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3-11話 神から与えられた使命8


「それでさ、この中にどうやって入るん……だ……」

 砦外壁の一番端に移動し人気がない事を確認したサリスがそう尋ねようとしたその時には、既にクコが外壁の上に登りロープを垂らしていた。

「ま、才能ない俺の出来る数少ない取り得だからな」

 そう言って三、四メートルほど上から苦笑いをするクコ。

 確かに、サリスやヴェインハットでもこの位の壁なら簡単に乗り越えられるだろう。

 それ自体は決して凄い技術というわけではない。

 だが、わずか一秒程度で音もなく上まで登りロープを上手く引っ掛けて後続の準備を済ませながら周囲警戒しろと言われたら、それはこのメンバーどころかヴェルキスにすら出来ない芸当だった。


 一つ一つの行動は、凡夫であっても努力すれば出来る行動でしかない。

 だからこそ、クコはその一つ一つを全力で磨いていた。

「……お前本当にギャリシーとか言う奴らの中で下っ端扱いされてたのかよ……スカウト兼情報屋とかどう考えても供給不足で引く手数多だと思うんだが」

 そう答えるサリスにクコは悲しそうな顔を浮かべた。

「力こそ全てという感じだったからな。俺の才能を認めてくれた人も、才能関係なく俺を友人だと言ってくれた人も、あそこではギャリシーさんだけだったよ」

「そうかい。その人以外見る目がなかったんだな」

 そう言ってサリスは先にロープを登り、壁の内側に跳んだ。


「……プランさん。大丈夫ですか?」

 テオ達がロープであちら側に移動しているその横で、エージュはプランにそう声をかけた。

「……ふ、ふぇ? 何が?」

「色々です。無理してるでしょう?」

「そんな事ないよ? 顔色も悪くないし普通でしょ?」

 そう言ってプランは何時もの笑顔をエージュに見せた。

「……そうですわね。見る限りは普通ですわ」

 その言葉にプランは微笑み頷いた。

「でしょ? 何もないよ」

「そうかもしれません。ですが……何時もと比べて口数が半分以下ですわよ?」

 確信をもってそう言われ、プランは作り笑いのまま黙る事しか出来なかった。


 学園を出てからプランは出来るだけ何時もと同じ様装っていたが、プランの口数は非常に少なくなっていた。

 それには幾つか理由がある。

 難易度が非常に高く何が起こるかわからない戦う事が強くかかわる依頼である事や、絶対的権力者からの依頼である事からの緊張。

 常に気を張っている為に単純に話す暇がない事。

 だが、一番の理由は違っていた。

「……皆を巻き込んだ事、後悔してますの?」

 エージュからそう言われ、プランは俯いたまま、そっと頷いた。

「うん。危ない事だってわかってた。わかってたけど……本当にこれで良かったのかなと……ずっと考えてる。特に、サリスとエージュは友達なのに……何時も良くしてくれるのに何の事情も話してない。話せてない……。なのに何も言わずに付いてきてくれて……」

「……気持ちはわかりますわ。誰かを危険に晒す重圧は、何度経験しても辛いものですわよね?」

 その言葉にそっとプランは頷いた。

 それを――エージュは見逃さなかった。


 ここでエージュは確信した。

 プランは貴族の関係者だ。

 それも、幼く女性である身でありながら誰かに命令を下す立場であったという為政者に限りなく近い稀有な身分の。

 下手すれば、本人が貴族の当主本人である可能性すら見えていた。

 常識は歪み、貴族としての知識は欠け、為政者としてはあり得ないほど心優しく善良。

 だが……それでも貴族としての、領主としての心構えだけは常にその身に宿っている。

 その心構えが出来るのは、平民では絶対に不可能な事だった。

 そこまで分かった上で、エージュは何もする気がなかった。


 何か問題が起きるまでは、ただの友達として接しようとサリスと共に決めていたからだ。


「安心してくださいませ。とは言えません。ですが、そういう後悔は終わった後に致しましょう。……まだ始まったばかりですよ」

 その言葉に、プランはエージュの方を見てまっすぐ頷いた。

「うん、そうだったね。後悔なんて後から出来る。何も出来ない私だけど、それでも何かしようと努力くらいはしてみるよ。全部解決するまでね」

「ええ。それでこそプランさんです」

 エージュがそう答えると、プランはえへへと嬉しそうに笑いエージュの腕に抱き着いた。

「ありがとねエージュ」

 それに対し、エージュは少し恥ずかしそうに困り顔で微笑んだ。


「素晴らしいものを見せてくれた事は嬉しいが、後は二人だけだぞ」

 ヴェインハットの言葉に我に返り、二人は慌ててロープの方に走り壁を登っていった。




 六人は見つからないようすみっこの草むらにしゃがみ隠れ、ひそひそ声で相談をしだした。

「……陽動があるからか案外見つからないな」

 テオは感心した様子でそう呟き、周囲がそれに同意し頷いた。

「ただ……人の出入りが多い。これはこれで見つかる可能性は高いぞ。だからこそ、見つかってない今の行動は非常に大事なものとなる。そこで、皆の意見を聞きたい」

 クコがそう尋ねると、三人が小さく手をあげた。


 まずはテオ。

 意見内容はこのまま中央砦に突入するというものだった。

『何をするにしてもこの中央の砦が鍵となるのだから、寄り道せずに最短ルートを目指そう』

 そうテオは言葉にした。


 続いてクコ。

 意見内容はこちらから見て反対側にある洞窟を調査しようというものだった。

『最初からあった場所である為砦の復旧の際に拠点として使った可能性が高い。またこれから砦を探す前に伏兵対策として探り、場合によっては破壊工作をする必要がある事を提案する』


 最後に挙手したのはエージュだった。

 意見内容は、見張り台の制圧。

『正面付近に見えます見張り台の塔。まずはあそこにいる見張り役を捕縛し制圧しましょう。塔の形状的に人数はそこまでいないでしょうし、見張り役がいなくなれば今後動きやすくなると思いますわ。特に、陽動役の二人にとって見張り台の存在は鬼門でしょうし』


 三人がそう意見を述べた後、全員の視線はプランの方を向いた。

「……え? どして私?」

 プランは自分を指差して首を傾げた。

 その表情にはかなりの焦りが含まれていた。


「本来なら俺が選ぶべきなのだが俺は意見を発言したからな。俺が決めるのは角が立つ。そうなると続いて選択権があるのは……」

 テオがそう言葉にすると、プランは困ったような表情を浮かべた。


「ま、どれが正解でどれが失敗かなんてわからん。責任を押し付けるつもりもないから気軽に選べ」

 テオがそう言って微笑むと、少しだけ気が楽になったのかプランは頷きどうすべきか考えだした。


「……私は皆みたいにこういう事はさっぱりわからないし今も何の意見もない。だから聞くけど……ぶっちゃけあんまり時間ないよね?」

 その言葉に、クコとテオは頷いた。

「ああ。俺達は時間をかけるほど不利になるな」

「うん。だよな。だったら……時間が少ないからこそ、私達の時間を稼ぎましょう」

 そう言葉にし、プランはエージュの選択である見張り台に登る事を選択した。





「……え……えぇ……」

 プランは現状をそう呟き表現する事しか出来なかった。 

 それはもちろんプランだけでなく、全員が予測とは異なった現状に困り果て、固まり茫然としていた。

 とは言え、時間はないのだから思考を働かせねばならない。


 現在いる位置は、見張り台の最上階。

 そしてプラン達の足元には……四人の盗賊が気絶し倒れていた。

「そんな馬鹿な……あっけなさすぎる……」

 それを実行したはずのサリスが一番驚いた様子でそう呟いた。


 六人は警戒を重ねながら、それでいて出来る限り早く塔を登っていった。

 道中は誰もおらず気になる物もなく、見事に何事もないまま最上階に辿り着いた。

 そこで一同が見たのは、顔を顰めながら弓を構える四人の盗賊だった。

 狙いは陽動で動くヴェルキスとミグらしいのだが、ただでさえ遠い上に今は風が強く、その上二人は異常に速い速度で移動を繰り返している為狙うのに非常に困っていた。

 だからだろうか。

 六人がすぐ傍まで来た事に盗賊達は誰一人気づいていなかった。


 とはいえ『これから攻撃しますよー。敵ですよー』なんて声をかけるわけにもいかずどこかで奇襲をかける必要がある。

 それでも、ここまで無防備だと変に攻撃し辛い。

 そう皆が考えて困っている時に、サリスはまっすぐ盗賊に襲い掛かった。


 理由は幾つかあった。

 頭脳労働班やプランへ視線がいかないよう自分にターゲットを集中させる為。

 自分が一番変えの利く人材である為最も危険な先陣を切ろうと考えた為。

 何より、とりあえず殴るという行動が自分には一番似合っていると思っている為。


 そんな事を考え、サリスは勝てるとは思っていないがとりあえず殴ってみた。

 そして四人はあっという間に気絶した。

 ちなみに……他の人が手伝う暇すらなかった。

 サリスは武器も使わず拳の一撃で一人ずつ順に気絶させ全てが終わった。

 四人目になれば流石にサリスに気づき驚いてはいたのだが、それでもサリスに対し防御すらしていなかった。


「……どういう事だ……弱すぎる」

 そう呟くテオの言葉は、今現在皆が思っている言葉でもあった。

「……見張り役で、この距離で弓を当てられる実力者が……最初の一人はまだわかるが……」

 サリスはそう呟き、怪しみながら転がっている盗賊達を調べる。

 だが……狸寝入りというわけでもなく正真正銘全員気絶していた。


 ヴェインハットは気絶している男達を見比べた後、男の腕を掴み指をじっくりと見つめだした。

「……ふむ。同業のようだ」

「同業?」

 ヴェインハットの言葉にプランが言葉を返し尋ねた。

「ああ。こいつら元狩人だ。ただ、安全第一の小動物専門だったらしいな。目と狙う力は凄いだろうが戦う力はなさそうだ」

「ほー。指を見るだけでそんな事もわかるのか?」

 サリスの言葉にヴェインハットは首を横に振った。

「いや、指だけじゃなく全身の筋肉の付き方もだ。細くしなやかな筋肉の付き方してるし指にも弓をじっくり狙って射っていたようなタコが出来ている。逃げ足と弓の能力に特化している事を考えるとおそらく合っているだろう」

 そう言った後、ヴェインハットは当たり前の様に、堂々と男の両足首をロープで縛りつけ、どこからともなく縫い針を取り出して服を動きにくくなるよう縫い付け、矢筒から矢束を取り出してへし折った。

 そして一瞬の間に、残り三人にも同様の事をしていった。


「……いや、まあ……うん。その行動が効率的なのはわかるが……妙にやりなれてないか?」

 サリスの言葉にヴェインハットは自信満々な雰囲気を醸し出した。

「他人の足を引っ張る事に関しては俺の右に出る奴を俺は見た事がないな。あ、こいつらの弓にも触ると被れる仕掛けと弦が切れる仕掛け作ったから触らないよう気をつけてくれ」

 ドヤ顔っぽい雰囲気でそう語るヴェインハットを褒めて良いのか貶すべきなのかわからないサリスは何も言えず、若干引き気味なまま曖昧な笑みを浮かべる事しか出来なかった。


ありがとうございました。

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