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3-18話 神から与えられた使命15


「そこそこ強い魔剣使いの男が一匹、ちんまいメスガキの魔法使い一匹。こっちもそこそこやる。と言っても、俺で何とかなる位だったな。……スイミスが余計な事しなきゃ殺せたのに、こいつが余計な茶々入れたから逃げられたわ」

 不健康としか言いようがないほど細い手足をした背の高い男、ラケルタはニヤニヤ笑いながらそう言葉にした。

「……否定はしない。だが、あいつらが何か企んでいたのは確かだから、調べなければならなかった」

 スイミスと呼ばれたスキンヘッドで体の大きな男はそう言葉にし、そして部屋主の男に対し軽く頭を下げて謝罪した。


「構わない。二人共良くやってくれた。情報を持ち帰る事もだが……二人に怪我がない。それが私にとって一番の吉報だよ」

 部屋主であるその男、ピグリムは二人に優しい笑みを浮かべ、そう言葉にした。

 それに対しラケルタは心底不快そうに顔を顰め、スイミスは少しだけ微笑み再度頭を下げた。

「……くっだらねぇ。んな事知るか」

 ラケルタはそんなピグリムの対応が面白くなく、舌打ちをした後乱暴に扉を叩きつけ出て行った。

「……狂犬が。すいません。ちょっとあいつの様子を見てきます。放置すると何しでかすかわからないので」

 スイミスはピグリムに深く頭を下げラケルタの後を追い掛けていった。


「……もしかして、私はスイミスに負担を掛け過ぎているだろうか? ユスポフ、君はどう思う?」

 残された一人、小柄な背をした男性ユスポフにそう話しかけるとユスポフは首を横に振った。

「そうですね。確かに少々酷使しているフシはあります。ですが、顔色を見る限り問題なく、鍛えているからか余力もありそうですので、まあ問題ないでしょう」

「そうか。君がそう言うのなら彼はまだ大丈夫なのだろう。これからその辺りの細かい気配りを頼むよ」

 ピグリムの反応にユスポフは満足そうに頷いた。


「それでユスポフ。君の報告を聞こうか」

 その言葉を聞き、ユスポフは困った顔を浮かべながら分厚い資料を差し出した。

「詳しくはこちらに。とりあえず要領だけ纏めますと……」

 ユスポフは山狩りで追いかけた事と、相手の拠点を見つけそこから伏兵を仕掛け追い詰めた事を説明した。


 部下達から聞いた話では、見かけたのは男女三人ずつ。

 全員若く、男の一人は中肉中背で特に特徴がなく、一人は顔をマスクと帽子で隠した怪し気な風貌、残り一人は小柄な少年の様だった。

 女性の方は、発育が悪いのか少女の様なのが一人、発育が良いのが二人、特に発育が良い方の片方は足等の露出が多く部下の一部が暴走しそうになる様な恰好だったらしい。


「殿としてか捨てられたのかわかりませんが、山狩りの最後で小柄な少年が残りこちらの足止めをしてきました。暗かったからか部下達の腕が悪かったからか捕縛も殺害も出来ずまんまと役目を果たされました。部下の不手際、詫びさせていただきます」

「いや、君が失敗した訳ではないのだから気にしなくて良い。それで、続きを頼む」

「はい。事前に拠点を発見していましたのでその地点に伏兵として騎馬部隊を配置しました。ただ……」

「ただ、何かな? 君が集中して鍛えた騎馬隊が山を走った後の少人数に負けるとは思わないのだが……」

「はい。正直僕も少人数相手なら余裕だろうと思っていたのですが……僕がいなかったからか何故か逃げられたそうです」

 その言葉にピグリムは肩眉をあげた。

「逃げられた。……いや、責めているわけではない。ただ……どうやってか気になって」

「ええ。僕もそこが気になったのですが……話の要領が掴めず……」

「構わない。君が聞いたそのままを伝えて欲しい」

「はい。えっと……『高速で走る馬車を見た』『山から馬車が木々を折りながら走って来た』『馬より早く人が走っていた』だそうです」

「……なるほど……さっぱりわからんな」

 ピグリムの呟きにユスポフも頷いた。


「はい。確かに騎馬隊も他の部下と同じく学のない方々ですから多少は気を使って子供に伝える様に話していましたが……まさかここまで会話が出来ないほど知能が低いとは……」

「そういう言い方をするもんじゃない。彼らは我々の仲間で、そして彼らが学ぶ機会に恵まれなかったのは国の所為なのだから」

「……失言でした。だからこそ、我々が彼らに教育を施している事をつい忘れていました」

「その通りだユスポフ。……君が要なんだ。指導し、指揮する事で大多数の雑兵を一つの巨大な兵として扱う君の技量こそ、私の切り札なんだ。だからこそ、頼むよ部下を大切に導き、君の武器としてくれ」

 その言葉にユスポフは誇らし気に微笑み頷いた。

「任せてください。僕を認めて下さった貴方の為に、僕はこの力を使い貴方に勝利を捧げましょう」

 そう言葉にしてユスポフは頭を下げ、ピグリムの部屋を退出した。


「うむ。君が一番だよ……君が一番、扱いやすい――」

 そう呟き、ピグリムは笑った。

 今までの様な優しい笑みではなく、その笑みは邪気に溢れていた。


 最大戦力であるラケルタはその狂暴な性格が故に制御が非常に難しい。

 部下も相当数が彼のストレス解消の玩具となり、文字通りバラバラとなった。

 ピグリムは何とか自分が上であると示して無理やり首輪を付け、その上でスイミスをストッパーとした。

 これだけやって制御出来ているかと言えばそうではない。

 それでも、何を求め何をしたいかわかりやすい性格をしている為制御出来ずとも管理し誘導する事が容易い為比較的扱いやすいと言えなくもなかった。


 むしろ厄介なのはスイミスの方だった。

 一応ピグリムに忠誠を誓ってはいるが、それもどこまで通用するのかわからない。

 スイミスの能力は他者の心を読む力である。

 その為本来ならピグリムの配下になどなるわけがないのだが……ピグリムはその対策を既に済ませていた。

 だからスイミスの目には彼は裏表のない、誰かの為に立ち上がる高潔な人物に映っていた。

 実際どうかは別として……。


 強力だが暴れまわり被害を出さずにはいられない野蛮な獣と、扱いやすいが騙している事がばれたら面倒な木偶の坊。

 それに比べれば、承認欲求の強い子犬程度でしかないユスポフの扱いは楽であった。

適度に褒めれば言う事を聞いてくれるのだからこれほど便利な手ごまはいないだろう。

 その代わり、前者二人に比べると色々劣っているが……。


「と言っても……私にとって部下も革命もこの拠点も、全てどうでも良い事でしかありませんけどね」

 そう呟いた後、ピグリムは机の中にある三つの指輪を見つめ、ほくそ笑んだ。







「というわけでして、神のお告げを聞いた農民の少女が国の為に立ち上がり、国の為に戦うも最後国に裏切られる。それがジャンヌダルクという物語です」

 シュウの言葉に皆眉を顰め、プランは首を傾げた。

「えと、それで結局私は何をすれば良いの? 火あぶり?」

「いえいえ。真似るのは前半だけです。盗賊の被害にあった町や村を巡り、扇動してもらいたいのですよ。共に盗賊を倒そうと」

 シュウの言葉にプランは首を何度も横に振った。

「いやいやいやいや無理無理無理無理! 出来ないし出来てもやりたくないよ! それその人達が犠牲になるって事じゃん」

 その言葉に、シュウは微笑んだ。

「どうやら誤解があるようですね」

「誤解?」

「ええ。私はねプランさん。全部貴女に押し付けようとしてるわけではありません。だから出来ない事は気にしなくて構いません。そして犠牲についてですが……むしろ、貴方が頑張った方がより多くの人が生き残ります」

「……本当?」

 信じられない様子でプランがそう尋ねると、シュウは胡散臭い満面の笑みのまま、しっかりと頷いた。

「はい。ですので、少々お話にお付き合い下さい。詳しい作戦と、事情について説明させていただきますので」

 そう言葉にした後、シュウはアップルツリー解放までの作戦を語りだした。


 ガダルスナ町長シュウ・オーロット。

 彼は町長としては確かに突出した才能を持っているが、逆に言えばそれまでであり他に武器を持たない。

 貴族と結びつく様な強いコネも持っておらず、領主と違い従えている武官もいない。

 そんなシュウが大規模戦闘を行うとすれば、用意出来る武力は一つしか存在し得なかった。

 数である。


「今回の作戦のキーは……これです」

 そう言ってシュウは皆の前に、やけに高級そうな羊皮紙の紙を見せた。

 それは現在盗賊が占拠している山『アップルツリー』の所有権を記したものだった。

 ちなみに当然の話だが土地とは領主が管理する者であり、これをわざわざ領主が用意する事も、それを他者に譲る事も滅多にない事である。

「……土地の所有権を取ったという事は、これでその土地を好きにする事も出来るし何なら大量の冒険者を雇って人海戦術も可能という事か」

 テオの言葉にシュウは首を横に振った。

「いえ。アップルツリーは非常に肥沃した土地でして……。ここを潰してしまうとガダルスナだけでなく周辺地域全体が近い未来困った事になってしまいます」

「なるほど。なら金に物を言わせた人海戦術は……」

 シュウは両手を広げてみせた。

「無い袖は振れません」

「……じゃあ、それをどう使うんだ?」

 テオの言葉に、シュウはさきほどと同様の、アップルツリーの所有権の記された紙をテーブルの上に乗せた。

 ただし、その枚数は一枚や二枚ではなく分厚い束となっていた。

「アップルツリーの土地権を分割し、周囲の街に配ります。ただし、配るのは盗賊退治の報酬としてですがね」

 シュウの言葉に、全員は絶句する事しか出来なかった。


 当然だが、それで戦うのはただの村人である。

 勝てるわけがない。

 出来るわけがない。

 テオだけでなく、全く戦う知識のないプランですら危機感を覚える様な無茶な作戦だが、シュウの態度は自信満々な様子だった。


「……出来るの?」

 プランの質問に、シュウは今まで見せた事がないほど、邪悪な笑みを見せた。

「出来ますよ? 数は力です。ま、相当な犠牲が出ますけどね。それでも……確かに成功する見通しは立っています」

「……犠牲は減らせないの?」

「減らせますよ。皆さんの協力次第で幾らでも。特にプランさん。貴女が動いた分だけ、確実に犠牲は減ります」

「……どうして私が頑張ると犠牲が減るの? そして、どうして私なの?」

 プランは聞かずにはいられなかった。


「それは簡単な話です。貴女が私達の様な人種とは真逆の人種だからです。私は利によって人を動かしました」

 そう言ってシュウはやけに豪勢な紙束をぽんと叩いた。

「ですが、それで動かない人はまだまだ沢山います。人は利だけによって生きているわけではないので。当然ですが、数は多ければ多いほど強いです。ですので……そう言った人を動かして頂きたい」

「……私じゃないとダメなの?」

 その言葉にシュウは首を横に振った。

「いいえ。扇動(アジテーション)が得意な人がいらっしゃるならその方が良いです。して頂きたい事は街を巡って皆に参加する様語り掛ける事だけですから。それで、皆様の中でその様な技能をお持ちの方はいらっしゃますか?」

 全員が首を横に振った。

「では、皆さんの中で誰が一番人の感情を動かす事が得意でしょうか? 利害ではなく、感情で人を動かせる様な、そんな人です」

 そのシュウのしたり顔の質問に、全員はプランの方を見つめた。

「そういう事です」

 シュウはその言葉の後、プランからの回答を待った。


「……本当に、本当にそれで沢山の犠牲が減るの?」

「減ります。確実に減らせます。数は力ですからね。零にはなりませんが……それでも私はこの方法が一番多くの人を生かせると信じています」

「……相手は訓練された兵士さんっぽいよ?」

「だから今動くんですよ。時間をかけるほど盗賊達の練度が上がり軍に近づいていきます。逆に言えば、練度の低い今ならまだ間に合います」

 シュウの言葉に少し考えるようなそぶりを見せた後、プランはテオの方を見た。

「どう思う?」

「わからん。わからんが……俺達で盗賊を何とかする手段はない。それだけは確かだ」

 その言葉にプランは頷き、答えを出した。


「……そか。んじゃシュウさん。受けます。正直シュウさんの言っていた事が私に出来るとは思えません。私の言葉で人が動くとはとても……」

「街へは送迎しましょう。話すべき会場も我々が用意しましょう。そして皆に訴えかけやすい場も作りましょう。ですので……後はその時が来たら存分に語り掛けるだけです。プランさん。期待してますよ」

 そのにっこりとしたシュウの笑顔は、プランの昔の友達であるヨルン(腹黒狸)そっくりだった。

 ――頭が良くて性格が悪くなると眼鏡をかけるのかしら?

 プランは溜息を吐きたくなる気持ちを抑えながらそんな事を考えた。




 その後、シュウはプラン以外にも仕事の相談を始めた。

 作戦自体それなりに見通しは立っているのは確かだが、それでも参加する人数が多いから色々と人手が足りない状況となっている。

 その為指導や食料運搬などの手助けをして欲しいとシュウは相談し、全員はそれに従い頷いた。


 テオとサリスは今回の主戦力である町民達の練度上げ要因の一員となる事が決まった。

 来たる作戦決行日までに少しでも生存確率を上げる為の集団戦の訓練を行う事が主な仕事である。

 今はガダルスナの町民だけだが、時間が経てば経つほど様々な街が参加してくる為町民はジャガイモの如く増えて来る。

 そして、全員がここガダルスナに集まるわけではない為訓練を行える者も分散して行動しなければならず、幾らいても人手が足りるという事にはならない。

 その為、冒険者としてある程度の実績があるテオとサリスはそのような仕事が任せられた。


 今この場にいないヴェインハットの事を尋ねたシュウは、プラン達からヴェインハットの技能や人となりを聞き、子供や老人、怪我人などをまとめ上げる役職とする事に決めた。

 良い意味で生き汚いであろうヴェインハットなら本来なら戦力に成りえない彼らを上手く活用し、役立ててくれるだろうとシュウは考えたからだ。


 エージュに関しては、魔法が使えて貴族の一員であるという時点で頼むべき事は決まっていた。

 魔法使いの指導役である。

 このガダルスナにも妖精石を持った魔法使いが二人在住している。

 ただ、彼らは戦いを経験した事もなければ魔法の訓練を受けた事もない。

 高いお金を使って妖精石を購入し、その魔法を仕事として賃金を得ていただけのただの商売人の町民である。

 そんな彼らと、これから加入してくる同じ様な魔法使いをそこそこでも良いから実戦で使える様にするのがエージュの仕事に決まった。

 と言っても、これは短い時間で実戦型魔法使いにしろとかそういう無茶な事を言っているわけではなく、戦況が開く前に一発魔法を敵にぶち込んで逃げると言った一発屋として使える程度にしてくれという要望である。


 最後に……この中で最強の剣士であるヴェルキスと、最高の魔法使いであるミグの仕事は――プランの護衛となる事に決まった。

 ぶっちゃけて言えば、過剰戦力である。

 ただこれには大きな理由があり……指導という意味や事前準備という意味において二者が恐ろしい程に役立たずであり、他に任せる仕事が見つからなかったのだ。


 ミグは見ての通り、他者とのコミュニケーションに死ぬほど問題があった。

 ヴェルキスに関しては、一見マトモだが恐ろしく指導が下手くそだった。

 そんな両者は数で押すというこの作戦においては、当日まで完全にフリーである為プランが面倒を見る事に決まった。


「これで全員か……。……ここにクコ君がいてくれたらとても心強いのに」

 プランは今なお寝ている仲間の事を思いぽつりと呟いた。

「ああ。あいつならこういう時確実に役に立つな。器用で何でも出来て、力なき者が行う技術を山ほど知っているからな」

 テオもそれに同意する様にしみじみとした口調で呟く。

「彼のおかげで、私達は生きて山を出られたのですよね……」

 エージュの言葉にテオとプランは頷いた。


「……しばらくは起きる事も出来ないでしょう。無理やり腕を繋げた事もあって体力が極限まで落ちていますので」

 シュウはそう言葉にした。

「……ありがとう。クコ君を助けてくれて」

「いえ。貴女方を懐柔する為ですから」

 そう言って困った顔をするシュウ。

 その表情にはただそれだけでなく善意が含まれているのだろうなと思えるそぶりであり、プランは小さく微笑んだ。


「……さて、これで粗方話し合いが終わりましたかね。後は貴方方への報酬やこちらの要求などですが……それはある程度区切りがついてからで良いでしょう。捕らぬ狸の何とやらですし」

「うん。それで良いよね?」

 プランの言葉に全員が頷いた。

「では……おっと、一つ大切な事を尋ね忘れていました。ちょっと良いでしょうか?」

 シュウの言葉に全員がシュウの方に視線を移した。

「今回の事に利用出来そうなコネを持っている方いらっしゃいません? この辺りの町長とか、またはここの領主とか。もしそうであれば色々やりやすくなるのですが……」

 その言葉に全員が顔を見つめ合った。


「あ、ミグちゃんエメスっていう村の研究所に知り合いいるっていってなかった? それは?」

 プランの言葉にミグは首を横に振った。

「ただの知り合い。……あんま仲良くないし……正直かかわらない方が良いと思う。ぶっちゃけめんどい人だよ?」

 ミグは本当に面倒なのか困った顔で呟いた。

「そっかー。エージュは?」

「すいません。ここの方々とは特に繋がりはございません」

 エージュはプランにぺこりと頭を下げそう言葉にした。

「テオもないよね?」

「ああ。ないな」

 予想通りというかテオもそう答えると、プランはシュウの方を向いた。

「というわけで悪いけどないよー」

 その言葉に頷いた後、シュウはプランの方を見据えた

「……おや、プランさんもないのですか?」

「え? 私ただの村人だよ。そんなの――」


『依頼で行く場所付近のクリア神教会に行く時私の名前を使ってください』

 プランは友人の忠告を思い出し、ニコニコ顔が急に真顔と代わり、じーっとシュウの方を見つめた。


「……あったわ私。ちょっとしたコネっぽいのが」

「ですよね。プランさん。短い付き合いですが何となく理解しています。貴女はそういう人ですよね」

 シュウは苦笑いを浮かべながらそう呟いた。


ありがとうございました。

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