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4-16話 塵芥5


 今回に至ってはゲーナに引く気はない。

 というよりもゲーナ団と呼ばれた五人全員が既に覚悟が完了している。

 他の何でもなく、目的の為ならば命を賭けても良いという私兵の覚悟が――。


 ダリアンという馴染めない仲間を地上に返す為。

 クラスメイトという彼らにとって身内を、家族を殺された恨み。

 そして何より、友を失った悲しみと怒りを胸に秘め、その感情を押し殺し続けるギャリシーの為。


 その為に、五人共に命を捨てる覚悟は出来ている。


 だが、覚悟を固めているのはゲーナ団だけではない。

 方向性は真逆だが、ギャリシーもまた誰も犠牲にするものかという決意をその胸に秘めていた。



「これ以上身内を殺されてたまるかってんだ。ほれ。ダリアンの予想通りなら一週間であいつもエンドだ。俺達が何かする必要はない」

「……すいません。それはギャリシーさんの言葉でも、聞けません」

 ゲーナの言葉にギャリシーは苦笑いを浮かべ、両手を横に動かした。

「やれやれ。そう言うと思っていたさ。なあ友よ。……俺とお前位だもんな。グルディが死んで本気で悲しんでいるのは」

「……俺はぶっちゃけ三割位ざまあみろと思っていますよ」

「七割は?」

「……ヘタレでビビリの癖に俺より先に死ぬなよって……今でも思います」

「全くもってその通りだ。ヘタレでビビリな事を除けばあいつ良い事なしなのにな」

 そう言ってギャリシーがケラケラ笑うと、ゲーナもまた鼻で笑う様に微笑んだ。


「だけど、あいつは俺達の仲間で、家族だった。臆病で自分を大きく見せる癖に努力が嫌いな駄目な奴だったが。それでもあいつは誰かの笑顔が好きな奴だった」

「……実はあいつと俺で、二人でいつかやろうって決めていた事があったんですよ」

 もう果たせない約束を、ゲーナは思い返し呟いた。

「ほう。二人で何をしたかったんだ?」

「……ちゃんとクコの奴に謝って、金でも何でも払って、殴られて、そんで……ちゃんとお別れをしたかったんです。俺達が馬鹿やったから仲良くなんてひでー事は言いません。ただ……せめて謝るだけでもって……思ってたんです」

「そうかい。お前らはお前らで真っ当になろうと頑張ってるんだな」

「ギャリシーさんのおかげですよ」

「はっ。その俺が一番真っ当じゃないのにな。……どうしても、引く気はないんだな?」

 その言葉に、五人は全員で頷いた。


 これから夜になっていく。

 それはバラバラ殺人鬼の時間である。

 しかも自らその殺人犯テリトリーに、大分範囲が絞られた場所に行くのだ。

 危険という次元の話ではない。


 それでも、五人はもうその様に決めていた。

 そしてギャリシーも、その五人の決断を変えられないと最初から気づいていた。


 彼らのどこに譲れない部分があるかを、ギャリシーは良く理解していた。


「……しゃあねぇなぁ。俺も一緒に行ってやるよ」

「……は? いや、ギャリシーさんはクラスの要じゃないですか。そんな危ない事――」

「ばっかお前。俺達皆屑畜生で、そんで自業自得の世界で生きているだろうがよ。クラスにとっての価値なんて俺でもお前でもダリアンでも誰であっても大差ないわ。俺がいなくなってもうまく連携位取れるだろう」

「いやーどうでしょうね。そこそこ頑張ってる俺ですら四人の部下が限界っすよ?」

「お前の場合はその部下に熱を注ぎまくってるだろうが。たった四人でもそいつらお前の命令なら死すらも厭わねーじゃねーか」

 その言葉に笑う事なく、四人はむしろ誇らしそうにしていた。


「……ああ駄目だ。これギャリシーさん話を聞く気がない奴だ」

「お前らが突撃するの止めたら俺も止めて今から飯を食いに行くさ。何なら奢ってやろうか? 酒と肉位ならな。それとも女でも買うか? 俺の目の届かない場所ならそれも良いぞ」

「そいつはありがたい話でさあね。……聞けないと言う点を除けばですが。一緒に行きましょうか」

 ゲーナの言葉にギャリシーは苦笑いを浮かべながら頷いた。


 ――この人だけは、何があっても絶対にあの場所に返さないと。

 ゲーナはそう考え、ギャリシーに気づかれない様ギャリシーを護る事を最重視する様部下達にハンドサインを出した。




「んでゲーナ。お前何か作戦とかあるのか?」

 クラス南方側に移動を続けている中、ギャリシーがぽつりと小さな声でそう言葉を漏らした。

 答えなど決まっている。

「え? あるわけないじゃないっすか。つかギャリシーさん。俺の考えた作戦とか実行したいっすか?」

「……そりゃごめんだな」

「でしょ? 俺だってごめんですわ」

 ゲーナはそう答え音を出さない様に小さく笑った。


 下手な考えなんとやら。

 それなら考えない方がよほど上手く事が運ぶ。

 それをゲーナは誰よりも理解していた。


 むしろ、考えるならギャリシーか……グルディの方がまだましだった。


「ま、強いて言えば……先手必殺っすね」

 そう言ってゲーナは片手用の投擲斧を見せながら答えた。

「……悪くない……というか他に手段ないな」


 地下施設は人が生きるべき修羅の環境である事を除けば地上よりも強くなる為に必要な物が揃っている。

 それこそ、金とコネさえあれば人体を改造する事や体内の魔力を活性化させる事など禁忌に等しい事も平気で出来る。

 だが、それは金とコネがあればという話であり、実際はそうではない。


 逆説的に言えば……大多数の元にまともな武器が行きわたらないという事である。

 それこそ、地上で言えばムーンクラウン商店が卸している一般的な初心者向け格安武具すら、地下ではごく一部の人しか使えていない。

 武具の質が悪い理由は三点。


 一つは、値段が地上とは違う事。

 二つは、環境、訓練内容共に過酷で武具の消耗が激しくあっさり壊れる事。

 そして三つ……ここは奪う事が正当化されている世界である事。


 現にギャリシーがここに来た時もっていた一流クラスの剣は、開始初日に失う事となった。

 それが地下生活の最初の洗礼だった。

 もしあの時、グルディが『その剣を投げつけろ』と叫ばなければ、ギャリシーは今この場に立っていないだろう。


 武具の質が悪くても、数さえ揃えれば何とか戦う事は出来る。

 だが、盾だけは無理である。

 妙に重く、持ちにくく、そして歪みが強くて変な癖が付きやすい上に、何時壊れるのかわからない。

 そんな盾などない方がマシである。

 特に、今回の相手の様に鉄すらも素手で切り裂く化け物相手に屑鉄の様な盾など、ただの重しにしかなりはしないだろう。


 だからゲーナは作戦こそ考えていないが、戦い方は防御を捨てた二種類に絞っていた。

 真っ先に攻撃する。

 誰かが殺されている時に攻撃する。

 その二つしか、戦う術が残されていなかった。


「まあ、ギャリシーさんがいたら色々出来る事が広がりますけどね」

 ゲーナがそう言葉にすると、ギャリシーは首を傾げた。

「そうか? お前らほどのチームワークは出せないし単体ではそれなりに強いが正直勝てる気はしないぞ?」

「いえ。俺が殺されながら動きを止めている時にギャリシーさんが殺すって選択肢が出来ますので。ギャリシーさんなら動きを止めた相手なら絶対に殺せるでしょう?」

「――俺に仲間を見殺しにしろって事か? いや、そもそもの話だが、お前何かおかしいぞ。そんな誰かの為に死ぬ様な奴じゃなかっただろうが」

 ギャリシーは渋い顔でそう言葉にした。


 そう、ゲーナはそんなキャラでは決してなかった。

 わがままで傍若無人で、ギャリシーのいう事は素直に聞くがそれすらもあまり良しとしない様な、そんな悪い意味でまっすぐな男だった。

 ギャリシーの為とは言え、誰かの犠牲を由とする様な人物では決してなかった。


「ま、俺も成長したって事ですよ。この地下暮らしと……ギャリシーさんの好意によって宛がわれた女によってね」

「……娼婦にやる金をくれてやっただけだろうが」

「それでも、俺にとっては命を捨てても良いって思える位はギャリシーさんに感謝してるんすよ」

 そう言ってゲーナは屈託のない笑みを見せた。

「……女がそんなに良いかね。俺にはわからんし……わかりたくない世界だな」

「……前から聞こうって思ってましたけど……ギャリシーさんって男の人が好きなんすか?」

 ゲーナがそう尋ねると、ギャリシーは曖昧な笑みを浮かべた。

「……どっちだと思う?」

「……俺、ギャリシーさんなら別に……良いっすよ」

 ギャリシーは吐きそうな顔をしてゲーナの脳天にチョップを叩きこんだ。

 ごん。

「ぐぇっ」


「……キモイ事言うな。安心しろ。男に性欲を覚える事はない。つかアレだ。俺は生まれてこの方性欲に苦しんだ事はない」

 唯一の肉親である母に裏切られた時から、ギャリシーにとって愛すべき存在はいなくなり歪み切った。

 だからこそ、ギャリシーはただのクラスメイトを、縁のあっただけの男達を心から支えたいと思っていた。


 出会いはいつだって最悪だった。

 酒に酔って暴れまわり教師か先輩に殺されそうになっていたゲーナを助け弁償代を建て替えた。

 ギャリシーから盗みを働こうとして寄って来たグルディを捕まえ、仲間として迎え入れた。

 仲間達がいじめ殺しそうになっていたクコを助け、献身的に治療した。


 何時だってギャリシーは最初苦笑いを浮かべながら施す側だった。

 施す相手を見失ったギャリシーにとって、ろくでもない駄目な男こそが助けるべき存在であり同胞であった。


「そうですか。それはちょっと安心しましたけど……それはそれで残念ですね」

「あん? まだキモイ事言うなら今度はもっと強くいくぞ?」

「いえ。そうではないんですけどね、男もダメ女もダメでしたら……ギャリシーさんずっと一人じゃないっすか。俺ら皆、ギャリシーさんには幸せになってもらいたいっすから」

「……そうかい。ま、それは良いんだよ。俺にはお前らがいるからな」

 ギャリシーは心の底からそう思い、そしてそう言葉を吐露した。


「……ギャリシーさ――」

 ゲーナはそう呟き、微笑もうとしたその瞬間に……誰かが自分の頭を叩く様な音が聞こえた。

 スキンヘッドである事を気にはしていないが、それでもその頭を軽々しく叩く失礼な奴なんてグルディ位のものだったはずなのに……。

 そしてふとその叩かれた方角を見て……慌ててゲーナはギャリシーを突き飛ばした。


 その方角には、天井と壁の間に器用に立ちギャリシーに狙いを定め跳びかかろうとしていた浮浪者(化け物)の姿があった。


 そしてその浮浪者の動きは予想以上に早く、ゲーナが離脱する余裕はなかった。


ありがとうございました。

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