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3-23話 神から与えられた使命20


 三十以上の町や村から集めた、合計千五百人を超える集団を見ながらシュウは満足そうに頷いた。

 それは当初の予定よりも遥かに多く集まった上に、戦力はこれだけではなく冒険者とクリア教教徒の別働隊までいる。

 相手の人数はわからないが、それでも食料やら土地やらもろもろの事情を考えると三百人は切るはずである。

 つまり、こちらが五人行動不能になる前に相手を一人行動不能にしていけば十分につり合いが取れるという事だ。

 安全マージンを余分に確保する事を考えても、苦しいのは序盤位で後半は一気に殲滅出来るほど楽になるだろう。


 ここまで差があるなら負ける可能性は限りなく薄い。

 むしろ勝敗が決した後市民達が正義に酔った暴徒と化し盗賊をリンチする可能性や盗賊の持っていた道具をこっそり盗む事の方が可能性がある。

 というよりも……必ず何か悪さをすると他の誰でもなく、総まとめ役のシュウ自身が何かやらかすと確信していた。


「はぁ。今から頭が痛い。せめて冒険者と宗教者に迷惑をかけないと良いのですが……」

 頭を抑えながらシュウはそう呟いた後、眼鏡をかけ直し立ち上がった。

「さて、行きましょうか。準備をお願いします」

 シュウはお供の女性にそう言葉をかけると女性は頷き、シュウを千五百人の前まで案内した。




「――諸君らは、決して英雄ではありません。本来の今頃は日々の生活を謳歌する、そこらへんにいるただの人として生きていたでしょう。だが、それを恥じる必要はありません。日々の生活を繰り返す。それもまた、世界と平和を守る事であると言えるからです」

 シュウは鼓舞するかのようにそう言葉を発した。

 だが、集まった皆はその言葉をあまり快く思っていなかった。

 自分達はただの人でないという自負がそこにあるからだ。

「――ドラゴン退治然り、魔王討伐然り、いつの世も時代を変えるのは英雄であると言われています。ですが、私はそうは思いません。確かに、一人の英雄が時代を変える事はあります。ですが、その何百倍も多く、そこいらにいる人が、この世界を、時代を変えてきているからです」

 そう言ってシュウは微笑み、若干の間を作った。


「…………明日、我々のこの日々に、この世界に新しい幕が開かれます。それを成すのは……決して英雄ではない! ましてや協力者として参加する冒険者でも宗教者でもなく! 諸君らただの民が! 今日! 今より世界を変えるのです! さあ、立ち上がり、前に進みなさい。君達の勇気により、明るく輝かしい明日が始まるでしょう……」

 その言葉と同時にトランペットの音が響き――叫び声が轟いた。


 勇敢なる男達が己を鼓舞するかのように声を張り上げ、あちらこちらで勇気が感染していく。

 もう誰の耳にもシュウの声は一切届かず、号令を出す事も出来ない。

 だが、これから行う事は非常にシンプルで、声すら必要なかった。


 シュウは手を振り上げ、そして勢いよく前に出す。

 その合図に従い、千五百人は一斉に盗賊の拠点であるアップルツリー目掛けて突撃を始めた。


 ――ええ。時代を変えるのはいつだって愚かな、ただの人です。良くも悪くもね……。

 シュウは予想以上に素直な民をほくそ笑む様な顔で見つめ、そっと椅子に腰を掛けた。


 サリスやテオが育成した部隊達は全て第二陣でヴェインハットの部隊は救命部隊含めて第三陣。

 そして独立した冒険者と宗教集団は第四陣扱いとなり、エージュの育成した魔法使い達はそれぞれ適正のある第二陣から四陣までに分配された。


 そう、実は教導に協力した冒険者達すら知らない第一陣が別個に存在していた。

 冒険者達が彼らの存在を知らず、また育成に関わっていない。

 その理由はそれはもう単純で……彼らがただただ愚かであるからだ。

 シュウはその愚かな愚民が宗教関係者や冒険者の機嫌を損ねない様、敢えて距離を取らせていた。


 喧嘩癖や窃盗癖、その他軽犯罪を繰り替えす屑共とその指導者合わせておよそ三百人。

 それが第一陣の集まりである。

 彼らは皆が皆が悪人というわけでは決してない。

 だが、ロクデナシで駄目人間である事は確かである。


 そんな彼らが最も重要な第一陣、先陣を任されてはいるが、それは彼らを弾避けとして使っているというわけではない。

 そもそも、そんな用途に使えばまず間違いなく脱走してしまう。

 いや、彼らの愚かさは予想よりも下である。

 最悪の場合は盗賊に合流する可能性も十分にあり得た。


 だが、そんな彼らには彼らのとても重要な役割があり……そしてその役割を彼らは望んで行っている。

 そんな彼らの重要な役割――それは伐採である。


 アップルツリーは木の恐ろしく多い山であり、二、三本ある獣道を除けば山頂に登る事すら難しい。

 それは当然中腹にある軍事拠点もそうである。

 だからこそ、シュウは考えた。


 道がないなら切り開けば良いと。


 故に、第一陣は軽犯罪を繰り返す愚か者と、それを指導する樹木関係の職業従事者で構成されている。

 指導者により伐採の技術を学び、効率良く木を切り幾分もの道を切り開く。

 もちろん、後の事を考えて丸裸にはしない。

 通れる様にさえなれば良いのだから。

 その為のストッパーとしてその手の経験がある者を指導者に選んだ。


 では、ロクデナシの屑共が言う事を聞くかと言えば……実は素直に聞いてくれたりするし、むしろ先陣という危険な地位にもかかわらず他の人達よりも熱心に働いてくれてさえいる。


 シュウは町長という職業故に、身をもって知っていた。

 一般的な民よりも好き放題生きる愚民と呼ばれるような人種は、名誉や誇りでは動かずましてや強制などしたところで意味がない。

 そういった愚かな民を動かすのは、いつだって目先の欲である。


 そう、この伐採で切った木は全て自分達の物にして良いと事前に説明し、それどころか切った数次第では特別報酬を出すと約束した。

 シュウがした事はそれだけである。

 たったそれだけで、現在第一陣にいる者は皆、目を血走らせ敵地である盗賊拠点の山に突撃して木材の伐採に精を出し始めた。


 第一陣が山に道を作り、メインである第二陣を押し込ませ持久戦に持ち込みつつ相手の数を減らし、第三陣が救命と食料の支援を行う。

 これがシュウの基本計画である。

 もちろん――第四陣の動き次第では、この予定はいくらでも変わってくるだろう。

 良い意味でも悪い意味でも……。


「ふむ……。伐採の速度も想定通りですしこちらの初動は上々と。さて……あちらはどうでしょうかね……」

 シュウはぽつりと呟き、部隊から報告が来るまでゆっくりと仮眠を取……ろうとしたところで慌てた声が耳に届いた。

「すいません。緊急の用事が――」

「……盗賊達ともう遭遇しましたか? もう少し出て来るまでかかると思いましたが」

「いえ。そっちではなくてですね……」

「では何がありました? 簡潔に報告してください」

「は、はい! ガダルスナで治療中だった冒険者一名が突如行方不明になったとの報告が……」

 シュウは一瞬だけ眉を顰めた。




 冒険者チームであるプラン達はシュウ達や宗教者達とはまた異なる位置から生い茂る山の中をえっちらおっちらと突き進んでいた。

 今ここにいるのはプラン、サリス、エージュのいつもの三人に加え、ミグ、ヴェインハット、そしてヴェルキスだけである。

 「クコは未だに意識不明の治療中で、そしてテオは……」

「テオは残念だった……おいしい人を失くした……」

 ミグがそう呟くとプラン、サリス、エージュの三人は同時に噴き出した。

「おまっ。普段冗談言わないのに何でこんな時だけ……」

 未だ距離があるとはいえ敵地である為余り騒いではいけない状況の為、サリスはぷるぷる震え苦しそうにそう呟いた。

「えへん。私も冗談くらい……言えるよ」

 むふーとした顔でそう答えるミグ。

 それに対し、ヴェインハットは何度も頷いた。

「うん。ミグちゃん超可愛い。抱きしめて愛でたい位可愛い」

「……私、しばらくヴェインの前で冗談言うの止める」

 見事なまでに真顔でミグはそう言葉にし、ヴェインハットはどことなくしょんぼりした雰囲気を醸し出した。


「ま、しょうがないよねテオは。あっちの方が才能あるんだし本人の希望もあるし」

 プランがそう言葉にするとヴェインハットとミグは頷いた。


 テオは本人とシュウの希望により第二陣メイン班の中隊長役、複数の部隊を同時管理するポジションに付いた。

 それは本人の教導を受けた部下達の希望でもあり、そしてテオ自身が冒険者チームにいると足を引っ張ると感じたからでもあった。

 元より体を使う才能はそこそこ程度で頭を使った方が優秀というタイプの人材でもある為、それは適材適所と言っても間違いではない。


「つーわけでリーダーがんば」

 サリスは無責任にぽんとプランの肩を叩いた。

「任せなさい。誰かに仕事を押し付ける事に関しては私は凄いんだぞー」

 えへんとない胸を張るプランを見て、サリスとエージュは苦笑いを浮かべた。

「ま、お前ららしいな」

 そう言ってサリスはプランの頭をぐりぐり乱暴に撫でまわした。


 ただ、苦笑いを浮かべながらでも内心サリスとエージュは安堵していた。

 プランは最初この山に来た時は変に静かで、そして真面目な事を最低限しか言わなかった。

 言えなかった。


 その状態ではどうも空気が不味いというか違和感が残りギクシャクするというか……とにかくやり辛かった。

 だが、今は違う。

 プランに余裕があり、そして心から笑えている。

 だが空気が緩んでいるというわけでもなく張り詰め過ぎない位といった、ほど良い緊張感が漂っている。

 サリスもエージュも、最高のコンディションを引き出せていると自覚するほどだった。

 これも一種のプランの才能なのだろうとサリスは思えた。

 この子の為に何かしないとという気にさせる何かを、確かにプランは持っていた。


「行くぞダチ公。リベンジマッチだ」

 まるで狂犬の様な獰猛な笑みを浮かべ気持ちの昂るサリスに対抗し、必死に同じ様な顔を作り笑うプラン。

 ただし、その顔はまるで子犬の様で、再度サリスとエージュは噴き出した。


「じゃれてるとこ悪いが……リベンジは俺達の方が先らしい」

 それを本来気づくべきであるサリスやプランよりも先にヴェルキスは気づき、そう言葉にした。

 元々自然に隠れる才能があったという事もあるが、それ以上にヴェルキスがその禍々しいまでに溢れる殺意を一度体験し敏感であったという理由もあった。

 その枝の様に細い手足を持った男ラケルタは隠れる事もなく、プラン達の方を楽しそうに見つめていた。


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