3-12話 神から与えられた使命9
見張り台に立っていた四人の盗賊を縛り上げ、動きにくくする為に服を無作為に縫い付け、ついでとばかりに大声を出せないようさるぐつわを噛ませた後、ヴェインハットは目立ちにくい様四人を隅にまとめて転がした。
そして彼らの持っていた矢束は全て折り、弓は強く引けば弦が切れる様改良したついでに持ち手部分に手がかゆくなる薬を塗る。
ヴェインハットが瞬く間に手際よく行ったそれらは、はっきり言って姑息な行為でありどっちが悪人かわからない行動である。
だが、やられたら本当に嫌で効果的であるのは確かだった。
「……私、ヴェインの敵にだけは絶対なりたくない」
プランはどんな嫌がらせを受けるのか想像も出来ず怖がりながらそう呟いた。
ヴェインハットは褒められたと思ったのかたっぷりとドヤ顔をプランの方に向けていた。
「なあお前ら。ちょっとまずい事になったぞ」
階段下からクコが現れ、全員にそう言葉を放った。
「何があった?」
そうテオが尋ねると、クコは階段下見張り台入り口の方に行く様指示を出した。
全員が足音を立てず入り口に到着し、外を見ると皆クコの言っていた事を理解した。
「……五の……十の……。計十五人か」
テオが本砦の前に待ち構えている陣形を組んだ集団を見てぽつりとそう呟いた。
本砦から防壁正面側、現在陽動を行っている場所に向かって走る盗賊の外に十五人ほどが本砦入り口前で陣形を組み待ち構えている。
ボロボロの鎧だが体格に恵まれたいかにもな盗賊の姿をした十人と、その後ろに背が低かったり細かったりと体格に恵まれない代わりに弓を持った五人。
彼らの動き自体はそこまで優れているというわけではないのだが、防御に厚い優秀な陣形が取られていた。
「突破するか?」
サリスがそう尋ねるとクコは首を横に振った。
「いや。無理だ」
「実力的には俺とエージュともう一人位でいけそうだが?」
「いや、そうじゃない。無理やり突破しても後が困る」
「あー。そりゃそうか」
「それにさ、あいつらが自分達であんな陣形が組めると思うか?」
どこからどう見ても恥ずかしくない立派な盗賊の姿をしている彼らを見ると、クコの言いたい事が非常にわかりやすく理解出来た。
あれは盗賊の戦い方ではなく、軍の戦い方である。
「つまり、あいつらの傍かどこかに指揮官が隠れている。さほど強そうには見えないが、有能な指揮官が一人いた状態で確実に勝てると言い切れるか?」
サリスは首を横に振った。
「オーケー。やはり俺に頭脳労働は無理なようだ。その辺はリーダーに任せるよ」
そう言ってサリスはポンとテオの肩を叩いた。
テオは困り顔となった。
「……何か作戦とか打開案がある奴いるか?」
全く何も思い浮かばないらしいテオがそう言葉を投げかけると、ヴェインハットがそっと手を上げた。
「一応だが……相手の生死問わずならワンチャンあるかもしれん手段が……」
そんな物騒な事を呟きながらヴェインハットは何か黒い物体を手に持った。
「その手に持ってるのがお前の切り札か?」
サリスが興味深そうにそう尋ねるとヴェインは首を横に振った。
「いや。そんな大した物じゃない。ただ……それなりに火力は出るぞ」
ヴェインハットは皆に見えやすい様その黒い塊を見せた。
まん丸の黒い球に導火線がついている。
それはどこからどう見ても……爆弾だった。
「お前馬鹿だろう」
テオはジト目でそう呟いた。
「だけど威力は出るんですよこの子。あっちに投げたら半数を壊滅させつつ本砦入り口を破壊出来ると思うが……駄目か?」
テオは溜息を吐き、プランは苦笑いを浮かべながら首を横に振った。
「そうか。まあ俺もダメ元で言っただけがな」
ヴェインハットはそう呟き爆弾をどこかにしまった。
「何とかなりそうな手段あったぞ。……何となく打開出来そうだけどどうなるかわからないそれっぽい感じの奴が」
少々離れた位置にいるクコが、やけにふわっとした曖昧な言葉を皆に話しかけた。
「……何だそりゃ。何があったんだ?」
テオがそう尋ねるとクコは足元を何度か蹴った。
こん……こん……。
そこは乾いた音が重なり、反響音を響かせていた。
テオは良くわからず首を傾げた。
「つまり、こういう事だ」
そう言ってクコは足元の石に積もった砂を手で丁寧に払う。
そこには正方形状の溝が出来、その内側の区切られた部分の石がほんの僅かだが浮き上がっている。
その正方形状の石はちょうど人一人が通れそうな大きさになっていた。
「……なるほど。隠し通路か。確かに何とかなりそうだけどどうなるかわからない感じだな」
テオの言葉にクコは頷いた。
「んで、どうやってこの隠し通路は開くんだ? 秘密のスイッチでもあるのか?」
サリスがそう尋ねるとクコは困った顔を浮かべた。
「いや。ここには何一つギミックはないし、そもそもこの石で単純に塞いでいるだけだからスイッチとかなくてこれ持ち上げないといけないらしい」
「……持ち上げるほどの隙間ないぞ」
「ああ。しかもめちゃくちゃ重たい」
その言葉を聞き、サリスは腰を下ろし指先だけで正方形の石を持ち上げようとしてみた。
「ふんっ! ……ああ無理だ。手応え一切ないしミリも動かせる気がしない。めちゃくちゃ重たいというよりも色々隙間につまってはまってる感じだ」
この中で最も力のあるサリスがそう答えたという事は、この石を持ち上げるのは不可能という事を指していた。
「……何か手段はないもんかね」
テオが困った顔のままそう呟いた。
プランやエージュも腕を組んで考えるが特に役立ちそうなアイディアは出てこない。
そんな中、ヴェインハットは何時もの様に気取ったポーズを取り、ドヤ顔となっていた。
どう見ても何か秘策がある態度で声をかけてくれる待ちをしているヴェインハットに溜息を吐き、サリスは声をかけた。
「何か良い作戦でもあるのか? ないなら殴る」
ヴェインハットはドヤ顔で爆弾を取り出し指を差す。
それを見た全員が同時に顔をしかめた。
「俺、初めてお前の事を尊敬したかもしれん」
サリスは驚きの表情を浮かべながらそう呟いた。
「まじか!?」
ヴェインハットはそう叫び視線をサリスに向ける。
それを見た全員は慌てながら顔を青ざめさせ、後ろに一歩下がりヴェインハットから距離を取った。
「馬鹿かお前は!? 頼むから前を見ろ! 集中してくれ!」
サリスの言葉にヴェインハットはドヤった雰囲気のまま前を向き、爆弾の解体作業に戻った。
「これで終わりだ。さて……クコ。この通路を塞いでいる石の厚みは縦横と変わらないくらいなんだな?」
そう尋ねられたクコはその腰を手でこんこんと叩き、反響音をそっと耳にした。
「……ああ。正方形に近い形になってるな」
「中も石だけか? 鉄とかで補強していないか?」
「わずかにに金属が混じっているな。内側の奥だからたぶん取っ手だ。あちら側からしか開かないようにする為だろう。この石を下から持ち上げる方法が俺にはわからないが」
「……よし。それくらいなら問題ないな」
そう呟いた後、ヴェインハットは白い色の火薬で線を作り石の上に模様を描き出した。
「何だこれ? 魔法陣とかそういう奴か?」
サリスの言葉にヴェインハットは首を横に振った。
「そんな大層なもんじゃない。ただ、最低限の火薬でこの石を破壊する為に亀裂を生みやすいようにしているだけだ」
そう呟いた後、ヴェインハットは火打ち石で火薬に直接火を点けた。
ぼっと炎が燃えるような音がした後かしゅっというような小さな破裂音が連続して響く。
ただし、その火薬の下にある石には何の変化も見られなかった。
「……ほんの少し弱かったか」
そう呟いてヴェインハットが足元の石をドンと踏みつける。
その直後、石に無数の罅が生じ、粉砕され粉々となった。
「おー」
プランが感動した様子でパチパチと拍手を贈るとヴェインハットはドヤ顔のまま謎の決めポーズを取っていた。
「はいはい急いで先に行くぞお前ら。ヴェイン、火を頼む」
クコはそう言って松明をヴェインハットの方に向ける。
ヴェインハットが松明に火を点けた事を確認したクコは石が壊れた後の真っ暗な穴に松明を向けどうなっているのか確認した。
「……金属製の梯子あり。ここから見える感じだと一方通行。方角で言えば……砦側に向かってる。ついでに言えば梯子に相当埃が積もってるな。少なくとも十年は使われていない」
「ま、入り口から出れそうにないしここに止まるのも良くない。行くしかないわな」
テオがそう言うと全員が頷き、その穴に近づいた。
ヴェインハットだけ逆にその穴から距離を取った。
「俺は最後に行く。やるべき事があるからな」
「あん? おいヴェイン。何するつもりなんだ?」
サリスがそう尋ねると、ヴェインハットはロープやら爆弾やらを取り出して地面に転がした。
「隠蔽工作だ」
どう見ても隠蔽工作の道具でない物をとりだすヴェインハットの姿は、まごう事なき不審人物の変質者であった。
長い事使われていない真っ暗な隠し通路。
しかも先は相手の本拠地である砦。
皆が通路の中で無言だったが、皆同じ事を考えていた。
『必ず何かが起きる』
そう思い、全員が緊張の糸を張り詰め――ゆっくりと奥に進んでいく。
そして――。
「……何も……なかったな……」
通路を出た後で、テオはぽつりとそう呟いた。
その言葉には壮絶なまでに徒労感が詰め込まれていた。
隠蔽工作(隠語)をヴェインハットが行った後、松明を片手に道を進み、そしてわずか五分ほどで、本当に何一つ事件は起きず、そのまま出口に到着した。
出口は砦ではなく、更にその奥の洞窟に繋がっていた。
そして、この洞窟には現在この六人を除いて人の気配は全くしていなかった。
「……とりあえず進むか。運が良ければ砦に入れる。そうでなくても外には出られるだろう」
テオはだるそうにそう呟き、ゆっくりと足を動かし始めた。
疲労感による所為かテオは集中力が欠如し始め、気分が高揚しない気だるさを覚えだしていた。
そして、そうなっているのはテオだけでなく、大なり小なり差はあれど皆同じような状態となっていた。
『集中力を持続させる為に要所要所で気を抜く』
その一点を必要なタイミングで行えないからこそ、実力がいかに高くとも彼らは一人前の冒険者ではなく冒険者学園入学生であると言えた。
そんなある意味一番危険な状態であっても、陽動が上手くいっている為彼らは盗賊達に見つかっていなかった。
その為本来ならこの辺りで肩の力を抜けたら良いのだが、どうしても心の中に敵がいるかもという気持ちが残り気を抜く事が出来ない。
プランは何となく、今がまずい状態であると理解していた。
理解していたが……何も言えなかった。
冒険者の依頼、神からの依頼、潜入任務、そして戦う事を想定した作戦。
全てがプランにとって完全なる未知であり、何が正しいのか全くわからない為黙って付いて行く事しか出来ていなかった。
そのまま一本道の洞窟を進み、特にどこかに繋がっている事もなくまっすぐ外に出た。
そこで皆が見たのは――陽の落ちかけた空の中に輝くピンク色の煙。
作戦失敗を合図する狼煙の煙だった。
ありがとうございました。




