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4-10話 ロクデナシ共の絆


 劣悪としか言いようがない汚らしい環境の学園地下。

 汚いものには蓋をしろと言わんばかりに集められたロクデナシによる愚かさの大狂乱。

 美しさを極めた王都の中にあるとは考えられない位醜いものを集めた醜悪なる空間だが……その実力()()は地上にも決してひけを取っていなかった。

 というのも、地下と地上には一点大きな差異があり、それが成長への強力な要因となっているからだ。


 強くなければ生き残れない。

 そんな大自然のルールがあるからこそ、個の力という意味で地下は地上と比べ劣っているという事は決してなかった。


「んで。お前は何が出来るんだ? いや、言いたくないなら言わなくても良いけどさ」

 数日経ってもクラスに全く馴染めない新入りのダリアンとその距離を取っ払うべくギャリシーはダリアンにそう尋ねた。

 馴染めないのはクラスメイトがいじめたりしているわけではない。

 ギャリシーは過去クコの事を後悔しその手の事態にはならない様徹底していた。

 ただし、その気遣いの対象は身内のみだが。


「あ、僕のはこれですね」

 そう言ってダリアンは自分の技術の結晶でもある技術の正体を、惜しげもなく晒した。

 それは簡素な呪文が刻まれただけの、ただのスクロールだった。

「あん? スクロール?」

「はい。ただのスクロールです。僕はスクロールの力を杖を媒体にして使う事が出来ますので」

「……悪い。スクロールとか飯時の炎とかみたいな生活の知恵程度にしか使った事ないから良くわからん」

 ギャリシーの言葉に周囲に見ていたクラスメイト全員が頷いた。

 妖精を媒体にした魔法を使う者がいないだけではなく魔法について知っている者すら地下にはほとんどおらず、スクロールという使い捨ての高価な道具に手を出す余裕がある人物もまたいなかった。


「あ、すいません……」

「いや。謝らんで良いから杖を使う事でどう変わるのか教えてくれ」

 ギャリシーがそう言葉にするとダリアンは頷いた。

「はい。基本的にではありますが殺傷能力が上がります」

「ほぅ。良いじゃないか」

「具合的に言えば起動に使用した用紙とは別の対象に呪文を行使する事が出来る他、威力の微調整、精度の質の向上、変化等の効果がありますね。もちろん幾つか欠点はありますが便利ではあると思います」

「そうか。だが説明はその辺りで良いぞ」

「……ああ。こういう環境ですから切り札の弱点は秘密にすべきと」

「それもあるが……。言っている内容への理解が現時点で俺でギリだ。つまり……俺以外の全員がもう既に何を言っているのかわかっていない」

 その言葉にダリアンは周囲を見渡した。

 既に全員ダリアンの方を見る視線がハテナマークとなっていた。


「……おおう」

「うん。やっぱりお前はここに来るべきじゃなかったわ。……つーかさ、マジでどうしてここに来たんだ? お前比較的マトモに見えるんだけど……。誰かを焼く事に快感でも覚えるのか?」

「えっと……その……言わないと、ダメですか?」

「いや、別に言わなくても良いぞ。その辺は自分で判断してくれ」

 ギャリシーの言葉を聞いた後、ダリアンは周囲を見渡した。

 さっきまで興味を失っていた全員が、ダリアンの方を見ていた。

 その顔には侮辱や侮蔑はなく、ただの好奇心のみのであり、完全なまでに野次馬であった。

 だからこそ、ダリアンは不快に感じなかった。


「……いじめられていまして。それで……」

 その一言で、ダリアンのおどおどした容姿と頑なに非を認めない姿勢について理解が出来た。

「あー。爆発したのか」

「だから……僕は自分が悪いなんて思っていません。ここに連れてこられた事も不当だと思っています。これって悪い事ですか?」

「悪いな」

「何で……だって……僕だって……」

「いや、お前がいじめっ子を焼き殺した事については別に悪かない。つか俺らだって大なり小なり似たような事をしている。虐める方も虐められる方もな」

「……え?」

 ダリアンが周囲を見回すと、クラスメイトは一同に頷いていた。


「むしろやるじゃねーか。やり返してこそだよなやっぱり!」

 クラスメイトからは、そんな賞賛の声すら出て来ていた。


「そう。俺らはこんなだからここにいるんだしそこに関しては何も言わん。だがな、人の多い場所で火はダメだろ」

「……え? そこですか?」

「ああ。そこだ。人の迷惑になる事したら怒られる。当たり前だろ? その当たり前が出来ない俺らが言う事じゃないけどな」

 そうギャリシーが言った瞬間、ドッと笑いが起きた。

「……僕が迷惑を被っている時には誰も助けてくれなかったのに……僕が迷惑をかけると……」

「誰が迷惑かけても駄目なもんは駄目なんだよ。つまり、やるならもっと巧くやらねーと。せっかく能力あるんだから。な?」

 そう言って微笑むギャリシーに、ダリアンは納得出来ずむっとした顔を浮かべていた。


「……一体、僕の何が悪かったのでしょうか……」

「だから迷惑を……いや、そうじゃないよな。はっきり言ってやろうか?」

 ダリアンはこくんと頷いて見せた。

「お前が幼稚なのがいけないんだよ。やるならちゃんと自分で決意して、タイミング見計らってこっそりやり返しゃ良かったんだ。いや、そもそもの話、上の世界にいたんなら証拠握って教師でもチクれば良い話だったんだよ。自分から何もせずに助けて助けてって周囲に察してオーラ出して、助けて貰えなかったから被害者ぶって悪い事して、誰かに同情してもらえると思ってるその幼稚さがお前の悪だ」

 それは図星以外の何もでもなく、ダリアンは何も言い返す事が出来なかった。


 誰かが何とかしてくれる。

 そう思って、助けを呼ばなかった。

 誰も助けてくれなかった。

 だから、周囲皆の所為にした。

 僕が人を殺したのは、周りの所為だと……。


 結局の所、もっと方法はあったのに、勝手に我慢して、勝手に爆発しただけである。


「……それでも、僕が悪いとは思えないのは……僕が幼稚だからでしょうね」

「そうだな。だが……生きてる奴は皆そんなもんなんだよ。俺は悪くない。お前が悪い。そう思う事は別に間違いじゃない。ま、出来るだけ早くお前が上に戻れる様頑張るからお前も諦めずに頑張れや」

 ギャリシーが笑いながらそう言葉にし、ダリアンの頭をポンポンと叩いた。


「そうだそうだ! 俺らも馬鹿だが協力するぞ!」

 周囲はワイワイとそんな事を口に出し楽しそうにしていた。


「……どうして……皆さんはどうして会ったばかりの僕にそこまでしてくれるんですか? 正直皆さんは他人の事なんかどうでも良い様な人達かと……」

 ダリアンがそう尋ねると取り巻きの一人であるグルディがダリアンの前に出てきた。

「俺らの考えはそりゃ簡単だ。これは俺の言葉じゃなくて、俺らの総意と思ってくれて良いぜ。『ギャリシーさんがそう望んでいるから』だ。確かに俺らは屑で、他人を餌か敵かにしか見ないロクデナシだ。だが、ギャリシーさんだけは違う。俺らの事を本気で思いやってくれてるし、この人なら信じても良いって、俺らは本気で思ってる。そのギャリシーさんが言った事に協力するのは俺らにとっちゃ当たり前の事なんだ」

 その言葉に、クラスメイトは誇らしそうに頷いた。


「……あー。俺もお前らと大差ねーぞ。俺も知らない奴なんてどうでも良いし女は皆死ねって思ってる性格破綻者だ。だが、クラスメイトになったお前らは別だ。ダリアン。お前を含めて俺はこのクラスの皆を心の友だと思っている。それこそ……命を賭けても良いと思えるほどにな」

 ギャリシーは、はっきりとそう言葉にした。

 それは上っ面やただの恰好付けた言葉ではなく、心の底からそう思っていると、新入りのダリアンすらが理解出来る事だった。


 それはただギャリシーの情が深いというわけでなく、家族や女性に愛情を見いだせない歪み切った性根のギャリシーだからこそ、同じ様な性根の彼らにギャリシーの気持ちが届いていた。


「……ま、お前を上に上げたいのにはもう一つ理由があるけどな」

「え、な、何ですか?」

「いや……お前、ぶっちゃけこの地下に長い事いたら死んでしまう。正直な、お前が生きていける環境じゃないわココ」


「あー」


 周囲から、そんな同意としか取れない声が幾つも響き渡った。

 どれだけ力があろうとも、性格が内向的という一点だけで食い物にされる。

 地下という場所はそういう場所だった。

「とりあえずダリアン。色々使えるみたいだしお前の得意分野は考える事で良いよな? スクロール改良とかしてる辺りで正直そう期待しているんだが」

「あ、はい。多少ですが錬金術や呪文秘紙学などを学んでいますしそれ以外でも……その……失礼ですが皆様よりは多少は……」

 そうダリアンが言い辛そうに呟くと周囲がゲラゲラを品のない笑い声を奏でだした。


「おいおい。多少じゃ困るぞ多少じゃ。俺らの馬鹿さ加減舐めてないか?」

 その言葉で更にドッと笑いが広がった。


「……冗談じゃなくて、マジでやばいからな。俺が一番マシな時点で……。割と本気でお前にゃ俺らの穴埋め期待してるぞ」

 そんなギャリシーの言葉と、周囲の暖かい空気。

 それはダリアンが地上の世界でも味わった事のない、優しい空気だった。


「……グルディ、ゲーナ。わかってるな? 前と同じ事したら、今度はガチでお前ら殺すからな?」

 ギャリシーから冷たい、刃の様な殺意を身に浴び、二人は顔を青くしながら直立不動で頷いた。

「……な、何かあったんですか?」

 ダリアンがそう尋ねるとギャリシーがどう答えようか悩み困った表情を浮かべた。

「……あー。そうだな。こいつらが馬鹿やった所為でダチを一人失った……ただ……光ある地上の世界にダチ送り出せたから悪い事じゃないんだが……まあ気にするな」

 そう言ってギャリシーは寂しそうに笑い、強引に話を打ち切った。




「とりあえずだ。目下のやるべき事を考えようじゃないか。参謀兼書記兼アイディアマン兼頭脳労働担当。何か意見はないかね?」

 細身のアフロ男グルディはぽんぽんとダリアンの肩を叩き、メモ用紙を手渡しながらそう言葉にした。

「……あの、もう少し具体的に」

「ここの生活。やばい。対策取らないと、死ぬ」

「……ではどうすれば良いですか?」

「それを考えるのが、お前の仕事だ」

「え、ええー……」

 ダリアンは困った顔をして助けを求める様に周囲の、他のクラスメイトの顔を見た。


 全員が、期待に満ちた目でダリアンを見つめていた。

 ダリアンは人生で初めて、他人から期待された。

 ただ、何に期待されているのかも何を言えば良いのかもわからない状況だった。


「……あー。まあ、うん。とりあえず最初にやらないといけない事は決まってるんだ」

 ギャリシーは助け船を出す様にそう言葉にした。

「それは何ですか?」

 ダリアンはメモの用意をしながら尋ねた。

「お前用のスクロールの安定供給だ。流通ルートが地上(あっち)地下(こっち)では全然違うからな。コネとかないだろ?」

 ダリアンは頷いた。

「ここって刑務所の様な場所ですよね? 手に入るんですか?」

「ああ。金さえあれば割と何でも」

「……ぼったくられたりとかは?」

「まあ、その辺りは探す人次第だな。信用出来るなら多少ぼったくられても良いし逆に言えば信用出来ない売人はぼったくろうとくるまいと手を出さない」

「……その辺りは任せます。確かに、僕はスクロールがないと無力ですので」

「おう。どういったスクロールが必要かメモっとけよ」

「はい。……なるほど。つまり戦力強化がこの作戦会議の主な内容という事ですね?」

「ああ。情報共有と戦力強化、それに危機への対処だな。その時その時で何が危険か変わるしな。お前も何か意見があれば遠慮なく言ってくれよ」

「なるほど。わかりました。がんばります」

 そう言ってダリアンが言葉にすると、周囲の皆がダリアンを励ます様に褒め称え、ダリアンを応援する様にパンやエールを貢ぎ物の様にダリアンの傍に置きだした。


ありがとうございました。

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