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3-33話 巡り巡って誰かの為に


 後処理やら報酬やらは全部纏めて後回しアンド偉い人に押し付け、プラン達冒険者見習い一同は馬車に乗って移動していた。

 向かう先は我らがアルスマグナ学園。

 既に十日以上も予定日数を超えている為急いで帰らないと本当に不味いからだ。


 今回の件に関しての依頼報酬は相当以上に遅れると言われたが、被害総額やら功績やらの計算は実際の戦争と同等であり、しかもそれが全て終わった後にこちら側、冒険者依頼の報酬になるのだから当然の話だ。

 遅れる事は問題ないのだが、それを待つ時間が今のプラン達にない為全部ひっくるめてシュウに丸投げした。

 それはあちらも最初からそのつもりだったらしく金銭関連も含めて依頼の話は全面的に引き受けてくれた。

「ま、私達の報酬を多少はシュウさんが有利になる様抜かれるかもしれんけど、それ位は良いよね? シュウさん達凄い頑張ったんだから」

 そうプランが馬車の中で言うと、サリス、エージュはうんうんと納得したように頷いた。

 ミグとヴェインハットは興味がないらしく特に反応を示さない。


 テオは一切の出来事に対して無反応である。

 それもそのはず、寝息すら聞こえないほど深い眠りについていた。


 それなり以上にそつなくこなす為今回は相当こき使われたが、テオはごく一般的な、ただの普通な冒険者である。

 にもかかわらず将としての務めと、将として戦後処理までこなしたらこうなるだろう。

 そんな仲間に対して出来る事と言えば、出来るだけ静かに話してそっとしておくこと位である。


「……あの場ならしょうがないが、正直に言えばそれは悪手だったな」

 包帯で腕を吊り、杖を横に備えた満身創痍の様子でクコはそう言葉にした。

「え? いやそりゃシュウさんは油断ならない相手だから相当以上に金銭報酬持っていくでしょうね。でもさ、処理とか含めたらそんな損にはならないと――」

「お前は町長という立場を、いや、シュウ・オーロットという男を甘く見ている」

 クコがそう冷たく囁くと、プランは一筋の冷や汗を流した。

「……どういう……事?」

「逆なんだよ。少なくとも、俺がシュウの立場なら冒険者への報酬を減らしなんてせず、むしろ積極的に増やすな」

「……何で?」

「俺達を、いや、正しくは俺達の中から気に入った奴らを取り込む為と同時に恩を売る為だ。その方が将来的に見て利益が出る。特にお前は恩義感じた相手にはなかなか逆らえなくなるだろ?」

「うぐう」

 全くもって否定出来ないプランは図星を突かれ変な声を出す事しか出来なかった。


「ちなみに、同様の理由で雁字搦めに縛る為俺んとこにはハニトラが来たぞ」

「まじで?」

「ああ。まじだ」

 プランの言葉にクコがそう答えるとサリスはニヤニヤした表情を浮かべた。

「お? 据え膳には手を出したのか?」

 サリスがそう言うとエージュは頬を赤らめながらサリスを怪訝な表情で見つめた。

 それに対しクコは自分の腕を指差した。

「この怪我でか? ちなみに俺今でも微熱あるぞ」

「……わり。酷い事言った」

 素直にしゅんと落ち込んだ様子を見せるサリスにクコは困った顔を浮かべた。

 クコにしてみれば軽口に軽口を返しただけなのだが、サリスに嫌味を言ってしまったという罪悪感を与えた事にクコは少しだけ後悔した。


 二人は最近までほとんど話す事がなかった。

 単純に前の事件の絡みでサリスが嫌悪感を露わにしていたからだ。

 だが、色々な事があってからその嫌悪感は綺麗になくなり、今では普通の冒険者仲間となっている。

 だからこそ、まともに話したのはこれが最初の為距離感が掴めずにいた。


「気にすんな。ちなみに例え怪我してなくても手を出す気はないぞ。シュウの下に付けば俺の目的から外れるからな。んで、お前らはどうだったハニトラか買収か何かあっただろ?」

 クコは話の流れを変える為他の人達にそう尋ねた。


「俺とエージュ、プランには何も来ていないよな?」

 サリスがそう尋ねると二人は頷いた。

「そりゃ、サリス、エージュはお貴族様側だからな。しかも他領の。下手すれば斬首じゃすまなくなる」

「……私は?」

 プランがそう尋ねるとクコはそっと目を反らした。

「ねぇ。私は? 能力がないから人材として欲しくなかったとかそういう感じ?」

 そっと目を反らし、クコはプランの質問を完全に無視した。


「……私も、何も来てない」

 そうミグが言うとクコは首を傾げた。

「ふむ……。金を渡されなかったか?」

 ミグは首を横に振った。

「……あ。夜に何か男の人がお酒持って来たけど、お酒いらないし眠たかったから追い返した」

「ああ……ハニトラに来たけど失敗したパターンか。にしても……ミグの見た目に男使うなよ……。それなら飯の方が効果あるだろうが」

 クコはぽつりとそう呟いた。

「ねえクコ。私は? ミグの時はちゃんと答えるのに何で無視なの?」

 ミグはプランの顔を見ない様にしてヴェインハットの方に視線を向けた。


「……俺も来ていないな」

 ヴェインハットはぽつりとそう呟いた。

「それはありえん。お前はシュウにとって最優先で確保すべき人材だった」

「まじか。……まじで?」

 自分の時代が来たのかと期待しわくわくした声でヴェインハットがそう尋ねるとクコはしっかりと頷いた。

「ああ。四肢欠損者を活用出来るって時点でどの町でもお前の価値は黄金に値する。だからお前のとこに行っていない事はありえん。ミグと同じで気づいてないだけだろう」

 その言葉にヴェインハットははっと何かに気づいた様な雰囲気をした。

「……まさか……夜不安そうに来た女の子が……」

「典型的なハニトラだな。……どうしたんだ?」

「相談に乗って、悲しそうだから褒めて、喜ばせて元気になった所でバイバイした。良い事したなーって思ってたけど……」

「ああうん。……お前口では色々言ってるけど本当良い奴だな」

 クコがどうでも良さそうにそう答えるとヴェインハットは頭を抱えだした。

「……も……もったいない事をした……チャンスだったんじゃねーか。……ああ。時よ戻ってくれぇぇぇ……」

 そんな後悔と未練たらたらのヴェインハットを見て、サリスは口に手を当てぷるぷるしながら必死に笑いを堪えた。

「あの、ハワードさん。仮にもデートを約束した相手が他の女性の、そういう話題をしているのに嫌な気はしないんでしょうか?」

 エージュがそう尋ねるとサリスは微笑んだ。

「冒険者なんてそんなもんだ。そもそも、別に俺はヴェインの事気に入ってはいるがそういう対象にはまだ見てないしな」

「では、もし、仮にヴェインハットさんを恋愛対象として見たら」

「例えそうでも誰を抱いたとか俺は気にしないな。つーか俺がそんな細かい事気にする奴に見えるか?」

 サリスがそんな誰よりも男らしい事を言うとエージュは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「それで、ヴェルキスは……まあ一流の冒険者だし大丈夫だろ――」

 そうクコが言うと同時に、ヴェルキスはそっと顔を反らした。

「……おいおいおいおい。まさかあんた……」

 クコがそう言葉にすると同時に、ヴェルキスの頬に一筋の汗が流れた。

「……あ、安心しろ。お前らには迷惑をかけない。ただ……次にガダルスナに得する依頼を一つこなすだけだ」

 そうぽつりと、誰の顔も見ない様に呟いた。


 ヴェルキスという男は異常なほど悪評が轟いている。

 だがそれは魔剣持ちであるからという嫉妬が大半である為、ヴェルキスは悪評轟く様な悪しき性格をしてはいない。

 いや、むしろ冒険者というカテゴリーでは考えられない程善良でお人よしであると言って良いだろう。

 困っている人を見たら放っておけず、自分が不利益になってでも知らない人を助けようとする。

 それこそ英雄様の様な性根をしていた。


 が、それはそれとしてヴェルキスの精神は善良で英雄的というだけでなく、我欲もそれなり以上に持ち合わせている。

 つまり……ヴェルキスは酒、女、飯が好きなハニトラに弱い普通の冒険者という事である。


「……何かすまん」

 ぽつりと呟いたヴェルキスの呟きに一同は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。




 慌ただしく学園に戻り、残った課題について担任にテオとクコが無理を言って減らし、そのまま片付けやら報告やらで慌ただしく時間が過ぎて夜となった。

 明日の準備や持ち帰った道具の点検などしなければならない事も多々あるのだが……思ったよりも疲れていたらしくプランは全部後回しにしてベッドに入ってしまった。

 そして、やはり疲れは残っていたらしくほんの数秒で意識を失った。


『お疲れ様でした。私の可愛い子供達よ』

 とても綺麗な声で、だけどどこか暖かい声が聞こえた。

 それでプランは依頼がちゃんと達成出来てたんだと気が付き、眠っていながらも口角を上げにやけ面となった。





 少し先の未来の話。

 プラン達が学園から戻ってしばらく経った頃……。


 彼はもう長い事ベッドから出ていなかった。

 といよりも、ベッドから出る事が出来なくなっていた。

 やせ細りって頬はこけ、目は充血を通り越して淀みきり、肌もボロボロ。

 体中ボロボロ過ぎて歩くどころか座る事すら不可能な状態である。

 もし健康であるなら美少年であっただろうという事実が尚の事痛々しさを増していた。


 これは病気という訳ではない。

 いや、むしろ病気である方が良かった。

 病気なら治す手段があるからだ。

 だが、彼のこれは治療する方法がない。

 それ以前に、今彼が生きているのは最上級の治療を受けた上であっても、ただの奇跡以外の何者でもなかった。

 とは言え奇跡がずっと続く事はなく、いつ命が尽きるのか医者ですらわからない状態である。

 ただし……彼にとっては尽きる事こそが救いであるだろう。

 家族に、特に姉に迷惑しかかけていない彼はそう思わずにはいられなかった。


 出来損ない。

 唯一の無能。

 生きる価値なし。


 そう親戚から言われ続けても彼は何も思わなかった。

 何故ならそれはただの事実だからだ。

 むしろ親はそんな無能の自分をずっと庇い、姉も自分を優先して大切にしてくれている事実の方が彼には辛かった。

 迷惑だけはかけたくないのに、家族は進んで自分が与えるであろう迷惑を引き受け続けてくれていた。

 だが、もうそろそろ限界が近いと自分でもわかる。

 何故ならば……時々瞼が落ちようとしてくるからだ。


 少年の症状はたった一つ。

 人は出来て当然の行為、眠るという行為を彼は生まれてこの方出来た事がなかった。


 だからこそ、少年が自然に瞼が落ちる時など死以外ありえなかった。

 ――……お姉様。義兄様。どうか私の事は忘れ幸せになって下さい。私は私の家族を馬鹿にした親戚を呪い殺しに行きますので。

 自分で言うのも何だが、姉は世界一美人で優しく、義兄はイケメンで完璧超人。

 両親は苦しめ続けた自分と姉とを同等に扱うほどのの人格者。

 家族に関しては自分以外パーフェクトだった。

 だから自分がブラコンシスコンにファザコンマザコンの四重奏を奏でても仕方がないだろう。

 彼はそう考えていた。


 彼の名前はジルウィール。

 ジルウィール・コンラート。

 現ノスガルド王国国王アルスの妻、アルストロメリアの実の弟である。


 こんこんこん。


 ノックの音が無音の部屋を響かせ、そして冷たく終わった部屋(世界)に暖かい風を起こす来訪者が訪れた。

「こんにちは。今お邪魔して良いかしら?」

 そう言って入って来たのはその愛しき姉と、世界で最も強くイカした兄だった。

『メリアお姉さま。アルス兄様。こんな私の元に来てくださってありがとうございます!』

 そう声を大にして叫び、万歳三唱を上げたいのだが、残念な事にジルウィールの肉体にはその様な力は残っていなかった。

「ありが……す」

 ただそれだけしか言えない自分にジルウィールは恥じた。

 だが、それでも二人にはその気持ちはしっかりと伝わっていた。


「ふふ。忙しい貴方が久しぶりに来てくれたからジルも喜んでいるわ」

 メリアはアルスに向かってそう言葉にした。

「そうか。俺も久しぶりに可愛い弟の顔が見れて嬉しいよ」

 そうアルスは囁きジルのボサボサの汚らしい髪を当然の様に撫でた。

 それだけでジルは三度ほど昇天しかけた。

 それ位幸せだった。


 ジルは顔だけを動かし二人の様子を見てみた。


 アルスの白銀の美しき髪は世の女性全員が嫉妬の炎で息絶えてしまいそうなほど美しく、肉体は力強いが均等で、顔だちは端正で凛々しい。

 そんな完璧に調和された存在にもかかわらず一切偉そうな態度は見せず、そこにあるのは自分に向けられた慈愛の気持ちと家族愛のみ。

 そう、アリス王は見た目と同様性格も非常に素晴らしい。

 だからこそ、彼が若くして王になっても反発はほとんどなく、そして今では彼以上の王は存在しないと言われるほどとなっていた。


 メリアはその優しい兄よりも更に優しく、慈愛に満ちている。

 そして普段はそれに加えて白百合の様な麗しき雰囲気を醸し出しているが、今日はその姉の素晴らしき雰囲気が出ていない。

 代わりに隈を作り目を盛大に赤くしている。

 必死に隠してはいるが、ジルから見れば一目瞭然だった。

 大好きな姉の事なのだからわからないわけがない。


 そしてその理由も考察は容易い。

 ――ああ。やっぱり今日も私はお姉様を悲しませているのか。

 それがわかっているからこそ、ジルは早く殺して欲しいと思っていた。

 むしろ兄、姉に殺されるなら本望を通り越して幸せの絶頂であるとも断言出来るが……それを言う事は出来ない。

 二人共自分と違い優しいからその様な事をお願いすると絶対に苦しむ。

 もうこれ以上苦しめたくない。

 それがジルにとって最も重たい本音であり、最も大切な真実だった。


「ジル。今日はお姉ちゃんからプレゼントがあるの」

 そう言ってメリアはジルの細く醜い指に似合いつかない指輪をはめた。

「これ……は……?」

「これはね、とても凄いおまじないがかかっている指輪です。なななななーんと! ジルの願いが叶う指輪なんですよ」

「はは……凄い……で…………す……ね」

 もしそれが本当なら自分がいなかった事にして欲しい。

 更にそれに足して良いなら一生姉と兄を見て暮らしたい。

 見るだけでご飯三杯はいけるから何も食べなくても暮らしていけるはずだ。

 ジルはそんな頭の悪い事を考えていた。


 ジルは相当以上に色々とこじらせていた。


「じゃ、私達が魔法をかけるから、ジルは目を閉じて何か願い事を考えてて」

 そう言ってアルスとメリアはジルの手に触れ、二人で指輪に触れた。


 ジルは微笑みながら頷き、そっと目を閉じた。

 ――神様。もし本当にこの指輪が本物なら、私を消してください。この身しか御座いませんが、全て差し上げます。ですから……二人を幸せに……お願いします。

 そう願うジルの横顔に、そよ風が靡いた。

 部屋の中なのにその風はまるで草原の様に優しくて、そしておおらかだった。


「……スリープ」

 二人が祈りを込めながらそう囁くと、ジルの体から力が抜け……そして……ゆっくりと寝息を立てだした。

 メリアは何度もジルの顔色と、寝息を確認した。

 死んでいないのか不安で何度も何度も確認し、そしてただ寝ているだけとわかると、唇を噛みしめた。


 ジルウィールが眠る事が出来たのは、人生で今日が初めてである。

 これにより今日という日は三人にとってあらゆる祝日より、それこそ結婚記念日よりも大切な記念日に認定された。


「おやすみ……。明日からは少しずつ、家族としての時間を取り戻そうね。一緒にご飯を食べて、一緒に公務をしたりして……そして一緒に笑い合って」

 そう言いながらメリアはジルを優しく撫でた。

 涙で前が見えなくて、嗚咽を漏らしながらでもその顔は笑顔だった。

「……出来たら俺は一緒に狩りがしたいな。俺は体を動かす事しか出来ない。だから……そう言う事に興味を持ってくれたら嬉しいな」

 それだけ言うとアルスは口を紡いだ。

 言葉と同時に涙がこぼれそうだったからだ。


「大丈夫ですよ。この子は本来気性の強い子ですから。きっと貴方と一緒に狩りが出来て……もしかしたら貴方よりも上手かもしれませんよ」

「それは困ったな。そんな事になればもしかすると君を取られてしまうかもしれん」

 そうアルスが言葉にするとメリアは軽くくすりと笑った。


 ジルは初めて夢を見ていた。

 その中でジルは狩りをしており、そして初めて獲った獲物を兄と姉に見せ褒められるという今まで想像もした事もない幸せな未来を夢見ていた。


ありがとうございました。


べっらぼうに長くなってしまい申し訳ありませんです本当に。

これで第三話は終わり、続いて学園の話に戻ります。


当然ですが前作が無駄になるわけではなく、これからごにょごにょと色々あるのですが、予想外に学園編が長くなりそうで本当申し訳ないです。


感想や何かあれば直接でも構いませんし何処にでも良いので是非ともおっしゃってください。

それによっては話を幾つかカットしますし待ちきれないならあの人は今的なのもやります。


では長いお話に付き合っていただき本当にありがとうございました。

まだまだ先は長いですが最後までお付き合いいただける様これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。

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