったパイ菓子はその日の内に消え去った。




「……なぁ。まじで俺いないといけない? ぶっちゃけプランとエージュいたら良いだろ」

 ぶー垂れた様な露骨な態度のままサリスは嫌そうにそう言い放った。

 それを聞き、プランは苦笑いを浮かべる。

「あはは……。うん、気持ちはわかるけど……やっぱり一人だけいないってのはね……」

 そうプランが言葉にするとサリスは態度を変えずに、それでもどこか納得しているのかプラン達に付いて行き、三人で待ち合わせ場所として借りた個室に向かった。


 やはりというか当然と言うか、三か月課題はマルク達三人はプラン達三人とパーティーを組む事となった。

 それなりに学園生活を過ごして来たし他のクラスの人達とパーティーを組んだりという事もあったが、それでもこの学園内で伯爵家以上の人とは巡り合った事がない。

 というか学園外であっても冒険者として生活する以上貴族と会う事は滅多になかった。

 辛うじて男爵家の人と会った事はあるが、ボロボロで廃嫡寸前という状況でどうしようもなく冒険者を目指した人だった為貴族らしさの欠片もなく、むしろ冒険者となる人がどの様な状況でそうなるのかのテンプレートの様な人だった。


 貴族として暮らしていける一族が冒険者になる事は基本的にない。

 また、例え貴族出の者が冒険者を夢見てなるとしても学園には行く事はない。

 その場合は護衛兼教育係として冒険者を雇いあげるのが定石だからだ。


 だからこそ、伯爵家二人と平民一人でしかも女性オンリーというパーティーは異質極まりないと言っても過言ではなく、そして他に類を見ない公爵家の少年という危険物その物である人物の処理をそのパーティーに押し付けた。

 というよりも、押し付けざるを得なかった。


「というわけで、これが我がパーティーの最初の顔合わせという奴だな。うむ。余は公爵家であるが今は冒険者でもある。だから伯爵家の者であろうと余は差別せず対等と考える。好きに振舞うが良い」

 そうマルクは堂々とした態度で言葉にした。


 ――うーん。これで悪意ないのよねぇ。


 プランは困った顔をしながらサリスとエージュの後ろにそっと回り、従者のフリをした。

 その様子を見て、サリスは顔を顰める。

 サリスは家柄こそ貴族だが中身と考え方は市民というよりもゴロツキの方に近い。

 少々の喧嘩は喜んで買い、老若男女関わらず相手に非があるのなら暴力をふるう事に躊躇しない。

 そんなサリスにとって平民を蔑ろにする悪い意味で典型的な貴族というのは、正に相いれない存在だった。


 一方、貴族らしい家柄、貴族らしい態度、貴族である事に誇りを持ったエージュの態度に変化は見られない。

 おそらくだが、公爵家の人間というのはそれだけで尊敬に値するからだろう


「……あっちゃあ」

 サリスは聞こえない様小さな声で、そして楽しそうに呟いた。

「どしたのサリス?」

「ああ。エージュがな……」

「ん? ニコニコしてるけど何かあったの?」

 どこかご機嫌な様子でニコニコしているエージュを見てプランは首を傾げた。

「んー。ああ。そういやプランは初めてだったか。これな、エージュが切れた時はこんな風に仮面をかぶるんだ」

「……え? これ機嫌良いんじゃないの?」

 プランは人を見る目に関してはそこそこ自信がある。

 だが、そのプランすらわからないほどその笑顔の擬態は完璧な物だった。

「いや。べらぼうに悪い。まあ見てたらわかるさ」

 サリスはエージュを止めるでもなく、成り行きを楽しそうに見守る事にした。


「僭越ながらマルク様。発言、宜しいでしょうか?」

 エージュがやけに丁寧にそう言葉にするとマルクは頷いた。

「うむ。申すが良い」

「では……冒険者学園は貴族である事を()()配慮致しません。また入学にあたりいかに圧力をかけて学園を困らせて無理やりここに入ったのか知りませんが、それを私達は配慮するつもりはありません。冒険者生活という面で言えばマルク様を公爵家の人間と配慮するつもりもございませんし年齢、性別、生まれ、あらゆる意味で特別扱いするつもりもありませんのでそれをご了承下さい」

 エージュは一息で、まくしたてる様にそう言葉にした。


「お、おおう……」

 プランはそう言葉にする事しか出来なかった。

「な?」

 サリスは楽しそうに、そして自慢げにプランにそう言い放った。


 偉そうにして下を見ない貴族という存在はサリスに取っては相いれない存在そのものだが、エージュにとってはそれ以上に許せない存在であり、地雷その物だった。

 それに対し、マルクは少しだけ目を丸くした後ドヤ顔で頷いた。


「うむ! ではその様に振舞うが良い。余に遠慮せずともな」

「ではプランさんにも対等となる発言の許可を頂けますね?」

 そうエージュが言葉にすると、マルクは眉を顰め首を傾げた。

「うん? 平民とは元より敬語が使えず好き放題発言が許される存在ではないのか? だから余はその事に触れなかったのだが……」

 そうマルクが言うと、エージュは首を傾げた。

「……はい?」

「うむ……少々待たれよ」

 そう言葉にした後、マルクは後ろの二人と円陣を組み、こそこそ話を始めた。


「余は何か間違いを……」

「いえ。そうではなく……」

「つまり……こうこうと……」

 やけに偉そうな服を着た小さな子供と執事服の中年おっさんにメイド服の女性という印象的な三人は何度も頷き合いながら交渉し、そしてマルクはそれを終えるとエージュの方を向いた。


「うむ! ()()()! 余が間違っていた。プランよ。当然そなたも余に対し好きに言葉を申すが良い。ただ、出来るなら子供ではなく対等な者として扱ってくれたら嬉しいぞ!」

 そうマルクが言葉にすると、エージュは困惑しつつ首を傾げていた。


「……サリス。今のエージュの心境はどんな感じなの?」

「ああ……うん。覚えた怒りが勘違いだった事の困惑と振り上げた手の降ろし所がわからないって感じだな」

「うん。私にもそう見えるわ」

 プランは滅多に見ないエージュの一面を興味深そうに見つめながらそう言葉にする。


 わたわたとするエージュにドヤ顔で謝罪するマルク、我関せずの護衛二人にそれを見守るプランとサリス。

 当然の事ながら、ぐっだぐだな空気となっていた。




「とりあえず、今の発言でわかる通り余達は庶民の生活に疎く、また冒険者についての知識も薄い。だからその辺りで何かあればすぐに申してもらいたい。だが、余とて最初にすべき事位は知っておるぞ」

 そうマルクが言葉にし、指をパチンと鳴らすと護衛二人はウェイターも真っ青なほどのてきぱきとした動作でテーブルの上に六つのワイングラスと赤い液体を用意した。

「……冒険の成功を祈っての祝杯か。お貴族様の割には悪かねー発想じゃねーか」

 そうサリスが言葉にし、エージュが叱りつけようとするのをマルクは手の動作で止めた。

「構わん。それが余達を馬鹿にしてではなくそなたの素であるのならむしろその方が好ましい位だ」

「お。良い事言うじゃねーか。んじゃ俺はそうさせてもらうぜマルク」

 突如とした呼び捨てに護衛二人は眉を顰め、エージュは顔を青くしプランは苦笑いを浮かべる。

 だが、当の本人であるマルクは笑っていた。

「ははは! まさか肉親と王家以外に呼び捨てにされる日が来るとはな。構わん。今の余は冒険者であるからな。それとわかってると思うがこれ酒ではないぞ」

 そう言葉にし、サリスだけが目を丸くした。

「え!? まじかよ」

「すまぬが余の年齢ではな。ついでに言えば真面目な話し合いの場に酒というのは宜しくないと思ってもおる。故に……ただのジュースだ」

 サリスは露骨にがっかりとした様子を見せた。


「さて、それでは冒険のパーティーが揃って最初にすべき事をしようではないか」

 マルクはワクワクを隠しきれないあどけない表情でそう言葉にした。

「……えっと、自己紹介ですか?」

 プランがそう尋ねるとマルクは微笑み首を横に振った。

「それも悪くないが、それより先にすべき事があるだろうが」

「……失礼ですが、それは一体?」

「冒険パーティーの……つまり我らの名前を決めねばならぬだろう」

 ドヤ顔でマルクはそう言葉にした。


 当然の事だが、臨時パーティーで一々名前を付ける事はない。

 正規パーティーの場合は名前を付ける事もあるがそれも極稀な事で、大体がリーダーにパーティーを付けるだけとなる。

 例外となるのが王城に招かれるほどの成功を収めた冒険者パーティーだが、彼らほどになると外部の人間がそれに適した名前を勝手に呼び出し、それが定着する為冒険者が自分達のパーティー名を決める事はあまりないのだが……伝えられている物語ではいつも冒険者のパーティーには恥ずかしくなる様な名前が付けられている。

 だからマルクもそう言ったのだろうとプラン達は理解出来た。


 要するに、入学してきたばかりな上に子供であるマルクの冒険者像は、吟遊詩人や本で描かれる冒険者像そのものという事だった。


「ふむ。それも良いな」

 そんなマルクのパーティー名を決めよう発言に、サリスは納得したように頷いた。

「……え?」

 プランは目を丸くした。

「そうですわね。臨時とは言えそう言うのがあっても宜しいかと」

「……え? エージュも?」

「あらプランさん。そういうのに憧れがあるのは皆同じでは?」

 そう言ってエージュはにっこりと楽しそうに微笑んだ。

「ま、皆が賛成ならそれで良いわよ。んで、この一度だけのパーティーに何て名前を付けましょうか?」

 まんざらではない様子でプランはそう言葉をかけた。


 その後参加しなかった護衛を除いた四人であーでもないこーでもないとパーティー名について議論を重ねた。

 今までこれほどまでに真剣に話し合った事あっただろうかという位の勢いで……。


 プランとサリスが意見を提案し、エージュが選別して、マルクがその案を考慮して三人に意見を求める。

 マルクは十歳ちょいとは思えないほど会話の流れをサポートし、全員の意見を出しやすい様な場にしていた。

 全員が相手を尊重し、同時に遠慮をしない。

 そんな理想的な会議は二、三十分にも及んだ。


 ただのパーティ名を決めるだけなのに何をしているんだろうという気持ちをプラン達三人は持っていたが、それはそれとして楽しい時間であったのは間違いなかった。


「というわけで、皆が提案した言葉の中で余の好きな言葉を芯に捉え、皆の意見を尊重しあまり派手にならず、なおかつ皆が思い入れを残せる名前という事で『栄光の始まり(ビギニンググローリー)』で、決定して良いだろうか?」

 そうマルクが言葉にすると、五人は同時に拍手をした。

 確かに悪くない名前だった。

 他の候補がロイヤルとか名乗るのが辛い名前が多く、また冒険者見習いらしい名前でもある。

 そして、多少恥ずかしくても一度きりで終わる事は決まっている。

 使い捨てと考えるなら、決して悪くはない名前だった。


「よし! ではここにビギニンググローリー結成を祝い、共に祝杯を上げようではないか」

 ワイングラスに入ったジュースを片手にマルクがそう言葉にすると、五人が揃って立ち上がりワイングラスを手に持った。


「おいプラン。何かあいつがリーダー面してるけど良いのか?」

 元々のリーダーであるプランにサリスがそう尋ねると、プランは微笑み頷いた。

「いやー向き不向きってあるね。私よりよほど向いてるしそっちの方が良いでしょ。それに……下手に主導権持つと絶対面倒な事になるし……」

「……違いない」

 対等になろうとしているし実際マルクはそのつもりだが、護衛が二人いる上公爵家の若である事に変わりはなくどうしても対等ではいられない。

 また、同時にマルクが背伸びをし皆を纏めようとしている様にプランは見えた。

 今プランが下手にリーダーとしてまとめようとすると何かしらトラブルになる事は考えるまでもなかった。

 むしろマルクがまとめそれをサポートする方が現状でもプランの得意分野的な意味でも適している。

 そうプランは考えていた。


「ん? 乾杯の準備は大丈夫か?」

 マルクがこそこそと話をする二人を見てそう呟くと、二人は我に返りグラスを持って頷いた。


「では……名前の通り我らの栄光の始まりを願い、共に駆けだそうではないか! 乾杯!」

 マルクの言葉に合わせて、グラスが音を鳴らし合った。


 若干の高揚感とその人の為に何かがしたくなる様な胸に籠る気持ち。

 中身も外見通り幼く、行動も若干幼稚で更に少年らしいわがままさも併せ持った一言で言えば小生意気なマルク。

 だが、そのカリスマだけはサリスですら認めざるを得ないほどだった。


ありがとうございました。

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