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1-9話 割と忙しい自由時間2


 宣言通り、空腹を訴えだしたサリスは昨日訪れた食堂に向かった。

 横でぐちぐちとエージュが何か言っているが、サリスはそれを極力耳に入れないようにする。

 聞くのも面倒だし真面目に付き合うと日が暮れるからだ。

「さてと……今日は何が食えるかなー」

 と期待を胸に食堂に入り、目の前にいた人物を見てサリスは驚きながら笑った。

「おまっ。用事ってそれの事か!」

「そ。驚いた?」

 そう尋ねながら三角巾(ヘッドカーチフ)とエプロン姿で両手に料理の乗った大皿を持つプランはにっこりと微笑んだ。

「驚いた驚いた。お前料理出来たんだな」

「うん。と言ってもボチボチだけどね。サリス今日も注文は無料のだよね?」

「おう。出来たら大盛で頼むわ。無理なら良いぞ。お代わりするから」

「ふふっ。オッケー任せて。特盛にしてあげるわ。んで……エージュさんはどうします? 有料で良ければ多少拘った物を提供出来ますけど……」

「いえ。無料の物でお願いします。お金がないわけではないですが……まあ」

 曖昧に答えるエージュに、プランは微笑んだ。

「はーい。量は普通ので良いよね? それともサリスみたいに多くする?」

「……そこの山猿と比較しないで下さいまし。普通の人と比較しても、私はあまり食べられる方ではないので少々少な目で……。代わりにお金は出しますからサラダでも付けて下されば」

 横で肉食え肉と騒ぐサリスを無視してエージュはプランにそう言い、プランは頷いた。

「オッケー。んじゃちょっと待っててねー」

 そう言ってさーっと走り去った後、わずか五分でプランは戻って来た。


「お待たせしましたー。どうぞー」

「……はやっ。ここの調理担当手際良いなぁ」

 サリスの言葉にプランはにっこりと微笑んだ。

「お褒めに与り恐悦至極、なんつって」

「……まじで!? プラン作ったの?」

 サリスが驚くとプランはブイサインをして見せた。


「……プランさん。あの……私とハワードさんの料理違うんですが?」

「あれ? 食べ方に品位がなくなるかなーと思ってそうしましたが……サリスと同じ方が良かったです?」

「いえ……そうではなくて、無料って決まった料理ではないんですか?」

「え、うん。だけどどうせ材料が同じなら各自食べやすい方が良いかなと。ちなみに本来の調理がエージュさんの方で、サリスの方は私のアドリブです」

 そうプランが答えるとエージュは感心したようなそぶりを見せ皿の上を注目した。


 エージュの皿には小さめのロールパンが二個と半熟の目玉焼きとウィンナーにキャベツ。

 一方サリスの方はエージュのと比べて倍くらい大きなロールパンに切れ目が入り、スクランブルエッグとウィンナー、キャベツが挟まれ軽くケチャップ付けられた、所謂簡易式のホットドッグが皿の上に山となっていた。

 添えられている食器も異なり、エージュの方には丁寧にナイフとフォークにスプーンが添えられ紙ナプキンまで用意されているのに対して、サリスの方にはシンプルに先割れスプーン一つのみである。


「……あの、プランさん。これも無料の範囲なんですか?」

 エージュは二人分用意された野菜スープとレタス、トマト、オニオンのサラダを指差しそう尋ねた。

「いんや。だけど私からのサービスだから料金は良いよ」

「……これも?」

 果物の添えられたジュースを指差すエージュにプランは頷いた。

「うん。嫌いだった?」

「……いえ、ただ、こんなご厚意に預かっても良いのか、それとプランさんに不都合がないか……」

 サラダとスープとジュースを勝手に追加していいのだろうか、後でプランが怒られないだろうか。

 そう心配したエージュだが、プランは微笑みながら首を横に振った。

「だいじょぶ。スープは昨日の残りだしサラダとジュースくらいは従業員特典みたいなもんだから怒られないよ。強いて言えばケチャップを勝手に使っちゃったけど……とうにバレてるし怒られてないからたぶんだいじょぶ」

 そういってにへへと笑うプランは子供のようであり、そして母親のようでもあった。

 

「……ではプランさん。貴女の御厚意に感謝を。いただきます」

「はい。どうぞ召し上がれ」

 プランがそう返すとエージュは微笑み、ナイフとフォークを手に取った。


 さっきから無言となっているサリスは、見なくてもわかる事だが簡易ホットドックを両手に持って貪るように食べていた。

「……品がない。ですが……何か凄く美味しそうですわね」

 エージュの言葉にサリスは頷いた。

「もぐもぐ……いや、めっちゃうめーぞ。もぐ……でも、取るなよ。もぐもぐもぐもぐ……」

「……取りませんわよ」


 そんな事をエージュが少し残念そうに呟くのを見たプランは、小声でエージュに尋ねた。

「エージュの分も作ろうか?」

「すいません。……では一個だけお願い出来ます?」

 蚊の鳴くような返事を、プランは満面の笑みで応えた。

「あいあい。少々お待ちをー」

 そう言ってプランはその場を去り、十分ほどした後山のように簡易ホットドッグを作って二人の前に出した。

「はい。エージュさんの分とサリスのお代わり分。これで足りないって事はないよね?」

「おう。あんがとよ」

「良いって事よ。んじゃ、私お仕事あるから行くね。何かあったら呼んでね。エージュさんも何かあったら気軽に呼んで下さいね」

 そう言い残し、プランはさーっと去っていった。


「私も料理は出来ますが……さらっとこういった事は出来ませんわね。正直尊敬します。……それに何より話していて気持ちが良い方ですねプランさん。是非一緒に組みたいです」

「……俺が売約済だから」

「あら? 私がより良い条件を出せば良いだけでしょう?」

「……せめて呼び捨てで呼び合えるようになってから言うんだな」

 その言葉にエージュはキーキー言いながら反論し、それを何時ものようにサリスは聞き流しながら目の前の食事に没頭した。




 プランは料理が好きである。

 特に好きなのはパン作りなのだが、流石に時間が足りず今日は出来ていない。

 だが、それ以外も決して嫌いという事はない。

 料理を作る事も食べる事も単純に楽しくて好きなのだが、自分の作った物を誰かが喜んでくれる事がプランにとってはとても嬉しい事で、だからこそプランは料理が好きだった。


 そんなわけで朝早く起きて風呂場に行く前に食堂に向かい、昨日のおばちゃんに手伝いたいと申し出た後風呂に入って、そして今、食堂の手伝いを始めるに至った。

 最初はレタスを洗って一口大にちぎるだけの簡単な作業だったのだが、コック姿の男性がその姿を見た後突然プランに料理を作らせ始めた。

 コック姿の男はその料理を見た後頷き、そのままプランは無料分の料理を作り配膳する担当の一人に回された。

 料理が作れる事も嬉しかったが、それよりも料理が出来そうな人に認めて貰えた事がプランは嬉しかった。


 そうこうしてサリス達に料理を出し、それ以降も楽しく料理を作っていると、昨日のおばちゃんがプランの元にとことこと歩いてきた。

 その顔はさきほどまでの明るい笑顔ではなく、困ったような、酷く申し訳なさそうな顔だった。

「どうしたのおばちゃん。何か厄介事?」

「……ごめんな。悪いんだけどあっちの客が自分の分を作った奴を呼んで来いって……」

 そう言いながらおばちゃんはいかにも生真面目そうで、そして鋭い目つきをした男性を指差した。

「あちゃー。私何かしちゃったかな」

「そもそも無料の食事なんだからちょっと変でも文句は言わないのが普通……なんだけどさ、あの人この学園の先生だからさ、私みたいな雇われじゃ何も言えなくて」

「そかー。ごめんねおばちゃん。私の所為で迷惑かけて」

「迷惑なんてそんな……。ごめんね本当。どうせただのクレームだから適当に聞き流してね」

「大丈夫だよ。別のとこで働いている時もそういう事あったし」

「そうかい? ま、無理はせんで良いからね。何かあったらこっちに逃げておいで。最悪おばちゃんがぶん殴ってあげるから」

 その言葉にプランはくすっと笑い、頷いた。

 本当に全く気にしてなさそうな表情でその男性の元に行くプランに対し、おばちゃんはハラハラした表情で心配そうにプランの方をじっと見続けていた。




 この学園に至るまでの旅路で金策と食事、そして住む場所を確保する手段としてプランは料理関係店の住み込みという方法を選択した。

 理由は単純で、全部が一度に確保出来るからだ。

 宿屋にしろ食事処にしろある程度の規模があるとどうしても野菜の皮むきなど下処理に手が回らなくなる。

 だから仕事がなくなる事はほとんどなく、そして最悪給料が出なくても飯と寝床だけは確保出来る。

 プランの旅はその想定通りで、他の職場よりも料理関連の方が食事も美味しいし腕を磨けるしで良い事尽くしだった。


 だからプランはそれなりに色々な食事処で働いた経験があり、そして色々な客に遭遇した。


 当然だが、客の中にも良い人もいれば悪い人もいる。

 良い服着てるのに安い物しか頼まない人や、その逆で酷い身なりなのに食事は高価な物を頼むような変な人もいた。

 何故か愛人になれと迫って来た男性もいたが、それは従業員全員でボコボコにして追い返した。

 その客達の中には当然、イチャモンつけて金を払わずにいようとしたり、ただ気に入らないから文句を付けに来たようなクレーマーもいて、そしてその数は悲しい事に決して少なくなかった。

 だからこそ、プランは心配していなかった。

 数々の料理店で学んだプランは、クレーマー対応処世術を身に着けていたからだ。


 こっちに非がない場合は、謝罪して、聞きながして、それでだめならぶん殴るか逃げる。

 雑な上に適当な対応に見えるが、残念な事に相手がマトモに話す気がない為これが一番簡単で正解に近い。

 そう、プランは経験から理解していた。


「すいません。その料理を作ったのは私ですが……何か気に入らない事がありましたか?」

 プランがその男性に話しけると、男性はジロっと鋭い目をプランに向けた。

「……君が作ったのかね?」

「あ、はい。と言っても目玉焼きとソーセージ火に通しただけですので大した事はしてませんが。……あ、髪の毛は見ての通り入らないようにしてますよ」

 プランは頭の布を指差しながら見せそう言葉にする。

「ああ。それは問題ない……」

「えっと、それでは何が問題だったのでしょうか?」

 その言葉に男性は鋭い目のまま、ほんのわずかに顔を傾けた。

「……問題とは何かね?」

「え? 何か不都合があったから呼んだのでは?」

「いや。……私は、作った料理人が誰なのか気になって呼んだだけだ」

「何か料理で不都合があったわけではない感じです?」

「……ああ。見ての通りだ」

 そう言いながら男性は自分の食器の方をちらっと見た。

 そこにある皿の上には何も乗っておらず、見事なまでに真っ白でまるで洗った後のようになっていた。

「あらま綺麗。お粗末様でした」

「……遅くなったな。ご馳走様。……美味しかったよ」

 仏頂面のままそう言葉にする男性だが、プランは少しだけその男性が微笑んだような気がした。


「えと、それで何用でしょうか?」

「……ああ。すまない。……話の前に、君はどのクラスの学生かね?」

「クラス? とか良くわかりません。すいません私昨日入学したばかりですので」

 そう言ってプランはぺこりと頭を下げた。

「……ふむ。そうか。新入生か。すまない。だが、なら尚の事好都合だな」

「好都合?」

「……私が開いているサークルがあってな。――君をスカウトしたい」

 その言葉にプランは少し考え、そして申し訳なさそうに質問した。

「……ごめんなさい。まず、サークル自体何が良くわかっていなくて……」

「……そうか。では説明したいのだが良いかね?」

「あ、お願いします」

「うむ。サークルというのは同じ趣味の者や同じ環境、または同じ関心を持つ者が集まる同好会だ。授業時間外、主に放課後だな。その時間帯で集まり各自で行動する。活動は自由だが、主に相互補助が目的だな」

「……例えばどんなのがあるんです?」

「例えばか。そうだな……『盗賊技術の会』というサークルがある。その名の通り盗賊技術を持った冒険者が集まるサークルで、盗賊という名前の為どうしても評判が悪い盗賊技能の地位向上を目指している。盗人ではなく盗賊技術を使っているだけで、彼らには何の問題もない。実際冒険において盗賊技術は非常に役立つ。後は、魔法関連のサークルなども活動が盛んだな魔法にも種類がある為同じ方向性の人間と語り合う場というのは己の成長に大いに役立つだろう」

「なるほどー。……全然関係ないですけどやっぱり先生だけあって説明お上手ですねぇ」

「……すまんな。普段が口下手なのは自覚している」

 そう言った後、男性は軽く頭を下げた。


「いえ。嫌味ではなく聞きやすいなと思っただけですので。あ、それで先生は何のサークル開いてるんです?」

「……『料理研究会』だ」

「――え?」

「『料理研究会』だ」

「……正直、予想外です」

「……これでも、料理は得意なんだ」

 相変わらず仏頂面で、ジロリと鷹のような目を向けてきているが何故か若干ドヤ顔をしているような雰囲気を醸し出していた。


「それで、料理研究会ってどんな事すんです?」

 そうプランが尋ねると、男性は待ってましたとばかりに説明を始めた。

「料理関連のサークルは二つある。あちら側のサークル『料理と愛』の目的は『料理の楽しさを周囲に広める事』と『冒険者の依頼にある料理関連をこなせる技術を身に着ける事』にある。一方こちらは単純だ。『新しい食材への探求』ただその一点に尽きる」

「ほほー。正直に言っちゃいますけど、個人的にはあっちの方が興味惹かれますね」

「それでも良い。私もあちらのサークルに参加しているしな。もう少し詳しく説明しよう。料理研究会の目的は二点『未知で美味なる食材を探す事』と『様々な理由で食事の出来ない者達を減らす事』の二点だ。後者をわかりやすく言えば、貧困や体など、諸事情で食事が取れない人達を助ける事を目的にしている」

「あー。前者は個人的な趣味。後者は社会的な奉仕という意味ですね」

 そんな領主時代に学んだ言葉を使ったプランに男性はしっかりと頷いた。

「その通りだ。土地が貧しい場合や貧困など食事が出来ない場合は多数ある。そのような場合でも食べられる安価でかついくらでも手に入る食材。そのような物を探すのも我がサークルの冒険における目的の一つである」

「なるほどー」

「というわけで、どうかね?」

 仏頂面だが、何となく期待しているだろうとわかる男性の態度。


 それにプランは申し訳なさそうに頭を下げた。

「えと……せっかくですけどすいません」

「……理由を聞いても?」

「あ、はい。私料理はそこそこ出来るんですよ。そこそこですが」

「ふむ……。まあ良いだろう。それで?」

「ええ。実は……私とても苦手な事があるんですよ。出来たらその苦手な事を克服したいので、サークルに参加するとしたらそれ関連にしようって決めてまして」

「なるほど。それも一つの考え方だ。確かにサークル内なら優しく指導してくれる人も多くいるだろう。それで、君の苦手な事って何かね?」

「――戦う事です。臆病者なんで」

「……なるほど。それなら冒険者となる事を考えると、確かに克服すべき問題だ。冒険に出なくとも自衛出来ねば冒険者としては大成出来ないからな。……すまない。無理強いをしてしまったな」

「いえいえー。あ、お手伝いが欲しい時は言って下されば何時でも行きますよ! 料理は好きですし」

 プランは目を輝かせてそう答え、男性は頷いた。


「……うむ。その時は頼もう。それと、これでも教師でね。何か困った事があれば私に尋ねなさい。受付で教師の『ジョルト』に連絡したいと言えば私に伝わる」

「あ、はい。ジョルト先生ですね。わかりました。ありがとうございます」

「……長い事時間を使わせたな。……食堂で理由を説明する時は私の名前を使うと良い」

「はーい。色々教えていただきありがとうございました。では先生失礼しますね」

 そう言ってプランは満面の笑みのまま深く頭を下げ、男性の前にある皿を持ってぱたぱたと慌ただしく走り去った。




「……それで、君達は何のようかね?」

 男性はその鋭い瞳で睨むように、待機していた女性二人を見据えた。

 赤いショートカットの女性と緑がかった青のロングヘア―の女性。

 サリスとエージュである。


「いや……その……」

 しどろもどろとなって何も言えないエージュ。

 それに対し、サリスは何の遠慮もなく言葉を紡いだ。

「いや。目つきの悪い暗殺者みたいな顔した男がダチを呼んで何か話してたから虐めかなと思って来たんだ。勘違いだったけどな」

 そう言ってケラケラ笑うサリスにエージュはサリスの口を塞いだ。


「……そうか。暗殺者みたいか」

 男性はぽつりと呟いた。

「そんな落ち込むなよおっさん。恰好良いぞ。アサシンみたいで」

「……そうか。結局そっちか……」

 その言葉にサリスは笑いながら頷いた。


「ハワードさん。……さっき落ち込んでいたの?」

 ひそひそ声でそう尋ねるエージュにサリスは頷いた。

「え、だって子犬みたいな雰囲気だしてたし。わからんかった?」

 サリスの言葉にエージュは首を横に振った。

 良く言えばポーカーフェイス。

 悪く言えば常に人を殺しそうな雰囲気。

 そんな状態の為感情の機微などわかるわけがなかった。


「ま、そんなわけで俺達は見守ってたけど、何でもなかったようだし無用の心配だったね。すまんね先生。気にしないでくれ」

 そう言ってケラケラと笑うサリスとそれを見て呆れ顔となるエージュ。

 二人を見て、男性は頷いた。

「さきほどの子。あの子は当たりだ。冒険者としてやっていきたいならああいった子とチームを組むと良い」

「いや、そりゃ組めるなら組みたいけどまださっぱり予定がたってないから良くわからん」

「クラスが異なっても組む事自体は出来るし臨時で組むという形でも良い。ああ言う子は代えが効かない」


 やけにプランを押す男性に、エージュは少し変だと思い質問をしてみる事に決めた。

「……先生。失礼ですがその理由を教えていただいても?」

 エージュの言葉に男性は頷いた。

「料理を食べればその人がどういう料理をしてきたかわかる。その上で彼女の料理には個性的な長所が二点ほど見えた。一つは丁寧さだ。野菜の大きさやパンの並べ方。これらを適当にせず、出来るだけ綺麗で丁寧に配膳する。センスとかそういう話ではなく、これはあくまで感情の問題だ。慌ただしい中でも受け取り手の事を常に考え料理を行う。それは皆が出来る事ではなく、恐ろしく善良で、そして丁寧な者の証明である」

「はー。おっさん色々見てんだな」

 サリスがそう言った瞬間、エージュはサリスの頭を強く叩いた。


「先生。プランさんのもう一点の長所って何ですか?」

 エージュがそう尋ねると男性は少し考え込む仕草をしてみせた。

「……言葉にするのは少々難しい。調味料の使い方や焼き方。それがアバウトだった……」

「それは丁寧と矛盾するのでは?」

「いや、そうではない。ただ……いや、やはり言語化するのが難しい……」

「要するに、型破りって事だろ。丁寧で型破りなら変だけど矛盾はしてないし」

 サリスがそう言うと、男性は少し考え頷いて見せた。

「言い得て妙だ。そう。彼女の料理は型にはまっておらず、簡単な調理でもその自由さが窺える。何か素材が足りなくともきっと応用して何とか出来る。それを経験則であると考えるなら、ある程度野宿に慣れている……可能性が高い。そうでなくとも、彼女は丁寧で根が真面目であると料理が言っている。冒険者としてはそれだけで珍しい資質だ」

「なるほど。だから先生はああいった子と組むべきだとおっしゃったのですね」

「……ああ。私が料理を作る人間だからというのもあるが、食材管理と調理が出来る人がいるのといないのでは冒険一つで大きな差が出る。……だからこそ、彼女にスカウトを断られたのは本当に残念だった……」

 そう男性が答えると、今度はサリスとエージュがお互いプランと自分が組むと言い争いを始める。


 その、ギャーギャーとカラスの喧嘩のような醜い言い争いを見た男性は、二人はもう自分に用がないと理解し静かに邪魔をしないよう、そっとその場を後にした。


ありがとうございました。

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