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3-10話 神から与えられた使命7


 プラン達は盗賊団の拠点であるアップルツリーに最も近い村でテオ達と合流した後、それまで得た情報を交換しあった。


 盗賊達と遭遇した事。

 被害が出るどころかおそらく数少ないであろう食料を分け与えられた事。

 更に、調査した町では搾取こそあれど乱暴の跡は一切なく、またひもじい思いをする事はあれど町民が飢えて死ぬほどの略奪ではなかった事をテオに伝えた。


 プラン達と別れた後テオ達は小さな町と村を経由した事を伝えた。

 そこでも同じ様に、盗賊というよりは国や領主が行うような大規模な徴収のようだったそうだ。


 そしてお互いに情報を交換した後、合流したこの村でも情報を調べた。

 ここもこれまでの村や町と同じ様な状況ではあったが、盗賊の拠点に一番近い位置にあるからかここでは数か月前に盗賊により殴られ重症を負った者や家中ひっくり返されたあげく家を燃やされた人がいたらしい。

 ここまでは盗賊騒動としては良くあることなのだが、ここからが少々おかしい事になっていた。


 乱暴を働いた数日後、町民を殴り骨折させた者がわざわざ一人で、町に謝罪に来た。

 そんな彼の右腕は変な方向に曲がり、更に青く変色している。

 歩いてくる時もプルプルと震えながら脂汗を掻いていた為、歩くのも辛いほどの痛みを負っているのだという事がわかった。


 そして更に数日後……家を燃やされ全てを奪われた男の元に、奪った物全てに多少の金銭、そして実行した男が届けられた。

 男は首だけになっていた。


 これらの情報は住宅地にいる人達が殺される心配がないという意味で良いニュースではあるのだが……プラン達にとっては最悪のニュースだった。


「これで確定だな。相手は兵士崩れの盗賊じゃない。規律が存在し戦う為に鍛えられた軍そのものだ」

 テオは皆にそう言い放った。

「……この情報持ち帰るだけで依頼達成にならないか?」

 サリスがそう言葉にすると、クコは首を横に振った。

「最初から元兵士がいる可能性が高いって事になっているからまず無理だ。そもそも、教会が依頼に介入している時点で何か思惑があるだろうし……それに、お前らにも引けない理由があるんだろ?」

 クコの言葉に、プランとテオは頷いた。


「ああ。理由は言えないが……俺にはその理由がある。ただし、それを他の人に強制するつもりはない。皆、ここで引きたいならそう言ってくれ」

「……ここで引きたいと言えるような人だったら……たぶん最初から付いてきてくれてないけどね」

 プランの言葉に全員が苦笑いを浮かべた。


 プランは助けてくれた神への恩返しの為に。

 サリスとエージュはプランに対する友情七割と、放っておけないという気持ち三割。

 テオは神様に与えられた使命の為で、ヴェインハットはサリスとのデートというご褒美の為。

 他者から見ればヴェインハットの目的は軽いようではあるが、命を賭けても良いと本気で思う位真剣だった。

 ただし、その本気はサリスに惚れているという本気ではなく、本気で女の子とデートしたいという下心百パーセントの本気だが――。


 ヴェルキスはいつも通りだった。

 魔剣の呪いがある為、他人の為に命をかけるのは日常茶飯事であるヴェルキスにとって命がけでの戦いは正しく日常でしかなかった。

 クコは、償いの為……そして、遠い昔約束した人との約束を果たし、困っている人を見捨てない存在になる為ここにいる。

 逃げたいという気持ちはあるが、それ以上にこれ以上は逃げたくないという気持ちが上回っていた。


 ミグの考えは、誰にもわからない。

 ただ、ミグも途中で降りるつもりはないらしい。


「……良いんだな? ここを過ぎたらもう引く事は出来ないぞ?」

 テオがそう言葉にすると、ヴェインハットは何時もの様に気取ったポーズを取り、そっと挙手をした。

「……つまり、これより先は本来よりも困難な状況が待っているという事だ。そう……文字通り命を賭けるほどのな」

 そう言った後、ヴェインハットはチラチラと何度もサリスの方を見つめた。

 それはどうみても……ご褒美のお代わり要求である。


「あ、私もデートしてあげよっか?」

 プランがぴこーんと閃いたような顔になり、自分を指差しそう言葉にする。

 ヴェインハットは露骨なまで嫌そうな雰囲気を出し、手を横に振って拒絶した。

「なんでさ!?」

「……俺にだって、口にしない優しさがある」

 プランはしょんぼりとした表情を浮かべた。


「……あー。まあそうだな……。俺の為だけに付いてきてくれてるもんな馬鹿(お前)は。……特に思いつかないから何か要求があれば言ってくれ」

 サリスの言葉にヴェインハットは驚き……そして顎に指を置いて悩みだした。

「……いざそう言われると思いつかないな。正直デート出来たらそれで良かったし……。デート二回分とかに……いや、それは怒られるか……」

「……お前は真面目なのか不真面目なのか良くわからんな。もっとこう……男なら色々あるだろ? するかどうかは別として言ってみろよ」

「……いや、そういう事はこう……もっとお互いを知ってからじゃないとダメだろ?」

「何でそこだけ真面目なんだよお前は……」

 苦笑いを浮かべるサリスと対照的に、何をおねだりしたら良いかわからずヴェインハットはずっと悩み続けていた。




 恐怖混じりの緊張といった空気はヴェインハットの行動で霧散し、いつものぐだぐだな空気となったタイミングでテオは今まで集めた情報を元に作戦を立案した。

 ただ……その作戦には穴が幾つも開いておりアドリブでの行動となるのが誰でも予測出来るほど適当なものだった。

 その理由は単純で、クコのおかげで学生レベルとは思えないほど情報は集まったものの……それでも、最も肝心の情報が二つ欠落していたからだ。


 一つは、敵戦力の情報。

 非戦闘員を多く抱えている事は判明しているが、逆にどの程度戦える人数がいるのかの情報は見つからなかった。

 全員捕縛が依頼である事を考えると、これはかなりまずい状況であると言えるだろう。


 そしてもう一つはもっと深刻な問題だった。

 欠落したもう一つの情報、それは拠点回りの地理である。

 背後に崖があり、岩肌から露出した洞窟に隣接している拠点。

 そう情報はあるが、周囲の地理がどのような状況になっておりどこから拠点に侵入出来るのか、予測すら付けられない状況になっていた。


 その為、作戦はほとんどアドリブである。

 ただ……ある程度はそうなるだろうなとは予測していた為予定通りの状況ではあった。


 まず、ヴェルキスが陽動を行う。

 それが最初の予定だったのだが、敵戦力が予想以上に多い事を想定しヴェルキスだけでなく最大戦力であるミグも陽動側に参加する事に決まった。

 そして残りのメンバーがどこかからこっそりと突入し、逃走経路を確保しつつ相手戦力をぐちゃぐちゃに搔き乱しつつ、各個撃破を狙っていく。


「要するに、二方面同時攻略の亜種だな。もし陽動に失敗して俺達の方に敵が多かったらヴェルキスとミグが正面から突入してくれ」

 テオの言葉に二人は頷いた。


「陽動だけでなくこっちもだが、失敗しても相手の疲弊次第ではまだ次に繋げられる。だから出来るだけ戦力を削るようにしてくれ。まあ難しいと思うが完全に見つからず侵入する事に成功した場合は内部調査しつつ盗まれた物を確保していく予定だ。魔法が使えるらしい指輪が確保出来たら不安要素を一つ減らせるしな。何か質問はあるか?」

「はい。撤退のタイミングと失敗の判断を決めるタイミングについて教えていただけますか?」

 エージュの言葉にテオは頷いた。


「ああ。俺達突入側は成功での撤退も失敗での撤退も、どちらも俺が判断する。命の危険となっているかどうかを判断材料とする予定だ。陽動班の方は撤退も失敗判断も好きに決めてくれ。その時は渡した道具をへし折ってくれたら良い。俺達もタイミングを合わせて離脱する」

 その言葉にエージュと道具を渡されたヴェルキスが頷いた。


「……他に質問はないか? ないなら――作戦を開始する」

 テオの言葉に合わせ、全員は静かに山を目指し歩き出した。




 盗賊の拠点がある山、アップルツリー。

 王都の近くにある文字通りりんごが多く取れる果物豊かな実りの山。

 距離事態はさほどあるわけではないのだが、アップルツリーにはぐるっと迂回しなければ王都から向かう事は出来ない。

 馬車の通れない山脈を避けたこの遠回りの道こそが、結果として最短コースとなっていた。


 そんな不思議な立地にあるからか、王都からぐるっと回らないと通行出来ないアップルツリーは距離だけなら王都の傍だが、実際の移動距離はその数倍必要な為、人の目に触れにくい。

 つまり、交通が不便な場所だからこの山は自然豊かであり、過去拠点が必要だった事があり、そして今盗賊が根城にするに最適な位置となっていた。


 現在、ヴェインハットを先頭に一同はアップルツリーの山を静かに登っていた。

 この山に入り良かった出来事と、悪かった出来事が一つずつ見つかった。

 良かった出来事は、どこにあるのかわからない盗賊の拠点位置が調べるまでもなくわかりそうな事である。

 では悪かった事は何なのかと言えば……。


「……進め」

 ヴェインハットが静かにそう呟き、一同は頭を下げたままゆっくりと草むらの中を移動する。

 だが……たった数十メートル進んだ辺りで、ヴェインハットは後方に向かって『止まれ』のハンドサインを送った。

 そして全員が足を止め気配を消したその直後に、盗賊が姿を現す。


 盗賊は二人一組でお互いの死角をカバーしながら周囲を索敵し、そのまま山の麓の方にプラン達を見つけないまま去っていった。

「進め」

 ヴェインハットの言葉を聞いて、一同は小さく安堵の息を吐きまた足を進めだした。


 この山に入って悪かった事。

 それは警戒行動中の盗賊がとんでもなく多い事だった。

 熱心に誰かを探しているという風でもない為、プラン達の存在が露見したというよりは、普段からこの位の警備網を張っていると思って良いだろう。


 まだ山に入ったばかりにもかかわらず警戒中の盗賊が余りに多く、彼らの足跡をたどるだけでどこが拠点がおおよその検討が付くくらいだった。

 だから場所の特定は出来るのだが……隠れながらで僅かずつしか進めない為辿り着くまでに相当以上の時間がかかりそうだった。


「……ヴェルキス。ミグ。出来るだけ体力を温存してくれよ。この状況では難しいかもしれないが……」

 見つからないようにという緊張と、ずっと屈み続けての行動により既に疲れ始めているテオは後ろにいる二人にそう言葉を発した。

 だが、ヴェルキスとミグの二人だけはこの状況であっても顔色変えず、むしろ誰よりも平然とした様子だった。


「安心しろ。この程度では疲れない。……こっちの子も疲れてないみたいだし」

 その言葉にミグは頷いた。

 全員の周囲に消音の魔法をかけつつ最後尾で後方警戒までしているはずなのにミグはいつもと同じように無表情であり、同時にいつものように気楽な雰囲気を醸し出していた。

「……頼もしいね本当。実力の差が見せつけられて悲しいけどな」

 サリスは苦笑いを浮かべながらそう呟いた。


 全員で張り詰めた空気の中でじりじりとした細やかな移動を繰り返して進んだ結果、結局目的の建物が見えるまでに七時間という時間が経過してしまっていた。

 時間で言えば夕方五時か六時位。

 そろそろ暗くなるという時間帯だった。


 一同は緊張からと移動による疲労の中、目的の拠点を隠れながらちらっと見た。


 破棄された古い拠点という話だが、見る限りで言えばとてもそうは見えない。

 拠点としての防衛設備は完全に修復され揃っていると思って良いだろう。


 拠点の防衛設備は三つの建造物で構成されていた。

 まず目につくのは軍事拠点の主軸であろう中央にある巨大な長方形の砦。

 良く見るとわずかながらの隙間が見え隠れしているが、それでも砦と呼ぶに相応しいほど頑強で、あれを正面から落とすのは難しいだろう。


 続いて気になったのは、塔状の見張り台である。

 高い塔の上には常に弓を携えた盗賊が望遠鏡のような物を持って周囲を見張っている。

 サリス、プランが早い段階で見張り台の位置に気が付き、ヴェインハットがそれに合わせてルート設定をしていなければ、ここに辿り着く事すら出来なかったと思われるほどその見張り台は脅威だった。


 そして、砦と見張り台だけでなく奥に見える洞窟や一部テントを含めて全ての通行アクセスを封鎖している石造りの防護壁。

 門の位置は正面だけである。

 ただ、侵入者を阻む外壁は確かに厄介ではあるのだが、他の物と見比べた場合明らかに貧相だった。

 ついでに言えば雰囲気も砦にそぐわっていない。

 おそらくだが、後から盗賊が侵入者対策に付け足したのだろう。


「さて、ここから作戦前だが一つ提案がある」

 ヴェルキスが皆の方を見ながらそう言った。

「何です先輩」

「俺とミグは体力に余裕がある。一応聞くがあるよな?」

 その言葉にミグは頷いた。

「オーケー。流石だ嬢ちゃん。それで、お前らは正直余裕あるか?」

 その言葉に、残りの全員が首を縦に振れなかった。


 隠れながらの七時間移動というのは過酷という言葉では考えられないほどしんどく、肉体的には当然として精神的にもグロッキー寸前となるまで追い詰められていた。

 特にダメージが酷いのはこの中で体力の低いクコで、真っ青になり今にも吐きそうな様子だった。


「……というわけで、先行する俺達がタイミング合わせるからお前ら少し休め。拠点侵入するのにその体力では厳しいだろ」

 ヴェルキスの言葉にクコが首を振った。

「……いえ……。俺は大丈夫だ……。……足を引っ張るなら……最悪俺を殿にでも肉壁にでもして捨てて行ってくれ」

 自分の所為で作戦開始が遅れそうな雰囲気になっている為クコはそう言葉にした。


 最初から、クコは足手まといになった場合そうするつもりだった。

 償いで来ている自分だけは足を引っ張るわけにはいかないからだ。


 ぽかん。


 小さな衝撃を頭に受け、クコはそっと上を向いた。

 そこには握りこぶしを作った複雑そうな表情のサリスが立っていた。

「お前がいなきゃ意味がないんだよ。お前は情報扱うのが得意なんだろ? 潜入後の頭脳労働役が動けないなら俺達肉体労働役は待つしかないんだよ。もしお前が途中で抜けたら間違いなくテオが倒れるぞ。頭の使いすぎでな。それともアレか? お前は俺にそういう仕事をしろって言いたいのか?」

 少し早口で、緊張した様子のサリスはそう言葉にし、ぎこちない笑みを見せた。

 それは、サリスがクコの事を気遣った初めての言葉だった。


「……悪い」

 クコはサリスの複雑な気持ちを理解し、ありがたいと思いながらも小さな声で謝罪した。

 能力だけとは言え、迷惑をかけた相手に認められたのは嬉しい。

 だが、同時に申し訳なさも強く感じていた。

「そこは悪いじゃなくてありがとうだろ? ま、その分仕事をしてくれや。俺らには無理な仕事だからな」

「……ああ。体力で足を引っ張った分の仕事はしてみせるさ」

 そう言ってクコは強がり、無理やり笑って見せた。

 それを見てサリスは微笑んだ。




 プラン、サリス、エージュ、テオ、ヴェインハット、クコが休憩を始め、ヴェルキス、ミグが陽動作戦の為に移動をしてから丁度一時間が経過した頃――陽動開始の合図である盛大な爆発音が響いた。

 その直後に慌ただしく盗賊達がその爆発音の位置に走り、同時に見張り台にいる盗賊が何かを叫び笛のような物を吹いている。


「さて、俺達も動くか。いくぞクコ」

 テオの言葉に体力の回復したクコは頷き、何も書かれていない紙とペンを持ち人気(ひとけ)のない侵入経路を静かに探りだした。


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