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3-16話 神から与えられた使命13


 やかましさすら感じるほどの力強い『そいや』ボイスが繰り返されている中で、プラン、エージュ、テオは眠りについた。

 この謎の乗り物は意外なほどに乗り心地が良く、心地よさすら感じるほどの車体の中、疲労を抱えきって限界を超えていた三人は耐える事が出来ずそのまま夢の世界に旅立ってしまっていた。

 ただ、全員わずかながらに苦悶の表情を浮かべている。

 この男臭い音を聞きながらどんな夢を見るのだろうか。

 サリスはそんな死ぬほど考えたくない妄想をした事を後悔した。


 エージュ、テオはとうに限界を超えていたのだが、プランは体力だけならまだ余力を残していた。

 残していたのだが……精神力だけはそういうわけにはいかなかった。

 冒険や戦いに慣れない上、感受性豊かな為クコの事などで心の傷が深くなり、精神力は擦り減っていた。

 また、なまじ戦う力がある分だけ、プランは自分が弱いという事を忘れてしまっており、それもまた精神力が削り取られる要因となってしまっていた。


 普段では絶対にあり得ないエージュとテオが肩を寄せ合い寝ている姿を見た後、自分に体を預けているプランを見て、そして最後サリスはプランの奥にいる胡散臭い男を見つめる。

 まばたき以外一切動作を見せず、ただ前だけをまっすぐ見ている堂々とした姿の身なりの良い男。

 年月を重ねた重みの様なものもあるが、同時に肌や顔立ちから若々しさも感じる。

 全く年齢を読み取る事が出来ず、大体三十代から六十代位だろうという事しかわからなかった。


 ただ、この男を見て分かった事もある。

 それは非常に胡散臭いという事だ。

 こんな状況でお礼も強請らず、何も尋ねず、それ所か何一つ言葉を投げかけずただじっと前だけを向いているその姿は、胡散臭いという言葉以外に言いようがない。

 もしこの男が悪党だとすれば、それは天下に轟くような大悪党であろう。

 サリスはそう思えて仕方がなかった。


「……何も言わないつもりか?」

 サリスが男にそう言葉を投げかけると、男はサリスと一瞥した後また正面を見据えだした。

「何も聞かないつもりですか?」

 男はゆっくりと、それだけ言葉にした。

 どうやら此方に会話の主導権を預ける算段らしい。

 サリスは小さく溜息を吐き、後頭部を掻いた。


「ちっ。考えるのは俺の役目じゃねーんだけどな」

 助けてくれた事は確かだが、男を信用出来るわけではない。

 それは間違いないはずだ。


 そして目を覚ませばテオなりプランなりがちゃんとした会話をしてくれるだろう。

 であるならば……とりあえず今気になっている事をかたっぱしから尋ねていこう。

 それなら交渉が苦手な自分でもなんとかなるだろう。

 そうサリスは考えた。


「とりあえずさ……関係ない事だがまずこれを教えてくれ。……なんだこの乗り物?」

 そいやの掛け声と同時に漂う男の汗臭さ。

 しかも地味に体臭に気を使っているのか、四人の男達はコロンか何かを付けているのに……それを貫通して漂ってきていた。

 サリスは今日ほど自分の鼻が優れている事を後悔する日はなかった。


「新たに開発し誕生した交通手段の人力馬車です。正直、試作段階で没にするつもりだったのですが……何故かわかりませんが思いの外上手く行ってしまい実用化されてしまいました。ちなみにこれ、馬車で通れない山道すら通行する事が可能です」

「まじかよ……」

「ええ。私にとってもこの存在は想定外なのですが、見ての通り役には立ちます……。ええ、とても」

 そう言って微笑む男の目は、どこか空しさを抱えている様な目だった。

「……この声どうにかならなかったのか?」

 男は更に空虚を表情となり、そっと首を横に振った。




「ああ。そうだ。今さらだが助けてもらった事、感謝する。何故俺達を助けてくれたのかわからないが助けられた事だけは事実だからな」

 そいやボイスの中、何とか敵対し緊張する様な空気を作りサリスはそう言葉にした。

「こちらの都合ですのでお気になさらず」

 男は温かみを全く感じない義務的な笑みを浮かべそう言葉を返した。


「うん。間違いないな。やっぱりお前は俺の嫌いなタイプだ。信用出来ないっつーか煙に巻くのが巧いっつーか」

 はっきりとサリスがそう言葉にすると男は少しだけ意外そうな顔をし、そして微笑んだ。

「その感情を否定するつもりはありませんが、この状況では言わない方が得でしょうに」

「そりゃそうだ。だが……まあ俺も疲れてるんだろう。考えるのもしんどいし思った事を口にした方が下手な考えよりマシじゃないかと思ってな」

「……なるほど。少しだけ貴女という人物像が見えてきました」

「ガサツで下品な暴力女。だろ?」

「その面を否定するつもりはありませんよ。ただ、今、私の目には子供を護る為に威嚇する母親の獣の様な貴方が映っております」

「……ま、否定はしない。お前が信用出来ないからな」

 そう言ってサリスはプランを自分の方に寄せた。


「……ふむ。無理に仲良しになるのも宜しくないですが……少し信用を得ないとこの後はやり辛くなりそうです。では、少しだけ私の事情も話しましょう」

「おう。これで情の為とか言われたら信用しないが、逆にビジネスライクな内容なら信用出来るな。お前らはそういうタイプの人種だろ」

「おや、慧眼ですね」

 男は微笑み、サリスの方に顔を向けた。


「とりあえずこれからですね。助けた理由は二つあります。その中で今後の為に重要なのが一つ目。私はあなた方の事情は知りません。ですが、あの盗賊団と敵対してるのは間違いないですよね」

「ああ。それは間違いない。そういう依頼だからな」

「大変結構です。実は私の目的も盗賊団の排除ですので。そう、助けた理由は利害が一致している為協力出来ると考えたからです」

「言いたい事はわかった。だが、それでも無理して俺達を助ける理由にはならないだろう。ぶっちゃけ俺達じゃ力不足だ」

「当然、それも理解しております。というよりも、少人数であの盗賊団を何とか出来る様な輩は早々お目にかかれません。それこそ、国王様などを筆頭にした一騎当千の猛者くらいでしょう」

「……つまり俺達は役立たずだという事だ。だからこそ、何で助けたか疑問に残る」

「そうですね。はっきり言いますと、あなた方の実力は加味しておりません。少人数で盗賊に立ち向かった。それだけが、こちらの求めるものですので」

「……良くわからんな。まあ、実力を過大評価してるわけじゃないならどうでも良い」

「ええ。その点はご安心を。そしてこちらの都合を押し付けるつもりはありません。きちんと交渉をした上で、その後に正式にご協力を願います」

「……まるでそっちに付いて手伝う事が確定してるみたいな言い方だな?」

「ええ。断る事が出来ない状況を用意しますので」

 そう言って男は悪びれもせず微笑んだ。


「……最悪だな」

 男から嘘を言っている様な気配ががない為サリスは盛大に、そして厭味ったらしく溜息を吐いた。

「こちらとしても冒険者を使い捨てにしたという記録が残っても困りますから、まあ無茶はさせませんのでご安心を」

「ああそうかい。んで、もう一つの理由ってのは何だ?」

 サリスの言葉に、男は少しだけ困った様な表情を浮かべた。

「……大した事ではございません。ただ……私は貸しを作るのは好きですが借りを作るのは死ぬほど嫌いなんです」

「……は?」

「命の恩に報いるに命を救うのは最も正しい。ですので、これで私は借りを返したと言って良いでしょう」

 サリスは男の言葉に混乱し、詰め寄る様に尋ねた。

「……お前、何を言っているんだ? いや、そもそもがだ、これは今どこに向かって、そしてお前は一体誰なんだ?」

 その言葉を聞き、男は仄かな笑みを浮かべた。

「効率的なのは良い事です。わざとか偶然か知りませんが、その質問は全て一度に答える事が出来ますね」

 そう言った後、男はサリスの方に体をしっかり向け、愛想笑いを浮かべながら礼儀正しく深く頭を下げた。


「申し遅れました。私はガダルスナ町長のシュウ・オーロットと申します。気軽にシュウとお呼びください」

 その言葉にサリスは目を丸くし、一通り驚いた後苦笑いを浮かべ背もたれに体を預けた。


「寝る。着いたら起こしてくれ」

「おや、それは私が信用して頂けたと思ってもよろしいのでしょうか?

「いや。お前自身は死ぬほどうさんくさくて俺の嫌いなタイプである事に変わりはない。だから欠片も信用出来ん。だがな……俺のダチ二人はガダルスナの町長は信用に値する町長だと言ってた。俺はそれを信じる。ただそれだけだ」

 そう答えた後、返事も聞かずサリスは男から顔を背け目を閉じた。







 翌朝、プラン、サリス、エージュ、テオに加えてミグ、ヴェルキスはガダルスナ町長宅の食堂にて朝食をお世話になっていた。

 ゆったりとした個室に全員休ませてもらい、メイドに起こされるという優雅な朝を迎えた後、シュウの待っている食堂に案内された。

 目の前には馬肉のステーキ等馬尽くしの肉が立ちならび、それを席に付いていたシュウが黙々と食べ勧めてる。


「……食べないのでしょうか? 朝から重たい肉が辛いなどと冒険者の方が言うとは思いませんが……。もしそうでしたらスープやサラダもありますよ?」

 きょとんとした顔を浮かべるシュウにサリスが溜息を吐いた。

「この状況に面食らってるんだよ。何一つ状況がわからない中で飯食えと言われても。ほら、いつもニコニコしてるプランですら茫然とした様子で固まってるじゃねーか」

「それは失礼。ですが、これから忙しくなりますので今は食べておいた方がいいと思いますよ。それに、少々馬肉を取り寄せ過ぎましてね。手伝っていただけると幸いです」

 その言葉に、全員疑問を頭に浮かべたままではあるが、目の前の肉尽くしの朝食に手を出し始めた。




 朝食も一区切り付き、静まり返った食堂でシュウは優雅にコーヒーを楽しんでいた。

 正直に言えば、やらねばならぬ事が多くある為今、ゆっくりするような余った時間は存在していない。

 一分一秒すら貴重は状況である。

 そうなのだが……これはこれでシュウにとっては必要な時間だった。


 無言の中で冒険者達がそわそわし、痺れを切らすまでのこの時間。

 この後冒険者達に見せる切り札の効果を最大限に高める為に、内心とは裏腹にシュウは堂々とした態度で、ゆっくりとコーヒーを楽しんでいた。




「な、何か邪魔したら悪いかな? めっちゃコーヒー楽しんでない? コーヒー好きなのかな?」

 プランがそわそわした様子のまま、両脇にいるサリスとエージュにひそひそ声でそう尋ねた。

「さあな。何か考えがあるんだろう」

 サリスはどうでも良さそうにそう答えた。

「……考え?」

「ああ。あの手のタイプは無駄な事をしない。何かそれに理由があるって考えた方が良いさ。ま、俺達にそう思わせる為にただ思わせぶりな態度を取ってるだけの可能性もあるがな」

 そう答えた後、サリスは冷めたコーヒーを一気に飲み干し、椅子から立ち上がりシュウの元に迫った。

「おい」

「はい。コーヒーのお代わりでしょうか?」

 詰め寄るサリスに対して平然とした顔で作り笑いを浮かべそう尋ねるシュウの様子は、挑発している様に取られても仕方がないような態度だった。

「ちげーよ。話進めろよ。俺達を利用したいんだろ?」

「おや人聞きが悪い。私はただお互いの目的が一致しているので協力出来ないかと思いまして」

 そう言葉にすると、プランは立ちあがった。


「ごめんなさい。今の私達の目的は――」

 そう言葉を紡ごうとするプランを、シュウを手を向けそっと黙らせた。

「すいません。そちらの事情は全て後で伺います。ですが……その前に一つ、見てもらいたいものがございまして」

 そう言葉にするシュウの張り付いた笑顔からは、あからさまなほどの腹黒さが滲みだされていた。




「……さ、どうぞ」

 町長宅を抜け、小さな家の前で止まったシュウはニコニコ顔のまま扉の前にプランを誘導し入るよう促した。

「え、えっと。ノックとか……」

「必要ありません。そのままどうぞ」

「じゃあ……はい。失礼します」

 そう答えた後、プランはそっと扉を開き、玄関から中の様子をおずおずとした態度でちら見した。


 その家の中、玄関前に丁度移動中の女性とプランは目が合う。

 女性はプランに優しく微笑みかけ、静かに自分の指を口元に持って静かにするようプランに伝えた。

 プランは頷き、静かに玄関をあがり女性の後ろを付いて歩いた。

 その後ろをサリス、エージュ、テオ、ミグ、ヴェルキスが付いて歩いた。


「ここです。お静かに」

 女性のその言葉と同時に開かれた扉の先を見て、プランは目を見開いた。


 決してプランは悪い子ではない。

 むしろ性格で言えば限りなく善良寄りである。


 だが、それでもプランは静かにしろという言葉に従わなかった。

 守る事が出来なかった。


 プランはわなわなと震えた後、部屋の中央に駆け寄り慟哭するかのように泣き叫びだした。


 その部屋の中央にいる二人、クコとヴェインハットがボロボロではあるが静かに寝息を立てているのを見て、プランは我慢する事が出来なくなっていた。


「本来なら俺も泣く場面なのだが……先に泣かれたら何だか泣きにくい雰囲気だな」

 クコの傍で泣きわめくプランとその傍でおろおろとプランを止めようとする女性を見ながらテオが冗談交じりでそう呟いた。




「んで……確保した二人の身柄を盾に俺達に命令するつもりと。なるほど、それなら確かに俺達は断れないな」

 サリスが小声でシュウにそう伝えると、シュウはサリスを見て……鼻で笑った。

「いえ別に。私共は彼らを助けはしましたがそれを盾に強請る気は一切ありませんよ? 当然ですが、これからお願いはしますが、我々は皆様の自由意志を尊重させていただきますので断って下さっても全然結構です」

「……断れない状況にするって言ってなかったか」

「ええ言いましたよ。あそこで泣いていらっしゃる方、プランさんでしたか? あの方が貴方方(あなたがた)の中心人物らしいですね」

「……それで?」

 肯定も否定もせずサリスはそう尋ね返した。

「はい。我々は何も強制致しません。ですが逆に尋ねましょう。 このまま帰れますか? 我々に恩を受け、それを残したまま、困る我々を放置して帰る事をあちらの女性は良しとする方でしょうか?」

 厭味ったらしく発言されたその言葉にサリスはお手上げとばかりに両手を横に広げ、苦笑いを浮かべ溜息を吐いた。

「どうやって調べたか知らないが、お見事としか言えんわ。そうだな。恩を受けてじっとしていられる子じゃないわあいつは」

 あまりに上手くやりすぎて嫌いであったはずの自分ですら好印象を抱くこの状況にサリスは諦め感嘆も込めてそう呟いた。


「私は何も調べていませんよ。貴方方(あなたがた)の事はさきほど尋ね教えて頂いた名前と、冒険者である事位しか知りません」

「んじゃ、何でプランが中心人物だってわかったんだ?」

「これでも町長ですので」

 そう言ってシュウは眼鏡をかけ直し、胡散臭い笑顔を浮かべた。


ありがとうございました。

少しずつですが実生活が忙しくなってまいりましたので更新が滞る事もあるかもしれません。

その時は申し訳ありませんがご容赦下さい。


ただ、よほどの事がない限り(ブクマが一桁になるとか)は完結まで続けますのでどうか最後までお付き合いお願い致します。




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