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4-4話 ぱーっといきましょう!(後編)


 フィーネという少々以上にとんでもない爆弾が混じった事により、パーティーは静けさと共に始まった。

 緊張した顔ぶれが集った静寂な空間で、黙々と料理だけが並んでいくその状況はパーティーというよりもまるで鎮魂祭の様であった。

 ただし、基本的に能天気な集団である為その様な寂し気な雰囲気はわずか五分で飽いてきた為終わりとなり、わいわいがやがやとした酒場らしい賑やかな空間に変わり果てた。


 パーティーと言えば豪華絢爛で煌びやかな、貴族としての行事にしか参加した事がないフィーネはこの様な気楽なパーティーに参加出来た事を心の底から喜び、嬉しそうにニコニコと笑い続けていた。




 隅の方で一人酒を飲みながらヴェルキスは食事を取っていた。

 美味い酒、上手い飯、これが嫌いな冒険者などいるわけがない。

 もう一つあると完璧なのだが……ヴェルキスはこれをここで望むつもりはなかった。

 そんなヴェルキスの元に、性別で言えば望み通りな人物が顔を見せた。

「……ありがとね」

 そうミグが呟くとヴェルキスは食事の手を止め、首を傾げた。

「ん? 何の事だ?」

「……えっと……何て名前だったかな? あの、細長い……」

 手でほっそりとした何か表現するミグの動きから想像し、ヴェルキスは死ぬかと思った激戦の相手を思い出した。

「ラケルタか?」

「確かそんな名前の奴」

「それの何に礼を言ってるんだ? むしろ戦っている時はかなり助けられた気がするぞ」

「プランに……色々はぐらかしてくれたでしょ」

 ミグはラケルタを殺してしまった事を悔いていた。

 それは殺しに対してではなく、出来るだけ殺すなとプランに言われていたからだ。

「ああそれか。……あいつはあそこで殺さないといけない奴だった。お前の行動に間違いはないさ」

「それもだけど……私のアレも」

「……ああ……ま、言われたくないだろ?」

「私は気にしないけど……たぶん、言われたらプランが気にしてた。だからその辺も気にしてくれてありがとう」

「良いさ。仲間だろ」

「……でもね、恩義があったらお礼をしないといけないと思うの」

「そうかい。別に気にしなくて良いけど」

「だから……私を抱く?」

 その言葉にヴェルキスは飲んでいた酒を盛大に噴き出した。

「おまっ! 意味わかって言ってるのか!?」

「ん。わかるよ?」

「……もしかしてお前そう言う経験……」

「え? ないよ?」

「ないなら言うなよ!」

 感情とつっこみが追い付かずヴェルキスは半ば混乱しながらそう叫んだ。


「でも……そういう事好きなんでしょ? 特にヴェルキスは」

「……否定は出来ん」

 これが終われば娼館にでも行こうと思っていたヴェルキスは曖昧にそう答えた。

「……だから、喜ぶしお礼になると」

 ヴェルキスは盛大に溜息を吐いた後……。

「ミグ。とりあえず座れ」

「ん」

 ミグはヴェルキスの横にちょこんと座った。

「お前さ、自分を大切にしないとプランは悲しむぞ」

「……大切にってのが……良くわからない」

 普通ではないと思っていたが、まさかここまで感性がズレているとは思っておらずヴェルキスは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

「……そういうのは自分が本当に好きになった人にだけ言っておけ。確かに、様々な事情でそれを行わないと生きられない人もいる。だけどさ、戦う力があって、そういう事に興味のないお前はそうじゃないだろ?」

「……良くわからないけど……止めた方が良いんだね」

「ああ。その意味と価値を知らないと……後悔するからな」

 ヴェルキスは困った顔をしながらそう呟いた。


「……わかった。次からはもう言わない」

「おう。わかってくれて嬉しいよ。……次から?」

「ん。でもお礼になるしヴェルキスは喜ぶし……」

 これが恋心であるのなら、ヴェルキスも少しは考える。

 だが、ミグの様子からはそのような感じは一切してこない。


 要するに、ミグは道理を、人という生き方自体を理解していないのだ。


「お前よほどひどい場所で暮らしていたんだな……」

 その割にはそういう事は未経験らしいし本当に良くわからない。

 わからないが……ヴェルキスは盛大に二度目の溜息を吐いた。


「とりあえず、本音を言うぞ。本来女相手に言えばぼろくそに言われる様な最悪な本音だ。だがお前にはそれ位言わないと伝わらないからな」

「ん。どんとこい」

 何故か自信満々にミグはそう答えた。

「俺の好みはむっちりばいーんなお姉さんだ」

 ミグは自分の背と体形を見比べ、ぽんと手鼓を打った。

「なるほど。大体わかった」

 たったそれだけで、ミグは素直に納得した。


「それとな、冒険者とはそういう事はしない様にしている。後で気まずくなったりもめごとに発展したりで面倒になるからな」

「……なるほど。それは良くわからないけど何となくわかった。でも……それなら私お礼の仕方がわからない……」

 ミグは無表情ながらどこか寂しそうにそう呟いた。


「……じゃあさ、何時でも良いから酒を頼む。とびきり美味い酒をさ。冒険者の礼ならそれ以上の物はないぜ? 特に俺にはな」

「……わかった。私飲まないからわからないけど……良いお酒を探してみるね」

「おう。楽しみにしてるぜ。……後輩に勧めるもんじゃないけどさ、ミグは酒飲めないのか?」

 ミグは首を横に振った。

「飲まないし、酔えない」

「……そうか。んじゃ、ちょっと待ってろ」

 そう言ってヴェルキスは厨房の方に走り、戻って来ると紅い液体をミグに手渡した。


「ほれ。ジュースだ。これなら飲めるだろ?」

 ミグはキラキラした瞳でジュースを見つめながら頷いた。

「ジュースは美味しいよね」

 その言葉にヴェルキスは苦笑いを浮かべた。


 ミグが何歳か知らないが、その情緒の具合はまるで一桁位の年齢の様だった。


「さて、共に戦った戦友に、そして今日生き残った事に乾杯を――」

 そうヴェルキスが言葉にし、グラスをミグに向けた。

「……ん。そして今日も美味しいご飯が食べられる事に乾杯」

 そう言ってミグはグラスを軽くぶつけ、綺麗な音色を奏でた。




「なあヴェイン」

「どうしたテオ」

「何でお前……こんな隅にいるんだ?」

「……宗教関係者は苦手でな」

 フィーネから絶対に見えない様な位置で挙動不審になっているヴェインハットはそう答えた。

 何故かわからないがヴェインハットはフィーネが来てから一度たりとも、その姿を晒していなかった。

「お前が綺麗な人から隠れるってよほどの事だな本当。どうした? 何か悪い事でもしたのか?」

 ヴェインハットが神に敬意がない事も、それどころか利用したりしている事もテオは知っている。

 それでも、帽子とマスクで顔のほとんどを隠しているにもかかわらずのこの逃げっぷりは少々以上におかしく感じた。


「……いや。悪い事はしていない。たぶん……。ただ……ガチで無理なんだ」

「そうかい。まあ詳しくは聞かないでおこう」

「そういうお前も良いのかあっち行かなくて。クリア教の熱心な信者だろテオは」

「……ああ。まあな。だが……あっちに行けるか?」

 そう言ってテオはフィーネの方に目を向けた。

 フィーネを中心にプラン、サリス、エージュの四人が集まり、可愛らしいスイーツを食べながらキャッキャと楽しそうに笑っている。

 正直男が入れる空間ではなかった。


「なるほど。百合の花園に土足で入らないと。お前も俺達の同士だったか……」

「意味わからん。女だけでだべっているとこ言って何を話せば言いんだよって話だ」

「……何だつまらん」

「それに……偉い人過ぎて緊張してな。クリア神に最も近い一族。その時点で小市民である俺にとってはこう……高すぎるんだよ」

「そうかい。……その気持ちはわからんが、まあそういう事なら仕方がないな」

「おう。仕方がない。……という訳で、こっちは俺達二人で食って飲んで楽しもうや。……それとも酒は止めとくか?」

「いいや飲もう。せっかくだし冒険者仲間のミグを……いや、止めておこうか」

 ヴェインハットはヴェルキスにお世話されているミグを見てからそう呟いた。

「そうだな。馬に蹴られて……という雰囲気には見えずむしろ親子にしか見えないが……悪くない雰囲気だし邪魔せず俺達で乾杯しようか」

 そう言った後テオは真っ黒い液体の入った瓶を取り出し、それを大きなガラスコップに二つ注いだ。

「……なんだこの黒いのは、泡が出ているからエールっぽくはあるが……」

「俺の地元のエールだ。すっげえ美味いとかそういう事はなく、平々凡々な味だがとにかく安い。……新入り冒険者らしいだろ」

「……確かにな。それで、何に乾杯するんだ? 打ち上げに皆で参加出来た事か?」

「そうだな……。じゃあ夢を叶える為に……って思ったが、止めておこう」

「どうしてだ? 結構良いじゃないか?」

「じゃあさ、お前の夢って何だ?」

「ハーレム」

「そんなのに乾杯したくねーよ俺」

「じゃあ、テオの夢ってのは何だ?」

「そうだな……。言っといて何だが特にないわ俺。今が楽しければそれで良いって思ってる位適当な人間だからな」

「つまり、今が楽しいって事だな」

「そりゃそうだ。無茶苦茶ばかりでしんどくで、いつ死ぬかわからんが、それでも楽しいんだよ。お前もそうだろ?」

「……ま、お前らと冒険するのは楽しいな。じゃあ……この楽しい刹那に乾杯で」

「そうだな。今に乾杯」

 そう言って二人は鈍い低音の乾杯を鳴らした。




 夜中にもなった頃――長時間話しすぎて喉が疲れ、フィーネ達から離脱して一人で歩いている時、プランは周囲の異常に気が付いた。

 いや、それは異常というよりも。ある意味においては正常な事であり、冒険者にとってそれは当然でもあった。


 ワイワイと騒ぎながら、何も気にせず後先考えずに酒を呷りまくる。

 そんな飲み方をしてしまえば、どうなるか一目瞭然だった。


 やけに静かだなと思ってみた周囲を確認したプランの目には、ぐちゃぐちゃになったテーブルと酔いつぶれたテオ、ヴェインハット、ヴェルキスの姿があった。


 テオとヴェインハットは「うぇへへへへ」と気持ち悪い笑いをあげながら恐ろしく近い距離でニヤニヤと意味のない言葉で会話……というよりも何等かの交信を行っており、ヴェルキスに至っては完全にダウンして椅子に座ったままいびきをかいている。

 ついでに何故かミグがその横で肩を寄せて眠っていた。


 あまりに外見の差が酷い為男女で肩を寄せ寝ているにもかかわらずいやらしい意味には一切取れず、まるで親子……というよりも熊と猫が並んで寝ている様である。


「……うへぇ。こいつはひでぇや」

 プランは乾いた笑い浮かべながらぽつりとそう呟いた。

「ま、冒険者の打ち上げにしちゃ大人しい方だろ」

 そう言葉にしたのはクコだった。

「ありゃ。クコ君は飲まなかったの?」

 その言葉にクコは苦笑いを浮かべた。

「今飲んだら死ぬわ。まだ治りきってないんだよ」

「そいやそうだったね。……ご飯、美味しく食べれた?」

「おかげ様でな。……いや、マジでびっくりだわ。俺小食な方なのにな」

 そう言ってクコは空になった大皿を三つ指差した。

「おお。それは良かった。食べなきゃ治らないからねぇ」

「……まじで差し入れとかしてくれねーか? 金払うから」

「材料費で手を打ちましょう」

 プランはえへんと胸を張ってそう答えた。

「……お前は本当に……。なあ、ついでに筋肉付きやすい食事とか心当たりないか?」

 そう尋ねられたプランは少し考え込み、そして首を横に振った。

「ごめん。私味重視で考えてた。一応栄養とかは多少考えていたけどそこまでは考えていなかったな。……肉とかかな?」

「俺もわからん。今度調べてみるか」

「わかったら教えてね。料理で強くなるってちょっと面白いわ。……ああ。そう言えばワイバーンの心臓を食べると強くなるって言うよね」

「ああ。言うな。ちなみにな、俺以前買って試した事あるんだけど……」

「……私、オチ知ってるよ」

 そうプランが言葉にするとクコは無表情となり、二人は一定時間見つめ合った後、我慢出来ずに笑い出した。


「あれひでーよな。俺なけなしの金払ってあの結果だぜ?」

「ふふ。でも嘘はなかったでしょう。顎は相当強くなったでしょ?」

「十時間かけて何とか一切れ食ったぞ。翌日顎が筋肉痛になったわ」

 そうクコが言うとプランは噴き出し笑った。

 それを見て、クコも笑った。


 ワイバーンの心臓は恐ろしく硬い。

 それを食べたら顎が鍛えられる位に硬いという話が何故か面白おかしく脚色される事により、ワイバーンの心臓を食べると強くなるといううわさ話へと変わっていた。

 そして、その噂が今後なくなる事はない。

 騙された先輩冒険者が面白おかしく広め続けるからだ。


「あー面白。でも、私食べた事ないから食べてみたくはあるんだよねぇ……お金払ってまではちょっと嫌だけど」

「止めとけ止めとけ。一切れ噛みきるのに数時間かかったぞ。ありゃ人の食うもんじゃねぇ」

「そっか。そんな人の食べる物じゃない何かにクコ君は大金を払ったんだね?」

「おう。その時の全財産をな。だから尚の事、情報の大切さが身に染みたぜ」

 そう答えると、二人はもう一度馬鹿笑いをしてみせた。


「……クコ君」

「あん?」

「これからどうするの?」

「どうするのってどういう事だ?」

「いや。これからも冒険者も、学園も続けるんでしょ?」

「そりゃそうだ。まだ学び足りないにも程があるしな」

「……うちのパーティーに――」

「断る」

 プランが言い終わる前に、クコは拒絶するかのように言葉を遮った。

「……どうして?」

「色々と理由はあるが……一番の理由はそれじゃあ意味がないからだ」

「でもさ、情報とかそういうのウチのパーティーじゃわからないから私達は助かるし……」

「それなら情報屋として適正な金額で俺を雇えば良い。その方が合理的だろ」

「……もうさ、気にしなくて良いんだよ?」

 プランはクコが以前の事を気にしていると思い、そう言葉にした。

 プランはそれを罪だと思った事はないが、それでも、クコは十分にその償いを終えた。

 そうプランは思っていた。


 皆を助ける為一人犠牲となり、ボロボロとなった後もアップルツリーに単独で乗り込み無茶をしてみせた。

 もう十分に、ここにいる誰もがクコを一人前の冒険者であり、そして仲間だとは認めている。

 ただし、たった一人、クコ本人だけはそれを認めていなかった。


「いいや。まだ駄目だ。今俺が気を緩めたら、何よりも俺が俺自身を許せない」

「あーそうですか。本当……男ってめんどくさいね」

 プランは苦笑いを浮かべながらそう呟いた。

「悪かったな面倒な奴で。ついでに言っとくが、例え大丈夫だとしてもお前のパーティーには絶対に入らないぞ」

「えー。何でー?」

「女だけのパーティーに男俺一人とかぜってー嫌だ」

「私は気にしないよ?」

「俺が気にするんだよ。針の筵じゃねーか」

「……大丈夫だよクコ君なら」

「意味わかんねーよその慰め。……ま、何とかするから心配すんな」

 その言葉にプランは不安そうな顔で頷いた。

「うん。でもさ、困ったら言ってよ」

「……今は病院の飯が不味い事が困ってる事かな」

「……ああ、うん。差し入れに行くから病院の位置教えて」

「…………助かる……まじで……」

 どうやらその病院はよほど酷い食事情らしくクコは遠い目のまま悲しそうにぽつりと呟いた。

 


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