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4-11話 生きる術、死なない生き方


「ああ。お前が来てくれて本当良かった……。良くまとめられているぞ」

 そう言ってギャリシーはダリアンの用意した小奇麗な資料を手に呟いた。

 これは皆の意見と情報をダリアンがまとめ数時間で用意した物だが、ダリアンがいない時は書き方も内容もぐちゃぐちゃで読みにくい資料を数日かかりで用意していた。


 定例のクラス会。

 地下での授業は極端なまでに自由が制限されている為他所のクラスとかかわる事はほとんどない。

 その為クラス単位で集まる割合が多く、代わりに教師はクラス会に参加する事は稀である。

 単純に、教師が生徒に時間を費やす事への意義を感じないからだ。


 その為、教師はいない大体の時はこの様に生徒だけで集まり今後の地下生活についての対策会を開く。

 その御蔭でギャリシークラスは不要なトラブルを限界まで回避し続ける事に成功していた。


「……ええ。このクラスの方々の情報を元に資料を作成しましたが……これは異常事態ですね……」

 ダリアンは血の気が引いた様な真っ青な顔でそう呟いた。

「ふむ。ダリアン。どこが異常だと感じたか教えてくれ」

 ギャリシーがそう尋ねるとダリアンは頷いた。

「はい。三日で十五人。これだけの死体を、しかも誰かが片付ける前にクラスメイトの皆が発見するなんて……これは明らかに異常です」

 そう、ダリアンは言った。

「いや。それは普通だ」

 そうギャリシーが言葉にすると、クラスメイト全員が頷いた。


「……は?」

「一日で三人から十人死体を見つけた程度ならいつもの事だ。この地下ではな……」

「そんな……。おかしいですよ! なんでそんなに人が……それなのに教師は動かないんですか! これではまるで……」

「まるで学園が人を殺している様だ。か?」

 その言葉に、ダリアンは緊張気味に頷いた。


「……あながち間違っていない。口減らしの意味もあるからな。お前は頭が良いからな、良く考えてみろ。入学条件がめちゃくちゃ破格だっただろここ? 要するにそういう事なんだよ」

 ギャリシーは皮肉めいた笑みを浮かべそう答えた。


 誰でも簡単に入れる、国内最大の冒険者学園。

 それには四つの意図が込められていた。


 一つは、学園上層部の意図。

 強い者を優遇する制度を多くとるという事はわかるが、その意図はわからない。

 ただ、独自の不思議な意図を学園の上の方が持っているとギャリシーは気づいていた。


 一つは、本来の冒険者学園としての意図。

 多くの優秀な冒険者を輩出し国を良くしようとする意図である。


 一つは、ゴロツキの受け皿としての意図。

 無能で学もない人間を最低限レベルで使える冒険者にして国に貢献させる事。

 厄介者を調教する何て言い方が一番適切だとギャリシーは考えている。


 そして最後の一つ、口減らしの意図。

 本当に最低限の、ただ人に迷惑をかけない様気を付けるなんて当たり前が出来ず……冒険者としてすら雇用出来ないと判断した者を、盗賊や山賊等人国にとって迷惑としかならない者を事前に処理する事。


 それが、このアルスマグナ冒険者学園の用途であり、後者二つが裏側の事情である。

 そして当然の事だが、地下施設は後者二つ、特に最後の一つが最も当てはまる様になっている。

 だからこそ、地下施設の命は恐ろしく軽く、例え何百人死んだとしても国が動く事は絶対にあり得なかった。


「……じゃあ……これはこの地下の日常という事ですか?」

 そうダリアンが呟くと、ギャリシーは首を横に振った。

「人が死ぬのはいつもの事だが……確かに異常が起きている。数そのものは大差ない。むしろ少ない位だ。問題は……その死に方だ」

 そう言った後、ギャリシーは六人分のデータをより分けテーブルに投げた。

「この六体……いや、六体分のパーツは俺達のいる場所、この地下では絶対にあり得ない死に方になっている」

 そうギャリシーは言葉にした。

 その六人分の死体のデータには、共通点が多々あった。


「……バラバラ……ですか」

 ダリアンは気持ち悪そうにそう呟いた。

 その六人分のデータは全て、原形をとどめて居ないほどバラバラになっていた。


「バラバラ死体って事なら、別に珍しくないぜ? 試し斬りする馬鹿も人を解体(バラす)のに快楽を覚えるキチもいるからな」

「……では、何がこの六人があり得ないのでしょうか?」

 文字だけで気持ち悪くなっている文章を見ながらダリアンは俯き尋ねた。

「簡単だ。この六体は、目的がない」

「……目的、ですか?」


「ああ。この地下では幾ら殺しても捕まる事はない。だが、それでもリスクが高い行為である事には変わりはないんだ。だからソレを行うという事はある程度の事情がある」

「……例えばどんな?」

「物取り、試し斬りといった良くある理由から、死姦、快楽殺人、食人だな」

 その言葉だけでダリアンは吐き気が限度に高まりえづいた。


「……ダリアン。悪いけどここはそういう場所だ。早く慣れろ」

 ダリアンは涙目となり、嫌そうな顔で心底許容できない様子のまま、それでも確かに、小さく頷いた。


「話を戻す。このバラバラ死体は六体分完全に揃っている。一切の欠損がなく、汚された様子もない」

「汚されたって……」

 ギャリシーは指で品のないサインを出しダリアンに答えを示した。

「……全員男ですよ?」

「それが良いって奴もいるぞ?」

 ダリアンは別の理由で顔を青くした。


「欠損がないって事は一部を持ち帰って愛でるといったそういう趣味や、人前では出来ない魔法の材料等何かの加工の為のパーツ集めではないという事になる。そして快楽殺人の線も……ないな。全く美学がない。そういうのもちょくちょく見るがこれは違う。まるで義務の様に殺している。更にだ……最も異常なのがこの最後の一点、この六体全員の体から武具と財布が見つけられている。つまり……物取りでもないという事だ」

 そのバラバラ死体の財布と武具は現在このクラスにあるが、それを気にするのはダリアン位である。


「……という事は、どうして殺されたのか分からないという事ですね?」

 ダリアンが異常の理由をそう答えるとギャリシーは頷いた。

「そうだ。この地下という環境でそれだけは絶対にあり得ない。廃品回収業者(スカヴェンジャー)が俺達だけとは限らないからな。……おそらく、財布や武具を抜き取られた他のバラバラ死体も同じ状態だっただろうな」

「……うぷ……」

 ダリアンは限界そうな顔をしながら吐き気と戦った。


「……どっかで吐いて来い」

 そうギャリシーが言ってもダリアンは首を横に振り、気持ち悪さと戦い続けた。


「……お前らならこの状況をどう考える?」

 そうギャリシーがクラスメイト全員に提案した。

「悪くない状況なんじゃないっすかね?」

 アフロ男はひょうきんな態度でそう言葉にした。

「……グルディか。どうしてそう思った?」

「簡単ですよギャリシーさん。リスクが上がった代わりに廃品回収(スカヴェンジ)した時のメリットが跳ね上がったって事ですからね」

 その言葉にクラスメイトの半数が頷いた。


 誰かが死ぬのも、その死体を漁るのも、良くある事だった。

 当然の話だが、死体漁りなんて事をしたい者などここにはいない。

 だが、この様に力なき者を含めた集団で生きていく為には、この地下で生き抜く為には手段を選んでいられる余裕はなかった。


「……その意見は絶対的に正しい。だが……しばらくは漁るのは用心しろ。最悪やらなくても良い。やばそうな奴にはいつも以上に近寄るな。ま、グルディには言わなくてもわかると思うけどな」

 そう言ってギャリシーは笑いながらグルディの背中を叩いた。


「と、当然っすよ。俺は安全に、そして確実に稼いでいく男ですからね。安全まーじん? とやらを大切に生きてますから」

 そんなグルディの言葉がどこか楽しく、そして日常に戻って来た様でダリアンは少しだけ楽しくて微笑んだ。


「お? 新入り。俺を今笑ったか?」

 グルディがニヤニヤした様子でそう尋ねるとダリアンは慌てて首を横に振った。

「い、いえ! ただ、グルディさんを見るとどこか安心出来て」

 その言葉に少し考え、グルディは自慢のアフロをふわふわ動かしながら踊り、そして決めポーズを取った。

「まあな! 俺はこのクラスのムードメーカーだからな!」

 そう言葉にするとゲラゲラと品のない笑いと共に、アフロに向かって銅貨が投げられた。

 何枚も銅貨が投げられ、鳥の巣の様になったと思えば全ての銅貨がアフロの中に消えていった。


「すまねぇな。アフロが銭を食っちまった」

 ダリアンは鼻水が出そうなほど噴き出した。


 それがダリアンの空元気で雰囲気作りだとしても、確かに皆、まだ笑う事が出来ていた。



ありがとうございました。

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