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4-5話 堕ちた者共


 アルスマグナ冒険者学園は普通の学園と異なり町が丸々入るほど広く、その上今でも拡張を繰り返している。

 元々学園であったのは山だけだったのだが、現在では山周囲全ての土地が学園と化しており、そして完全な街化している。

 その規模も並の発展した街とは比べも物にならないほど広く、そして活気づいていた。

 そう、どんどん外に広がっているという状況である故に普通に学生をしている者は外部に目がいきがちとなる為、気にも留めていない秘密の施設が幾つも存在している。

 その内の一つが、地下施設である。


 普通の学生であるならば、地上が広く拡張されている為山の中に地下施設があるなんて考える者はほとんどいなかった。


 ではなぜその様な施設が必要なのかと言えば、それは隔離の為である。

 アルスマグナ学園は王都の中に存在しており、また国が直々に金銭等の直接支援を行っている為、多くの貴族、王族が視察やスカウトに訪れる。

 そうなるとその成果を、国が期待している出来の良い冒険者を出来るだけ綺麗な形で見せなければならなかった。


 だからこそ、表側には絶対見せてはいけない質の悪い冒険者を隔離し育てる施設が必要となっていた。

 アルスマグナ学園は例え素行が悪く問題をしょっちゅう起こす様な人種であっても、育てるのを見捨てる事はない。

 しかし、それは決して慈悲や慈愛の様な優しい気持ちであるからではない。

 学園を管理する者達は、ただ単純に切り捨てるのは()()()()()()と考えているからだ。




 もしも地上にある施設を表であると言い表すならば、地下(そこ)は学園の裏側であると表現しても良いだろう。

 アルスマグナ学園第三エリアの居住区内には、見張りが立ち、通行禁止となっているエリアが存在している。

 そしてそこにある長い下り階段を降りた先には……地上と同じ様に居住区と教室、その他トレーニングルーム等の設備が用意されていた。

 その外界と区切られた場所、自然の光が入らない場所。

 そんな裏側の地下施設に、現在ギャリシー達はいた。


 この地下施設にいる学生というのは学園内で重度のトラブルを犯した者、並びに純粋な犯罪者である。

 その為、地上の施設とは全く違う教育方針やカリキュラムが用意されていた。


 例えば、三か月課題をこなせない場合地上では卒業となり自由になるが、地下の場合は持っている物を全て取られ王都から追放される。

 身に着ける衣服を除いたら、学んだ事も、武具も全て没収となる為、それは実質の死刑宣告に等しい。


 それ以外にも授業は選択出来ず強制で受けさせられ、また課題をこなす為であっても地上に出るのも許可と厳密な荷物チェック等があり容易な事ではない。

 そんな刑務所に剣闘用奴隷の様な生き方が追加された地下施設の為恐ろしく厳しい場所なのだが……それでもここに来た者の大半の性根は特に変わる事はなく腐ったままである。

 というよりも……そんな簡単に性根が変わらない様なロクデナシばかりが集まるのがこの地下施設の特徴だった。


 八割のロクデナシと一割の屑、そして残り一割の精神異常者。

 そんな集団を集めて閉じ込めたからと言ってまともになるわけがなく、むしろ腐ったミカンが集まりより腐っていくだけとなる劣悪な環境となってしまっていた。

 地上施設と地下施設では食事の質、授業の内容、依頼について明確に地上と差別されているが、一番の差異はもっと別で、根本的なところにあった。

 それは命の価値である。


 地下施設の命の価値は紙切れよりも軽い。

 地上では冒険者であっても学園生であるなら大事件であると報じられ、厳密にその原因が調査される。

 そんな地上と違い、地下では特に理由もなく人が死んでいっている。

 強盗、略奪といった狂暴な内容だけでなく、目があったから殺したなんていう事すらあり得たし、何なら酒の飲みすぎで死んだ馬鹿もいた。

 それが問題にならない上に、地下では教師が生徒を理由なく殺しても何の罰則も与えられない。

 むしろ、それら命のやり取りすらも地下にとっては生きる為の重要なルールとなっていた。


 教師に逆らったら殺されるから反抗するなら準備をしてから。

 喧嘩は相手を選んで行え、命を守りたいならプライドと金は投げ捨てろ。

 それでも死ぬ時はあっけなく死ぬから出来る事、やりたい事はやっておけ。

 そんな生物としての原初のルールがここ地下施設には今でも当然の様に存在していた。

 

 はっきりと言葉にしてしまえば、ここは社会不適合者で蠱毒を行い性格度外視で能力を厳選する施設であった。



 地下の教室の場合は、一クラスに大体五人から十人程度の生徒数となるのだが、ギャリシー、グルディ、ゲーナのいるクラスの人数は今や二十人にまで膨れ上がっていた。

 ここでの生徒は消耗品に近い為、入れ替わりが早い。

 それは過酷なトレーニングを行ってという理由もないわけではないが、基本的な理由はその彼らがロクデナシだからである。


 クラスに気に入らない奴がいたから殺した。

 偉そうな奴がいたから殺した。

 教師が気に入らないから殺しに行って返り討ちにあった。


 そんな頭の悪い事を考える馬鹿の数が地下行きの過半数である為、生徒の入れ替わりは恐ろしいほどに早い。

 だが、このクラスだけは少々事情が異なっていた。

 何故ならば、ギャリシーがこのクラスの代表としてクラスメイトを纏めているからだ。


 馬鹿な行動はせず、生き残るだけでなく将来を見据えて皆で強くなり、幸せとなる。


 そんな地下施設に(ここ)来る様な人間では絶対に考えない様なマトモな夢をギャリシーはクラスメイト達に与えていた。


 人間としてはマトモとも決して言い難く、屑で悪人な事に変わりはないが……それでもギャリシーは確かに人を率いて上に立つ能力があり、そして誰かの為に頑張る事が出来る人間であった。

 



 取り巻きの一人である男、元クラスメイトのグルディは自慢のアフロをふわふわ揺らしながらギャリシーのいる席まで走った。

 小さい体に不釣り合いなほど巨大なアフロ。

 その姿はまるで飼い主の元に駆け寄るの何等かの犬の様であった。

「ギャリシーさん! 情報仕入れました。どうやらうちに新入りが入るみたいですよ」

 そうグルディから聞かされたこのクラスのボスであるギャリシーは眉を顰めた。

 すらっとした細身にそこそこの顔立ち、吟遊詩人どころか結婚詐欺師としても通用しそうな風貌を持ちつつ、その男からはどこか普通に生きたら絶対に得られない様な凄みが放たれていた。

 それはまるで暗殺ギルドや盗賊ギルドの幹部の様な雰囲気であり、本来なら人を寄せ付けない何かではあるのだが……ロクデナシ共にとってはカリスマ性となりギャリシーの周りには常に屑とも言える様な存在が数人以上群れていた。

 それをギャリシーはうっとおしいとは思わず、むしろ女嫌いのギャリシーに取って自分と同じ屑であり、そして男性の仲間は非常に好ましい存在であると言えた。


 何時も不機嫌そうな表情を浮かべているギャリシーだがそれがギャリシーの素の表情である。

 だが、その報告を聞いた時には本当に不機嫌となっていた。

「はぁ? この前来たばっかだろ? どうしてだよ? つか何で他のクラスじゃなくてウチに回すんだ……」

「いえ。他のクラスも増員されているみたいですよ」

「はあ……俺達が言える事じゃないけどさ、世の中には屑が多すぎる」

 そう言ってギャリシーは今後の苦労を考え苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。


 クラスメイトとして来るのは基本、ロクデナシか屑か異常者だけである。

 だからこそ、誰が来たとしてもクラスメイトを纏めているギャリシーには必ず面倒が差し込む。

 これがこの二十人の様にギャリシーのカリスマ性とリーダーシップに乗り、仲良くとは言わなくとも協力さえしてくれたら多少苦労しても全然良い。

 ギャリシーも自分の様な屑仲間が増えるのは何時だって歓迎している。


 だが、現実はそうではなく、過半数はギャリシーの思う屑よりも更に下の存在ばかりである。

 己こそが至高であるから貴様らは俺に従えと言うような自意識の高い愚か者や、後先考えず好き放題するロクデナシ共。

 自分だけ幸せになれたら良いという発想を否定するつもりはないが、その為に努力を一切しない為相手との力量を見るだけの目を持っている奴は基本いない。

 だからここにきてその日の内に殺される割合は三割を超える。


 それよりも最悪なのは、ギャリシーが全く理解出来ない奴らである。

 火が好きだから人を焼こうとする奴や、全裸になる事で興奮を覚える様な何をしでかすかわからない性格破綻者。

 こういう人種は理解に苦しむだけでなく、はた迷惑な事に色々と能力も兼ね備えている。

 その為、異常者は他と違い処理するのも非常に面倒だった。


「んでグルディ。どんな奴だった?」

「えっと……ギャリシーさんほどではないですがまあ容姿が整っていましたよ?」

「そうか。服装は?」

「普通の服装でした」

「お前らの普通か? それとも社会一般の普通か?」

 ギャリシーは威圧的な恰好が当たり前の盗賊スタイルを好むグルディにそう尋ねるた。

「まじで普通の方です。ぶっちゃけそこいらの町に歩いている平民みたいな感じでしたよ。何か死ぬほど地味で特徴もぱっとしない雑魚ですね」

「そうか……。最悪かもしれんな」

「え? 普通の方がありがたくないっすか?」

「良いか? こんな場所に来るのに普通の恰好しているって事はな、逆にやばい奴の可能性が高いんだよ」

「な、なるほど?」

 良くわかっていないらしくグルディは何となく納得した様なそぶりを見せた。


「……ま、何かあれば俺達がギャリシーさんを守りますから大丈夫ですよ」

 そう言ってスキンヘッドの大男、ゲーナは自分の胸をどんと叩いた。

 その後ろにはゲーナの子分らしき男も笑顔で頷いた。

「そうか。だがお前らはお前らで自分の命を大切にしろ。やっと人生楽しくなってきたんだろ?」

 そんなギャリシーの言葉にゲーナは嬉しそうに頷いた。


 グルディはここに来る前と後で大した変化も成長もなく、ギャリシーはどこにいてもその性格も、考え方も何一つ変わらない。

 ただし、ゲーナだけは大きく、それも良い意味で変化していた。


 女性相手に下劣な事を繰り返していた為体格と能力があっても誰にも好かれていなかったゲーナだが、今では部下を持ち、ロクデナシの中ではかなりマシな部類となっている。

 その理由は非常に単純であり……ゲーナはこの地下施設に来るまで、童貞だった。

 どれだけ偉そうな事を言って、いかにも女性を山ほど襲った様なそぶりをしていながらもそういう経験は一切ない。


 が、ゲーナはこの地下施設で遂に卒業を果たした。

 金を払ってのそういう事ではあったが、それでもゲーナの中にある何かが変わるには十分な理由だった。


「んでちょっと聞きたいんだが、お前ら……そうだな、ゲーナ団はここを出たらどうするんだ?」

 そうギャリシーに聞かれ、ゲーナとその子分は首を傾げた。

「どう……とは?」

「いや、お前らはこの糞みたいなクラスの中でも伸びが良い。全員が体格に恵まれ、真面目に肉体を鍛えている。おつむの方はそこいらの虫の方がマシなほどだが、それでもお前らはしっかり群れる事が出来ている。だからこそ、今の内になりたい者を考えておけよ」

 そう言われ、ゲーナは非常に困った。

 ずっと、いつまでもギャリシーの子分でいるのがゲーナの考えていた未来だったからだ。

「……ギャリシーさんはどうするんです?」

「……俺か?」

「はい。俺らの中で最強で、俺らの中で一番頭が良くて、そして一番男気のあるのはギャリシーさんです。そんなギャリシーさんは将来何がしたいんです?」

 そう言われ、ギャリシーは困った顔で笑った。


 地下施設が酷い場所なのは確かだが、一応地下施設だけの恩恵も存在している。

 それは主に二つで、一つは表に出来ないような技術も覚えられる事。

 毒などの危険物から窃盗の方法、果てには暗殺の技術、そんな倫理や道徳を無視したものも学ぼうと思えば学べる……というよりも、学ばなければこの地下施設では生き残る事すら困難である。

 そしてもう一つの恩恵、それは将来の職場である。


 地下施設の物が卒業出来たという事は、一応で僅かであってもマトモな部分が存在し仕事を行うのに問題がないと判断された事になる。

 それはつまり、やばい技術を覚えた使い捨て出来る人材に成れたという事だ。

 その為、表では絶対に口に出せない様な暗部の職場からすらここからなら就職する事が可能だった。


「……俺は……悪いが何も考えてない。一つだけ希望はあるが……それは職場への希望じゃないしな」

「どんな希望っすか?」

「女がいない世界」

 いつもの声色であったが、そんなギャリシーの一言には背筋が凍える様な冷たさが籠っていた。


「……お前ら、どこで女作っても構わないし女と仲良くする為俺と決別しても構わん。本気で応援してやる。だが、俺の前に女を出すな。それだけは守ってくれ。お前らに嫌われたくないからな」

 ギャリシーが悲しそうにそう呟くと、その場にいる全員が、しっかりと頭を動かした。

 このクラスには一人たりとも女性がいない。

 クラスメイトとして数人ほど編入したにもかかわらずだ。


 だからこそ、クラスメイト全員がギャリシーにとって女性の話は禁忌タブーであると、痛いほどに理解していた。





「はいというわけで貴方達社会のゴミに一人新しいゴミ仲間が追加されました。短い間でしょうが生きている間位は仲良くしてあげてくださいね」

 色白で背の高く若い男性はニコニコした顔でそう言葉にした。

 それに対してギャリシー達クラスメイトは何も言い返さなかった。

 いや、逆らうとマズいという事を良く理解していた。

 ただし、それを知っているのは元々クラスにいた人物だけである。


「すいません。私、どうしてここにいるのかわからないのですが」

 そう言って新しくこのクラスに配属された男性はそう言葉にした。

「はい新入り屑のダリアン君。それは君が屑だからですよ」

「いえ。ですが私ただ喧嘩しただけですし……」

 そう言葉にするダリアンを見て、ギャリシーはそっと手を上げた。

「すいませんイースさん。こいつが入って来た理由を教えて頂いても?」

 ギャリシーの言葉に担任であるイース・キリキアはニコニコ顔のまま頷いた。

「はい。この屑は地上の、しかも室内の喧嘩で炎の魔法をぶっぱなし、喧嘩相手に重度の火傷を負わせました。しかも喧嘩の理由はこの屑が列に割り込んで、相手がそれに抗議したからです」

 そう言われ、ダリアンは少ししょんぼりした。


「確かに列を抜いたのは悪かったですけど……あそこまで怒る事はないでしょう。ですから私は被害者です」

 はっきりと、ダリアンはそう言い切った。

 ギャリシーは一割の悪い方が来た事に溜息を吐きたくなるのを堪えた。


「というわけで屑山の大将さん。何とかなりそうならいつも通り、無理でもいつも通りお願いしますね? その代わり多少は融通利かせますから」

 そう担任に言われ、ギャリシーは作り笑いを浮かべ頷いた。

 本音を言えばふざけるなと言いたいのだが、それを言える実力差でない事を、イースから直接戦闘指導を受けているギャリシーは良く理解していた。


「先生。私はいつこの誤解が解けるんですか?」

「誤解も何も君は屑です。出られる時は大金か膨大な功績を稼いだ時か、それか死ぬ時位ですよ」

「そんな……なんてひどいんだこの先生は……。私は地上に出て自分の身の潔白を明かします」

 そう言ってダリアンがぽつぽつと小声で呟き、何の前触れもなく唐突に杖を取り出しその杖をイースに向けた。


 杖の先端にある赤い宝石は輝きを放ち、そしてそこから赤い光がぐるぐるとバネの様な挙動を描きイースに向かっていく。

 そしてその赤い光はイースに直撃し、そして盛大に爆発を起こした。

 教室内に響く爆音と煙。

 茫然とするクラスメイトと顔に手を当てるギャリシー。


 そんな中で、爆心地にいるイースは先程までと何も変わらない様子で平然と立っていた。

 体や髪どころか服にすら元のまま、相変わらずイースはニコニコしたままだった。

「ふむ。妖精の様子はない。杖からの魔法。ですがその杖にそこまで力を感じませんし魔石で魔力を補った様子もない。魔法陣でもない。ふむ……」

 イースは分析する様にダリアンの様子を見つめた。


「ぼ、わ、私はここを出るんだ!」

 そう言ってダリアンは、もう一度同じ魔法をイース目掛けて放つ――。

 たが、その時には既にイースはそこにおらず、ダリアンのすぐ背後に立っていた。

 ダリアンの首筋にナイフを当てて。


 つー、とダリアンの首から血が流れる。

 それと同時にダリアンは冷や汗をかき、冷たいナイフの感触に唾を飲み込んだ。

「ええ。屑の割には悪くないですね。どうしてその様な演技をしているかわかりませんがそれは不愉快だから止めなさい。貴方はただの、愚かで凡人な屑です。良いですね。わかったなら頷きなさい」

 ナイフを強く当てられ、ダリアンは首を動かさない様に、ゆっくりと頷いた。

「はい結構。大将さん。この屑はイカれた演技をしていただけで実際はただの物知らずで幼稚な屑です。出来るだけ教育してあげなさい。面白い玩具を持っている様ですので」

 そう言った後、イースは何も言わずその教室をさったと後にした。


「えっと……とりあえず聞くけど……さっきまでの演技だったのか?」

 ギャリシーがそう尋ねるとダリアンはこくんと頷いた。

「……どうして、そんな阿呆な真似したんだ?」

「気がふれていると思われたら……早く出られるかと」

「そうかい。だったら安心しろ。気がふれた奴なら月に五人位、本物が来る。そして、そいつら全員もう死んじまったぞ」

 その言葉にダリアンは顔を真っ青にした。

「……芸が身を助けたな。お前、その力がなかったらさっきので間違いなく処理されていた」

「……僕、どうしたら……」

 オタオタとしながらそう呟くダリアンの様子は、まるで一桁代の子供の様で、ギャリシーは溜息を吐いた。


「とりあえず、俺に従え。悪い様にはしないし……うん、お前ココ向いてなさそうだから出来るだけ早く生きたまま出られる様協力してやるから」

 その言葉を聞き、ダリアンは泣きそうな顔で何度も頷いた。


ありがとうございました。

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