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3-28話 神から与えられた使命25


 それは技能でもなければ魔法でもない。

 そもそもそれ以前に、使用者であるスイミスですらそれが何で、どうして出来るのか理屈すらわかっていない。

 わかっている事は、心を読むというあり得ない、特別な力を授かった。

 ただそれだけである。


 魔法でない為魔力消費もなければ儀式等の準備も触媒も生贄も必要ない。

 何のリスクもなく、相手の心を読む事が出来る。

 それは正に、神の力である。

 少なくとも、スイミスはそう思っていた。


 スイミスは自分が特別だと思った。

 いや、今でも特別だと思っている。

 だが、世間一般は、ノスガルド王国は彼をそこまで特別だと考えず、武官試験でスイミスを落とした。


 自分は特別であるという自負を持っていたが故に、落とされた理由がわからないスイミス。

 その屈辱により生まれる苦しみはスイミスの心に闇を生み、肥大していた自尊心を歪ませ……その果てに今、スイミスは革命軍に身を寄せる事となっていた。


「……サリサリス・ハワードにエージュか。ふむ。お貴族様という身分の割には苦労を背負っているな。特にサイサリスは」

 そう訳知り顔でスイミスが言葉にすると、二人揃って嫌悪の表情を浮かべた。

 エージュは心を読まれるという行為自体に不快感を示した。

 サリスは心を読まれても気にしないが、サイサリスと呼ばれる事を好んでいないからだ。

 特に、知らない人にそう呼ばれると不快を通り越して身の毛がよだつほどだった。


「……あー。うん。エージュ、俺の後ろに行け。お前だと相性悪いだろ」

 そうサリスが言うとエージュは素直に従いサリスの後ろに移動して妖精を呼びサリスを援護する体勢を取った。


「ふむ。どうしてそちらのエージュと俺の相性が悪いと思ったか参考なまでに聞かせて貰っても? まあ言わなくても見させてもらうが」

 余裕綽々にスイミスがそう言葉にするとサリスは睨みつけながら答えた。

「こいつは深く考えるタイプだからな。そういう奴が読心相手に戦うと考えすぎてドツボにハマる」

 その言葉にスイミスは感心した様にパチパチと拍手をしてみせた。

「ほぅ。まるで俺以外にもこのような能力者と戦った事があるような口ぶりだな」

「いやないぞ。ただ、先輩冒険者の酒場での自慢話で聞いた事がある。心を読む魔物の話をな」

「なるほど。魔物には俺の様な能力者がいるのか。それで、その話はどうなったんだ?」

「その先輩冒険者のパーティーは先輩以外全員死亡。生き残ったのは唯一馬鹿だったその先輩だけ。教訓は『考える前にぶん殴れ』だ。だから戦う時は俺みたいな馬鹿の方が都合が良いのさ」

 そう言ってサリスはおどけてみせた。

 スイミスはサリスが言葉にしなかった続きの部分を読み取った。

 ――ついでに言えば俺が負けた後でエージュが離脱して情報を拡散すれば無駄がなくて良い

「……意外にクレバーなんだな」

「あん? 俺に言ったのか? はっ。気のせいだろ」

 そうサリスは言って楽し気に笑った後――アイアンクラブを手にスイミス目掛け蛮族の様に襲い掛かった。


 負けても良い。

 次に繋がるなら、それは俺の勝ちだ。

 サリスは本心でそう思っていた。

 

 実際心を読まれるというのは非常に厄介であり、サリスが必死にアイアンクラブを振り回すも挙動を読まれ、平然とした顔で避けられ隙間を縫う様にガントレットを付けられた拳を叩きこまれる。

 口から血を出し、顔に青あざを残し、ボコボコになるサリス。

 それは嬲っている様にしか見えなかった。


 そのまま一方的にサリスが傷つく戦いが数分ほど続いた。

 少しでも相手の情報をエージュに残そうと怪我を無視して暴れまわっていると……サリスは何か大きな違和感を覚え、そしてその違和感の正体にすぐ気が付いた。

 傷が増えていないのだ。


 スイミスの隙間を縫う様な攻撃が止まり、顔に余裕の色が見えなくなっていた。


 ――時間制限のある能力? いや違う。これは……。

 サリスはスイミスのシンプルな欠点に気が付き、血を吐き出した後痛みを感じる口でニヤリと笑った。




「どうしてこんな事に……」

 スイミスはそう呟き、そのまま地面に倒れ意識を失った。

 足と腕はあらぬ方向に捻じれ、顔は苦痛と恐怖、そして混乱に染まっている。

 それを行ったサリスもボロボロの様子ではあったが、それでもサリスは笑っていた。


「しゃ! 勝った勝った」

 そう言ってニシシと笑うサリスにエージュは恐る恐る話しかけた。

「えっと……その、一体何があったのでしょうか? 後方に行く様言われ、そのまま待機し、そして気づけば援護するまでもなく終わっているのですが……」

「ああ。まあぶっちゃけるとな、先輩冒険者の教えってのはガチで価値があったってこった。こいつ考えるより先に体が動くと対処出来なくなるらしい。だから本当の意味で何も考えず、狙いすらも付けずに殴れば良かったんだ」

 そう言ってサリスはゲラゲラと笑った。

「……えぇ……」

 エージュはそれ以外何も言葉に出来なかった。


 スイミスが武官試験を落ちた理由、本人は認めたがらないが非常に簡単な理由があった。

 戦闘能力と継続能力が低かったから。

 ただそれだけの話だった。

 ついでに言えば、武官試験は恩情があり、特別な能力や秀でた何かがあれば多少の融通は利くし場合によっては武官は無理でも別の道に推薦してもらえる。

 それすらもスイミスになかったのは人を見下し他者に敬意を払わなかったからだった。


「まあ相性が良かったんだろう。つーわけでこいつ、何て名前だったけ? まあ良いや、この脳内覗きのドスケベ野郎を木に縛り付けて早く移動するぞ。ヴェインはともかくプラン一人はマジでやばい」

 サリスがそう言葉にするとエージュは心配そうに尋ねた。

「ですが、ハワードさんの怪我も軽くは……」

「大丈夫。痛いだけで全然いける」

「ですが、顔にも傷が多いので残ってしまえば……」

「大丈夫。冒険者の傷は勲章だ」

「貴方女性でしょうが……」

「俺を女扱いする奴なんていな――極わずかな馬鹿以外いねーよ」

「そんな事ありませんけど……言っても聞きませんよね。それに私もプランさんが心配です。行きましょう」

 その言葉にサリスは頷き、二人はプランが行ったであろう方角に迷わず走り出した。







 何度ぶつかりあっただろうか。

 剣と拳は幾度と交差しお互いの体に傷を作っていく。

 そんな二人の戦いの邪魔をする弓使いもまた、体中傷だらけだった。

 三人は既に数十分は戦っている。

 それもただの戦いではなく、文字通りの命のやり取りをする非人道的な殺し合いを。

 それは剣士や戦士の戦いではなく、泥にまみれた暗殺者同士の様な、決して表に出してはいけない様な凄惨な戦いだった。

 両者共に消耗する体力は尋常ではなく、剣士は必死に隠してはいるが既に疲労を隠しきれず肩で息をしている。

 体中が自分と相手の血で染まり、血液を失った分なお体力は削られ疲労に積み重なる。

 そんな状況であっても、剣士以上に傷に作った気味の悪い細身の男は――嗤っていた。


 何が楽しいのか、ニタニタと、その男は嗤い続けていた。




「なあ。一つ聞きたいんだが。お前らみたいな俺と同類のヤバイのが雑魚に混じるのってどんな気分なんだ? やっぱり優越感を感じるから一緒にいるのか? それともじっくり育てて殺す為か?」

 そんなラケルタの言葉にヴェルキスとミグは……素直に首を傾げた。

「……すまん。雑魚って誰だ?」

「さっきここを通っていったあいつらだよ。お前らは間違いなく俺と同類だ。血を浴びないと生きていけないヒトデナシ。人の皮を被った畜生風情。そんなお前らがあいつらと一緒にいるのがおかしくてな。狼と羊を隣同士にさせる様なもんだわ」

 そうラケルタが言うと、ヴェルキスは小さく笑った。

「あいつらが雑魚ねぇ。お前本当に戦闘力でしか物事見てないんだな」

「それ以外はどうでも良いからな。強いか弱いか。殺すのにそれ以外知る必要あるまい」

「お前、一応革命軍にいるのにそれで良いのか?」

 呆れ顔でヴェルキスがそう言葉にすると、ラケルタは鼻で笑った。

「はっ。革命軍ね。そんなんじゃねぇよ。ありゃただのおままごとだ。それ以上でもそれ以下でもないし、そもそも俺は興味がねぇ」

「それは一体――」

「もう小休止は良いだろ。どうでも良い事くっちゃべってないで続きをしようか。俺はお前らが生きている事が心底気に食わない。一分一秒でも早く息を止めて幸せな気分になりたいんだよ」

 そう言いながらラケルタはヴェルキスにむかって大きく一歩近づいて拳を叩きこんだ。

「自分から話しかけといて勝手な事を!」

 そう言いながらヴェルキスは剣で拳を受け流し、一旦バックステップで距離を取り様子見に入った。


 体力の残りは、良く見ても三割程度だろう。

 ヴェルキスはそう感じていた。

 相手の拳は異常なほど固く、そして良く切れる。

 紙一重の回避をすれば十中八九皮膚を切るくらいの切れ味を持っていた。

 だからヴェルキスの全身には剣で斬られた様な傷が出来ていた。


 血液も相当失われ、呼吸が苦しくなる。

 ミグもヴェルキスほどではないが傷が酷く、体力も残り五割くらいだろう。


 そして問題のラケルタだが、何度も剣で切られ、矢が刺さり、ヴェルキスも真っ青な位の負傷状態……にもかかわらず、顔色は良く、しかも全く息が切れていない。

 それどころか余裕綽々で攻撃時も常に笑っている位だ。


 おそらくだが、それは特別な力やトリック、やせ我慢ではなく、ただ単純に体力の質が違うのだろう。

 そうヴェルキスは判断した。


「……体力には俺も自信あったんだがなぁ」

 ヴェルキスはぽつりと呟きながら、下から上に逆袈裟斬りを放ちラケルタを切断しようとする。

 だがそんな攻撃をラケルタは打ち下ろす様に拳を叩きつけ、剣を弾いて追撃の拳でヴェルキスを吹っ飛ばす。

 ヴェルキスは数メートル空を飛び、直後地面に叩きつけられ痛みから盛大に咳を繰り返す。

「おいおいもうへばってるのかよ。軟弱だな」

 ラケルタは機嫌良さそうにそう言葉にした。


 数十分戦い続けて疲労のピークが近く、剣の威力が落ちるのも反応が鈍るのも当然の事である。

 むしろ、最初の時と全く同じ様に戦えるラケルタの方が異常だった。


「ああきっつ。きっついけど……やるしかないか」

 そう言いながらヴェルキスは痛みと疲労に耐えながら立ち上がり、ラケルタの方にゆっくりと足を引きずり歩いた。

 その様子を、一分一秒ごとに死に近づくヴェルキスの様子を見てラケルタは楽しそうに、そして嬉しそうに微笑んでいた。


「……なあ。強い武器の条件って知ってるか?」

 ラケルタはまた唐突にそう話しかけて来た。

「……さあ。わからんな」

 体力を回復させる為ヴェルキスは敢えてその言葉に乗り言葉を返した。

「お前は及第点だがそっちのちんまいのは失格だ。これは強さやヤバさの話じゃあない。武器の話だ。さて、わかるか?」

「何度も言うが知らんな。幸い武器に困った事もない身なんで――」

 お道化た様子で話を伸ばそうとするヴェルキス。

 それを見抜いたのかそれとも最初からそのつもりだったのか、ラケルタは油断しきったヴェルキスにいきなり接近してきた。


 疲れを少しでも癒そうと……いや、疲れたから少しでも休んでいたいというヴェルキスの心の油断は、ヴェルキスの足の甲に熱さにも似た痛みという代償を支払わせた。

「――――!」

 ヴェルキスは声にならない声を出し、絶叫してしまいそうな痛みを耐え、どうなっているのか足を見た。

 ヴェルキスの足の甲の部分に巨大な杭が刺さり貫通していた。


「まず――」

 杭がまっすぐ下に刺さっているという事は地面に刺さっているという事。

 地面に刺さっているという事は、地面と自分の足が縫い合わされているという事。

 疲労と痛みによりそれがどれほど危険な状況なのかの判断に遅れ、危機に気づいた時には別の杭を持ち、満面の笑みを浮かべているラケルタが目の前にいる時だった。

「強い武器の条件ってのはな――どれほど血を吸わせたかだ」

 そう言いながら、ラケルタは杭を突き付けた。


 杭がヴェルキスの胸を刺しその胸を貫かんその瞬間に――ミグはラケルタを吹き飛ばした。

 さきほどのヴェルキスの様に、ラケルタは空高く跳び、地面に叩きつけられ、血反吐を吐いた。


 ミグは無言でヴェルキスの足に刺さった杭を抜き、そのままヴェルキスの前に立った。

 ヴェルキスは痛みによりくぐもった声を出した後自分の足を観察した。

 そこには綺麗に円形の穴が開き、足の中から地面が見えていた。


「セット」

 そうミグが呟いた瞬間、森の中にもかかわらず半径五十センチ位の狭い範囲で雨が降る。

 それはとても神秘的で、そしてどこか間抜けな風景だった。

「その中に入って――」

 それだけ言われ、ヴェルキスは頷いて雨を浴びに行った。


 怪我による痛みが全身に響き体を震わせる。

 だが、目に入りそうなほど汚れていた血と土は全身から綺麗に、服の中の分すら流れ落ち、またその雨は不思議な事に傷口にとどまり、ゲル状に固形化して傷を塞ぎ出血を止めた。


「……治療魔法か。便利だな」

「ううん。それ無理やり傷を塞ぐだけ。治しもしないし化膿も止まらない」

「……じゃあこの固まった水っぽいのははどうするんだ?」

「無事終わったら無理やり引っぺがして。死ぬほど痛いけど」

「――オーライ」

 ヴェルキスはそう答え、炎症と化膿対策に聖水のビンを開け一気に飲み干した。




ありがとうございました。

私の技量不足で長くなってしまいもうしわけありません。


後五話以内で一区切りつけたら良いかなーと思わないでもないですけど自信はありませんごめんなさい。


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