4-3話 ぱーっといきましょう!(中編)
夕方時になると一足先にサリスとヴェインハットがプランのいる調理場に姿を見せた。
理由は当然、狩った獲物を渡す為である。
「……ああ。俺は今日という日……」
そう呟くヴェインハットの目はまるでクラス担任の様に死に切っていた。
「サリス、何があったの?」
「ああ。『競争しようぜ。勝った方が負けた方に一つ命令をして良いぞ』って条件だして、んで俺が勝った」
ドヤ顔でサリスはそう言い切った。
「……狩りの勝負だよね?」
「おう」
「……ヴェイン。本職の狩人だよね?」
「おう」
「……良く勝ったね」
「勝負事ってのはこう不利からの大逆転があるから楽しいんだ」
そう言ってサリスはニシシと笑って見せた。
「サリスはギャンブルしない様にしようね。すっからかんになる未来しか見えないや」
「それはまあその時次第という事で。んで、これから作るんだよな? 何時間後位に来れば良い?」
「そうだね。あんまり遅くてもアレだし四時間後で」
「あいよ! ヴェイン。命令だ。飯食う前の腹ごなしに付きあえ。体動かしに行くぞ」
そう言ってサリスは元気良くヴェインハットを引きずりトレーニングルームに向かった。
「お似合い……には見えないけど……まあ二人共楽しそうだし良いか」
プランは微笑みながら二人の背を見送った。
「よ、よう。少し早いがお邪魔するぞ」
おずおずと、少々遠慮がちにしながらクコはその建物に入場してきた。
「お! クコ君! もう怪我は良いのかな?」
その言葉にクコは苦笑いを浮かべた。
「君付けは止めてくれ」
「あーごめんごめん。でも君とギャリシー君はどうしても気を抜くと君付けしちゃうんだよねぇ」
「……あの人相当年上だぞ」
「それでも、何となくね」
「良くわからんなそれ。怪我は……ぶっちゃけ微妙だ。治癒速度も才能の内なんだろうねぇ」
そう言ってクコは苦笑いを浮かべた。
「いや、無茶をしたから治るのに響いているだけでしょ」
「耳が痛い話だ」
そう言いながらクコはプランに紙袋を手渡した。
「……これは?」
「土産だ。使うだろ?」
「……開けて良い?」
「というか今開けないと意味ないな」
その言葉にプランは首を傾げながらもらった紙袋を開け、そして納得し頷いた。
そこには調味料が入っていたからだ。
砂糖、塩のちょっと質の良い物から少々高級なスパイス等なくても困らないがあるととても便利な物が山ほど入っていた。
「わぁおー。良いね! やるじゃんクコ!」
「ま、これくらいはな。というわけでしばらくここで待たせてもらうぞ。病室は飽きた」
「無理しないようにね。後、今からなら相当待つけど暇じゃない?」
その言葉にクコは手に持っていたカバンの中身を見せた。
そこにはぎっしりと、新聞らしき紙束が入っていた。
「……うわ。すっご」
「能力ない分情報でカバー。それが俺のやり方だ。というわけで暇にゃならんし怪我と未熟で手伝っても足引っ張る未来しか見えないからしばらくここで楽にさせてもらうぜ。」
その言葉にプランは頷き、そっとヨーグルトラッシーをテーブルに置いてプランは調理を再開した。
プランは背後から新聞のめくれる音だけが響く中、鼻歌を歌いながら調理を続けある事に気が付いた。
「……新聞読む男の人に調理をする女の人って……何か新婚ぽいね」
その言葉にクコは咽るほど噴き出し、そして嫌悪の表情を浮かべた。
「止めてくれ。お前とは死んでもごめんだ」
「えー。そんな嫌われる様な事した私?」
「いや。お前自身を嫌ってはいないぞ。ただ、単純に生理的に無理だ。お前も俺は嫌だろ?」
「いや。別に嫌じゃないよ?」
「じゃあ……もしかして俺に気があるのか?」
「いや、全くないよ?」
その言葉にクコはこめかみをピクピクさせた。
「お前は本当に……」
そう言った後、どうせ言っても無駄であろうと思いクコはわざとらしく溜息を吐いて資料を読むのに戻った。
「ねークコ君」
「なんだよ」
「……何か面白い話して」
「……唐突だな」
「いや、丁度単純作業に入りまして暇になってきました。邪魔しない方が良かった?」
「いや。むしろお前らの内誰かに話そうかと思っていた仮説がある。楽しいか知らないがまあ……意義はあるんじゃないかと思うぞ」
「ほほーう。難しくない話にしてね?」
「どっちかと言えばゴシップよりの話だ」
そう言った後、クコは自分の調べた情報を、少しだけ自慢げにプランに話しだした。
それはガダルスナの話である。
ガダルスナで女の子が拉致られ、それを男の子が命がけで守った。
その二人をプラン達が盗賊から助けたからこそ、ガダルスナの町長シュウはプラン達に対し借りを覚え助けに来てくれた。
一応恩義以外にも冒険者達と協力して盗賊を退治するという考えもあったのだろうが、それにしてもその時のシュウのフットワークの軽さと行動の手熱さは異常だった。
そこで少し話を戻るのだが、少女を命がけで助けたその男の子は母親と二人暮らしである。
父親が誰かわからない。
それ事体は別に良くある話であり、大した事ではない。
問題なのは、その母親はかなりの美人であるにもかかわらず、未だに独身を貫いている事の方だ。
未亡人というわけでもなく、突然妊娠し突然子供を産んだだけで、それ以降も誰がアタックをかけても少年の母は靡かなかった。
まるで父親が別にいるかの様に――。
「シュウという守銭奴という男が慌てた様子で俺達を助けた事、それこそ、俺なんてただ助けられただけなら絶対に死んでいるという怪我を負っていたぞ。らしくない位に必死だった事、それが一点目だ」
「ふむふむ」
「あの時の少年の母親は大層美人なのに未だ独り身を貫き息子と不自由なく生活している事。これが二点目だ」
「ふむ? 関係あるの?」
「三点目で繋がりが出て来る。……自分という存在は町の為だけに存在しているみたいないかにも感を出してやがったが、町長になる前のシュウは非常に女癖が悪かった。これが三点目だ」
「あ、もしかして……」
「証拠はない。だが、逆に言えば俺が調べても証拠が見えない程ただの少年の父親が隠されているという事になる」
「……はー。なるほどねぇ……」
「ま、それがわかったからと言って何かあるわけでもないがね。強いて言えば、次にシュウが出てきてマウント取ってきたら『お子さんは元気でしょうか』なんて言ってやりゃ良いだろ」
そう言ってクコはくくと含み笑いをしてみせた。
「……そうだよねぇ。立場あっても男の人だもんね」
プランは小さく笑って見せた。
「いや。流石に数十人の子供をあの年で残すほどの男はそんなにいないと思うぞ」
「……それシュウさんの話」
「ああ。最低でも十八人。多いと……三桁行くかもな」
「……多いねぇ。本当、人は見かけに寄らないわ」
プランは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
「お、クコ。もう怪我は良いのか?」
夕暮れ時になるとテオが姿を見せ、そんな言葉を先客に投げかけた。
「微妙だな。まあ飯食う位は出来る」
「そうかいそうかい。んでプラン。悪いな打ち上げの飯任せてしまって」
「良いよ良いよ。ご飯作るの嫌いじゃないし。ちょっと疲れたけどね」
「今からだが俺も手伝うさ。あ、これ土産な」
そう言ってテオは大量の果物をプランに差し出した。
「お。良いね良いね! デザートは豪勢になるよー」
「そりゃ良かった。んじゃ、ちゃっちゃとやって行こう。下処理とか簡単な作業はこっちに投げてくれ」
「了解」
そのままプランとテオは横並びとなって調理の続きを再開した。
「失礼しますわ。すいません遅くなってしまいました」
そう言いながらエージュがそっと部屋に入っていた。
「良いよ良いよ。んで、その手に持っているの何?」
そう尋ねるとエージュは何とも言えない表情で、ぽつりと呟いた。
「馬肉です。どうぞこれを」
「……え?」
プランだけでなく、テオもクコも茫然とした様子でエージュの方を見た。
少々目が赤いのは、きっと気のせいではないだろう。
「味自体は悪くないはずですわ。食肉用ではないとは言え、捌いたのついさっきですから」
「何かあったの?」
「……私はまだただ乗るだけですが、中には過酷な訓練をしている方々もいらっしゃいます。その最中人が亡くなる事さえあるのですから……こういう事もございますよ」
「……大丈夫? というか……食べられる?」
プランが心配そうに尋ねると、エージュはしっかりと頷いた。
「はい。というか意地でも食べますわ。それが一番の弔いですから」
「そか……。じゃあ特別美味しくするからね」
「ええ。是非お願いしますわ。皆が喜んでくださった方がこの子も喜びますので」
そう言ってエージュは優しく微笑んだ。
その後、サリスとヴェインハットも戻ってきて、ヴェルキスも酒を土産に姿を見せ、料理も一区切り付き後はミグを待つだけとなった。
日は落ちきったのだが予想以上に周囲は賑やかであった。
どうやらサークルやら飲食店やらのおかげか学園というよりも歓楽街の様な雰囲気となっていた。
賑やかな夜に負けない様、この室内の皆も誰が一番良い土産を持って来たかをワイワイと話しながら最後の一人を待ちわびていた。
そんな中最後の一人……ミグは少々遅れ、その姿を見せた。
「ごめん。お土産用意するのに遅れた……」
その言葉に土産を持参した全員は挑戦的な笑みを浮かべた。
「お。ミグも土産持参か。ちなみに俺は高い酒を持って来たぞ」
そうヴェルキスが言うと、ミグは少し考え、そしてその土産を皆の前に披露した。
「はい。お土産」
そう答えると、その横にいる土産張本人はニコニコ笑いながら、礼儀正しくぺこりと頭を下げた。
「こんばんは。お土産です」
お土産と言われた綺麗なブロンドヘアーの女性は何故かとても嬉しそうだった。
その人物の顔に見覚えがないクコやテオ、ヴェインハットとヴェルキスは首を傾げる事しか出来なかった。
ただでさえ良くわからないミグの行動の中でも、今回の行動は特別訳がわからない。
その土産の女性は普段着らしき服装ではあるが恐ろしく身なりの良い事と、長い髪を乱れなく非常に美しいままに維持している事から相当のお偉いさんだとはわかるのだが、どうしてそれがこの場にいるのは全くわからなかった。
一方、サリスとエージュはその人に最近会っている為、すぐに理解し即座に椅子から飛び退き、地べたに跪いた。
エージュならともかく、サリスがその様な行動を取るには違和感が多分に残る。
なぜならばサリスだからだ。
そのあり得ない違和感から思いを馳せ、クコは知識で、テオはクリア教の信者として、その御方の姿と知っていた有名な名前を一致させることが出来、驚きを隠せないまま慌ててその場に跪いた。
少女の名前はフィーネ・クリアフィール・アクトライン。
クリア教の枢機卿の一人であり、盗賊討伐の実質的な依頼人であり、そしてプランの友達である。
「フィーネ! 来てくれたんだね」
そう言ってプランはフィーネの所に向かい、フィーネにぎゅっと抱き着いた。
「はい! 呼んでいただいたので。お邪魔かとも思ったのですが……」
フィーネはプランと抱き合いながら、ちらっとミグの方を見つめた。
「プランの友達って聞いた。だから連れてきた。……喜ぶ?」
そんなミグの言葉を聞き、プランはミグもついでとばかりにフィーネと一緒に抱きしめた。
「当然! ありがとミグちゃん。中々会えないし私が食事を振舞うのって初めてじゃないかな?」
「それは前の時も含めてです?」
フィーネが小さな声で誰にも聞こえない様そう尋ねると、プランは頷いた。
どうしても枢機卿という立場であった為、確かに親友ではあったがそれほど多くの時間を共有してはいない。
ましてやこの様な気軽な食事会など立場が許すわけがなかった。
「……だからこそ思うんだ。良く来れたね」
「そこの、ミグさんが大分無茶を……いえ、私としては大歓迎ですし何も文句はありませんけどね」
「えへん。無茶しました。……後で怒られるかも」
「よし。一緒に怒られようね」
そうプランが答えると、ミグはこくんと小さく頷いた。
「……なあ、あの美人さん誰だ?」
ヴェインハットが小声で跪いているテオとクコにそう尋ねた。
ついでとばかりにヴェルキスもそれに聞き耳を立てた。
「……フィーネ・クリアフィール・アクトライン枢機卿猊下です」
テオがぽつりとそう呟くと、ヴェルキスは即座にテオの横で跪き、ヴェインハットは迷わず厨房の方に逃げ姿を隠した。
「あ、今日はお忍びで来てますのでどうぞただのフィーネとしてご対応下さい」
そう言ってペコリとフィーネが頭を下げ、嬉しそうに微笑んでいた。
ありがとうございました。




