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3-27話おまけ


「抵抗はしません。どうぞお好きな様に。ですが、僕から何も話すつもりはございませんので。たとえ拷問されても」

 縄に縛られたユスポフはそう言葉にした。

 それは屈辱としか言えない負けだった。

 自慢の部下ではなく、自分が戦闘に、しかも何でもない市民に負けるというのだが屈辱以外の言葉が出てこない。

 ユスポフはそう思い込んでいた。


 その様子を見てテオは少し考え込み、そして隣で不機嫌になっているクコの方を見てぽんと手を叩いた。

「ああ。わかった。こいつ少し前のお前みたいだな!」

 楽しそうに、そう言葉にするテオにクコは渋い顔をしてみせた。

「わかってるから止めてくれ。傍から見ればこんなに情けなかったのかと俺自身が自覚しているから……」

 そうクコは苦々しく呟く。

 負け犬の様な目をしているユスポフに向かって――。


 それは捕縛されたからではなくずっとその様な瞳をして育ったからであり……端的に言えばやさぐれた子供の様な瞳をしていた。

 世界を憎み、何もかも諦めた目。

 自分の不幸を誰かの所為にしている瞳。


 それは他の誰でもなくクコ自身がそうであったからその気持ちが痛いほど理解出来、だからこそ腹立たしかった。


「お前、どうしてそんな顔をしているのかわからんが一つだけ言ってやる。お前、指揮官の才能ないぞ」

「――え?」

 そんな事敵から言われると思った事も、味方から今まで言われた事もないユスポフは目を丸くし固まった。

「え? ってお前もしかして自分が才能あると思ってたのか?」

「……だって僕に指揮権を――」

「俺はお前が複数部隊の指揮権を持たされたってのが俺には信じられないのだが」

「いや……僕は全指揮権を……」

「……嘘だろおい」

 クコは信じられないと言わんばかりに顔に手を当て溜息を吐いた。


「この状況なら意味のない嘘を付く事もないだろうし……考えてみれば確かに僕自身思い当たるフシもある。いや……むしろ、どうして僕は自分が指揮が得意だと思っていたのかわからない位だ……」

 それは子供の頃の記憶、偉大なる父と自分を重ねたからだという事に自分の事ながら気づかずユスポフは悲しそうに呟いた。


「むしろどうしてそっちの大将はお前の無能っぷりを言わなかったのかわからんな」

「……あの人の考える事は僕でもわからない。海の様に広いお心を持っているからだろう」

「……はっ。お前を放置した時点でただの無能かよほどの悪人だよ」

 そんなクコの言葉にユスポフは悲しそうな表情を浮かべた。

 だが、その意見に否定も肯定も見せなかった。




「僕はどうしたら良かったんだろうか。父と別れ、領から追放され、唯一僕を信じてくれたのは革命軍のリーダー。そして僕は盗賊として捕まった。はは。僕はどうしたら幸せになれたのだろうか……」

 ユスポフの言葉にテオは悲しそうな顔を浮かべ、クコは溜息を吐いた。

「……お前のミスは一つだけだ。自分の才能を知らない。ただそれだけだ」

「……そうだね。僕は指揮の才能がなかった。それを自分で気づけていれば状況は――」

「そうじゃない」

 クコの否定にユスポフは少しだけ驚き、顔を上げクコの顔を見た。

 その顔は怒っている様にも見えるが、同時に泣いている様にも見えた。


「人間ってのはな、意外なほど自分の才能に気づかない生き物なんだよ。俺は自分の才能を調べている内にそれに気づいた。出来る事に気づかない奴ってのは本当に多いんだ……まあ俺にはガチで何一つ才能なかったけどな」

 クコは自虐するようにそう呟いた。

「なんだ、君は僕と同じだったのか」

 そうユスポフが言葉にすると、クコは今まで見せた事もない様な表情でユスポフを睨みつけ、胸倉を掴んだ。

「一緒にするな! 貴様の様な才能の固まりと!」

 その声は怒鳴られたユスポフだけでなく、隣のテオすらびっくりするほどの剣幕だった。

「……僕に、才能が?」

「ある。俺と違ってな」

「教えてくれないか? 僕の才能を……」

「……ちっ。二十五人だ。自分の命と引き換えにお前の助命を頼んだ捕虜の人数だよ」

 それは赤銀部隊と呼ばれた彼らに加えて偵察等でユスポフの傍にいた人物の総数だった。

「……そうか。僕が愚かだからこそ、僕には部下に慕われる才能が――」

 もう何もかも信じられない状態だからこそ、敵ではあるが心の底から真剣なクコの言葉をユスポフは素直に信じた。


「違う。そんな曖昧な物じゃあない。確かにカリスマ性はある。だが、お前の才能は兵士の育成技術だ。あそこまで屈強で高い練度を持ち、しかも上司の命令を遂行出来る兵士なんてそうそういないぞ」

「――ああ。自慢の部下だからね」

 ユスポフは自分が褒められたのと同じ位、嬉しそうに笑った。


「それを育てたのはお前だ。あのやばい二十人だけじゃないだろ?」

「ああ。全員育成したのは僕だし、ついでに言えば育成完了したのは百人位いるよ」

「……あれが後八十人いるのか。やべぇな」

 テオはぽつりとそう呟き眉を顰めた。


「それがお前の本当の才能だ。……もし、俺がお前の上司だったらお前には兵士の育成だけやらせる。それだけで十二分に役立つ」

「……そっか。それだけで良いのか」

「良いんだよ。才能ある奴はそれだけさせておけば良いんだから。俺と違ってな」

 そのクコの言葉にユスポフは目を丸くし、そして笑った。


 その顔は先程の様なやさぐれた顔ではなく、後悔と諦めだけが映った空しい笑顔だった。




「……最後にお願いを聞いてもらって良いかな?」

 ユスポフは悲しい笑顔を浮かべながらそう言葉にし、二人は顔を見合わせた。

「……一応言ってみろ」

「その二十五人の部下に合わせてくれ。危ない事も邪魔になる事もしない。約束する」

 本来なら絶対に聞く事のない命令である為、クコは首を横に振った。


 だが、テオは違った。

「……悪いが聞く事は出来ないなぁ。何かこっちに旨味がない限りは」

 テオがそう言うとユスポフは少し考え込み、そして頷いた。

「頼みを聞いてくれたら何でも話す。一応幹部級だから多少は情報を持っていると思うよ」

「……だとさクコ。どうする?」

 笑いながらそう尋ねるテオに、クコは苦笑いを浮かべた。

「利があるなら聞くしかあるまい」

 その言葉に、ユスポフは安堵の息を漏らした。




 全員縛られたままではあるが二十五人の部下と再開したユスポフは、その二十五人一人一人に指示を出し並び直させ三グループに分けた。


「第一グループの八人。悪いが一緒に死んでほしい」

 その言葉と同時に、不満が響き渡る。

 ただし、不満を上げているのは第二、第三のグループであり、死ねと言われた第一グループは堂々と正面を見据え、死を受けれ射ていた。


「隊長。俺達も一緒に――」

 第二、第三グループの総意を示す様一人の男がそう言葉にする。

 だが、ユスポフはその言葉に首を横に振る事しか出来なかった。


「クコとテオだったかな? 君達に頼みがある」

「またか。今度は何だ?」

 クコは苦笑いを浮かべながらそう言葉にした。

「僕と第一グループは元兵士だ。国を守るはずの兵士が反乱を起こした場合は何があっても死罪は免れない。だが、第二グループは窃盗程度しかした事がないただの小悪党だ。第三グループに至ってはただの元市民で、しかも食べていけなくなったから逃げてここに巡り合ってしまっただけなんだ。だから……」

 その先は言わなくても、二人は理解出来た。


「そんな事言わないで下さい。隊長を殺してまで生きたくは――」

 第三グループの男がそう叫ぶと、皆が同じ様な事を続々と話し出した。

 どれくらい隊長に恩があるか、どれほど隊長に助けられたか。

 彼らは皆が叫び合った。

 それを聞き、クコとテオは目を伏せる事しか出来なかった。

 彼らを見る事が出来なかった。


「――僕からの最後の命令を出すよ。僕は間違えた。自分が可哀想だからなんて思って今日までずっと馬鹿をした。だから、僕の代わりに僕の本当にしたかった事をして欲しいんだ」

 その言葉は、部下達が初めて聞くユスポフの私情を挟んだ命令だった。

 その言葉に二十五人全員が整列をし、拝聴する姿勢を取った。


「僕は、父に憧れたんだ。でもそれは武官だからじゃない。強いからでも、皆から慕われているからでもない。誰かを助けられる強い人だったからなんだ。だから、僕の代わりにこの国を少しでも良くして、誰かを助けられる人になって欲しい。この中で何人が生きられるかわからない。もしかしたら全員が死ぬかもしれない。でも、もし一人でも生き残れたら、僕の命令を――」

 その言葉に全員が跪き――受諾した。


 涙を流し、苦しそうな顔をしながらだが、二十五人全員がユスポフの初めての願いを、本当の気持ちを受け入れ従う決意を示した。


「ありがとう。君達が僕が今日まで生きていた意味そのものだよ」

 そう言ってユスポフは微笑み、一人でテントの中に戻っていった。


「なあクコ。あのさ……」

 言いずらそうにそう言葉にするテオに対し、クコは首を横に振った。

「無理だ。何が言いたいかはわかっている。だが、あいつだけはどうあがいても助けられん。死なないで済む方法はある。だが……それは見せしめとして敢えて生かす場合位しか俺には思いつかない。それは死ぬよりも確実に酷い目に遭う」

 クコがそう言葉にすると、テオは空を見た。

 空は変わらず晴れ晴れとしていた。


「戦争ってのは糞だな」

 しみじみと、テオはそう吐き捨てた。

「同感だ」

 クコがそう言葉にし、テオと同じ様に空を見た。

 木々の隙間からほんの僅かにしか出ていないが、それは何時もと同じ空をしていた。


 さっきまで恐れていた敵部隊がまるで子供の様に泣きじゃくり続けていた。

 それは自分が死ぬからではなく、大切な人が死ぬ未来が待っていて、ただただ悲しいからだった。



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