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3-17話 神から与えられた使命14


「なるほど……つまり最低でもやっかいなのが三人はいるという訳ですね」

 町長宅に戻った後、プラン、サリス、エージュ、テオ、ミグ、ヴェルキスの六人全員から盗賊に関する情報を聞きだして、シュウはそう言葉にした。


 一人目は、ラケルタと呼ばれていた好戦的なトカゲの様な男。

 まるで狂犬の様な態度でとても人の上に立てる様な器ではなく、また同時に人に仕えられる様な男ではない為どうしてその場にいたのか正直良くわからない。

 ただ、その実力は本物でヴェルキスは魔剣込みの自分よりも格上であると判断を下すほどだった。


 二人目は、そのラケルタと比較的程度だが親しそうに話していたスイミスという体格の恵まれたスキンヘッドの男。

 スイミスはどんな方法かさっぱりわからないが、どうも考えている事を読む力があるらしく、何も話していないのに作戦をあっさりと見抜かれた。


 三人目は、顔も名前もわからないが盗賊達をまとめ上げまるで兵士の様に扱っていた指揮能力の高い人物。

 わずかに聞こえた声から男であろうとは思うが、詳しい情報は全くない。

 ただ、テオの用意していた避難場所に騎馬隊の伏兵を置いている事から相当な切れ者であるとは予想する事が出来た。


 この三人に……逆に言えば、このたった三人にプラン達は完膚なきまでに叩きのめされたと言っても良いだろう。


「盗賊団について俺達が知っているのはこの位と、後わずかだが地形を把握している位だ。んで俺達の事情はただの冒険者学園に所属する学生だ」

 こちら側の代表としてテオがそう言葉を締めくくった。

 その言葉に対し、シュウは一瞬だけ眉を動かした。

「学生ですか。……まあ、あそこの学生でしたら偶にとんでもないのがいらっしゃいますので」

 シュウはそう呟いた後、ヴェルキスの方をちらっと見つめた。


「じゃあ。次はそっちの事情を話してくれ。そっちは――」

「ちょっと待って」

 テオの話をプランが遮ると、全員の視線がプランに集中した。

「その前に教えて。クコとヴェインの容態はどうなの? 盛大に大泣きした私が言うのもなんだけど、それでも二人共起きなかったから……」

 その言葉に、シュウは頷き医者に渡された資料を手に取った。


「そうですね。……はっきり申しますと、彼、クコという子の方はかなり酷いです。全体的に切り傷刺し傷だらけで無事な箇所はなく、骨折している箇所も多すぎて把握する事すら出来ないほどです。特に右腕は……一体どんな傷をうけたのかわかりませんが完全に千切れていました」

 その言葉にプランは息を詰まらせ唇を噛みしめた。

「……すいません。脅すつもりはなかったんです」

 今までの態度とは違い、シュウは町長としてではなく一人の人間としてプランに深く頭を下げた。

「……ううん。教えてくれてありがとうございます。そして、助けてくれて」

「いえ。私の……私達の町民を貴方方に救っていただいたのです。そのお礼と考えればこれは等価ですので」

「それでもありがとう。私の大切な仲間を助けてくれて。おかげ様で誰一人欠けずにすみました」

 そう言ってプランは泣き笑いを浮かべながら頭を下げると、シュウはやりにくそうな顔で頭を下げ返した。


「……腹黒系にはめちゃくちゃ刺さるなプランの裏表ない態度」

 サリスは困っているシュウを見てニヤニヤと嬉しそうな顔でそう呟いた。

「……いっその事会話全部任せるか?」

 テオがそう尋ねるとサリスは慌てて首を横に振った。

「止めとけ。プランは恩人相手にはとことん弱いぞ。最悪相手の言い分全部丸のみする」

「……オーケー。引き続き俺が担当しよう」

 テオの言葉にサリスだけでなく、エージュもヴェルキスも頷いた。



「ただ、幸か不幸か時間が経てば解決する位の傷しかありません。もちろんその腕もです。わざわざ千切れた先も持ってきましたから。ですので……安静にしていたら、完全に、元通り治ります。……流石にしばらくは絶対安静ですが」

 その言葉にプランはほっと安堵の声を漏らした。

「そうですか。……良かった。じゃあ、ヴェインの方は?」

 その言葉に、シュウは少しだけ困った顔を浮かべた。


「……その……大変言い辛いのですが……」

「もしかして……酷いの?」

 シュウは小さく溜息を吐き、そっと首を横に振った。

「いえ。若干の疲労と軽い擦り傷を除けば無傷です」

「――ふぇ? だってさっき私泣き叫んだのに全然起きてこなかったし……」

 その言葉に、シュウは何も言えなかった。


「……俺、見てたんだけどさ……あいつ、タヌキ寝入りしてたぞ? プランの方チラチラ見てたし」

 サリスの言葉にプランは目を丸くした。

「……なんで?」

「いや……横で泣き叫んでいる奴いる状況だったから起きる事が出来なかったんじゃね?」

 プランはぽんと手鼓を打った。


 確かに、隣でシリアス感満載でわんわん泣かれた事をヴェインハット視点で見れば、起きるに起きられない状況である事は間違いないだろう。

 むしろ、邪魔をしない様に静かにしていただけで普段のヴェインハットを考えると十二分に空気を読んでいるとさえ言えた。


 プランは少しだけ気恥ずかしくなり、同時にヴェインハットに若干の申し訳なさを覚えた。


「とはいえ、クコ、彼を庇いながら逃げ続けていたので疲労自体は残っていると思われるので今日一日位は休んで頂こうと思います」

 シュウがそう言葉にすると、サリスはそっと立ち上がった。


「俺が話す事は終わったし難しい話は俺は良くわからん。テオとプランの二人が許可出したら何でも従うから好きにしてくれ。つーわけでちょっと失礼するわ。用事が出来た」

 そう言ってサリスはそそくさと立ち去ろうとした。

「……待ってサリス。どこ行くの?」

 とても純粋な視線でプランがそう尋ねると、サリスはどこか照れくさそうに頬を掻き、ぽつりと呟いた。

「約束果たしに行くんだよ」

 プランの純粋な顔が、ニヤニヤした様な表情になったのを見たサリスは何も言われない内に、逃げる様に部屋を出て行った。




「では、こちらが持っている盗賊団の情報を話しましょう。ですが……その前に、こちら側の事情をお伝えしておきます。と言っても、想像に難しくないと思いますが、私共は盗賊団に多分な迷惑を受けて来ました。だからこの問題を処理したい。ただそれだけです」

 シュウがそう言葉にするとテオは露骨に顔をしかめた。

「それだけか?」

 テオの言葉にシュウは肯定も否定もせず、両手を横に広げあどけたような笑顔を浮かべた。

「……何を隠してるんだ?」

 テオの言葉にシュウは露骨なまでに首を傾げた。

「おや。何を隠してるとお思いでしょうか?」

「……さあな。だが、他に事情があるだろう」

「例えばどの様なものでしょうか?」

 ニコニコ顔のシュウの言葉にテオは言葉を詰まらせ、イライラした様子でしかめっ面をしながら後頭部を掻きむしった。


「……ああめんどくせぇ! 何かあるのはわかるが何を言ってものらりくらりと躱される気しかしない。プラン。パスだ。こいつを追い詰めてくれ」

「……ふぇ?」

 プランは間抜け面のまま自分を指差した。

「ああ。お前ならいける」

「……私シュウさんが何か隠してる様な気すらしてないんだけど」

「……まじかよ。まあ任せた。駄目なら駄目で別に良いわ。ただ、上手く行った方がお互い都合が良いと思う」

「どゆこと?」

 プランがそう尋ねるとテオはしかめっ面のままシュウを指差した。

「たぶんだが、俺らを試してるんだろう。今後仕事仲間に足る存在かどうか。もしかしたらおちょくってるだけかもしれんが……」

「……良くわからないけど、疑問をぶつければ良いの?」

「理想は相手の矛盾を突く事だが……そんなボロ出してないし変に気を張らず好きに会話しててくれ。ヒントが出れば俺がわかるかもしれんし」

「はーい」

 プランは元気良く手を上げて答えシュウの方を向いた。

「シュウさんシュウさん」

「はい。何でしょうか?」

 ニコニコ顔が胡散臭いシュウを見てプランもニコニコと笑顔になり、一つ質問をしてみた。

「どうして国に頼らないの?」

 シュウの顔から一瞬で笑顔が剥がれ落ちた。


 シュウが真顔となりながら沈黙が続き、やらかした感満載の冷ややかな空気が流れた。

 一瞬の沈黙すら苦痛になるようないたたまれない空気。

 テオ、エージュ、ヴェルキスですら申し訳ないという罪悪感を覚えているのに対し、当の本人であるプランは良くわからないままただオロオロとしていた。

 そんな中、全く興味がないミグだけがいつも通り……というよりもすやすやと椅子に座ったまま器用に寝入っていた。


「……だから直感型の人間は苦手なんです」

 苦笑いを浮かべながら、シュウはそれだけ呟いた。


 プランとしては、それは当然の疑問だった。

 元々誰かに頼りっぱなしで生きて来たプランにとって自分より凄い人に頼るというのは最初に出て来る当然の考え方であり、そしてプラン最大の()()()長所である。

 一方、英雄の器ではないのに神の代理人として英雄的行動を行わなければならないと考えて自分を追い詰めていたテオは、最後まで自分達でどうにかしなければならないという固定概念に囚われていた。


 ちなみに、いかにも悪い事を考えていそうな態度のシュウだったが、別に試そうというつもりがあったわけでも嫌がらせをしようというわけでもなく、積極的に質問させて自分達の都合をより深く理解してもらおうと思っていただけである。


 ただ、その理解してもらうはずの道中を全てすっ飛ばされてしまったが……。




「確かに、国に要請すれば直接支援して頂けるような情報を既に握っております。ですが、正直に言えばあまり国に支援して頂きたくないんですよ」

「どうして?」

 プランの質問にシュウは溜息を吐いて答えた。

「支援金が満額受け取れないからです。それどころか支度金やら食料やらを用意しなければならないので極力避けたいのですよ」

 その言葉にテオは少しだけ嫌そうな顔を浮かべた。

「……金の為だけなのか?」

 その言葉に、シュウは満面の笑みを浮かべ頷いた。

「ええ。金銭の出費を抑える為ですよ?」

「出費抑え程度に盗賊団退治という危険を冒すのか?」

「そうですよ。私共はただお金の為だけに、作戦が上手く行っても数人は死ぬであろう事を理解しつつ、それを実行しに行きます。それで、それが何か?」

 テオの顔に嫌悪が浮かんだ。


「……それなら国に任せれば良いだろ? 金はまた稼げるけど命は消えたら終わりだ」

 テオのその言葉は間違いなく正しい。

 正しいのだが……その正しさは万人の正しさではなかった。


「テオ君。確かに、命と金銭では命の方が尊いでしょう。それは君が幸せな生活を送れたからそう思う事が出来るのですよ。お金がないと、人は死にます。当然ですよね?」

「そりゃそうだ。だからほどほどあれば良いだろ」

「そうですね。それで、全員がほどほどを受けている様な国は、領は、地区は、街はこの世界にありますか?」

 その質問に、テオは答えられなかった。


「テオ君。確かに君の意見は正しいですよ? その考えは立派ですし他者の為に怒る事も美徳です。ですが、私共為政者は命と金銭の価値を計算し、その上でより損失の少ない方を選ばなければなりません。そしてその結果人命よりも金銭を優先する事も少なくないです。その方が、最終的には多くの人が死なずに済むからです」

「……悪かった」

 テオは絞り出す様な声でそう呟いた。


「いえ。わかって貰えて嬉しいです」

 シュウはニコニコしたままそう言葉にした。

 その時の笑顔だけは、何故か本物の様だった。




「というわけで国が動き出すよりも早く盗賊を追い出し、ついでにそれを盾に国や領に対して金銭を要求する。というのが我々の最終目的です。分かっていただけましたか?」

 その言葉にミグ以外の全員が頷いた。

 これがただ金目当てならきっと不満しか出ないし彼らと協力をするのは難しく思うだろう。

 だが、シュウの場合は町民を生かす為に金を求めている。

 それは信用するに値する考え方だった。


「うん。私としてはお金の大切さが身に染みてわかっているからその気持ちわかるよ」

 プランの言葉にエージュはうんうんと何度も頷いた。

「ええ。そうでしょうね。お二人共貴族の生まれの様ですし」

 その言葉にプランは驚き、全力で首を横に振った。

「いや! 私一般的な農村の生まれだよ? 苗字もないし! ついでに言えば農作業とか超得意だよ!」

 その言葉にシュウは微笑みプランに頭を下げた。

「それは失礼。もう一名の方と間違えた様です」

 その言葉にプランはほっと安堵の息を吐いた。


「……それで、どんな作戦を立てて俺達に何をして欲しいんだ?」

「ええ。そうですね。作戦についてはこの後説明しますが……とりあえず仕事は山ほどありますので色々とやって欲しい事はあります。ただ……一番はあれですね。私には絶対に出来ない事があるのでそれをしていただけたらと。それも、出来たらプランさんを筆頭にして」

「え? 私? 私に出来る事なの?」

 その言葉にシュウは微笑み頷いた。

「ええ。きっとこの中では一番の適任です」

「まあ出来る事なら頑張るけど……何をして欲しいの?」

「そうですね……アウターから来た物語なのですが、ジャンヌダルクというお話をご存知ですか?」

 その言葉に頷く人は誰もいなかった。


ありがとうございました。

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