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3-24話 神から与えられた使命21


 千人を超えるであろう集団による強襲を確認した盗賊団――否、革命軍。

 そのリーダーピクリムは報告を聞いた後少しだけ間を置き、そしていつもの様に微笑んだ。

「君達ならばこの事態に対処出来る。ならば、慌てる必要はないだろう」

 そうピグリムは二人に言葉を投げかける。

 だが、そんな事を言われてもスイミスとユスポフはここまで大勢に攻められる事など想定していない。

 当然だが尋常ではない恐怖を覚えていた。

「最大戦力のラケルタは勝手にどこかに行き、集団戦に耐えうるほどの成長をしているのはまだ百人程度……。どうしようもありませんよ!」

 実質的な軍指揮権を持つユスポフはそう叫び、その度にスイミスの表情も曇っていく。

 それを見ても、ピグリムの優し気な雰囲気と笑みは変わらなかった。

「いいや。君なら大丈夫だよユスポフ。君の指揮は天才的だからね。そもそも、今回のような対多数戦では君は絶大な効果を発揮するじゃないか」

 そう言われ、少しだけ頬を緩めるユスポフだが首を振り、緊張した顔で言い返した。

「それでもこの人数差では……。これはもう普通の範疇じゃありません!」

「おや、君の人生で今まで普通だった事などあったのかな?」

「……え?」

「ユスポフ。君の、いや君達の人生はそんな普通なものだったのかな? そこらへんにいる数多の雑兵と同じ様な退屈でつまらない人生だったのかね?」

「……それは……」

「そう。君の人生は普通じゃなかった。良くも悪くもね。だからこそ、今回の普通じゃない事も、君にとっては日常でしかないじゃないか。それに、ラケルタは消えたわけじゃない。スイミスならわかるよね?」

 その言葉にスイミスは少しだけ考え込んだ。

「……あいつの考えそうな事は……この場で一番強い奴の元に勝負を挑みに――」

「そう。既に高確率で最大戦力と遭遇し蹂躙をしている頃だと思うよ。だからこそ、今このタイミングで君達がすべき事はわかるかな?」

 その言葉に一瞬の間を置き、二人は頷いた。

 その表情から絶望はどこかに消え、二人は戦う男の顔となっていた。

「……必ず吉報を持って帰ります。お待ちください」

 そう言ってユスポフは慌ててドアから出て行き、その後スイミスも一礼してから部屋を出て行きピグリム一人が取り残された。


「……ま、私にはどうでも良い事なんですけどね」

 そう、革命軍リーダーピグリムにとって二人の頑張りなどどうでも良い事だった。

 それはこの集団が絶対に負けないという自信があるわけではなく、この革命自体がどうでも良い事という意味であり、はっきり言ってしまえば革命すらするつもりもない。

 確かに、ピグリムはいずれ自らが王になるつもりではいる。

 だが、それはこんな盗賊崩れのロクデナシと役たたずを率いてではない。

 自分が率いるに足る部下と、確かな地盤。

 それを揃えた時初めて本格的に動き出すのであって、それらが揃うまではただの実験と経験詰みでしかない。


 そしてそんなピグリムにとって重要なのは、それぞれ欠けた不完全な部下達でも食うに困った盗賊達でも、国に追放された科学者達でもない。

 今回偶然自分の元に――いや、そういう運命に導かれ手に入った三つの指輪。

 それだけである。

 未だ解析率は四割程度だが、それでもこれについてわかる事があった。

 これは量産されたら戦場を変えうる兵器であるという事だ。

 特に、この中のうちの一つは、カタログスペックを発揮出来るのなら文字通り一般人が武官を殺す事すら可能である。

 それほどの可能性を秘めていた。


 コン、コン、コン、コン。


 几帳面なノックを音を聞き、ピグリムは招いた客が来た事に気が付いた。

「どうぞ。何時も通り開いてますよ」

 その声に反応し、部屋の前で待っていた一人の老人が入って来た。

 白衣を来たその老人を見て、ピグリムはいつもの様に優しく微笑む。

「良く来てくれた」

「いえ。ピグリム様には多大なご恩がございます。いつ、いかなる時でも呼ばれたらすぐはせ参じましょう」

「ありがたい言葉です。貴方の様に偉大な魔法学者が私の為にそう言葉をかけてくれるなんて」

「私の方こそ、私を偉大だと言って下さるのは貴方様だけです。国は私から研究を取り上げ挙句の果てに私を追放したというのに……」

「国は恐れたのだよ。きっと君の才能にね」

「であるならば……追放した事を後悔させましょう。貴方に付き従う事で」

「ああ。助かるよ。それで本題なのだが……君にだけ任せた例の研究はどの位判明したか情報を擦り合わせをしたいと思ってね」

「はっ。あの現在貴方様が保持しているエメスの奴らのテスト品ですね。とりあえず報告通りある程度の内容と起動キーワードは判明しました。」

「うん。では、その内容の説明を頼むよ」

「はい。指輪の機能は三つ。魔法の保持、魔力の確保、そして魔法の発動です。機能を最小限とする事で小型化に成功した魔法装置の一種であり、魔法の保持と発動はその他良くある物と機能の差はさほどありません。ただし、魔力の確保だけは良くも悪くも特殊な仕組みとなっています」

「どう特殊なのかな?」

「周囲に存在する微量の魔力と人が発している魔法の発動出来ないほど小さな魔力を吸い取る事で発動します。要するに、状況次第では無限に魔法が使えるという事ですね」

「ですが、そんな便利な物があるわけがない。何か欠点があるという事ですよね?」

「そうですね。欠点というよりも仕様の様なものが一つ。要するに、極小の魔力を何とかかき集めるタイプの仕掛けですので極小の魔法を最低限の省エネ改良する事で何とか発動する事が可能となっています。つまり、大掛かりな魔法には使えないという事ですね。いえ、これでも十二分に凄いのですが」

「……連続使用制限は?」

「魔法とその場の大気中に混じる魔力次第としか。それでも貴方様の持っている三つの指輪ですと最低でも数十発は余裕かと」

「なるほど。では最後に、二つだけ確認させてもらうよ。君はキーワードを三つ、覚えているね」

「はっ。判明した時からずっとこの頭の中に」

「うん。それで、それをどこかに記述したりはしていないよね?」

「当然です。情報は命。そうおっしゃったのは他の誰でもなく貴方様ですから」

「ありがとう。本当に良い部下を持てたよ私は。それでもう一つの確認だけど、誰にもこの研究を漏らしたり手伝わせたりしていないよね?」

 その言葉に、老人は嬉しそうに頷いた。

「当然です。貴方様が私に任せて下さった事です。これまでも、そしてこれからも私一人で研究する所存でございます」

「うん。そうだね。ありがとう……君は本当に良い部下だったよ――」

 その言葉と同時に老人は地面に倒れた。

 自分でもわからないほど突然の事で、老人はピグリムに手を伸ばす。

 だが、ピグリムはそんな老人をただ見るだけで心配もしなければ手を取ろうともしない。


 そして、老人はその状況を察してしまい……信じられない気持ちのまま絶望に顔を歪め、ゆっくりと命を手放した。


「これで……この指輪を知る物は私一人、という事です」

 そう言ってピグリムは笑った。

 それは今までの作り笑いとは違う笑みで、気持ちを抑えきれなかったのか本来の邪悪な笑みが漏れ出していた。





「てめぇは強いのか?」

 ラケルタの第一声はそれだった。

 しかもその言葉を向けた相手は、どう見てもプランに対してである。

 何を感じ取ったのかわからないがラケルタはプランの方を見て、警戒した様子でそう声をかけた。

 それは質問ではなく、野性的な本能による牽制であった。


 その問いは、少し前のプランであるなら怯えた様子のまま頷いて、そしてあっさりと殺されていただろう。

 だが、今のプランは違った。

「ううん。弱いよ。私は弱い。この中の誰よりも、間違いなくね」

 プランは自分の弱さを理解している。

 確かに、剣の才能はある。

 だが、磨かれていない才能なんて……そんなものは強さではない。

 少なくとも、それを生かせる状況は自分一人では絶対に作れないのだから強いとは言えないだろう。


「……確かに、てめぇからは何か覇気の様なもんも人殺し特有の血の臭いも感じねぇ。だが……俺の鼻も鈍ったか。まあどうでも良い。……っつー事はだ、前戦ったそっちのちっこいメスガキとそこのおっさんがお前らん中じゃつえーんだな?」

「さあ? 私以外は皆強い――」

弱者(てめぇ)には聞いてねぇ。死にたくなら黙ってろ」

 ラケルタはプランの言葉を遮り、言葉と共に殺意を叩きつけた。


 それは死そのものという絶対的な恐怖だった。

 そんな普段なかなか感じ得ない物を直に浴びたプランは息をする事すら出来なくなり、青ざめ露骨なまでに怯えを見せた。

 顔を青くし、震え――それでもプランは笑った。

 ただの強がりだが、それでも仲間がいた為プランは笑う事が出来ていた。


「……ちっ。中途半端でつまんねぇ奴だ。せめてやり返すか情けなく素直に倒れた方がまだ可愛げがある。……おいお前ら、そこの二人置いて行くなら先進んで良いぞ」

 そんなラケルタの言葉に同意する様に、ヴェルキスとミグはプラン達から離れ、体を動かし戦いの準備を始めた。


「そいつ本当に戦い一直線の奴だから言ってる事はマジだぞ。つーわけで、悪いが俺達はここでこいつとダンスタイムだ。……後は頼むぞ」

 ヴェルキスはそう言葉にし、上部にいるラケルタに意識を集中させた。


「……プラン。持ってて」

 ミグはぽいっとカバンをプランに投げた。

「おっとと。これは?」

「私の宝物。大切に持っててね」

「ん。了解」

「……食べないでよ?」

「食べないよ! というか宝物食べ物なの?」

「ん。プランに貰った甘い保存食」

「しかも私の贈った物なの!? それが宝物で良いの?」

「良いの」

 きりっとした顔で、ミグは何の迷いもなくそう言い切った。


「……はよ行けや。邪魔だ」

 プランとミグの会話を止め、ラケルタはイライラを隠しもせずそう言葉にした。

「……負けても良いから、無事でいてね?」

 プランはそれだけ言葉にし、エージュ、サリス、ヴェインハットの三人と共に山の奥にある拠点に向かった。


「おう。あんがとな、行くまでちゃんと待っててくれて」

 そうヴェルキスが言葉にするとラケルタは露骨なまでに顔を顰めた。

「ふざけんな。俺があいつらに手出そうとすればその隙狙う気満々だった癖に。良く言うぜ」

「ははっ。ちょい露骨過ぎたかね?」

「知るか。それで、準備は出来たか? そろそろ俺の我慢が限界に来ているとこなんだが?」


「……ミグはどう?」

「何時でも」

「という訳で良いみたいだぞ。だから……とっとと来やがれ三下口調が」

 ヴェルキスの言葉に、ラケルタは獣の様な笑みを見せた。

「良く吠えた! そのまま死ねや!」

 そう叫びながらラケルタは二人に目掛けて跳びかかった。


 ラケルタの突撃はヴェルキスの目に映らぬほどの異様な速度をしていた。

 学園生活五年を超え、冒険者としても十分なほどのベテランであるヴェルキスは戦闘だけなら欠点らしい欠点はない。

 オールラウンダーな戦闘よりの冒険者であり、魔剣がなくともそこいらにいる並の冒険者なら束になっても勝てない相手である。

 だが、そんな並の冒険者から一抜けた程度のヴェルキスよりも、ラケルタは遥かに上の存在であった。


 ヴェルキスの目が付いてこないのに気が付いたラケルタはその隙を縫う様に拳を振るう。

 まるで斬撃の様な重く鋭い拳はヴェルキスの顔面に曲がりくねった挙動で襲い掛かる。

 そして……その拳は顔面ではなく剣が接触した。

 剣と拳の接触であるはずなのに、まるで剣同士がぶつかった様な斬撃の音が鳴り渡った。


 ヴェルキスは確かに目では追えていない。

 だが、魔剣持ちである彼にはそれは些事でしかなかった。

 魔剣を持っている限り、ヴェルキスは超一流の剣士を嘲笑う様な剣技と才覚を持ち得る事が出来ており、目で追えずとも相手の挙動を予測し剣を合わせる事位は可能であった。


「……ま、格上だって事ははなからわかっている。悪いな。魔剣使われの道具頼りで」

 自嘲しつつのヴェルキスだが、その手の中にある魔剣はラケルタの命を狩れと楽しそうに怪しく踊り狂っていた。

「はっ! 知るかんな事。強い事に理由もルールもいらねぇ。強いから勝つ。それだけで良いだろうが!」

 吠えながらラケルタはヴェルキスの斬撃を打ち落とす。

 ただの拳が文字通り踊る様に襲い掛かる魔剣の一閃を落とし続ける姿は見る物が見れば狂気に陥るだろう。


 その縦横無尽に繰り出される魔剣の一撃一撃は、全て至高と呼ばれるほどの位にあった。

 並の剣士程度ならば絶命した事さえも気づかぬほど鮮やかに切断する。

 当然、ラケルタであってもその斬撃を一度でも通せば即座にこの世との縁が切れる。

 それほどの斬撃を……ただの、ガントレットすら付けていない拳が平然と打ち落とし続けていた。

 しかもそれを行う両者は軽口を叩きながらだ。

 それは狂気の世界に足を踏み入れた地獄に他ならず、そこで平然とする両者は修羅以外の何者でもなかった。

 そんな二人は気楽に笑みを浮かべ、殺し合っている。

 ただし、楽しくて笑っているわけではない。

 顔が自然と笑顔になっているだけで、どちらも殺し合いを楽しむ性格ではない。

 ヴェルキスは当然、ラケルタも別に殺し合いが好きなわけではない。

 ラケルタが好きなのは、強い相手を殺す事、ただそれだけである。




 そんな二人だけの世界を破壊したのは、この場にいるもう一人の修羅。

 幾たびもの命を奪い、死にかけて来たラケルタは背中に死を感じ、迷わずヴェルキスから離れ後ろを振り向いた。

 そこから迫ってきていたのは矢だった。

 それもただの矢ではなく、それは青く不気味に輝く魔法の矢。

「鎌で襲ってくるのは止めたのかよ!」

 ラケルタは矢を殴りつけて破壊しながら吼える。

 矢はラケルタの拳に当たった瞬間パキンと音を立てて砕け、そして光に戻った。


「……今日はそんな気分だから」

 そう言いながらミグは自分の身長と同程度もあるやけにゴテゴテした白い弓を構え、再度矢を放った。


 ミグの最大の長所であり最大の欠点、それは戦い方が固定出来ない事である。

 とある事情によりミグの戦闘方法には異常なほどムラが大きく、常に安定した戦いが出来ない。

 とは言え、ミグが弱い日というのは絶対に存在しない。

 ただどんな戦い方がその日出来るかを本人すら知る方法がないだけである。

 そして、今日はこの戦い方をしたいという気分だった。


 まっすぐ襲い掛かる矢をラケルタは殴りつけようとする――が、矢が不規則な挙動となりラケルタの拳を回避する。

 そしてその矢が向かった先は……ラケルタの目だった。

「うおっ!」

 ラケルタは目玉を抉ろうとする凶矢を背中を地面に着けて低空姿勢となって回避し、同時にそのまま矢を蹴り砕いた。

「……おしい」

 ミグは至極残念そうに呟いた。

「ひやっとした……。おっさん、お前は強いが真っ当だ。……一方あっちのメスガキはやべーわ。何するかわからん上に急所の狙い方がえぐい。暗殺者か何かだろあいつ」

「……効率的でしょ?」

「はっ。違いねぇ」

 鼻で笑いながらラケルタはヴェルキスに投石し、その隙にミグの方に接近し拳を叩きこむ。

 全身の勢いを付けたボディブロー。

 それに当たれば骨が折れるどころか文字通り肉体が木っ端みじんのミンチとなるであろう。

 それだけの威力を兼ね備えた拳を、ミグはひょいと紙一重で躱し、ゆっくりと……踊る様に弓を横に薙いだ。

「……うわまたかよあぶねぇ!」

 肌に冷たい何かを感じたラケルタは恥も外聞も捨てて飛び退き地面にゴロゴロと転がる。


 そして起き上がり、ゆっくりと自分の脇腹を確認した。

 ボロ布の服の脇腹付近は綺麗にぱっくりと裂かれ、そして肉体にも数ミリほどの傷が横一閃に出来て血が滲んでいる。

 ほんのわずかでも離脱が遅ければラケルタは上と下で真っ二つとなっていただろう。

「……おしい。もう少しでラケとルタに出来たのに」

 そう言ってミグはそっと光り輝く弓を持ち直す。

 その弓は、最初から持ち手と弦以外の部分全てが刃と化していた。

 それはもはや弓と言うよりも剣の方に近い形状だった。


「ああ。やっぱりお前らつええんだな……。わかってたけど……。ああ、気に入らねぇ。本当に気に入らねぇ」

 さっきまでの余裕のあった態度はなくなり、ラケルタの目は怒りと憎しみと嫉妬に塗れていた。

 それと同時に、殺意が爆発したように溢れ、二人に襲い掛かる。

「……さて、本番だね」

 ミグはぎゅっと弓を握りながらそう呟く。

 それを聞いたヴェルキスもミグの傍に移動して剣をまっすぐ持って暴風が襲い掛かるのを待ち構えた。


ありがとうございました。

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